上 下
9 / 10
後編

きゅう

しおりを挟む
「(幻覚かな……?)」

 逆さまになっている視界で扉の方を眺めれば、長身で頭からすっぽりローブを被った魔族がいた。ミラくんと同じくらいの身長だ。隣には、やけに露出の高いドレスを着た女鬼の姿。仮面をつけていても、その青髪には、見覚えがあった。

「ほら、見たかったんでしょ、レルル様のコレクション。自分の立場も分かってないザコ淫魔にはお似合いすぎ」
「…………」
「うわ、家畜扱いされてるじゃん。家畜より役に立たないのに贅沢だよね~」
「…………」

 やだ。
 いやだ。
 こないで。

 ミラくんには、こんな姿見られたくなかった。ミラくんに、また、あんな目で見られたら。冷たい言葉を浴びせられたら。身体の前に、心が死んでしまう。

 それなのに、逃げられない。震えるおちんちんも、スライムが詰まって開きっぱなしのおまんこも全部晒したまま、動く術がない。

「ちょっと、折角パパのコネ使って同伴してあげてるんだから何か反応し……っぶぁ!?」

 一瞬、何が起こったのか分からなかった。

 ドォン、と激しく鳴り響いた音の方に視線を向ければ、女鬼が壁に叩きつけられて、鼻血を出しながら伸びていた。

 屋敷の中がざわめき出して、僕も何が何だか分からなくて……。

「………………ムム」

 ……気がついた時には、瓦礫と化した屋敷の中心で、ミラくんに抱きしめられていた。

 僕を取り込んでいたスライムは、足元で細かく千切れている。そこかしこから聞こえてくる呻き声からして、集まっていた魔族達は死んではいないようだけど、時間の問題のようにも感じた。遠くから魔警察の羽音が聞こえてくる中、僕はミラくんの匂いに浸ることしか出来ない。

「……けほっ、ミラ、くん……」
「悪かった……っ。下等なんて、低級なんて思ってない。俺の力でムムを壊してしまいそうになるのが怖かった。臆病で、ごめん。冷たい態度を取って、ごめん。権力だけはあるクソ女に目をつけられたムムが、酷い目にあうのが嫌だった。何度謝っても足りない。許してくれなくていい。すまない、ムム……っ」

 辺り一面を更地に出来てしまう程の鬼族の力があるのに、僕を抱きしめる力はすごく弱い。
 だから、涙声で謝罪を繰り返すミラくんを、僕の方から強く抱きしめた。

「僕、簡単に……壊れないよ。ミラくん、助けにきてくれてありがとう」
「……っ、ムム……!」

 ああ、すごい、夢みたいだ。
 まるで恋人みたいに頬を擦り寄せてくれるなんて。

 でも、大丈夫だよミラくん。

 僕はもう身の程を知ったし、無理強いもしないから!
 だから、低級でも下等でも……、幼馴染みとして友達に戻れたら、それだけで嬉しいんだ。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

神官、触手育成の神託を受ける

彩月野生
BL
神官ルネリクスはある時、神託を受け、密かに触手と交わり快楽を貪るようになるが、傭兵上がりの屈強な将軍アロルフに見つかり、弱味を握られてしまい、彼と肉体関係を持つようになり、苦悩と悦楽の日々を過ごすようになる。 (誤字脱字報告不要)

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

ナイトプールが出会いの場だと知らずに友達に連れてこられた地味な大学生がド派手な美しい男にナンパされて口説かれる話

ゆなな
BL
高級ホテルのナイトプールが出会いの場だと知らずに大学の友達に連れて来れられた平凡な大学生海斗。 海斗はその場で自分が浮いていることに気が付き帰ろうとしたが、見たことがないくらい美しい男に声を掛けられる。 夏の夜のプールで甘くかき口説かれた海斗は、これが美しい男の一夜の気まぐれだとわかっていても夢中にならずにはいられなかった。 ホテルに宿泊していた男に流れるように部屋に連れ込まれた海斗。 翌朝逃げるようにホテルの部屋を出た海斗はようやく男の驚くべき正体に気が付き、目を瞠った……

デリヘルからはじまる恋

よしゆき
BL
デリヘルで働く春陽と、彼を指名する頼斗。いつも優しく抱いてくれる頼斗を、客なのに好きになってしまいそうで春陽はデリヘルを辞める。その後外でばったり頼斗と会い、家に連れ込まれめちゃくちゃされる話。 モロ語で溢れています。

好きだから手放したら捕まった

鳴海
BL
隣に住む幼馴染である子爵子息とは6才の頃から婚約関係にあった伯爵子息エミリオン。お互いがお互いを大好きで、心から思い合っている二人だったが、ある日、エミリオンは自分たちの婚約が正式に成されておらず、口約束にすぎないものでしかないことを父親に知らされる。そして、身分差を理由に、見せかけだけでしかなかった婚約を完全に解消するよう命じられてしまう。 ※異性、同性関わらず婚姻も出産もできる世界観です。 ※毎週日曜日の21:00に投稿予約済   本編5話+おまけ1話 全6話   本編最終話とおまけは同時投稿します。

ハルに全てを奪われた

和泉奏
BL
「好きなヤツを手にいれるためなら、俺は何でもできるんだぜ」

嘘をついて離れようとしたら逆に離れられなくなった話

よしゆき
BL
何でもかんでも世話を焼いてくる幼馴染みから離れようとして好きだと嘘をついたら「俺も好きだった」と言われて恋人になってしまい離れられなくなってしまった話。 爽やか好青年に見せかけたドロドロ執着系攻め×チョロ受け

王子様の愛が重たくて頭が痛い。

しろみ
BL
「家族が穏やかに暮らせて、平穏な日常が送れるのなら何でもいい」 前世の記憶が断片的に残ってる遼には“王子様”のような幼馴染がいる。花のような美少年である幼馴染は遼にとって悩みの種だった。幼馴染にべったりされ過ぎて恋人ができても長続きしないのだ。次こそは!と意気込んだ日のことだったーー 距離感がバグってる男の子たちのお話。

処理中です...