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54 待ちに待っていたお客様だけど、問題児もいるようで……。

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 それから程なくして、一組の親子が【ガーネット一号店】にお越しになったという連絡を受けた。
 なんでもアルメリアさんの兄であるカシュールさんと、その娘ラフィリアちゃんが到着したらしい。
 直ぐに対応できるのが私とドマしか居なかったので、お父様たちに伝えてから馬車に乗って一号店へと向かい、急いで馬車から降りた。


「カシュール様とその娘、ラフィリア様でしょうか?」


 そう声を掛けると、着流し姿に帯刀をした男性と同じく袴を着て帯刀している二人に向かい合う私とドマ。


「如何にも。ああ、そなたがエンジュ殿の嫁のユリ殿か。其方は弟のドマ殿だったな」
「「初めまして」」
「シンジュ殿から話を聞いている。中に入れて貰えまいか」
「はい、ご案内いたします。またお二人が過ごす家も用意しておりますで、そちらにまずはお通し致しますね」
「かたじけない」


 そう言うと店内に入り、「こちらです」と通路を渡って右の家に入り二階へと上がると、そこは元のように生活できるスペースになっており、二人はホッと安堵すると冷たい氷の入ったお茶を用意してお出しした。


「ほう、氷か。随分とシンジュは儲かっていると見える」
「そう、ですね」
「まずは湯浴びをしたい。長い事旅をしてきたのでな」
「そう言われるかと思い俺が用意をしてきました」
「ありがとうドマ」
「良く出来た弟さんだ」
「ありがとう御座います」
「そちらの従魔は君のかな?」
「はい、お爺ちゃんフェアリードラゴンのホムラと、ベビースライムのタキです」
「その様な弱っちい魔物しかテイムできないとは情けない」


 そう声を掛けてきたのはラフィリアちゃんだった。
 どうやら私に敵意を向けているようだが、悪意も危険察知も反応しなかった。
 つまりは本当に疲れてイライラしているのだろう。


「ラフィリア」
「しかし父上、この様な娘をエンジュ兄さまが嫁に貰うなど……」
「良いではないか。好き合って結婚したのだろう?」
「そうですが」
「この家の者達は気が優しすぎる。まぁ嫁に貰ったのならば仕方ない。家に住ませてやるのは許してやる」
「ラフィリア」
「ほう? お主がそう言える立場かのう? この家を用意したのもユリじゃし、この家の名義もユリじゃが、出て行かされれば宛はあるのかのう?」
「なっ! 喋った!!」
「シャベル クライ フツウダヨネ?」
「ほう、余程絆が深いと見える。娘の不始末、申し訳ない」
「いえ、お若い故に旅にも疲れたのでしょう。湯浴びをして楽にされていると宜しいかと」
「そうしよう。ここに来る間は干し肉と水しか飲めなかったからな。粥か雑炊でも食べれられば胃も休まるが……」
「では御作りしましょうか? 調理器具は揃えてありますので」
「だが米はないだろう?」
「ありますよ」
「ありがたい、是非お願いしたい」


 そう言うと私は白いエプロンをアイテムボックスから取り出し台所へと向かう。
 その間に風呂にでも入ってゆっくりして貰いたい。
 入浴剤にはスーッとするいつものを入れて貰うようドマに言うと、「不本意ではありますが」と口にしてから入れに行ったようだ。

 その間に米等を冷蔵庫から出して、胃が悪いならねぎは止めた方が良いだろう。
 卵粥でも作るかとお米を洗い仕立て作り始めると、見えないように【お取り寄せ】で卵を購入しアイテムボックスに入れ込むと、今取り出しましたと言わんばかりに卵を出して卵粥に良いように作って行く。
 その間に二人は風呂に向かい、先ずはラフィリアちゃんから風呂に行ったようだ。


「移動中の馬車の幌も【ガーネット】の製品だという【撥水】加工されたモノだった。実に素晴らしい物をあの子たちは作るようになったのだな」
「そうですね。今は他にも色々と作っているようです」
「アイディアを出したのは君だと聞いているが、本当かね?」
「ええ、そうですが」
「なるほど。朽ち果てそうだったこの店も繁盛していた。しかも二号店まであるというではないか」
「はい」
「君が来てから随分と羽振りが良くなったとシンジュは言っていたが、どうやら事実のようだな」


 そう語りかけてくるカシュールさんは何かを探るような感じだ。
 危険察知は少しだけ反応したが、悪意はない。
 それにお爺ちゃんやタキちゃんや、ドマも反応しないので大丈夫だろう。
 くつくつと煮える一人前用の小鍋に丁度良く卵を流し込むと、ふわっと卵粥のいい匂いがする。
 暫くすると「おお、良い匂いだ」と口にしたカシュールさんと同時に、バタバタと風呂場から駆けつけてくるラフィリアさんがやって来た。


「何なのだあの湯は!!」
「何かというと?」
「入った途端スーッとして……一体何を入れたのだ!!」
「皆さんが使っている入浴剤ですが」
「あのようなものがこのダイヤ王国にはあるというのか!!」
「それはお答え出来かねますが、少なくともこの我が家では当たり前です」
「むう。父上も入ってくるといい」
「しかし粥が」
「熱すぎてまだ食えぬのだから早く!」
「全く」


 そう言うとカシュールさんはお風呂場へと消えて行ったが、お茶をグイッと飲み干したラフィリアさんは「おい、茶のお代わりを直ぐ持ってこい!」と怒鳴り、流石にドマがイラっとしたらしい。


「姉様は貴様の奴隷ではない。口を慎め」
「なんだと!!」
「その様な態度の者を客とは認めぬと申しておるのだ」
「なっ! 無礼な!!」
「無礼はそっちであろう!!」


 ドマの張り上げた声にラフィリアちゃんは静かになったが、「まぁまぁそう怒らないの」と私が優しく声を掛けて鍋敷を二人座る場所に置き、一つずつ粥を持って行くとタキちゃんがスプーンを持って来てくれた。


「イライラ シテモ イイコトナイヨ?」
「……分かったわよ」
「ふぁっふぁっふぁ! タキに言われては誰もが弱いのう」
「ふふふっ お茶のお代わりだったわね。直ぐ持ってくるわ」
「……すみません」


 そう言うとお茶の入ったガラス筒を置き、私とドマもお茶を貰って飲む。
 チラチラとこちらを見るラフィリアさんに微笑むと、「むう」と頬を膨らませた。


「確かにそなたは美しいやもしれんが、料理の腕が無ければ姉上とは認めぬからな?」
「その心配には及ばん。姉様の料理はうまい」
「アンタには聞いてないわよ!」
「俺は何時も姉様の料理を食べている。あのような美味い料理等早々ない」
「むう」


 そう言っているとお風呂から上がったカシュールさんもやってきて、お茶をグイッと飲むと「頂こうか」と手を合わせて「頂きます」と口にすると、二人揃って食べ始めた。
 すると――。


「……うまい」
「これは……ただの卵粥か!?」
「ええ、ただの卵粥ですが」
「特別何かしたのだろう!?」
「いいえ?」
「ははは、エンジュは料理もうまい嫁を貰ったようだな!」
「悔しいっ!! 私は料理が余り得意では無いというのに!」
「そうだね、ラフィリアは料理が得意では無いね。裁縫もだろう?」
「くっ!!」


 そう口にして余程お腹が空いていたのか二人はペロッと食べ終わると「ご馳走様でした」と口にし、タキちゃんとドマが食器を下げていく。
 お腹がいっぱいになればイライラも収まるだろうとホッと安堵しつつお茶を飲むと、「忙しい時に来てしまったな」と少し困り顔で語るカシュールさん。



「そう言えば、お越しになった理由をお聞かせいただいても?」
「ああ、墓参りにも来たんだが、問題はラフィリアにあってね」
「ラフィリアさんに?」
「ラフィリアの持つ【製薬】スキルがあるんだが、元々あちらにある本を購入して作ってはいたんだけれど、どうにも品質にばらつきがね。色々お守りを買って見たりして心が穏やかになるように試してみたんだが効果が無くてね」
「なるほど」
「ついにガラス瓶を作る所から、君には売っても仕方ないと言われて……まぁ、此処で心機一転頑張ってみるかなと相談しに来たんだ」
「そうだったんですね」
「君も凄いスキルを持っているね。彫金と付与師二つ持ってるなんて珍しいよ、しかも製薬もあるじゃないか! どうかな、ラフィリアにどう作ればいいか教えてやれないかい?」
「へ?」


 いやいや、私にはそんなスキル無かった筈ですが?
 そう思い「ステータスオープン」と告げて中を見ると――。
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