上 下
84 / 106

84 ギルドマスターによる話し合い。

しおりを挟む
 ――ギルドマスターside――


「やぁ、今日は大勢の御集まりで嬉しいよ」
「緊急会議なんて久しぶりだねぇ。なんぞあったかい?」
「ああ、鉄の国サカマル帝国の魔物討伐がレジェンド様たちの言いつけを守らずほとんどが死んだだろう? その責任はレジェンド様にある、そしてユリ様にあると言った上に、鉄の国サカマル帝国はユリ様とレジェンド様を国に寄こせと言っているらしい」
「「「「ほう」」」」
「これは本人から聞いた話なので信憑性は何よりも高いよ」


 そう語る俺に我が国のギルマス達は殺気だった。
 そして、本日より参加しているノシュマン王国のギルドマスターたちも困惑しながら「鉄の国サカマル帝国は何を考えているのだ!?」と騒めいている。


「それでか。緊急だと言ったのに鉄の国サカマル帝国のギルマス達が居なかったのは」
「そうだね、敵国のギルマスを呼ぶ必要はない」
「敵国とは言ったもんだね!」
「しかし、我がノシュマン王国としてもガーネットの商品はとても輸入したい商品ばかりだ。もしかしたら次はガーネットそのものも寄こせと言いかねん」
「困った国です事」
「そこで、俺としてはダイヤ王国のギルマス達は腸煮えくり返っていると思うが、どうかね?」


 そう伝えるとダイヤ王国のギルマス達は手を上げて意志を表明した。
 彼等は流石に鉄の国サカマル帝国を許す気はないらしい。


「今後ダイヤ王国のギルドは鉄の国サカマル帝国に一切の素材やアイテムを送らない事を決定する」
「鉄の国と言う割には冒険者ギルドが頼んでいる鉄の半分も寄こさないのに金だけは一丁前に倍以上取りやがる。もう我慢の限界だ」
「以前の鉄の国サカマル帝国の製薬ギルドマスターの一件もあるというのに、問題は解決すらしていないのに次から次へと……腹立たしい!」
「ノシュマン王国のギルドはどうなさいます」


 そう俺が問いかけると、ノシュマン王国の冒険者ギルドも同じように「持ってくる素材が少ない上に値段を吹っかけられて溜まったもんじゃない!」と怒りを露わにしており、その他のギルドもご立腹のようだ。


「あそこの国と取引しても金がないからと言って女払いしようとしてくる。それに対して受け取れないと言えばツケ払いだと言われるのにドンドン要求は悪化する」
「我がノシュマン王国のギルドでも流石にこれ以上は許せぬ」
「大国だと言うがやっていることが野蛮人そのものだ」
「もう我慢ならん!」
「そちらもいい感じにあの帝国には怒りを露わにしておられる。そこで、全ての物流をストップさせようと思うんだが、皆はどうだろうか?」
「ああ、それはいいと思うぞ。ノシュマン王国との取引だけで充分だ」
「ノシュマン王国の鉄の方が鉱石の国なだけあって綺麗なものが入ってくるしな。大国は屑石が多すぎる」
「宝石の国であるダイヤ王国は付与アイテムの宝庫。是非今後はノシュマン王国とだけのやり取りを致しましょう。大国との取引は全てストップさせて貰います」


 そう、ダイヤ王国は宝石だけではなく付与アイテムの宝庫なのだ。
 付与師の殆どが自国にて細々と彫金したり付与したりと言う国もあるが、代々的にあらゆる付与師や彫金師が集まるのがダイヤ王国な為、他国よりも頭三つ分くらいは質のいい付与アイテムが揃う事で有名だ。


「そもそもあの大国から入ってくる製薬も質が悪い。うちではもう取引を辞めるよ」
「その癖倍の値段を吹っかけられますもんね」
「幾らスタンピード中と言え、余りにも酷い」
「ノシュマン王国でもですよ。我が国の製薬ギルドで働いている者達の方が素晴らしい製薬を作ってくれる」
「もう全面取引きなしで良いだろう」


 と、ノシュマン王国も大国と縁を切る事を決定した。
 これによりノシュマン王国の全てのギルド長と、ダイヤ王国のギルド長達は、鉄の国サカマル帝国との取引を全面停止処分としたのだ。
 これがどういう結果になるのかは、目に見えて分かっている訳だが――。


「ノシュマン王国とて、レジェンド様には借りが沢山ある。魔物討伐隊だけではなく冒険者にまで回復を行い、ガーネット店からは美味しい温かいスープを貰えるだけでどれだけ士気が上がると思う」
「そのレトルトと言うのも発案したのはユリ様だと言う」
「「「おおおおお」」」
「眼鏡もサングラスも補聴器もだな」
「その女性を寄こせと?」
「レジェンド様は確かに注意して止めたのに足を引っ張ったのは、かの国だぞ」
「それをレジェンド様とユリ様の責任にするなど言語道断!」


 こうなればかの国のギルド長たちは慌てるだろうし、国のトップにも掛け合うだろう。
 それでも上が動かない、やらないとなれば、国内が荒れる。
 今でも充分荒れているというのに、最早国が国として成さなくなるのは時間の問題だ。
 各ギルドがやり取りを辞めると言う事は、農産物も入ってこなくなると言う事だ。
 民は飢えるだろう。
 それでも上が何もしなければ国から民は逃げていく。
 そうなった時に、崩壊が起きるのだ。

 何も国王が動かなくとも、ギルドが動けばそれくらいの事は出来る。
 ギルドこそがもう一つの国の様な物なのだから。
 下はそうやって大国を揺さぶり崩壊へと持って行く。
 上は大国に揺さぶりかけることができる。
 かの国の船を入れさせなくさえすれば――後は煮るなり焼くなり好きなようにだ。

 武力で来るというのならそれもアリだろう。
 こちらにはタキ様の分身がいる。
 武力で言う事を聞かせようとしたその時はタキ様の分身をお一人ノシュマン王国に借りればいい。
 武力でも勝てないとなった際、かの国はどうなるだろうな。


「しかし、大国が武力で来た際にはレジェンド様達の怒りも頂点に達するだろうな」
「国が亡ぶだけだろう」
「一度作り変えた方が良い。あまりにも女性を軽視し過ぎるわ」
「大元から根本的改善が必要だね」
「時に、女払いされた女性は今どこに?」
「ユリ様が連れて帰って今は平和に暮らしているよ」
「それは良かった……」
「ユリ様もかなり大国に対してご立腹だった。そう遠くない未来にあの国が消えそうな気がするよ」
「そっちの方が良い気がするがね」
「全くだ」


 こうして緊急ギルド会議は終わり、二国のギルドの総意で「鉄の国サカマル帝国との取引は全て辞めて船も入れない」と言う結果に落ち着いた。
 入国拒否をギルドが決めたのだ。
 これを後は陛下に伝え、陛下がどう大国とやり合うかも楽しみだけれど、鉄の国サカマル帝国から難民が来た場合は、やってきた国の法に従って生活をして貰うのは言う間でもない。
 男尊女卑が他国で通用すると思わない事だ。


「と、言う事になったよ」
「そうですか。かの国も慌てるでしょうね」
「それで、生理痛を抑える付与アクセサリーの効果は?」


 そう、今日ガーネットに行った女性の内の一人はうちの副ギルドマスターだ。
 彼女は笑顔で「素晴らしいですね」と口にしていたのでホッとした。


「早く君を妻にしたいんだけどねぇ」
「私のような行き遅れを欲しがるのはレイルさんくらいですよ」
「だって、婚約破棄を3回もされたのは君の所為ではないだろう?」
「婚約者の浮気2回に彼女を孕ませが1回でしたね」
「ほら、君の所為じゃない。良い加減俺のモノにならないかい?」
「かの大国が大人しくなるか消えたら考えます」
「なら、本気を出さないとね」


 そう言って愛しい彼女を抱きしめつつ、気合を入れ直したのは言う迄もなかった。
 そして次の日にはギルドの総意として陛下に手紙を送り、それが更にかの国を追い詰める一つの札となるのは言うまでもない。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

普段は地味子。でも本当は凄腕の聖女さん〜地味だから、という理由で聖女ギルドを追い出されてしまいました。私がいなくても大丈夫でしょうか?〜

神伊 咲児
ファンタジー
主人公、イルエマ・ジミィーナは16歳。 聖女ギルド【女神の光輝】に属している聖女だった。 イルエマは眼鏡をかけており、黒髪の冴えない見た目。 いわゆる地味子だ。 彼女の能力も地味だった。 使える魔法といえば、聖女なら誰でも使えるものばかり。回復と素材進化と解呪魔法の3つだけ。 唯一のユニークスキルは、ペンが無くても文字を書ける光魔字。 そんな能力も地味な彼女は、ギルド内では裏方作業の雑務をしていた。 ある日、ギルドマスターのキアーラより、地味だからという理由で解雇される。 しかし、彼女は目立たない実力者だった。 素材進化の魔法は独自で改良してパワーアップしており、通常の3倍の威力。 司祭でも見落とすような小さな呪いも見つけてしまう鋭い感覚。 難しい相談でも難なくこなす知識と教養。 全てにおいてハイクオリティ。最強の聖女だったのだ。 彼女は新しいギルドに参加して順風満帆。 彼女をクビにした聖女ギルドは落ちぶれていく。 地味な聖女が大活躍! 痛快ファンタジーストーリー。 全部で5万字。 カクヨムにも投稿しておりますが、アルファポリス用にタイトルも含めて改稿いたしました。 HOTランキング女性向け1位。 日間ファンタジーランキング1位。 日間完結ランキング1位。 応援してくれた、みなさんのおかげです。 ありがとうございます。とても嬉しいです!

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

【☆完結☆】転生箱庭師は引き籠り人生を送りたい

udonlevel2
ファンタジー
昔やっていたゲームに、大型アップデートで追加されたソレは、小さな箱庭の様だった。 ビーチがあって、畑があって、釣り堀があって、伐採も出来れば採掘も出来る。 ビーチには人が軽く住めるくらいの広さがあって、畑は枯れず、釣りも伐採も発掘もレベルが上がれば上がる程、レアリティの高いものが取れる仕組みだった。 時折、海から流れつくアイテムは、ハズレだったり当たりだったり、クジを引いてる気分で楽しかった。 だから――。 「リディア・マルシャン様のスキルは――箱庭師です」 異世界転生したわたくし、リディアは――そんな箱庭を目指しますわ! ============ 小説家になろうにも上げています。 一気に更新させて頂きました。 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...