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77 ミモザさんとセンジュ君の付与談義は着いて行けず。

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「鑑定ではちゃんと幸運の上がるラピスラズリって出てますね」
「なら付与は失敗してないんでしょうね」
「後は私達が体感するかどうかね」
「私もアイテムを作りつつ体感してみます」


 こうして全員がスキル上げ、もしくはアイテム作りを始めた訳だが――、明らかに失敗率が下がっているのが分かる。
 失敗する時は派手に失敗するものの、ラフィの集中力は何時もより長く持っているし、スギの集中力は各段に上がってスキル上げも長く割れずにできている。
 ドマの場合は呼吸の練度が上がった感じで、スキル上げにもかなり集中しているのが分かり、ミモザさんも倉庫にあった銅鉱石での彫刻にトライしているようで、私はコッソリ部屋から出ると、各倉庫のアイテム補充に向かい、戻る途中でセンジュ君と遭遇した。


「センジュ君仕事は?」
「姉上。仕事は一旦休憩しようかと思いして、今は私が居なくとも皆さん付与に失敗も余りなくなったので開発にも今後は力を入れられそうだなと思っていたんです」
「そうなんだ。今さっきまでミモザさん……新しく来た女性が彫刻師の話をしていたわ。とても為になる話だったけど、彫刻師の付与と付与師の付与とでは随分違うのね」
「それは聞いてみたかったですね……勿体ない事をしました」
「後で付与師と彫刻師の付与の違いを聞いてみると良いわ。ただ皆黙々と集中してスキル上げしていて」
「ああ、ドマ君もいませんよね。気付かないほど集中しているんですか?」
「そうみたい。宝石に集中と幸運の付与をしておいているんだけど、開発部屋全体に付与が掛かっているみたいで」
「また強いのを作りましたかね……」
「ただ、彫刻師はロストすると身体の破損にもつながるみたいなの。実は迎えに行った時左腕が無かったのよ」
「え!?」
「だから少しでもと思って」
「それは……お守り作りたくもなりますね」



 そう言いつつ二人階段を上がり、開発部に入ると私の付与を感じ取ったらしく「確かにこの部屋全体に付与が来ていますね」と驚きつつ本と私の書いたノートを取り出すと椅子に座って読み始めた。
 私はセンジュ君の隣で【破損部位修復ポーション】と中級ポーションに上級ポーションを作って行くのだけれど、チカッとミモザさんのアイテムが光るのを見ると、銅で出来たテリサバース女神の像が出来上がっていた。


「わ――! ミモザさんそれテリサバース女神の像ですか?」
「うん、そう。初めて成功したよ……毎回作るとロストしてたんだけどねぇ。いやはや、ユリの作ったお守りって強いもだねぇ」
「初めましてミモザさん、俺はセンジュと申します」
「ん? これまた可愛い女の子だね」
「いえ、俺は男です」
「うっそー? スレンダーな女の子にしか見えないけど?」
「お・と・こ・です」
「意外、そんなに可愛いと鉄の国サカマル帝国でそっち系のおっさんに買われちゃうよ?」
「やめて下さい。俺は女性が好きなんですから」
「あははは! 確かに少年らしい反応だね! 女の子みたいって言って悪かったよ。機嫌直してくれると助かるねぇ?」
「まぁ、初対面の方には女性と間違えられやすいので仕方ないですね。改めてセンジュです。付与師をしています。彫刻師の付与についてお聞きしても?」
「アタシはミモザ。いいよ、話をじっくりとしようか」


 そう言い出すと二人は付与について語り出し、私はそんな話を聞きながらアイテムを量産していく。
 ミモザさんとセンジュ君の会話は盛り上がっており、付与の形と言う専門的な会話にまで発展していき、最早私ではちょっと理解が難しい位置の会話にまで発展していると、チャイムが鳴って終業の時間となった。
 そこで、布を二枚取り出すと『効果カット付与』を付けて集中力アップと幸運アップの宝石の上にバサリと掛けて行くと、パンパン! と二回破裂する音が聞こえ、ドマとスギの石が砕けた。
 そして最後にラフィの集中が切れたのかずぶ濡れになっており――。


「うん、集中力と運気は上がるけど」
「止めた途端これですか」
「あ、身代わりの雫が壊れてる!」
「俺もです……」
「これで良く分かっただろう? 彫刻師は作る前に必ず?」
「「身代わりの雫を作る事、付与もシッカリする事」」
「オーケー! ばっちりだよ!」


 こうして壊れたアイテムなどをタキちゃんが掃除し始め、次々分裂すると掃除に行き始めた。
 私もドマを連れて各倉庫に向かいアイテムチェックを行いつつ足りない素材を生成していき、背伸びをしながら戻ってくるエンジュさんとお父様に「お仕事お疲れさまでした」と挨拶しながら一緒に二号店へと入って行く。


「新しく来た女性はどうだった?」
「豪快な人ですね。センジュ君とは相性がいいみたいです」
「ほう、センジュとか。珍しいな」
「彫刻師と彫金師じゃ随分と違うのか?」
「違いますね……初めて会った時ミモザさんって言うんですけど、左腕がなくて」
「「え!?」」
「彫刻師はロストした場合、身体を破損する事もあるそうで」
「それは……彫金師にはないな……」
「ええ、なのでミモザさんに来て貰って正解でした」


 そう話しつつ二階に上がると、着物を着崩して立っている背の高いミモザさんがヒラヒラと手を振っており、私も手を振りつつ返事を返すと、集まって挨拶となった。
 女性だけど男性の着流し風に着物を着ていて、胸はさらしを巻いているミモザさんの髪はやはり黒で短い。
 彫金する際邪魔になるから切ったのだそうだ。
 パッと見は美青年に見えるが化粧をしたらきっと美女だと思う。
 そしてセンジュ君と良く盛り上がっており、その様子にお父様とエンジュさんは驚いていた。


「さて、皆さんお集まりになったのでご報告です。商業ギルドより明日朝に箱庭師の箱庭にて工事が開始されるそうなので、スギくんは必ずこちらに来てくださいね?」
「はーい!」
「それと、明日朝一番に一号店に馬車が一台追加で搬送されます。また運転手もご登録されていらっしゃいますので、これからは馬車二台でお越しください。それと――」


 と、細々とした内容が続き、最後に製薬ギルドから急ぎ注文が入っていると言う事だったので、明日ギルドに来てから馬車でそのまま製薬ギルドに行くことをお伝えし、話は以上となった。
 確かに人数が増えたので馬車1台ではとても狭い。
 二階に分けて運転して貰う事にし、先ずはご飯係のセンジュくんと服などを購入しないとならない為、ミモザさんと私とドマが乗って帰る事になり、次にエンジュさんが他の子を引率して一号店に戻ってくる事となった。
 昨日の夜のうちに材料は冷蔵庫に沢山入れているのでセンジュ君の腕が光るだろう。

 一号店に到着するとカシュールさんにミモザさんが挨拶し、まずはミモザさんの部屋へと部屋を涼しくさせる魔道具を持って向かい、私のレアスキルである【お取り寄せ】を見て「これもレアスキルかい? 凄いねぇ!」と感動していた。


「まぁ。外では言えないことなんですけどね」
「そりゃそうだろうさ。レアスキル持ちなんて言ったら目を銭に変えたアホ共が群がってくる。で、アタシの何を買うんだい?」
「下着類から着流しから作務衣まで色々ありますけど」
「ん――。アタシはこの楽な着流しスタイル気に入ってるんだよね。それに身長が高いから男物しか合わなくてね」
「なるほど、では男物の着流しを幾つか購入して草履も購入しましょうか。さらしも新しく購入します?」
「お願いしたね」


 こうしてタオルや歯磨きなどの日用品に加え、男性用の着流しを4着、草履を2足、さらしを5枚、下着は下だけで良いとの事で、私が履いているタイプの下着とサニタリーを5枚ずつ用意し、それぞれに『速乾付与』『吸収付与』を付けて行く。
 ネックレスは苦手だと言うミモザさんには、【体感温度が下がる付与】と【身体を若干冷やす冷風付与】はイヤリングで付ける事で一致した。
 これは後でエンジュさんに伝えなくてはならない。


「普通なら女性らしく下着をつけろとか煩く言われるんだろうけど、なにせアタシは胸が無くてね」
「その分身長に行きましたか」
「アンタの旦那と同じくらいだったろう?」
「背が高いですよね」
「そうなんだよねぇ。こんなデカい女じゃ鉄の国サカマル帝国では嫁の貰い手どころか金にすらならねぇって言われてね。まぁ、他国への女払いには丁度いいって白羽の矢が立ったんだけど、来て正解だったよ」
「それは良かったです」
「ま、今後共よろしく頼むよ。こんな性格だから迷惑を掛けちまう事もあるかも知れないけどね」
「あっさりしていて気持ちが良いです!」
「おや、そいつは嬉しいねぇ」


 そう言って着替えを箪笥に仕舞い、私と一緒に戻るとイヤリングで【体感温度が下がる付与】と【身体を若干冷やす冷風付与】を作って欲しいと依頼し、「デザインはユリのつけてるイヤリングみたいなの作れないかい?」と伝えるとエンジュさんは「似たようなのなら作れる」と言う事で作業スペースに作りに行った。
 その間に分裂したタキちゃん達が掃除や洗濯をしていて、一匹は私と一緒にポーション瓶を作る事になり、ようやく一日が終わろうとしていた時だったのだが――。


「兄上! 俺が付与したいです!」
「ん? ああ、分かった」
「姉上! 料理変わって下さい!」
「はーい」
「じゃあ付与を見せて貰おうかな~?」


 と、センジュ君と交代して料理を作りつつ、二人は作業部屋に向かうと、イヤリングが出来たらしくミモザさんは上機嫌で戻って来たし、エンジュさんとセンジュ君もホッとした表情で戻ってきた。


「すみません、任せてしまって」
「いえいえ、一緒に作りましょう?」
「はい!」
「おっと、アタシも料理スキルは高いのさ。料理手伝うよ」
「ありがとう御座います!」


 こうして三人で簡単麻婆豆腐丼を作って食べる事となった。
 無論スギとラフィ用に甘い麻婆豆腐も作ったのは言う間でもなく、シッカリご飯を食べた後は洗い物をして、男性陣が温泉に行っている間女性陣で盛り上がる事になった。


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