アンハッピーエンド短編集

桜羽根ねね

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双子の霹靂

①曇天

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陽キャな兄と陰キャな弟のおはなし


*****


 僕には双子の兄がいる。二卵性で、顔は全く似ていないし、性格だって正反対。

 兄のアサヒは明るくて雄弁で、弟の僕……ハルヒは暗くて話し下手。それでも昔は仲が良くて、どこに行くにも二人一緒だった。隣のお家に住む凛くんと仲良くなってからは、三人で日が暮れるまで遊んでいた。

 ……ただ、今は。

「ア、アサヒ。何で、佐田くんと一緒にいたの……?しかも、キ……っ、キスまで、して」
「何でって……、付き合ってるからに決まってんじゃん。そこまで見ておいて分かんなかった?」
「っ、どうして……!どうせ、僕が佐田くんと付き合いだしたって知ってたんだよね?この前も、その前だって……、何で僕の恋人を奪っていくんだよ……っ!」
「ああ、その調子だともう別れ話された感じ?何でも何も、ハルヒより俺の方がよかったからでしょ。あの後の話、聞く?すっごく激しく抱かれてさぁ~」
「っ、聞きたくない……!」

 悪びれずにそんな最低なことを言ってくるアサヒには、……人のモノを欲しがる悪癖がある。

 それが分かったのは高校に入ってから。初めて出来た恋人との初デートの日、待ち合わせ場所でアサヒと彼がキスをしていた。

 それからずっと……、同じ大学に入ってからも、アサヒの悪癖は止まらなかった。一体どこから聞きつけるのか、僕が誰かと付き合いだすと必ず横入りしてくる。
 ……それで結局フラれるわけだから、僕に魅力がないのも原因なのかもしれないけど。

 でも、もういい加減にしてほしい。

 親からの進言に逆らえないまま一緒に住んでいたけど、これ以上一緒に居られない。無数の赤い痕を見せつけるようにして笑うアサヒに踵を返す。

 ……こんな時、結局頼ってしまうのは『彼』だ。一駅離れた所に住んでいる、大切な幼馴染み。迷惑をかけてばかりだけど、彼はいつも優しいから、その優しさに甘えてしまう。

 空には暗雲が立ち込めて、雷がゴロゴロと鳴り出した。そんな悪天候の中、彼は……凛くんは笑顔で僕を迎えてくれた。

「お茶しかないけど、いい?」
「うん。……突然来ちゃって、ごめんね」
「あはは、気にするなよ。オレとハルヒの仲じゃん」
「凛くん……」
「それで、何か用があって来たんでしょ?」
「……ん」

 冷たいお茶を一口飲んで、カラカラだった喉を潤す。垂れ目を優しく細める凛くんにドキドキしながら、言葉を選びつつ口を開いた。

「恋人が出来た、って。一昨日話したばかりなんだけど。また、アサヒの方を好きになったみたいで……。もう、ずっと、こんなことばかりでさ。ぼ、僕よりアサヒの方が明るくて可愛くてかっこいいのは、分かってるんだけど……」

 ああ、言い訳じみてダサくなってくる。心の奥ではちゃんと分かってるのに。みんな、僕のことをアサヒに繋がる橋としか思ってないって。橋渡しが終わったらおしまい。僕はもう用済みだ。泣きたくなんてないのにじわりと滲む目尻を、凛くんがそっと拭ってくれる。

「オレだったら、ハルヒにそんな顔させない。ねえ、ハルヒ。抱きしめてもいい?」
「凛くん……」

 僕は、凛くんの優しさに甘えている。
 下心ありきの優しさだからと照れながら伝えてくれたのは、いつだったっけ。凛くんのことは大切で大事な友達として見ていたから、恋愛対象としてなんて、考えたことなかったけど。

 ボロボロになった心に注がれる愛を拒否出来る程、僕は強くなかった。
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