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強香水『バフレグランス』

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 オレの朝は、ラオことラオルカッドからの熱烈なキスで始まる。

「ん、ぶっ、んんん~~~~ッ♡♡」
「はよ。目ぇ覚めた?」
「っ、おかげ、さまで……っ」

 ラオの長くて分厚い舌が、オレの唇をひと舐めして離れていく。無駄に男前な顔しやがって。横に細長い瞳孔の赤い眼に見つめられると、それだけでドキドキしちまう。

「トオリ。挿れていいか?」
「……やだっていっても挿れるんだろ」
「やだって言わないくせに?」
「うるさい。……さっさと挿れろよ」

 可愛くおねだりすることも出来ないオレを、ラオはいつも可愛がってくれる。しゅるしゅると巻き付いてきたタコ足と、おまんこに当たるちんこの先端。サキュラな彼と始まる淫らな時間に心躍らせて、オレはうっとりと目を閉じた。


*****


 ここは、オレとラオのためだけのガラスケージで出来た栽培部屋。ショーケースみたいに区切られた空間だけど、中は意外と広くて居心地がいい。全面がガラス張りだから、向かい側のスライムと人間に見られてんのは恥ずかしいけどな。

 食事は全てラオの体液が賄ってくれて、排泄も必要ない身体に変えてもらった。だからオレのすることは、ラオとまぐわって、魔道具店で売るフレグランスを作るだけ。簡単で楽で気持ちよくて幸せな毎日だ。

 外に出たいとはちっとも思わない。一人ぼっちで村から追い出されたオレを救ってくれたのが、ラオだから。

 タコの魔族なのに水が苦手だというラオは、それだけで同じ種族の奴等から迫害されていたらしい。一人になるのも寂しくて、降伏した人間界からペットを見繕おうとしていたらしい。
 そもそも人間が魔族に負けたことすら知らなかったオレは、魔族を見ることも初めてで。逞しくてかっこいいラオの姿に惚れてしまった。

 それからあれよあれよという間に魔界に連れて行かれて、ゆっくり優しく愛してもらった。栽培部屋への打診が来た時は、最初は何のことだか分からなかったけど、一生一緒にラブハメ出来ると知ってオレの方が舞い上がってしまった。

 オレの世界はもう、ラオがいてくれればそれでいい。それが、いい。

 ──そんなこんなで、今日も今日とてラオとキスハメしている時だった。

 扉が荒々しく開いて、思わずラオの舌を噛みそうになってしまった。定期的に様子を見に来る店員のロタは、こんな乱暴な開け方をしない。誰だ……?

「これはこれは!素晴らしい見世物ではないか!醜い人間共が嬲られる様は金になるぞ!」
「ちょっ……、あの、ここは関係者以外入っちゃ駄目っす……駄目です!」
「ダークエルフごときが儂に口答えするな!」
「うあっ!」

 酷いダミ声で叫びながら入ってきたのは、ぶくぶく太った豚魔族だった。人間界でいう貴族階級なのか何なのか、じゃらじゃらした高そうな装飾品をつけている。そんな指輪だらけの手で、ロタを殴りやがった。

 倒れたロタを心配して栽培部屋の皆がざわつく。けど、それ以上に怒っているのは、ラオを含めたパートナー達だ。

「トオリ、こっち。あんな醜悪なモン見たら駄目だから」
「ん、ラオ……」

 繋がったまま、ラオがオレの身体を隠すように巻き付いて、痛いくらいにぎゅっと抱きしめてくれた。水かきのついた手で耳も塞いでくれたけど、奴の声は気持ち悪いくらいに響いてきた。

「こんな隠れた場所ではなく、もっと大々的に見せるべきだろう。どうせ人間など使い捨てなのだからな!この儂が特別に店を構えてやろうではないか!」
「う、ぐ……。そんなの、お断りっすよ……!あんたはお客でも何でもない、とっとと出ていけ!」

 そんな、ロタの叫ぶ声も聞こえた。ラオの拘束の中で身を捩れば、額から血を流しながら気丈に食いついているロタの姿があった。くそ、シヴァはどこに行ってるんだよ。

「フン、礼儀のなってない小僧だ」
「う、ぎっ!」

 大人と子供以上の体格差。振り払われた太い腕で吹っ飛ばされたロタは、そのまま壁に当たって動かなくなった。

「ロタ……!」
「っ、トオリ、顔見せんな!」

 ラオが引き留めてくれたのに、オレはガラスに張り付いてしまった。他の人間たちも同じように、倒れたロタを心配している。

 見ていたのはロタなのに。ぶよぶよに垂れ下がった目と、視線が合ってしまった。

「ほう、ひょろい人間ばかりと思ったが、肉付きがいいのもあるじゃないか。儂のコレクションとして飾ってやってもいいぞ」

 ぞわりと鳥肌が立った。咄嗟に言い返そうとしたら、それよりも早くラオの殺気が飛んでいた。

「死んでもやるかよ、クソ豚」
「こんな小屋で飼い慣らされた蛸ごときに何が出来る。おい、お前達!こいつらを眠らせて運べ!暴れたら多少傷つけても構わんぞ」

 最悪だ、もっと仲間がいるのかよ。
 ラオと絶対離れたくない一心で、自分からもぎゅっと抱きついた。

「お前みたいな豚野郎に好きにされてたまるか!オレの身も心も全部、ラオのモノなんだから……!」
「っ、トオリ」

 自分に出来ることなんて、ラオのことが好きだと叫ぶことしかなかった。

 そんな時、ふと、下品に笑っていた豚が怪訝そうに後ろを振り向いた。

「おい、さっさとしろ!全く、すぐに動けんとは使えない奴等め」

 その、たった一瞬で。
 豚の姿は血の一滴すら残さず消えていた。

 気絶したロタを抱き上げて静かに佇むのは、いつの間に現れたのか分からないシヴァだ。
 温厚な雰囲気はなりを潜めていて、今はただ憤怒の感情しか見えない。

「……我の油断のせいで、ロタくんにも、君達にも怖い思いをさせてしまったね。店長として謝罪するよ」

 さっきの豚はどうなった、だとか。他の奴等はどうかった、だとか。気にはなるけど、なりすぎるけど、聞ける雰囲気じゃなかった。

「今後、栽培部屋には更に強い結界を張ることにしよう。……ロタくん、すぐに治癒してあげるからね」
「ん……、ぅ……」

 濃厚なキスが始まってしまって流石に視線を逸らした。その後、すぐに二人は部屋に戻っていったから、しぃんと静まり返ったオレ達だけが残されることになった。

「っこ、怖かったぁ……。店長さん、すっごく怒ってたね……」
「愛する者を傷つけられたら誰だって怒るよ。ボクだって、レイを酷い目に合わせるような奴がいたら……、原型が残らないくらい溶かしてやる」
「っ……、ラ、ライムの雄顔、かっこいい……♡」

 それでも、次第にぽつぽつ声が増えていって、いつものように嬌声が響くようになっていった。
 勿論オレも、例外じゃなくて……。

「んっ♡ん゛うぅ、ラオ……♡♡」
「ん……、トオリが啖呵を切ってくれたの、かっこよかったし嬉しかった。俺も同じ気持ちだから」
「ぢゅ、ふ……っ、んぅ♡は……、うれ、し……♡♡すき、ラオ、だいしゅき……♡♡」
「っ……、素直で甘えたなトオリもかわい……♡」

 まんこをトチュトチュ焦れったいくらいに優しく愛してもらいながら、ラオのタコ足に抱きしめられてキスハメ……♡言葉にするのが気恥ずかしくてなかなか言えなかったけど、好き好きって伝えながらのまぐわい、脳にもクる♡気持ちいい♡♡

 ──いつも以上に気持ちよくて幸せな身体から溢れた潮は、これまでの中で一番効果の高いフレグランスになったそうだ。
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