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バーコード

①返品は受け付けております

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商品になった青年達のおはなし


*****


 ガチャリ

 扉の開く音で、眠りかけていた拓海の意識が覚醒した。

「(こんな時間に誰が……、あ!)」

 もしかして、と逸る思いでランプに火を灯す。

 ぼんやりとした明かりに照らされた人影は予想通りのものだったが、拓海はひゅっと息を呑んだ。

「ただいまぁ。まーた返品されちゃった」

 へらりと手を振る灰色の髪の背が高い青年と、彼の両脇を固める武装した二人組。

 二人組には目もくれず、拓海は彼へと……唯一無二の親友である三春へと駆け寄った。

「みは、る……、お前、その傷……っ!」
「あー、これ?もう痛くないから大丈夫だって。まあでもキズモノの間は商品扱いされないから結構楽だよね~」
「ごめっ……、ごめん!本当にごめん!!俺の所為でっ、三春が酷い目に……!」
「あはは、なんで拓海が謝んの?俺を買ったのも返したのも客の意思でしょ。拓海は何も悪くないって」
「っ……!」

 そう言っていつものようにふにゃりと笑う三春の顔には、いくつもの青痣や切り傷が痛々しく残っており、拓海はこみ上げてくる涙を抑えることが出来なかった。

「わ、えっ、あー……もう、泣かないでよ拓海。俺が泣かせてるみたいじゃん」

 よしよし、と些か力強く頭を撫でてくる三春の手には、真新しい火傷の痕があった。
 服に隠れていて分からない所にも、傷が沢山あるはずだろう。

 彼は、そういう嗜好を持つ輩に買われて行ったのだから。

「っく、本当は……っ、俺がそうなるはずだった、のにっ……。ひぐっ、ごめ、ごめんなさい……っ」
「はいはい、自嘲しないの泣かないの~。めそめそしちゃカッコ悪いよ?……じゃ、俺はこれから修復の時間だから。また後でね、拓海」

 子供をあやすような軽いキスを額に落として、三春は現れた時と同様にひらひらと手を振って、一言も発さない二人組と共にその場から立ち去っていった。

 ──……買われて、傷つけられて、返品されて、治されて、また買われていく。

 終わりのないこのループを一体いつまで繰り返せばいいのだろうか。

「(……俺達だって普通に歩き回りたい。普通に笑い合いたい。普通に……生きたいのに)」

 涙を拭った腕を、そのまま首の後ろへと回す。手を当てると容易に分かる、それの感触。
 指に伝わる凹凸とした違和感にはいつまで経っても慣れることが出来ない。

 なめらかな肌に刻まれた、幾数もの黒い線、『バーコード』。

 三春の左腕にも存在するそれは、彼等が人間である前に『商品』であることの証だ。
 こすっても引っ掻いても薄れることがないバーコードは、一生消えることがないモノとされている。

 それでも、拓海は願うのだ。

 ──いつか、平穏で平凡な人間としての生活が戻ってきますように、と。

 商品の分際でと鼻で笑われそうな願いを、強く、……強く。
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