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悪魔の贈り物
④こううん【終】
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「ルルビー。我が伴侶に害を為そうとするとはな。万死に値する」
「ひ、ぎっ、まお、ざま。ちが、おれ゛、は……ッ」
「行くぞ、ミツ。お前にはもっと最適な世話係をつけてやろう」
「だ、駄目です!早く火を消してください、ヴィラル様!これ、このブレスレット、ルルビーさんに関係のある物じゃないんですか?」
「我の物を我がどうしようが、この悪魔には関係ない」
「っ……、そ、それでも、駄目です!ヴィラル様……!」
熱い。肌が焼ける。痛くて堪らない。……でも、それ以上に心が痛い。何の迷いもなく魔王様が俺のことを殺そうとしていることが。贈り物なんて、魔王様にとっては何の意味もなかったことが。
シュウウウウッ……
「あ゛、がはっ、ぐ、へほっ、ひゅ、う、カハッ……!」
唐突に、熱さが引いていった。だけど自分の身体を支えることが出来ずに倒れこむ。生きてる。死んでない。あいつが、人間が、泣きながら頼んだからだ。その事実がより重くのしかかってくる。
「ミツに免じて不問としてやるが、二度とその汚らしい顔を見せるな」
冷たく言い捨てられた言葉を最後に、彼等の気配が部屋から消える。残されたのは、焼かれた一匹の悪魔。魔王様の魔法でつけられた傷は、魔王様にしか治せない。
変色して赤黒くなった手足をどうにか動かして、鏡を覗けば。
「は、はは……、ほん゛と、きったな゛……」
酷く爛れた顔の化け物が、映っていた。
錆び付いたような声が焼かれた喉から軋んで、嫌な音を立てる。
『ルルの顔も声も全部好き。可愛い』
ニードが好きになってくれたモノも、なくなっちゃった。
……どうせ、もうここには居られないんだ。最後にニードに会っても、きっと辛い思いしかしないだろうから。
こんな俺を好きになってくれた御礼に、これだけは残しておきたい。
「ふ、ぐ、うあ゛あぁっ!は、はぁ……」
手にしたそれを、机の上に。赤い文字でニードの名前を添える。
全身がズキズキ痛むけど、動けるようにはなってきた。いつまでもここに居たら、人間がいない時に魔王様に殺されてしまう。
ゆっくり開け放った窓から飛び降りれば、焦げた翼がじくじくと痛んだ。フラフラとした飛行で目指す場所は、とにかく魔王城から離れたところ。
「げほっ、かひゅっ……、ふ、う゛、うあ゛ぁ、ん……っ」
……滲む視界と、深い傷を負った身体で、どこまで行けるか分からないけれど。
*****
「……遅いな。勉強が長引いてるのか?」
いつもなら愚痴りに来てもおかしくないという時分なのに、姿を見せないルルビーに若干の心配が勝つ。
自分のことを意識して来れないという甘い予想を立てながらも、人間に勉強を教えるために使用している蔵書室に向かうことにした。
近付くに連れ、ルルビーのニオイが濃くなっていく。ただ、人間のニオイはしない。ニードは鼻をすんと鳴らして思考する。
「(何か調べものか……、疲れて寝落ちしてるのかな)」
驚かしてやろうかと、そんな悪戯心を胸に秘めてそっと扉を開けるが、愛する悪魔の姿は見えない。奥に居るのかとそのまま足を踏み入れたところで、ニードの目にそれが飛び込んできた。
「は……?」
机の上に書かれた自分の名前、そして、その隣の乾いた血溜まりの中に残されていたのは──、ルルビーの残り香が立ち昇る、黒焦げた角だった。
「ひ、ぎっ、まお、ざま。ちが、おれ゛、は……ッ」
「行くぞ、ミツ。お前にはもっと最適な世話係をつけてやろう」
「だ、駄目です!早く火を消してください、ヴィラル様!これ、このブレスレット、ルルビーさんに関係のある物じゃないんですか?」
「我の物を我がどうしようが、この悪魔には関係ない」
「っ……、そ、それでも、駄目です!ヴィラル様……!」
熱い。肌が焼ける。痛くて堪らない。……でも、それ以上に心が痛い。何の迷いもなく魔王様が俺のことを殺そうとしていることが。贈り物なんて、魔王様にとっては何の意味もなかったことが。
シュウウウウッ……
「あ゛、がはっ、ぐ、へほっ、ひゅ、う、カハッ……!」
唐突に、熱さが引いていった。だけど自分の身体を支えることが出来ずに倒れこむ。生きてる。死んでない。あいつが、人間が、泣きながら頼んだからだ。その事実がより重くのしかかってくる。
「ミツに免じて不問としてやるが、二度とその汚らしい顔を見せるな」
冷たく言い捨てられた言葉を最後に、彼等の気配が部屋から消える。残されたのは、焼かれた一匹の悪魔。魔王様の魔法でつけられた傷は、魔王様にしか治せない。
変色して赤黒くなった手足をどうにか動かして、鏡を覗けば。
「は、はは……、ほん゛と、きったな゛……」
酷く爛れた顔の化け物が、映っていた。
錆び付いたような声が焼かれた喉から軋んで、嫌な音を立てる。
『ルルの顔も声も全部好き。可愛い』
ニードが好きになってくれたモノも、なくなっちゃった。
……どうせ、もうここには居られないんだ。最後にニードに会っても、きっと辛い思いしかしないだろうから。
こんな俺を好きになってくれた御礼に、これだけは残しておきたい。
「ふ、ぐ、うあ゛あぁっ!は、はぁ……」
手にしたそれを、机の上に。赤い文字でニードの名前を添える。
全身がズキズキ痛むけど、動けるようにはなってきた。いつまでもここに居たら、人間がいない時に魔王様に殺されてしまう。
ゆっくり開け放った窓から飛び降りれば、焦げた翼がじくじくと痛んだ。フラフラとした飛行で目指す場所は、とにかく魔王城から離れたところ。
「げほっ、かひゅっ……、ふ、う゛、うあ゛ぁ、ん……っ」
……滲む視界と、深い傷を負った身体で、どこまで行けるか分からないけれど。
*****
「……遅いな。勉強が長引いてるのか?」
いつもなら愚痴りに来てもおかしくないという時分なのに、姿を見せないルルビーに若干の心配が勝つ。
自分のことを意識して来れないという甘い予想を立てながらも、人間に勉強を教えるために使用している蔵書室に向かうことにした。
近付くに連れ、ルルビーのニオイが濃くなっていく。ただ、人間のニオイはしない。ニードは鼻をすんと鳴らして思考する。
「(何か調べものか……、疲れて寝落ちしてるのかな)」
驚かしてやろうかと、そんな悪戯心を胸に秘めてそっと扉を開けるが、愛する悪魔の姿は見えない。奥に居るのかとそのまま足を踏み入れたところで、ニードの目にそれが飛び込んできた。
「は……?」
机の上に書かれた自分の名前、そして、その隣の乾いた血溜まりの中に残されていたのは──、ルルビーの残り香が立ち昇る、黒焦げた角だった。
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