王子に恋した魔法使い

桜羽根ねね

文字の大きさ
上 下
4 / 9

3.友との密談

しおりを挟む
 好きだからこそ、相手に幸せになってもらいたい。

 そうすれば自分の想いにも区切りがつく。そんな思いから、レイヴンはアウルとの付き合いが深くなるにつれて、様々な趣向で彼に嫁を娶らせようとしていた。アウルが素敵な女性と結婚すれば、この禁忌にも近い想いを諦めることが出来るから、と。

 国王と王妃がとんでもなくおおらかなため、レイヴンの口調から敬語が抜けても、婚姻を進めようとしても見守ってくれている。レイヴンが息子の命の恩人ということも大きいだろう。
 流石に婚約者候補が問題ないか事前に確認を取っているが、基本的に良くも悪くもお人好しな夫婦だ。

 ……だが、そうして準備した姿絵もことごとくスルーされ、今に至っている。
 アウルにはどうやら幼い頃に出会った初恋の女性がいるらしい。成人してまで初恋に拘るというのもなかなかのものだが、それがアウルだと妙に納得してしまう。

 一度、その初恋について聞いてみたことがある。
 けれども、アウルは彼女の顔も名前も、声すら碌に覚えていないらしい。そんな記憶だけでよく初恋をこじらせたままここまで来たな、と呆れるレイヴンに向かって、アウルは朗々と告げたのだ。

『自分の気持ちに嘘をつくことは出来ない』と。

 どこまでも真っ直ぐなアウルらしい言葉に、レイヴンもそれ以上蒸し返すのをやめた。

「──はぁ……、ままならないものだな、恋というものは」
「レイヴンこそ、昔の初恋こじらせすぎやろ」
「……仕方ないだろう。あの時のアウルは本当にかっこよくて……、ヒーローみたいだったんだからな」

 むすっ、とした口調でぼやくレイヴンの視線の先では、同じ魔法使いであるフェザントがティーカップに紅茶を注いでいた。
 古くからの友であるフェザントは、レイヴンの良き相談相手でもある。アウルに対する長い片想いのことを知る唯一の人物で、レイヴンは頻繁に彼の元を訪れてはこうして愚痴めいた相談に乗ってもらっているのだ。

 魔法使いの家というよりは奇抜なびっくりハウスのような内装を何ともなしに眺めつつ、差し出された紅茶に口をつける。
 インテリアといい、ショッキングピンクな髪色といい、嗜好は極端なフェザントだが、紅茶を淹れるのだけは格別に上手い。東洋に咲くという桃色の花の香りを味わいながら、レイヴンはそっと息を吐く。

「……最終手段に出ようと思うんだ」
「最終手段?……ああ、王子かっ攫ってかけ落ちでもすんの?」
「違うっ!そんなことをしてもアウルを混乱させて不幸にするだけだ……っ」
「冗談やって。んなマジにならんといてや、レイヴン」
「む……、フェザントの冗談は分かりにくすぎるぞ」
「……で?何なん、その最終手段ってやつ」
「ああ、上手くいく確率は低いのだがな……」

 改めてそう問うてくるフェザントに、レイヴンはずっと心中で組み立てていたプランを、珍しくネガティブな前置きと共に語り出していった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

色狂い×真面目×××

135
BL
色狂いと名高いイケメン×王太子と婚約を解消した真面目青年 ニコニコニコニコニコとしているお話です。むずかしいことは考えずどうぞ。

騎士は魔王に囚われお客様の酒の肴に差し出される

ミクリ21
BL
騎士が酒の肴にいやらしいことをされる話。

悪役のはずだった二人の十年間

海野璃音
BL
 第三王子の誕生会に呼ばれた主人公。そこで自分が悪役モブであることに気づく。そして、目の前に居る第三王子がラスボス系な悪役である事も。  破滅はいやだと謙虚に生きる主人公とそんな主人公に執着する第三王子の十年間。  ※ムーンライトノベルズにも投稿しています。

彼は罰ゲームでおれと付き合った

和泉奏
BL
「全部嘘だったなんて、知りたくなかった」

禁断の祈祷室

土岐ゆうば(金湯叶)
BL
リュアオス神を祀る神殿の神官長であるアメデアには専用の祈祷室があった。 アメデア以外は誰も入ることが許されない部屋には、神の像と燭台そして聖典があるだけ。窓もなにもなく、出入口は木の扉一つ。扉の前には護衛が待機しており、アメデア以外は誰もいない。 それなのに祈祷が終わると、アメデアの体には情交の痕がある。アメデアの聖痕は濃く輝き、その強力な神聖力によって人々を助ける。 救済のために神は神官を抱くのか。 それとも愛したがゆえに彼を抱くのか。 神×神官の許された神秘的な夜の話。 ※小説家になろう(ムーンライトノベルズ)でも掲載しています。

ヤンデレ執着系イケメンのターゲットな訳ですが

街の頑張り屋さん
BL
執着系イケメンのターゲットな僕がなんとか逃げようとするも逃げられない そんなお話です

愛されて守られる司書は自覚がない【完】

おはぎ
BL
王宮図書館で働く司書のユンには可愛くて社交的な親友のレーテルがいる。ユンに近付く人はみんなレーテルを好きになるため、期待することも少なくなった中、騎士団部隊の隊長であるカイトと接する機会を経て惹かれてしまう。しかし、ユンには気を遣って優しい口調で話し掛けてくれるのに対して、レーテルには砕けた口調で軽口を叩き合う姿を見て……。 騎士団第1部隊隊長カイト×無自覚司書ユン

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…

月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた… 転生したと気づいてそう思った。 今世は周りの人も優しく友達もできた。 それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。 前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。 前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。 しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。 俺はこの幸せをなくならせたくない。 そう思っていた…

処理中です...