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3.友との密談
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好きだからこそ、相手に幸せになってもらいたい。
そうすれば自分の想いにも区切りがつく。そんな思いから、レイヴンはアウルとの付き合いが深くなるにつれて、様々な趣向で彼に嫁を娶らせようとしていた。アウルが素敵な女性と結婚すれば、この禁忌にも近い想いを諦めることが出来るから、と。
国王と王妃がとんでもなくおおらかなため、レイヴンの口調から敬語が抜けても、婚姻を進めようとしても見守ってくれている。レイヴンが息子の命の恩人ということも大きいだろう。
流石に婚約者候補が問題ないか事前に確認を取っているが、基本的に良くも悪くもお人好しな夫婦だ。
……だが、そうして準備した姿絵もことごとくスルーされ、今に至っている。
アウルにはどうやら幼い頃に出会った初恋の女性がいるらしい。成人してまで初恋に拘るというのもなかなかのものだが、それがアウルだと妙に納得してしまう。
一度、その初恋について聞いてみたことがある。
けれども、アウルは彼女の顔も名前も、声すら碌に覚えていないらしい。そんな記憶だけでよく初恋をこじらせたままここまで来たな、と呆れるレイヴンに向かって、アウルは朗々と告げたのだ。
『自分の気持ちに嘘をつくことは出来ない』と。
どこまでも真っ直ぐなアウルらしい言葉に、レイヴンもそれ以上蒸し返すのをやめた。
「──はぁ……、ままならないものだな、恋というものは」
「レイヴンこそ、昔の初恋こじらせすぎやろ」
「……仕方ないだろう。あの時のアウルは本当にかっこよくて……、ヒーローみたいだったんだからな」
むすっ、とした口調でぼやくレイヴンの視線の先では、同じ魔法使いであるフェザントがティーカップに紅茶を注いでいた。
古くからの友であるフェザントは、レイヴンの良き相談相手でもある。アウルに対する長い片想いのことを知る唯一の人物で、レイヴンは頻繁に彼の元を訪れてはこうして愚痴めいた相談に乗ってもらっているのだ。
魔法使いの家というよりは奇抜なびっくりハウスのような内装を何ともなしに眺めつつ、差し出された紅茶に口をつける。
インテリアといい、ショッキングピンクな髪色といい、嗜好は極端なフェザントだが、紅茶を淹れるのだけは格別に上手い。東洋に咲くという桃色の花の香りを味わいながら、レイヴンはそっと息を吐く。
「……最終手段に出ようと思うんだ」
「最終手段?……ああ、王子かっ攫ってかけ落ちでもすんの?」
「違うっ!そんなことをしてもアウルを混乱させて不幸にするだけだ……っ」
「冗談やって。んなマジにならんといてや、レイヴン」
「む……、フェザントの冗談は分かりにくすぎるぞ」
「……で?何なん、その最終手段ってやつ」
「ああ、上手くいく確率は低いのだがな……」
改めてそう問うてくるフェザントに、レイヴンはずっと心中で組み立てていたプランを、珍しくネガティブな前置きと共に語り出していった。
そうすれば自分の想いにも区切りがつく。そんな思いから、レイヴンはアウルとの付き合いが深くなるにつれて、様々な趣向で彼に嫁を娶らせようとしていた。アウルが素敵な女性と結婚すれば、この禁忌にも近い想いを諦めることが出来るから、と。
国王と王妃がとんでもなくおおらかなため、レイヴンの口調から敬語が抜けても、婚姻を進めようとしても見守ってくれている。レイヴンが息子の命の恩人ということも大きいだろう。
流石に婚約者候補が問題ないか事前に確認を取っているが、基本的に良くも悪くもお人好しな夫婦だ。
……だが、そうして準備した姿絵もことごとくスルーされ、今に至っている。
アウルにはどうやら幼い頃に出会った初恋の女性がいるらしい。成人してまで初恋に拘るというのもなかなかのものだが、それがアウルだと妙に納得してしまう。
一度、その初恋について聞いてみたことがある。
けれども、アウルは彼女の顔も名前も、声すら碌に覚えていないらしい。そんな記憶だけでよく初恋をこじらせたままここまで来たな、と呆れるレイヴンに向かって、アウルは朗々と告げたのだ。
『自分の気持ちに嘘をつくことは出来ない』と。
どこまでも真っ直ぐなアウルらしい言葉に、レイヴンもそれ以上蒸し返すのをやめた。
「──はぁ……、ままならないものだな、恋というものは」
「レイヴンこそ、昔の初恋こじらせすぎやろ」
「……仕方ないだろう。あの時のアウルは本当にかっこよくて……、ヒーローみたいだったんだからな」
むすっ、とした口調でぼやくレイヴンの視線の先では、同じ魔法使いであるフェザントがティーカップに紅茶を注いでいた。
古くからの友であるフェザントは、レイヴンの良き相談相手でもある。アウルに対する長い片想いのことを知る唯一の人物で、レイヴンは頻繁に彼の元を訪れてはこうして愚痴めいた相談に乗ってもらっているのだ。
魔法使いの家というよりは奇抜なびっくりハウスのような内装を何ともなしに眺めつつ、差し出された紅茶に口をつける。
インテリアといい、ショッキングピンクな髪色といい、嗜好は極端なフェザントだが、紅茶を淹れるのだけは格別に上手い。東洋に咲くという桃色の花の香りを味わいながら、レイヴンはそっと息を吐く。
「……最終手段に出ようと思うんだ」
「最終手段?……ああ、王子かっ攫ってかけ落ちでもすんの?」
「違うっ!そんなことをしてもアウルを混乱させて不幸にするだけだ……っ」
「冗談やって。んなマジにならんといてや、レイヴン」
「む……、フェザントの冗談は分かりにくすぎるぞ」
「……で?何なん、その最終手段ってやつ」
「ああ、上手くいく確率は低いのだがな……」
改めてそう問うてくるフェザントに、レイヴンはずっと心中で組み立てていたプランを、珍しくネガティブな前置きと共に語り出していった。
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