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2.必然の邂逅
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2年前。
17の誕生日を迎えたばかりのアウルは、高名な医師でさえも匙を投げる程の奇病に侵されていた。
身体から茨のような蔓状の植物が生え、千切っても千切っても延々と伸びてアウルを飲み込まんとしてくるのだ。最後には身体の全てを覆い、自らの養分としてしまうという、恐ろしい病気だ。
痛みこそ感じないが、じわじわ体力と精神をすり減らしてくるそれに、アウルは静かに死を覚悟した。両親や城の者達を泣かせるのは忍びないが、このままの状態が続いてもただただお互いに衰弱するだけである。それに、たとえ自分がいなくなったとしても、兄や弟がいる。何も問題はない。
「……もう、充分だ。これ以上の処置はやめろ」
茨に覆われながらも毅然とした言葉で告げたアウルに、周りの者が反応するよりも早く、
「それは駄目です、アウル殿下」
軽やかな声音を零して王子の手をぎゅっと握ったのは、ついさっきまでこの場にいなかったはずの、黒いローブを着た青年だった。
アウル達が呆気に取られている内に、青年はこの国の言語ではない言葉を朗々と詠い始める。まるでハープのように澄んだ音色が、アウルの身体にじんわりと染み込んでいき、そうして。
「……これでもう、大丈夫です」
あれだけ何をやっても駄目だったアウルの奇病を、いとも簡単に治してしまったのだ。枯れた茨がはらはらと散り、周囲が歓声で沸く。信じられない思いで自らの身体を見やった後、アウルは改めてその人物を見つめた。
黒いローブに身を包み、美しく整った顔を綻ばせて紫紺の瞳を細めている青年。肩までの長さの髪は夜のような漆黒だ。光に照らされ、煌めいて見える。
「初めまして、アウル殿下。オレはレイヴンと申す。美と癒やしを司る魔法使いだ」
アウルに向かって凛とした声で名乗った彼……レイヴンは、恭しく頭を垂れた後、花が綻ぶかのような笑みをそっと口元に浮かべた。
──レイヴンがアウルを救いに来た理由。
それは、相手が一国の王子だからという打算めいたものではなく。
単純に、ひたむきに、純粋に。
アウルという個人を、心の底から恋慕っていたからである。
17の誕生日を迎えたばかりのアウルは、高名な医師でさえも匙を投げる程の奇病に侵されていた。
身体から茨のような蔓状の植物が生え、千切っても千切っても延々と伸びてアウルを飲み込まんとしてくるのだ。最後には身体の全てを覆い、自らの養分としてしまうという、恐ろしい病気だ。
痛みこそ感じないが、じわじわ体力と精神をすり減らしてくるそれに、アウルは静かに死を覚悟した。両親や城の者達を泣かせるのは忍びないが、このままの状態が続いてもただただお互いに衰弱するだけである。それに、たとえ自分がいなくなったとしても、兄や弟がいる。何も問題はない。
「……もう、充分だ。これ以上の処置はやめろ」
茨に覆われながらも毅然とした言葉で告げたアウルに、周りの者が反応するよりも早く、
「それは駄目です、アウル殿下」
軽やかな声音を零して王子の手をぎゅっと握ったのは、ついさっきまでこの場にいなかったはずの、黒いローブを着た青年だった。
アウル達が呆気に取られている内に、青年はこの国の言語ではない言葉を朗々と詠い始める。まるでハープのように澄んだ音色が、アウルの身体にじんわりと染み込んでいき、そうして。
「……これでもう、大丈夫です」
あれだけ何をやっても駄目だったアウルの奇病を、いとも簡単に治してしまったのだ。枯れた茨がはらはらと散り、周囲が歓声で沸く。信じられない思いで自らの身体を見やった後、アウルは改めてその人物を見つめた。
黒いローブに身を包み、美しく整った顔を綻ばせて紫紺の瞳を細めている青年。肩までの長さの髪は夜のような漆黒だ。光に照らされ、煌めいて見える。
「初めまして、アウル殿下。オレはレイヴンと申す。美と癒やしを司る魔法使いだ」
アウルに向かって凛とした声で名乗った彼……レイヴンは、恭しく頭を垂れた後、花が綻ぶかのような笑みをそっと口元に浮かべた。
──レイヴンがアウルを救いに来た理由。
それは、相手が一国の王子だからという打算めいたものではなく。
単純に、ひたむきに、純粋に。
アウルという個人を、心の底から恋慕っていたからである。
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