異世界極楽マッサージ

桜羽根ねね

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巨人と人間のマッサージ店

4.巨人族の本能

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 ヴィクター・レイボルトは、巨人族の末裔だ。

 先人達はそれはもう雄々しく逞しい巨体だったが、時代の流れと共にその巨躯は少しずつ縮んでいった。だが、それでも他の種族と比べると巨人族は大きく、畏怖の対象だった。
 赤子のような背丈のハーフリングやコボルトと目が合っただけで蜘蛛の子を散らすように逃げられ、普通の力で握ったはずのスプーンをいくつも曲げては周りの客から怯えられていた。

 少しでも周りに悪い印象を植え付けないよう、乱雑な言葉遣いを抑えて慣れない敬語を覚えたのはこの頃からだった。
 力加減を覚えるために始めたマッサージは、なかなか他人で試す機会はなかったものの良い勉強になった。元より、巨人族は自然と密接な関係にあり、花蜜のオイルの調合が上手くいったのもよかったのだろう。ついには、故郷に小さな店を構えることが出来た。閑古鳥が鳴いている日の方が多くはあるが。

 ──その出会いは、偶然だった。

 花の調査や採取のためにロマンカという町に立ち寄った際、ふらりと訪れた食事処。周りの客からひそひそと遠巻きにされたが、いつものことだ。
 ここも同じか、と少しうんざりしながら席につくと、一人の店員が近寄ってくる。

「いらっしゃいませ。ご注文が決まりましたらお呼びください」

 水とメニューをスッと置いた彼の容姿は、至って平凡なものだった。だが、その黒水晶のような瞳と視線があった瞬間、体の中の本能が全力で叫んだのだ。

 『彼こそが自分の伴侶だ』と。

 巨人族には、自らの伴侶を感じ取る力があるという。そんなものは眉唾物だと思い、信じていなかったヴィクターだったが、この日この時この瞬間、信じざるを得なくなった。
 湧き上がる唾をごくりと飲み込み、声が震えないよう気をつけながら口を開く。

「……ありがとう、ございます。その、この町には先程着いたばかりで……、おすすめってありますか?」

 なるべく、長く話したい。
 その一心で尋ねるも、巨人族の自分のことを怖がられたら、とネガティブな思いが渦巻く。だが、その心配は杞憂だったようだ。

「おすすめ……、うーん、難しいですね。あ、でも、もし海鮮系が大丈夫でしたらシーフードカレー……じゃなくて、ウミカーラチャがおすすめです」

 悩みながらも答えてくれた彼に、怯えの色はない。

「辛い物が苦手でしたら、カルボナーラ……えっと、リングルーメもおすすめです」
「…………」
「えっ……、と、あの、何か俺の顔についていますか?」
「へ?……っ、ご、ごめんなさい、驚いてしまって。……僕のこと、怖くないんですか?」
「怖い……?んー……、大きな人だなぁとは思いましたけど、特には……?」

 困ったように首を傾げる彼は、嘘を言っているように見えなかった。胸の奥がぐつぐつと音を立てて煮えてくる。抱きしめたい、キスがしたい、奥まで暴いてしまいたい──、次から次へと湧いてくる熱を振り切るように、ヴィクターは必死に頬裏を噛んで耐えた。
 折角出会えた伴侶を壊したいわけではない。自分よりも小さな身体を愛するためには、色々と準備が必要だ。心にも、身体にも。

「…………そう、ですか。変なことを聞いてごめんなさい。じゃあ、リングルーメを一つお願いできますか?」
「はい、かしこまりました」

 向けられる笑顔がたとえ営業用のものだとしても。ヴィクターの胸の中では、春一番のような風が甘く激しく吹き荒れていた。


 ──それからというもの、食事処チェドルはヴィクターの行きつけの店となった。すぐにでも攫って囲って種付けしてしまいたい衝動を堪え、善人の皮を被って彼と接した。
 ソーマ・ヤマナシという名前を聞き出し、当たり障りのない料理の話から、ちょっとしたプライベートのことまで話すような仲になれた。

 巨人族を前にしても怖がることなく接する颯真が珍しいのか、他の客から不躾な視線を送られることもあったが、全て一睨みで黙殺してきた。将来の伴侶(仮)である彼に、悪い虫がついてはたまらない。

 そうして、足繁く通い続け、店の外でも交友を深めて、一ヶ月が過ぎた頃。
 彼等は、ヴィクターが間借りしている借屋の一室で、休日をのんびり過ごしていた。店の時とは違い、颯真の口調もすっかり砕けたものになっている。

「正直、この世界の……んんっ、ここの料理をあんまり美味しく感じないんだよな。客商売やってる身でこんなこと言っちゃ駄目なんだろうけど」
「誰にだって好みはありますよ。……そうだ、よかったら僕の故郷の料理を食べてみませんか?」
「いいのか?」
「はい。ちょうど軽食として作ったものがあって……。簡単なものですし、料理というよりデザートに近いかもしれませんけど」

 冷蔵庫の機能がついている球体の器具から取り出されたのは、淡いパステル調のクリームと、果実を挟んだ可愛らしいサンドイッチだ。

「花蜜クリームのフルーツサンドです。甘くて美味しいんですよ」
「そこは普通にフルーツサンドなんだな」
「え?」
「あ、いや、こっちに来てから俺の知ってる料理と名前が違ってることが多くて。……ん、いい香りだな。いただきます」

 ふわふわなそれを受け取って一口齧りついた颯真の表情が、みるみるうちに喜色に染まっていく。二口三口とかぶりついて、クリームが口の端につくのも構わずに、ぱくぱくと頬張っていく。あっという間にぺろりと食べきった颯真は、興奮した声をあげた。

「やば、すっげぇ美味しい……!見た目はイチゴなのに味はバナナっぽいのが不思議だけど、こんなに美味いもの久しぶりに食べたよ。このクリームも甘くてすごく美味いし……ありがとう、ヴィクター」 
「っ……、ど、どういたしまして」

 キラキラした瞳を向けられて、その可愛さにウッと詰まってしまう。このまま押し倒してしまえ、と囁いてくる巨人の本能に抗い、ぎゅっと唇を噛み締めた。

「ヴィクターの故郷には、他にどんな料理があるんだ?」
「え。えっと、こちらではあまり聞き慣れないかもしれませんけど、ガレットやシチュー、ココットにパエリア……他にも色々ありますよ」
「マジか……。……あ、あのさ、迷惑じゃなかったら、ヴィクターの故郷の場所、教えてくれないか?可能だったらなんだけど、そこに住みたいなって……」

 その申し出は、 あまりにも渡りに船すぎた。頭の中で、早すぎる鐘がリンゴンと鳴り響く。

「も……っ、勿論!……ただ、 辺境で少し分かりづらい所にあるので、よかったら僕が案内しますよ」
「いや、それは流石に甘え過ぎじゃ……」
「いいんです。元々、僕がこの町に留まっていたのは花蜜のためで……、そろそろ帰郷しようと思っていたところですし。それに……」
「それに?」

 少しだけあった距離を詰め、颯真の手を優しく握る。自分よりかなり小さく、柔らかくて温かい熱を感じながら、ヴィクターは相貌を綻ばせた。 

「もし、ソーマさんがよかったら。僕の職場……、マッサージ屋で住み込みの従業員になってくれませんか?ちょうど2階の客間が空いていますし。……どうですか?」

 思わず早口になってしまったが、この機会を逃がしたら絶対に後悔する。視線を逸らしてなるものかと、深い夜のような瞳をじっと見つめていると、むず痒そうに口元が緩んでいった。

「……そんなの、俺に利点しかないけど……いいのか?」
「僕がそうしてほしいから言ってるんです。……あ、僕みたいな巨人族と同居なんて出来ないというなら、無理には……」
「そっ、それはない!ヴィクターのことは、他の人より大きいなって思ったけど、それだけだし。だから、その……、頼んでも、いいか?」

 この場で、力の限り抱きしめて息が出来なくなる程のキスを仕掛けなかった自分を褒めてやりたい。その代わりに、口の端についたままだったクリームをそっと指で拭い、ぺろりと舐め取った。颯真がぶわりと赤くなったが、これくらいは許してほしい。

「はい、よろしくお願いしますね、ソーマさん」

 まずはじっくりと囲うところから。
 ふわりと善良な笑みを浮かべる裏で、沸騰した感情がぼこりと泡を立てた。






「──お疲れ、ヴィクター。このオイルの瓶は右の棚にしまっておけばいいか?」
「はい、お願いします。……ふふ、ソーマさんのおかげでお客さんも増えてきて嬉しい限りです」
「そうなのか?……まあでも、あんまり手伝えてる気はしないけどな。マッサージ自体はヴィクターに任せっきりだし」
「それこそ接客はソーマさんに任せてしまってますから、お互い様です。給仕の時もでしたけど、丁寧にてきぱき接客してもらえて助かってます」
「そう、か?俺としては普通にやってるだけだけど……、ありがと」

 照れたようにはにかむ颯真の姿に、どくりと心臓が脈打つ。そっと焚き始めた特別な花の香が、ヴィクターの罪悪感を薄めていく。

「……あの、ソーマさん、今日もマッサージさせてもらえませんか?」
「寧ろいいのか?働き始めてからずっと甘えてしまってるような……」
「いいんです。僕が好きでお願いしてるんですから」
「……じゃあ、頼んでもいいか?」
「はいっ。……では、準備をしますね」

 ベッドが濡れるのを防ぐためにシートを引いた後、身につけていた服をバサリと脱いでしまうヴィクター。同じくボクサーパンツ一枚の姿になった颯真は、全裸になったヴィクターを見てもそれが当たり前のように受け入れていた。

「ヴィクターが作る特製ドリンク、甘くて美味しいんだよな」
「っ……、そう、ですか」

 どこか楽しそうにヴィクターの前でしゃがんだ颯真は、萎えていても長大な陰茎を手に取ると、迷うことなくはむりと頬張った。

「んむっ♡ん♡ふ、うぅ♡」

 先端をちゅうちゅう吸いながら、竿を扱き、たっぷりと質量のある玉を揉んで、嬉しそうに淫靡な音を立てていく。

 ジュッポ♡ジュルッ♡♡ヂュウゥッ♡ジュルルルッ♡♡♡

 待ちきれないとばかりに激しくフェラをする颯真の中心は、ボクサーの布地を色濃く変えて張り詰めていた。肉棒を舐めるだけで勃起するようになったことに、颯真自身は全く気づけていない。

「ぷ、はぁっ♡ふー……♡おっき……♡♡」
「……ソーマさん、おちんぽ美味しいですか?」
「んっ……♡おいひい♡♡もっと、おいしーの……、ちょぉだい♡♡」

 先走りでベタベタになった亀頭にちゅっとキスをして、再び咥内へと迎え入れる。すっかり勃ち上がった凶器からは、とめどなくカウパーが溢れてくる。ジュルジュルと美味しそうに飲み込む颯真を見つめ、ヴィクターの喉がごくりと上下した。

「っ、く……、ドリンク、出ます……からっ、飲んで、くださいね……っ!」
「ん、ん゛ん~~~ッ♡♡んぶっ♡ぐ、んうぅ~~っっ♡♡♡」

 ドビュッと溢れた特製ドリンク……という名の精液が、颯真の咥内を満たしていく。
 ごくりと飲み干そうとするのだが、如何せん量が多い。口の端から溢れてしまうのを、両手を皿にして受け止める。
 終いには口からブルンと陰茎を零してしまい、盛大に顔射されてしまった。ドロッとした濃い白濁が、ボタボタと顎から落ちていく。

「う……♡んぐっ♡はぁ……っ♡勿体ない……♡」

 両手にとぷりと溜まった精液をジュルッ♡と飲み干し、顔に付着したモノすらも指で掬いとってピチャピチャ舐めていく様は、意地汚くも淫猥だ。見ているだけで、射精したばかりのペニスが芯を取り戻してしまった。

「んっ♡ふぅ♡おいし……♡」
「……気に入ってくれて、よかったです。……さあ、ソーマさん、一度顔を濯いでから横になりましょうね」
「あ……、待ってくれ、折角作ってくれたんだから、もうちょっと飲みたい……♡」

 顎に滑らせた指をちゅうちゅう舐める颯真は、それが異質なことだと分かっていない。花の香が漂うこの空間の中で、どれだけ性的なことをされても、颯真の中では全てマッサージ関係のことに変換されてしまうのだ。
 今もただ、彼にとっては血行を良くする飲み物を飲んでいるだけに過ぎない。

 ──そうして、顔も口の中もすっきりして仰向けに寝転んだ颯真に、至って普通のマッサージを施しながら、ヴィクターは独りごちる。

「(……こんなこと、するべきじゃねぇんだろうな)」

 心中ではそう思う一方で、触れて舐めて抱き潰してしまいたい欲求が溢れ出てくる。少しだけ、衝動を収めるため、という身勝手な理由を引っ提げて、口を開く。

「ソーマさん、施術の途中でパンツは脱いでくださいね」
「え」
「そうしないと、直接コリを解せませんから」
「ん……、そっか。そうだよな」

 何も疑うことなく、オイルに濡れたパンツをもぞりと脱いだ颯真は、ヴィクターの目の前で一糸纏わぬ姿になった。フェラをして勃起した陰茎を隠そうともせず横になり、次の指示を待っているのかとろりと見上げてくる。

「それじゃあ、ここ、解していきましょうね」

 湧き上がる劣情を抑えて竿を握っても、颯真の口から罵声が飛んでくることはない。

「ひ、あっ、そこ、きもちい……♡」

 代わりに響くのは、あえかな喘ぎ声だ。大きな手の平で包み込むようにして、先端から玉までしっかりと揉み込んで扱けば、射精するまであっという間だった。

「あ……♡あぁ……っ♡おちんちん、イっちゃった……♡」
「まだ終わりじゃないですよ。……ほら、おちんぽの先っぽ、物足りないって言ってますし」
「ひっ♡♡あ゛あぁっ♡♡イ、イった、ばっか、ああぁっ♡♡ちんぽっ♡ごしごし、だめ、え゛ぇっ♡♡♡」

 敏感になった先端を手の平でぐちゅぐちゅ刺激してやれば、程なくして鉄砲水のように潮が飛び出した。ブシュッッ、と勢いよく溢れたそれは、ヴィクターと颯真の身体をびっしょりと濡らしていく。

「あ゛……♡きもち、い……♡♡」
「潮吹きマッサージも上手に出来るようになりましたね。いーこ、いーこ♡」
「ひんっ♡や、あっ♡いまっ、撫でられた、らあぁ……っっ♡♡」
「えっ」

 ジュワッ……、ショオオオォッ♡

 ぷるん、と震えたペニスから、薄黄色の液体がジョボジョボと溢れ出した。潮とは違って力なく小さな放物線を描くそれは、シートの上にほかほかとした水溜まりを作っていく。

「はあ……、んっ♡潮吹き、止まんない……♡」
「(潮……じゃなくて、おもらしだよな、これ。……くそっ、どんだけ煽りやがるんだよ……!……チッ、そろそろ時間か)」

 うっとりと放尿の余韻に浸る颯真は、そのまま気を失うように眠ってしまう。
 催眠と催淫効果がある花の香の効果は、きっかり一時間。その間の記憶は、『マッサージをされている』というものとして残っている。だが、毎日のように行われているこの行為で、確実に颯真の身体は敏感に、いやらしくなっていた。それこそ、普通のマッサージだけでも、勃起してしまうくらいには。

 ──とある日には大量の精液をぶっかけてオイル代わりに全身に塗りこんだり、またある日には執拗に乳首だけを責めてイかせたり、慎ましやかだったアナルを指や道具で拡張したり──……、そんな淫らな『マッサージ』を繰り返してきた。

 化け物級の巨根を挿入して壊すわけにはいかないと、前準備を念入りに、しっかりと。
 繋がる前には催眠をかけずに想いを伝えようと決めていた。たとえ本能が伴侶だと叫んでいて、これまで散々好き勝手に無体を働いていても、挿入だけはきちんと意識のある彼と行いたいと思っていた。

 昨夜、颯真と客の会話を聞くまでは。

『ソーマくんってさぁ、好きな人いるよね?』
『えっ!?な、……そ、そんなこと……』
『いや、バレバレだから。ここに来る客皆知ってるんじゃない?』
『嘘だろ……。……うぐ、そ、そうだとしても、あの、内緒にしてください……』

 真っ赤になってぼそぼそと告げる可愛らしい姿。そんな颯真のことも、からかう客の声も、最早聞こえていなかった。

「(ソーマに……、好きな奴、が…………?)」

 まさかそれが自分のことだとは露ほどにも思わなかった巨人の理性は、ブツンと焼き切れた。
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