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90 幾ら可愛くても腐ってもモンスター。慈悲は無いのである。

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 それにしても本当に元シャース王国の英雄召喚はクソだったわ。

 そんな悪態を心でつきつつ二号店へと帰りつき、午後は女性のお客様の悩みを聞きつつアイテムを手渡し、膏血契約を進めたそれから数日後――ついに金鉱山に住み着いていた魔物を撃破し、金鉱山を取り戻したと言う情報が真っ先に念話にてお爺ちゃんから連絡!
 ダイヤ王国及びノシュマン王国の魔物討伐隊員及び冒険者、双方に甚大な被害なしと言う連絡は直ぐに二号店にいた皆に話し喜び合った。

 それから数時間後、同時に二つの国で【宝石の国ダイヤ王国を庇護するレジェンドモンスター様達の活躍により、ダンジョン鎮静化及び金鉱山を取り戻す!】と言う号外が出され、国民達は喜びに沸いた。
 ホッと一安心したと同時に凱旋が行われる事となったのだが、レジェンドモンスターであるお爺ちゃん達は参加しなかった。
 理由はただ一つ。


「ユリユリ~~。わしゃ沢山働いたぞぉ~?」
「お爺ちゃん? 私の身体は一つしかないのよ?」
「ボクモ タクサン ハタライタカラ アーン シテホシイナ~?」
「タキちゃ~ん? 何度も言うけど私の身体は一つしかないのよ?」
「ヌシよ。我の腹も撫でるがいい」
「ハク、もう少し小さくなれない?」
「ボクハ プラチナコウセキガ ダイスキヨ♪」
「うん、岩田も沢山食べてね!」


 と、レジェンドモンスター達に群がられて一匹ずつにカップケーキをアーンしている所である。
 陛下からは是非凱旋に出て欲しいといわれたものの、皆は「凱旋よりも甘えたい!」と言う確固たる意志の元、この有様である。
 この日の女性客のお越しはキャンセルして頂いた。
 何せ私が動けないのだから仕方ない。


「なんていうか……レジェンドモンスターにこれでもかと甘えられるユリを見ると」
「美しい姉様に群がる獣たち……」
「ドマ、間違ってはいないけど、相手は伝説級のモンスターだよ。しっかりして」
「いや、ドマの言う事は間違っていない。それにレジェンドモンスターだが可愛いぞ」
「兄上、元魔物討伐隊の魔物の悪魔の言うセリフではありませんよ」
「私もモフモフしたいなー」
「今は止めましょう。殺されます」
「ああ、ラフィはストップだ。今はエンジュですら危険だとアタシでも思うよ」


 そう言われながら見守られる私……。
 既にカップケーキはお爺ちゃん50個。タキちゃん30個。ハク90個食べきっている。
 そろそろ腕が限界だわ。


「も――ダメ! 腕が限界!!」
「お膝争奪戦じゃ――!!」
「もおおおおお好きにして!!」
「ユリ――!!」
「姉上――!!」


 ミモザさんとセンジュ君の悲痛な叫びが飛び出したけど、私は大の字になって好きにさせることにした。
 ハクは赤ちゃんの姿になってくれたので助かったが、みんな私にピッタリ身体を引っ付けて至福時間を過ごしている。
 この邪魔をしたら誰であろうと殺されるだろう。


「可愛い魔物に群がられたユリが可愛すぎる!!」
「姉様最高です!!」
「お姉ちゃん羨ましいわ!!」
「そこの三人、顔を洗って目を覚ましてきな」
「姉上大丈夫……ですか?」
「今この子たちを刺激しないで上げて……きっと怪我では済まないわ」


 そう言うと流石に私たちを避けて皆は歩いてくれたので良かった。
 スギは何が起きているのか分からず「兎に角すごいの?」とミモザさんに聞いていて、「今は近寄らないようにね?」と注意を受けていた。
 そんな中スキル上げをするのだから命知らずと言うか豪快というか。


「は――……ワシ等は疲れたわい」
「シバラク タタカイタクナイネ」
「我は少し物足りなかったがな」
「良く言うわい。ドラゴンブレスを避けきれずタキの結界が無ければ危うかったであろう」
「そう言うスリルも無ければ戦闘とは呼ばぬ」
「血の気の多い奴じゃのう……若い証拠じゃ」
「結局岩田のアダマンタイトでの串刺しで死んだではないか。それでも最後に動いた瞬間はミスリルの槍が大量に突き刺さり、死んだ姿は悍ましかったぞ」
「イチバン イワタガ ツヨカッタネ」
「半数の敵を吸収して溶かして殺し、オリハルコンで叩き潰して殺し……見ておれんかったわ」
「バーン♪ ノ ジュワーン♪ ノ プチーン♪」
「凶悪ね……」
「魔物討伐隊と冒険者の多くが岩田の攻撃を見て尿を漏らしておったわ」


 想像したくないけど想像できる……。
 可愛い言い方をする岩田だけど、スキルを見てやり方はとってもエゲツナイとは思ってた。
 実際えげつなかったんだろうな。


「デモデモ♪ オカゲデ イチバンオオキナドラゴン モラエタネ♪」
「え!?」
「金鉱山ノボス♪」
「……それは城に渡さないと駄目なのでは? どうなのお爺ちゃん?」
「ワシ等もいらんからのう……。取っておいてものう」
「キネンヒン♪」
「記念品なら仕方ないか」
「記念品なら仕方ないのう」


 余り突っ込んで考えちゃ駄目だ。
 此処はフワッと流そう。そう、フワッとね。
 思わず溜息が零れたけれど、うちの子達はそれぞれ個性的だからなぁ……。
 欠伸をしながら膨れ上がったお腹を撫でろと訴えてくるハクも可愛いけど、お爺ちゃんの丸い頭も可愛らしい。タキちゃんは相変わらず小さいし、岩田はツルツルのヒンヤリだ。
 その日一日、床に寝転がって過ごした訳だけど、誰も文句を言わなかったし、言える雰囲気ではなかったので良かったんだろう。

 その後、最後のミーティング前にようやく起きだし、ドマと私と魔物たちで移動してアイテムが少なくなっている倉庫にアイテム生成して追加をしながら回って行き、全部終わる頃にはタキちゃんが分裂して掃除開始。
 岩田も抱っこして欲しいみたいだけど、それに気づいたエンジュさんが岩田を抱っこしてミーティングに参加。岩田は幸せそうだった。


「――と、明日はなっております。また眼鏡屋の方も眼鏡とサングラスを随時追加で入れている最中で、庶民は大体一人一本ずつ、少し余裕がある方々はスペアも買っておられますね。売り上げは上々です」
「また、輸出も少しずつですが進んでおりまして、ガーネットの所有する船にてノシュマン王国への輸出も順調です。海賊が出ると言う海域は避けているので、今の所は安全かと」
「最後に私からのお知らせが数点です。そちらで確認を取ってからの報告で良いとの事でしたので、ユリさんの従魔たちは貴族の社交場には?」
「「「「出ない」」」」
「分かりました。ユリさんも」
「出ないですね」
「分かりました。最後に式典には参加を」
「「「「「しない」」」」」
「畏まりました。今日の出来事も加えてお伝えしておきます」
「すみませんロザリオスさん、陛下からでしょう?」
「我が国を庇護して下さっているのですから、言う事を聞くのは国民として当たり前の事ですからね。気にしなくていいのよ?」
「ありがとう」


 こうして一日の出来事も終わり、戸締りと盗難防止を作動させて馬車に二台にわかれて一号店に戻り、出迎えてくれたカシュールさんと会話しながら男性陣は「今日ユリの周りは凄かった」と笑いあって語り合い、お爺ちゃん達は各々好きな所で寛ぎつつ、働き者のタキちゃんは分裂して掃除に洗濯に余念がない。

 暫くは冒険者ギルドも落ち着いているだろうし、ホッとできるかなと思いつつも、数年は掛かると言われていた沈静化に成功し、後はノヴァが元シャース王国を作るのか否かに掛かってくる。
 それに、金鉱山を開放したとなれば鉄の国サカマル帝国も黙ってはいないだろう。
 お爺ちゃん達が苦労して奪還した所を横から搔っ攫う真似をしたら、間違いなくうちの子たちに鉄の国サカマル帝国は滅ぼされる事になる。
 暫くは様子を見るしかないだろうな~と思いつつも、今もダイヤ王国とノシュマン王国は鉄の国サカマル帝国とは鎖国している状態だ。


「鉄の国サカマル帝国の様子が静かなのは不気味ですよね」
「あー確かにね。偵察部隊はいそうだけど」
「金鉱山取られたら事ですよ?」
「ソコナラ ボクガ ケッカイ ハッテキタヨ」
「あら、そうなのタキちゃん」
「ヒトモ ハイレナイネ!」
「偉いわタキちゃん! これなら暫く安全そうね!」
「入ろうとしたらどうなるんだい?」
「クモノス」
「「クモノス?」」
「ケッカイニ ヒッツイテ ウゴケナイ。プフフフフ!!」


 なるほど、水も飲めず動けずトイレも行けず……結構鬼畜な結界を張ったのね。
 そうよね、お爺ちゃん達だって苦労したんだし、それくらいはするわよね。


「財宝を守るスライムの結界に、財宝を求める人間が絡まる訳だ」
「想像しやすいですね」
「マァ ヒッツイタラ ツカマエテ クレバイイシ? ホウチシテ コロスノモ アリダヨ」


 なんだかんだ言っても、そこはモンスター。
 慈悲など無いのである。
 さて、後はどうなるか分からないけれど、数日の間に何かしら進展はあるのかしら?
 静観しつつみていようかなと思ったのは言うまでもない。

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