アンハッピーエンド短編集

桜羽根ねね

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悪魔の贈り物

①うでわ

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魔王様のメス候補として頑張る悪魔のおはなし


*****


「魔王様!その……っ、これ、どうぞ!」
「なんだ、腕輪か?」
「はい、守護の加護をこめて作った腕輪です。俺、不器用なんで見た目は悪いけど、効果はちゃんとあるので……!」
「ふ、受け取っておこう。加護などなくとも我の存在は揺るがないがな」

 ああ、よかった……。今日も受け取ってもらえた。

 針獄洞窟で鉱石を探した甲斐があったし、下手なりに頑張って作った甲斐があったってもんだ。
 これまでずっと既製品ばかり贈ってきたけど、手作りの物を贈るといつもよりなんだかこそばゆい。本当は、俺のこの悪魔の角……、幸運の御守りになるって言われている角を贈りたいところだけど、流石に引っこ抜くのは痛そうだから保留中。

 大好きな魔王様が、俺の貢ぎ物を受け取ってくれる。それだけで、魔王様のメス候補として開発している身体がじくじく疼いて堪らなくなってしまう……♡

 俺、淫魔じゃなくてただの悪魔なんだけどな♡魔王様のメスになれたら、淫魔みたいに淫らに振る舞っていくんだ……♡

 ──なんて、馬鹿みたいに浮かれていたのが、今からたった一週間前の話だ。

「おめでとうございます!魔王様!」
「お幸せに!」
「いやぁ、まさか人間と番われるとは……」
「あんな溺愛っぷり見せられちゃ、オレ達は何も言えねぇわな」
「だなァ。仮にもメス候補だったルルビーに対しちゃ素っ気なかったもんなァ」
「ルルビーの奴、毎日せかせか贈り物してたみたいだぜ?」
「うわ、マジかよ。報われねぇな。ま、候補ってだけだったんだからそんなもんか」

 メス候補だった悪魔の俺は、ただのみそっかす悪魔になってしまった。

 集まった魔族達が見上げるのは、いつもより豪勢に着飾った魔王様と、顔を赤くして寄り添う人間。数日前に魔族領に捨てられた、可哀想な男の人間だ。魔力があるわけでもない、容姿だって俺より劣っているのに、そいつは魔王様の心を簡単に射止めてしまった。

 贈り物を用意しては渡せただけで喜んでいた俺が、馬鹿みたいだ。

 頭の中がガンガンする。悪魔ならあの人間を殺してしまえばいいと、そんな誘惑に駆られてしまう。……けど、それをしてしまったら、魔王様が悲しむことになる。俺は大好きな魔王様に悲しんでほしいわけじゃないんだ。

「……ビー。……ルルビー」
「っ……!?ま、魔王様……!?」

 魔王様を直視出来なくて俯いていた間に、いつの間にか雄々しい御姿が傍まで来られていた。……小柄でひょろりとした人間を連れて。

「ルルビー、お前には我が伴侶の身辺の世話を頼みたい」

 ……よりにもよって、それを俺に頼むのか。

 愕然とした気持ちを表に出さないように呑み下す。

 魔王様のことを好きな俺が、こいつに危害を加えるかもしれないのに。人間なんて、ちょっと高所から落としただけで死ぬし、少し首の骨を折ってやっただけで死ぬくらい脆弱な生き物だ。
 嫉妬に狂った俺が人間を殺す…………なんて、魔王様は考えていないんだろうな。

 俺がどれだけ魔王様のことが好きでも、魔王様は俺の存在をただの部下としか見てなかったんだ。だって……、メス候補だったのに、一度もキスすらしてくれなかったんだから。

「ルルビーさん……、えっと、何度かお会いしましたよね?僕も、その、突然のことで戸惑っているんですが……、色々教えてもらえると嬉しいです」
「ふーん……。じゃあ逆に聞くけど、どうやって魔王様を籠絡したんだ?」
「え……?」
「ルルビー。セルアは策謀めいたことは何もしておらぬぞ。純粋で無垢な心に、我が堕ちたまでの話だ」
「っん……、ま、まお……さま」

 魔王様は、残酷だ。

 元メス候補の俺の前で、見せつけるように人間にキスするか?
 策謀めいたこと?俺が物を贈ってたことを言ってるのか?純粋でも無垢でもない俺は、成功するはずのない舞台の上で無様に滑稽に踊ってたってことかよ。

 乾いた笑みが漏れる。人間を殺してしまいたい気持ちも。

 だけど結局、魔王様の言葉に従って世話係になってしまった俺は……馬鹿なんだろうな。
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