大好きな幼馴染みが僕に冷たい

桜羽根ねね

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前編

さん

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「……別に。何もしてねぇよ」
「それならアタシと遊ぼうよぉ。いい狩り場知ってるんだ~」
「……!ちょっ、ちょっと待って!ミラくんは僕とデート中なんだから!」
「は?アンタ誰?」

 睨まれるように見下ろされると、ちょっと怖い。でも、ここははっきり言っておかないと!

「僕はミラくんの幼馴染みのムム。ミラくんとはペットと一緒におさんぽデート中だから、邪魔しないで」
「デート?……ぷっ、あはははははは!!やばっ、嘘でしょ?ミラリヴァ、こんな下等生物と付き合ってんの?羽がない淫魔なんて底辺も底辺じゃん。あはははっ!!」
「い……、淫魔だからって馬鹿にするな!」
「あー、おっかしい。何、まさかコイツのしょぼい魅力にメロメロ~なんてオチじゃないよね?ウケるんだけど」

 初対面なのに、何なんだこの失礼な鬼は……!確かに、力も強ければ種族としての立場も強い鬼族に比べれば、僕みたいな淫魔なんて片手で捻り潰すことだって出来ると思う。それに僕は更に力が弱い羽なしだから、淫魔としての力はほぼ皆無だ。

 ミラくんに釣り合うかと言われれば、きっと釣り合わない。でも、それでも僕は、ミラくんのことが大好きだから──……。

「……有り得ねぇだろ。こんな下等淫魔を好きになるなんて」
「あははっ、だよねぇ?」
「ミ、ミラくん……?」

 下等。
 そんなことをミラくんが言ってくるのは、初めてだった。

 素っ気ないしすげないけど、僕のことを蔑むことは絶対になかったのに。

「いい加減鬱陶しいんだよ、ムム。デートだ何だと纏わりついてきて迷惑すぎ」
「え……、……だ、だって、僕、ミラくんのこと、ずっと好きで……」
「それが迷惑だって言ってんの、分かってる?」
「ひ……っ」

 ずしり、と、腹に重りが溜まっていくような感覚。鬼族の威圧に身体が震える。

 やだ。嫌だよ。今までこんなことしてこなかったのに。どうして……。

 ……あ。

 そっか。
 我慢、してくれてたんだ。

 不意に、すとんと、納得した。

 僕がウザいくらいに毎日毎日付き纏うのを、ずっと我慢してくれてたんだ。

 好きだと伝えていればいつかミラくんも僕のことを好きになってくれる、なんて。自分本位すぎだし、自分勝手すぎだね。ごめんね、ミラくん。僕、自分のことしか考えてなかったよ。こんなに嫌そうな顔をするくらい、僕のことが……き、きら……っ、…………きらい、……だったんだね。

「…………ごめ、なさい……、……っ」

 触れ合うのをやめてどこか心配そうに見上げていたリリちゃんを抱っこして、僕は逃げるように走り出した。ミラくんは追ってきてくれない。当然だ。もしかすると……さっきの鬼族の子が本命だったのかも。はは、いいじゃん。同族同士で、見た目もお似合いで。きっと周りからも笑われない、素敵な恋人に……。

「うっ……、ふぐ、……っひ、う、あぁぁん……っ」

 ボロボロ零れる涙が止まらない。

 ミラくん。
 ミラくんが僕のことを嫌いでも、やっぱり僕は嫌いになれない。

 だから、もう、好きなんて言わないから。
 好きでいることだけは、許してほしいな……。
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