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7.重なる心※
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「…………懐かしい、夢を見たな……」
ぽつん、と囁くように発せられた声が静かな寝室に響く。
城の近くの部屋を間借りして住まわせてもらっているレイヴンは、まだ外が暗いのを確認すると再び目を瞑った。幼き日の、初恋の記憶。結局こじらせたままここまできて、記憶がないアウルに纏わりついてしまった。
だけど、まさか。
アウルの想い人が、自分かもしれないなんて。
確かにあの時のレイヴンは髪も長く、声変わりする前の女の子のような声で、オレという一人称もアウルの前では使っていなかった。だからアウルもレイヴンのことを女だと勘違いして、ずっと恋慕っていたのだろう。
てっきり、自分とアウルの初恋話は別物だと思い込んでいた。
裏を返せば、簡単な話、ただただお互いに想いあっていただけなのだ。
記憶を消失させる魔法が正常に効いていなかったせいで、こんなややこしいことになってしまったのだろう。
だが、分かったところでどうしようもない。アウルにはもう、素敵な女性との幸せな結婚生活が待っているのだから。シロロメクサと発した、白い服に身を包んだ少女が誰なのかは分からないが、少なくとも自分が隣に立つよりずっとお似合いだ。
「…………っ」
どうにも眠れそうになくて、レイヴンはゆるりと身を起こした。昔の記憶と、女性に口付けを落とすアウルの姿が入り混じる。
「(少し、頭を冷やすか……)」
部屋着の上からガウンを羽織り、扉へと向かおうとした刹那、まるでタイミングを見計らったかのようにノック音が響いた。
レイヴンは特に驚くこともなく、訪問者の元へと向かう。眠れない夜には、よくフェザントが果実酒を手に訪問してくるのだ。液体を司る魔法使いであるフェザントお手製のそれは、逆立った感情を落ち着かせ安眠に導く効果がある。
気怠げな態度だが友達思いな彼のことを思い浮かべつつ、キィ、と扉を開く。
「フェザント、今日も良いタイミング…………」
「……フェザントとは、誰のことだ?」
「…………え?……ア、アウル…………!?」
そこにいるはずのない王子の姿を目に留めた瞬間、レイヴンは反射的に扉を閉めようとした。だが、それよりも早くアウルの足が隙間にねじ込まれ、あっという間に中への侵入を許してしまった。
わ、と驚く暇もなく、ドアをバタンと閉めたアウルがレイヴンの腕を掴む。その意志の強い瞳には、これまで見たことがない色が宿っていた。
内心で動転しながらも、いつもの笑顔を張り付けてそんなアウルに語りかける。
「ど、どうしたんだ。こんな時間に。王子様が一人で外出か?あの子はどうした、折角初恋の君が見つかったというのにいきなり放置するなんてひど──……」
「少し黙れ、レイヴン」
「ん、ぅ……っ!?」
アウルによって言葉ごと物理的に封じられたレイヴンは、あまりにも突然の出来事に硬直することしか出来なかった。
至近距離で視界いっぱいに広がる男らしい端正な顔、唇に触れる柔らかい熱は考えるまでもなく、アウルのそれだ。
音もなく重ねられた唇からは、花の香りのような甘い味がした。
すっ、と顔が遠のいた頃には、レイヴンの心臓は張り裂けそうなくらいばくばくと鳴り響いていた。
真っ赤に染まった顔を見られたくなくて、けれどもアウルに真っ直ぐ射抜かれて、逸らせなくて。
「ア、ウル、……だ、だめ、だぞ。冗談とは……いえ、友人に、キス……、なんて」
「冗談ではない」
きっぱり。
そう言い切ったアウルが、レイヴンの頬を優しく包む。そのまま軽く上向かせ視線をかちりと合わせると、まるで宝物を見つけたかのように、柔く微笑んだ。
「青い色も綺麗だったが、今の色も夜空のようで綺麗だ、レイヴン」
「っ……!?アウル、それ……は、」
「……全て、思い出した。あの時のことも、俺が想いを寄せた彼のことも」
彼女、とは言わなかった。
本当に全部思い出したのだろう。レイヴンと過ごした、たった数時間の逢瀬を。
「性別も身分も関係ない。……もう、逃がさない。俺の伴侶になってくれ、レイヴン」
「…………はは、選択肢など、ないではないか」
「……返事を、聞かせてほしい」
常識的観点からみれば断るのが正しいのだろう。一国の王子としがない魔法使いの番だなんて、聞いたことがない。
王子の隣には王女様。それが正しい形なのだ。
……頭ではそう思っても、本能が真っ先に身体を動かしていた。アウルと同じように両手を頬に添え、背伸びをしてちゅっと小さな音を立てる。
そうして悪戯が成功したかのように微笑むと、ぽかんと呆けるアウルの広い胸の中へぎゅうっと飛び込んだ。
「お前が俺を助けてくれたあの日から、ずっとずっと好きだった。……オレがお前を、幸せにしてやる」
「…………相変わらず男らしいな、お前は。だが、一つ訂正しろ。俺達は、二人一緒に幸せになるんだ」
「っ、も……、勿論だっ」
かぁっ、と熱くなる頬を隠すように胸元に顔を埋める。
嬉しくて信じられなくて夢のようだ。このままアウルの腕の中で眠ってしまえたら、それだけで幸せだ。
「──ところで、レイヴン」
「む?……え、あれ、アウル?」
唐突にレイヴンをひょいっと抱きかかえたアウルは、そのまま奥に設置してあるベッドへと向かう。
その上にレイヴンを優しく寝かせると、自らも跨ぐようにして重なってきた。スプリングがきしり、と音を立てる。
「ア、アウル?」
「フェザントとは、誰だ?」
瞳に浮かぶ色は、部屋の前にいた時と同じモノ。さっきは分からなかったが、今は痛いほど分かってしまう。これは、嫉妬の色だ。
「フェ、フェザントはオレと同じ魔法使いで色々相談に乗ってもらってて……、と、とにかく、ただの友人だ!」
「ただの友人が夜中にお前の部屋を訪れているのか。さっきの口振りだと結構な頻度のようだが」
「アウル、少し落ち着け。オレとフェザントの間に色恋沙汰などまるでないか、らぁっ!?」
不意にアウルの大きな手が胸を撫で、ぞくりとした刺激が走って変な悲鳴をあげてしまう。
「……胸で感じるんだな」
「あっ、ちょ、アウルっ……!」
抵抗虚しくガウンを肌蹴られ、薄い部屋着をぐいっと捲られてしまった。嫉妬されること自体に対しては嬉しく思ったりもするが、こんなに性急に求められると嬉しさより羞恥が勝ってしまう。
それに加えて、レイヴンは胸を人に見せることに抵抗感を覚えていた。女じゃないのだからと思うだろうが、胸……言ってしまえば乳首に密かなコンプレックスを抱いているのだ。
「やっ、見るな、ばか……!」
アウルの眼前に晒された二つの飾りは、通常のそれと大きく違っていた。突起するべき箇所が、出ていない。つまり、綺麗に陥没してしまっているのである。薄暗い部屋の中、そこだけが妙に淫猥に見えてしまう。
「ア、アウル、恥ずかしい、から……っ」
きゅっと眉根を下げ、手で胸を隠そうとするレイヴンはとてもいじらしく可愛らしい。アウルの脳裏に、幼い頃少女だと思っていたレイヴンの姿が浮かび上がる。笑った方が可愛いと伝えた時の彼の照れっぷりは、今思い出しても微笑ましいものがある。あの時と今で違うことといえば、アウルもレイヴンももう立派な大人で、それなりの欲を抱えているということだ。
「……大丈夫だ、レイヴン。お前を形成している全てのものが美しいのだから、恥ずかしがる必要などない」
「なっ……!よ、よくそんな気障な台詞を真顔で言えるな……っ!?」
「……?事実を伝えただけだが……」
「…………お前は末恐ろしいな、アウル」
照れながらも擽ったそうにくすくすと笑みを零すレイヴンの手をそっと取り、指を絡めてぎゅっと握る。露わになった薄桃色のそれに唇を寄せると、「んっ」という艶めいた声が響いた。
ちゅう、とやや強めに吸うと、陥没していた乳首が徐々にぷくりと勃ち上がってくる。
舌でほじくるように刺激され、歯でこりこりと甘噛みされていく内に、レイヴンの思考は熱した飴のように甘くとろけていく。
「んっ、あ、アウルっ……、噛むの、だめ、変になっちゃう……、からぁ……っ」
「む……、分かった」
「あっ……?」
素直に乳首から唇を離され、それを望んだはずのレイヴンが寂しそうな声をあげてしまう。
散々舐められ吸われた右の乳首は赤くぷっくりと膨れ、てらてらといやらしく光っているのに対し、左はまだ引っ込んだままだ。そのアンバランスな光景が逆に恥ずかしく、レイヴンは握りしめた手にきゅっと力を込めてか細い声で呟いた。
「…………ひだり、も」
「……レイヴン?」
「左も、舐めて、アウル……」
「……いいのか?次は、駄目と言われても……やめられそうにないぞ」
ギラリと光った雄の瞳に、思わず背筋が震える。恥ずかしい気持ちが消えたわけではないが、今はそれよりもアウルに触れてほしかった。
「…………噛むのは、駄目だからな」
「ふ、分かっている」
「んんっ……!!」
ちゅうう、と激しく左乳首に吸い付かれ、短い喘ぎ声が漏れていく。舐められていない右の突起も、空気に触れているせいかじんじんと疼いてしまう。唇で挟まれてきゅっと引っ張られれば、一際高い声が迸った。乳首を弄られているだけなのに、全身が、特に中心が熱くて堪らない。
はふはふと呼吸をしながら足を擦り合わせていると、ぐり、とアウルの膝がそこに割って入ってきた。布地の上からぐにぐにと快感を与えられ、耐えきれずに身を跳ねさせる。
「ひ、あぁっ……!」
「……ん、レイヴン…………」
「んぅ、む、っあ……」
乳首から唇を離したアウルが、そのままレイヴンの呼吸を奪う。ちゅ、ちゅ、と幾度となく繰り返される口付けと共に膝の動きも大胆なものに変わっていく。
「ひゃ、んっ……!」
「…………脱がしても、いいか」
「ふっ、う、一々……聞くなぁ、っん」
このままでは汚してしまうからという配慮からだろうが、言葉で確認されると無性にむずむずしてしまう。
そんなレイヴンの葛藤を知る由もないアウルは、絡ませていた手を解き、ウエスト部分に移動させ、下着と共にハーフパンツを引き下ろす。ぷるりと現れた陰茎は膝の刺激で鎌首を擡げ、先端を透明な液で濡らしていた。
恥ずかしそうに手の甲で口を覆い、ちらちらとアウルの様子を窺ってくるレイヴン。赤くぴんと尖った乳首も相まって、その様は表現しようもない程に可愛らしい。
レイヴンの全てを暴きたいという獣じみた欲求が浮かぶものの、それはすぐに霧散する。今日は無理矢理最後までする気はないのだ。
アウルは自らの下肢を覆う布も取り去り、レイヴンの上体を起こさせる。
「あ……、アウルのも、おっきくなってる……」
「……あまり煽るな、レイヴン」
「ふふ、……嬉しいぞ」
ちゅ、とキスを贈り合い、座った状態で正面から抱き合う。ぴったりと肌を密着させると、敏感な乳首や勃起した陰茎がこすれ合い、無意識の内に熱い吐息が零れる。とくとくと相手の鼓動が伝わり、このまま溶け合って一つになるような錯覚に陥った。
「アウル……、…………だいすき」
「……ああ、俺もだ。レイヴン」
砂糖のような愛を囁き合って、熱を吐き出すべくゆるゆると腰を揺らめかせる。
くちゅ、といやらしい水音が響く度に、二人して恥ずかしさを誤魔化すように唇を重ね合わせた。
…………本当の意味で数年ぶりに邂逅した王子と魔法使いの間に白濁が散るまで、甘い花の香りに満ちた一時が流れていった。
ぽつん、と囁くように発せられた声が静かな寝室に響く。
城の近くの部屋を間借りして住まわせてもらっているレイヴンは、まだ外が暗いのを確認すると再び目を瞑った。幼き日の、初恋の記憶。結局こじらせたままここまできて、記憶がないアウルに纏わりついてしまった。
だけど、まさか。
アウルの想い人が、自分かもしれないなんて。
確かにあの時のレイヴンは髪も長く、声変わりする前の女の子のような声で、オレという一人称もアウルの前では使っていなかった。だからアウルもレイヴンのことを女だと勘違いして、ずっと恋慕っていたのだろう。
てっきり、自分とアウルの初恋話は別物だと思い込んでいた。
裏を返せば、簡単な話、ただただお互いに想いあっていただけなのだ。
記憶を消失させる魔法が正常に効いていなかったせいで、こんなややこしいことになってしまったのだろう。
だが、分かったところでどうしようもない。アウルにはもう、素敵な女性との幸せな結婚生活が待っているのだから。シロロメクサと発した、白い服に身を包んだ少女が誰なのかは分からないが、少なくとも自分が隣に立つよりずっとお似合いだ。
「…………っ」
どうにも眠れそうになくて、レイヴンはゆるりと身を起こした。昔の記憶と、女性に口付けを落とすアウルの姿が入り混じる。
「(少し、頭を冷やすか……)」
部屋着の上からガウンを羽織り、扉へと向かおうとした刹那、まるでタイミングを見計らったかのようにノック音が響いた。
レイヴンは特に驚くこともなく、訪問者の元へと向かう。眠れない夜には、よくフェザントが果実酒を手に訪問してくるのだ。液体を司る魔法使いであるフェザントお手製のそれは、逆立った感情を落ち着かせ安眠に導く効果がある。
気怠げな態度だが友達思いな彼のことを思い浮かべつつ、キィ、と扉を開く。
「フェザント、今日も良いタイミング…………」
「……フェザントとは、誰のことだ?」
「…………え?……ア、アウル…………!?」
そこにいるはずのない王子の姿を目に留めた瞬間、レイヴンは反射的に扉を閉めようとした。だが、それよりも早くアウルの足が隙間にねじ込まれ、あっという間に中への侵入を許してしまった。
わ、と驚く暇もなく、ドアをバタンと閉めたアウルがレイヴンの腕を掴む。その意志の強い瞳には、これまで見たことがない色が宿っていた。
内心で動転しながらも、いつもの笑顔を張り付けてそんなアウルに語りかける。
「ど、どうしたんだ。こんな時間に。王子様が一人で外出か?あの子はどうした、折角初恋の君が見つかったというのにいきなり放置するなんてひど──……」
「少し黙れ、レイヴン」
「ん、ぅ……っ!?」
アウルによって言葉ごと物理的に封じられたレイヴンは、あまりにも突然の出来事に硬直することしか出来なかった。
至近距離で視界いっぱいに広がる男らしい端正な顔、唇に触れる柔らかい熱は考えるまでもなく、アウルのそれだ。
音もなく重ねられた唇からは、花の香りのような甘い味がした。
すっ、と顔が遠のいた頃には、レイヴンの心臓は張り裂けそうなくらいばくばくと鳴り響いていた。
真っ赤に染まった顔を見られたくなくて、けれどもアウルに真っ直ぐ射抜かれて、逸らせなくて。
「ア、ウル、……だ、だめ、だぞ。冗談とは……いえ、友人に、キス……、なんて」
「冗談ではない」
きっぱり。
そう言い切ったアウルが、レイヴンの頬を優しく包む。そのまま軽く上向かせ視線をかちりと合わせると、まるで宝物を見つけたかのように、柔く微笑んだ。
「青い色も綺麗だったが、今の色も夜空のようで綺麗だ、レイヴン」
「っ……!?アウル、それ……は、」
「……全て、思い出した。あの時のことも、俺が想いを寄せた彼のことも」
彼女、とは言わなかった。
本当に全部思い出したのだろう。レイヴンと過ごした、たった数時間の逢瀬を。
「性別も身分も関係ない。……もう、逃がさない。俺の伴侶になってくれ、レイヴン」
「…………はは、選択肢など、ないではないか」
「……返事を、聞かせてほしい」
常識的観点からみれば断るのが正しいのだろう。一国の王子としがない魔法使いの番だなんて、聞いたことがない。
王子の隣には王女様。それが正しい形なのだ。
……頭ではそう思っても、本能が真っ先に身体を動かしていた。アウルと同じように両手を頬に添え、背伸びをしてちゅっと小さな音を立てる。
そうして悪戯が成功したかのように微笑むと、ぽかんと呆けるアウルの広い胸の中へぎゅうっと飛び込んだ。
「お前が俺を助けてくれたあの日から、ずっとずっと好きだった。……オレがお前を、幸せにしてやる」
「…………相変わらず男らしいな、お前は。だが、一つ訂正しろ。俺達は、二人一緒に幸せになるんだ」
「っ、も……、勿論だっ」
かぁっ、と熱くなる頬を隠すように胸元に顔を埋める。
嬉しくて信じられなくて夢のようだ。このままアウルの腕の中で眠ってしまえたら、それだけで幸せだ。
「──ところで、レイヴン」
「む?……え、あれ、アウル?」
唐突にレイヴンをひょいっと抱きかかえたアウルは、そのまま奥に設置してあるベッドへと向かう。
その上にレイヴンを優しく寝かせると、自らも跨ぐようにして重なってきた。スプリングがきしり、と音を立てる。
「ア、アウル?」
「フェザントとは、誰だ?」
瞳に浮かぶ色は、部屋の前にいた時と同じモノ。さっきは分からなかったが、今は痛いほど分かってしまう。これは、嫉妬の色だ。
「フェ、フェザントはオレと同じ魔法使いで色々相談に乗ってもらってて……、と、とにかく、ただの友人だ!」
「ただの友人が夜中にお前の部屋を訪れているのか。さっきの口振りだと結構な頻度のようだが」
「アウル、少し落ち着け。オレとフェザントの間に色恋沙汰などまるでないか、らぁっ!?」
不意にアウルの大きな手が胸を撫で、ぞくりとした刺激が走って変な悲鳴をあげてしまう。
「……胸で感じるんだな」
「あっ、ちょ、アウルっ……!」
抵抗虚しくガウンを肌蹴られ、薄い部屋着をぐいっと捲られてしまった。嫉妬されること自体に対しては嬉しく思ったりもするが、こんなに性急に求められると嬉しさより羞恥が勝ってしまう。
それに加えて、レイヴンは胸を人に見せることに抵抗感を覚えていた。女じゃないのだからと思うだろうが、胸……言ってしまえば乳首に密かなコンプレックスを抱いているのだ。
「やっ、見るな、ばか……!」
アウルの眼前に晒された二つの飾りは、通常のそれと大きく違っていた。突起するべき箇所が、出ていない。つまり、綺麗に陥没してしまっているのである。薄暗い部屋の中、そこだけが妙に淫猥に見えてしまう。
「ア、アウル、恥ずかしい、から……っ」
きゅっと眉根を下げ、手で胸を隠そうとするレイヴンはとてもいじらしく可愛らしい。アウルの脳裏に、幼い頃少女だと思っていたレイヴンの姿が浮かび上がる。笑った方が可愛いと伝えた時の彼の照れっぷりは、今思い出しても微笑ましいものがある。あの時と今で違うことといえば、アウルもレイヴンももう立派な大人で、それなりの欲を抱えているということだ。
「……大丈夫だ、レイヴン。お前を形成している全てのものが美しいのだから、恥ずかしがる必要などない」
「なっ……!よ、よくそんな気障な台詞を真顔で言えるな……っ!?」
「……?事実を伝えただけだが……」
「…………お前は末恐ろしいな、アウル」
照れながらも擽ったそうにくすくすと笑みを零すレイヴンの手をそっと取り、指を絡めてぎゅっと握る。露わになった薄桃色のそれに唇を寄せると、「んっ」という艶めいた声が響いた。
ちゅう、とやや強めに吸うと、陥没していた乳首が徐々にぷくりと勃ち上がってくる。
舌でほじくるように刺激され、歯でこりこりと甘噛みされていく内に、レイヴンの思考は熱した飴のように甘くとろけていく。
「んっ、あ、アウルっ……、噛むの、だめ、変になっちゃう……、からぁ……っ」
「む……、分かった」
「あっ……?」
素直に乳首から唇を離され、それを望んだはずのレイヴンが寂しそうな声をあげてしまう。
散々舐められ吸われた右の乳首は赤くぷっくりと膨れ、てらてらといやらしく光っているのに対し、左はまだ引っ込んだままだ。そのアンバランスな光景が逆に恥ずかしく、レイヴンは握りしめた手にきゅっと力を込めてか細い声で呟いた。
「…………ひだり、も」
「……レイヴン?」
「左も、舐めて、アウル……」
「……いいのか?次は、駄目と言われても……やめられそうにないぞ」
ギラリと光った雄の瞳に、思わず背筋が震える。恥ずかしい気持ちが消えたわけではないが、今はそれよりもアウルに触れてほしかった。
「…………噛むのは、駄目だからな」
「ふ、分かっている」
「んんっ……!!」
ちゅうう、と激しく左乳首に吸い付かれ、短い喘ぎ声が漏れていく。舐められていない右の突起も、空気に触れているせいかじんじんと疼いてしまう。唇で挟まれてきゅっと引っ張られれば、一際高い声が迸った。乳首を弄られているだけなのに、全身が、特に中心が熱くて堪らない。
はふはふと呼吸をしながら足を擦り合わせていると、ぐり、とアウルの膝がそこに割って入ってきた。布地の上からぐにぐにと快感を与えられ、耐えきれずに身を跳ねさせる。
「ひ、あぁっ……!」
「……ん、レイヴン…………」
「んぅ、む、っあ……」
乳首から唇を離したアウルが、そのままレイヴンの呼吸を奪う。ちゅ、ちゅ、と幾度となく繰り返される口付けと共に膝の動きも大胆なものに変わっていく。
「ひゃ、んっ……!」
「…………脱がしても、いいか」
「ふっ、う、一々……聞くなぁ、っん」
このままでは汚してしまうからという配慮からだろうが、言葉で確認されると無性にむずむずしてしまう。
そんなレイヴンの葛藤を知る由もないアウルは、絡ませていた手を解き、ウエスト部分に移動させ、下着と共にハーフパンツを引き下ろす。ぷるりと現れた陰茎は膝の刺激で鎌首を擡げ、先端を透明な液で濡らしていた。
恥ずかしそうに手の甲で口を覆い、ちらちらとアウルの様子を窺ってくるレイヴン。赤くぴんと尖った乳首も相まって、その様は表現しようもない程に可愛らしい。
レイヴンの全てを暴きたいという獣じみた欲求が浮かぶものの、それはすぐに霧散する。今日は無理矢理最後までする気はないのだ。
アウルは自らの下肢を覆う布も取り去り、レイヴンの上体を起こさせる。
「あ……、アウルのも、おっきくなってる……」
「……あまり煽るな、レイヴン」
「ふふ、……嬉しいぞ」
ちゅ、とキスを贈り合い、座った状態で正面から抱き合う。ぴったりと肌を密着させると、敏感な乳首や勃起した陰茎がこすれ合い、無意識の内に熱い吐息が零れる。とくとくと相手の鼓動が伝わり、このまま溶け合って一つになるような錯覚に陥った。
「アウル……、…………だいすき」
「……ああ、俺もだ。レイヴン」
砂糖のような愛を囁き合って、熱を吐き出すべくゆるゆると腰を揺らめかせる。
くちゅ、といやらしい水音が響く度に、二人して恥ずかしさを誤魔化すように唇を重ね合わせた。
…………本当の意味で数年ぶりに邂逅した王子と魔法使いの間に白濁が散るまで、甘い花の香りに満ちた一時が流れていった。
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