淫魔の呪いで女体化した僕がおもらしなんてするわけがない!

桜羽根ねね

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地下1階:我慢と決壊のプレリュード

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◆グレイの装備『旅人の服』
◆状態異常『なし』


 ぽう、と、淡く灯っていた光が消える。

 解析魔法を終えたメイズは、ショートロッドを下ろすとその結果をさらりと口にした。

「女体化の呪いの副作用で、膀胱にも影響が出ていますね。どうやら、すぐに尿意が溜まってしまう効果のようです」
「へぇ~? ま、命に関わるやつじゃなくてよかったじゃん」
「ぼ、僕の、尊厳に……っ、関わるだろうが……!」

 顔を真っ赤にして、股間を押さえたまま、グレイは声を絞り出す。大声を出してしまえば、それだけで決壊してしまいそうなのだ。

 メイズの解析魔法で副作用のことは分かったが、分かったからといって今この瞬間に襲い来る尿意をどうにか出来るわけではない。
 入口は最早遥か遠く。進むしか道はないだろう。

「もうここでしちゃえばいーじゃん。俺もメイズもあっち向いてるし」
「い、嫌に決まってるだろ!? 僕は今、お……っ、女なんだから!」

 女体化した影響で羞恥心が強くなったこともあり、他の冒険者も通るであろう場所で野ションをするなんて無理寄りの無理だった。
 幸いなことに、近年のダンジョンにはトイレが設置されていることが多い。とにかく今は戦いを避けてトイレを目指すべきだと、フラフラしながらも足を動かしていく。

「……あ!」

 角を曲がったところで、運良く『トイレはこちら』という案内板を見つけた。安堵でうっかりチビりそうになってしまったのを耐え、『右へ』『左へ』と指示されるがままに横道を進む。無駄に入り組んではいたものの、早く我慢から解放されたい一心で自然と小走りになっていた。

「はぁ……っ、ふ……」

 カーブを描いた道なりに進むと、ようやく『トイレはこの角の先にあります』という最後の指示が現れた。尿意は既に限界で、膀胱の中がちゃぷちゃぷ波打っている感覚すらある程だ。

「あ……っ、やっ、と……」

 最後の我慢だと、曲がった先に向かったグレイは。

「え」

 その場で、呆然と足を止めてしまった。

「なになに~、行き止まりじゃん」
「ふむ。これは……」

 後をついてきていた二人も、行き止まりに鎮座しているそれを見て歩みを止める。
 トイレの代わりとでもいうように、台座の上に大量に積まれた紙コップ。そして、壁には煽るような可愛らしい文字で『ご自由にどうぞ♡』と書かれていた。

「う、そ……」
「紙コップにおしっこしろ~ってこと? グレイちゃん、どーする?」

 来た道を戻る程の余裕なんて、あるわけがない。このままここで漏らすか、はたまた紙コップにするか、二つに一つ。

「~~っ! か、……紙コップに、する……から、お前達は、離れてろ……っ」
「え~~。手伝ったげるのに~」
「いらな、い……っ!」

 どうにか二人に後ろを向かせて距離を取らせると、積み上がった紙コップへと片手を伸ばす。その中から重ねて数個手に取り、小刻みに震えながらしゃがみ込んだ。足の踵でぐっと股間を押さえつつ、下着ごとズボンをずり下げる。女体化して余計にぷりんと大きくなってしまった白い双丘が晒されると、空気に触れたせいでぶるりと肩が震えた。

「っ……」

 襲い来る波を我慢して、股間に紙コップをあてがう。男の時と違い、どこが尿道なのか分からないため、コップの口で女性器を覆うように触れさせた。

「ふ、ぁ……」

 強張らせていた身体からふっと力を抜けば、決壊は呆気なく訪れる。

 ジョボボボボボボ

「(お、音……っ! あいつらに聞こえる……!)」

 かあっと頬が熱くなるも、大きく響く放尿音はどうにもならない。
 ずしりと重く温かくなっていく紙コップは、ジョロジョロと注がれる小水によってすぐ満杯になってしまった。
 念の為にいくつか取っておいてよかったと、二つ目の紙コップを素早くあてがう。

「(う……)」

 注ぎ終わった紙コップは、ひとまず地面の上に置いておく。たぷたぷと波打つレモンティーのようなそれから、ほわりと湯気が昇っているのが恥ずかしい。

「はぁ……っ」

 シャアアァッ、と細くなっていく水流がようやく終わりを告げた時には、三つの紙コップが満杯になっていた。こんなに溜め込んでいたのだと思っただけで、出し切ったはずの膀胱がきゅうっと疼いてしまう。

「これ……、どうすれば……」
「まずはこちらをどうぞ。使ってください」

 斜め上からすっと差し出されたティッシュを、ひとまず受け取る。

「ありが、……と、……っは、ぁ!? 離れてろって言っただろ!?」

 しゃがんだまま、すぐ傍まで近寄っていたメイズを睨み上げる。一体いつからそこに居たのか、まるで気が付かなかった。

「粗相中のグレイが魔物に襲われたら大変だと思いまして」
「ちゃーんと離れてはいたよ? 1メートルくらいだけど」
「コ、コルクまで……!」
「あ、おしっこ終わったらここに置けって書いてあったから、置いちゃうね」
「え、あ……っ、勝手に……!」

 あれよあれよという間に、紙コップが三つとも持っていかれる。急いで股間を拭いて衣服を元に戻したが、その時には既に台座の上にコップが置かれていた。

 そして、パチッと小さな魔法が発動すると同時に、小水入り紙コップが全て消えてしまった。簡易的な消却魔法か、若しくは転移魔法の類だろう。前者だったらまだしも、後者なら一体どこに行ったのかと顔が熱くなる。

「グレイ。用も足せたようですし次の階に向かいましょうか」
「あ。ゴミはそっちの箱に入れるといいっぽいよぉ」

 いけしゃあしゃあとのたまう彼等を、怒鳴ったところで自分が疲弊するだけだろう。
 しっとりとしたティッシュを箱の中に投げ入れて、恥ずかしさを堪えながらも先に進むことにした。

 天井付近からそっと消えた影に、気づくことがないまま。
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