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51 ダイヤ王国のギルドマスターが集まってのユリに対する情報交換。

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 ――商業ギルドマスターside――


 元々、ユリと言う彼女は狙われやすいタイプの美人だとは思っていた。
 ネコのような黒い目に黒い髪、唇は美しく男性を虜にするような……一度見ると忘れられない強烈さもあった。
 それなのに少女的な所もあり、彼女に恋する者は無論多いと聞く。
 俺は結婚していないが、彼女の事は姪のように思っていた。
 大事にしようと、大事に守らねばと思っているのに、不思議と目立ってしまうのが彼女だった。

 素晴らしいアイディアに、素晴らしいレアスキル。
 その二つで朽ちかけていた【ガーネット】を救い、【王室御用達店】だけではなく【魔物討伐隊御用達店】にすらなった。それは異例のスピードでもあったし、何より彼女のスキルは余りにも限定的ではあったが強すぎた。


「石を作る程度の力しかないとシャース王国では捨てられた身ですよ?」


 そう語る彼女の言葉を理解出来なかったが、シャース王国の第二王子から事情を聞いてみた所、本当に王太子は「石しか作れぬゴミ」といって外に放り出したのだという。
 あれから戦争が終わり、全く役に立たなかった英雄たちとは別に、召喚に巻き込まれた少女がいた事が判明し、王太子は現在糾弾され続けていると聞く。
 もしもあの戦争でユリが居れば戦況が変わり、勝てていた戦だったかもしれない。

 確かに彼女を【鑑定】してみても『スキル:石を出す程度の能力』としか記載されていない。
 故に、王太子の言う事は間違いではない。
 だが、石には色々ある。それらを一つでは言い表せないからこその【石を出す程度の能力】なのだと気づいたのは――シャース王国の冒険者ギルドマスターであった。

 彼はユリを逃がすことを決意した。
 そして隣の国である宝石の国ダイヤ王国に人知れずそっと逃がしたのだ。
 その事はダイヤ王国の冒険者ギルドマスターのドナン、そして商業ギルドマスターである俺、レイルの元に連絡は来ている。

 我々は時折情報交換をし、ユリの事を気に掛けていた。
 このまま目立てば貴族は黙ってはいないだろうと。
 そう思っているとユリの連れている二匹の魔物が、よりによって【レジェンドモンスター】である事まで判明した。
 これに伴い、王家は庇護を求めるべく動き始める。
 結果は惨敗だったが、幾つか良い事も起きた。

 国の金食い虫とまで言われた王妃とその子供達、元王太子も含めての幽閉だ。

 その功績は側妃派にとっては嬉しい事だったようで、全面的にユリを支援する事を決めた。
 しかし、王妃派であった貴族たちにとって、ユリは邪魔な存在となったのだ。


「――それが今の騒動に繋がっている」
「実に厄介だな」
「ええ、我が裁縫ギルドでもユリの考えた品々は隣国でも飛ぶように売れる素晴らしいアイテム。あの頭脳を他所に持って行かれたり、殺されては堪りません」
「調理ギルドとしても許せませんね。彼女の考えた【レトルト】は食生活を、そして騎士や魔物討伐隊の食事改善に大きく貢献しています。今では冒険者や旅人への一般販売も始まろうかとしている時に彼女がいなくなれば痛手です」
「付与師ギルドとしても、天才付与師センジュの義理の姉であり、あらゆる視点や発見で知識や知恵を与えるユリの存在はとても大きく、何より医療に関する眼鏡やサングラス、補聴器等を考えたのもユリだというではないですか。己の為の私利私欲だけではなく、他人の為に動ける者は誰であっても貴重です」
「農業ギルドでもサングラスは最早必須。今も大量に発注を掛けている所です」
「鉱山ギルドでも水筒やレトルトは必須アイテムになっているのだぞ」
「彫金ギルドから言わせて貰えれば、そのユリの考えを形にできるエンジュやその父、シンジュの力も大きい。ユリはまるでシンジュの妻であったアルメリアのようだ」


 そう語り合う【ギルド長会議】にて、大まかに『ユリを失うわけにはいかない』という見解の一致は大事だった。
 それだけ多方面に自分の力を無意識に使っているユリも凄いが、【各ギルド長が守ろうとすれば】尚更ユリの安全性は大きくなっていく。
 それはある意味、王家の力と対等になる程の力になる。
 その為には、元王妃派の貴族を潰していく必要があった。

 特に力のある十の貴族たちをどう消そうかと話し合いを今後して行こうとしていた時に、嬉しい誤算だが、内九つの王妃派貴族が【ガーネット】にスパイを送り込んでいたとして、お家取り潰しになった。
 身分剥奪された彼ら一族は断頭台で消えていく事となる。
 唯一動かなかった一つの貴族――王妃の実家は今も健在だが、力を持っていた九つの貴族の家が没落したことで今後力を失っていくだろう。

 下手に動けば幽閉されている元王妃とその子供達の命はないだろうし、王妃の実家が無くなれば幽閉どころか全員子供を作れないように施され北の監獄に入れられるだろう。
 それも一生出る事など出来ない北の監獄と名高い【オリタリウス監獄】に。

 斬首刑よりも辛いと噂の【オリタリウス監獄】は、数年前に罪を犯したナカース王国の姫殿下だった者が、平民に落とされ入れられ死んだとされた場所だ。
 元王妃でも元姫殿下でも、元王太子であろうとも、そこにだけは行きたくはないだろう。
 それとも、未開の土地があると噂されている、海の何処かにあるという島国に流されたくもないだろうしな。

 何方にせよ、これで元王妃の実家は動けなくなった。
 増悪でどれだけ膨張しようとも、勝手に動いたのは九つの貴族たちだ。
 いや、もしかしたら元王妃の実家が唆した……という可能性もあるが。


「しかし、ユリに紹介したドマがこうも動いてくれるとは思わなかった。彼を失ったのは少々商業ギルドでは痛手だが、ユリを守る為なら安いものだ」
「おう、俺も会ったが中々の強さのある護衛だな」
「冒険者ギルドのドナンにそう言われるとは嬉しいね。今やユリは商業ギルドが所持していた最も強い護衛に常に守られ、近くにはレジェンドモンスターが二匹だ。命の危険だけは無くなると思うが、俺達が知らない所で貴族の問題は出てくるからな……。まだまだ安心は出来ない」
「そう恰好付けてるが、君はユリに数十億と言う借金があるそうだな。商業ギルドは大丈夫なのか?」
「ははは! きっちりと揃えて返す事の出来るだけの金額は既に稼いでるよ。だが、まだこちらが弱いという立場でいた方が俺は動きやすいだけなんだ」
「ふむ」
「それに、借金なら魔法騎士団の方が凄いだろう。何十年分の分割払いがあると思ってるんだい?」
「確かにあれはな……陛下も頭を抱えていたというではないか」


 そう言うと我々はクスクスと笑い、少しだけ気が抜けてついつい談笑してしまいそうになったが、それを止めたのは付与師ギルド長だった。


「まぁまぁ、ともあれユリの知識は幅広い。山を越えた先にあるナカース王国も恐ろしく発展したが、我々の国も発展できるのではないか?」
「寧ろナカース王国で船を作って貰って、本当に伝説の島国があるのか知りたいね。【四季の数だけの島国】……聞けば聞くほど素敵じゃないか」
「大昔の文献だろう? テリサバース宗教の船がたまたま運よく辿り着いて、本国に戻る事は出来たがもう一度行こうとしたら行くことが出来なかったという。神々の国とさえ言われているじゃないか」
「ユリがナカース王国を発展させたという伝説の箱庭師だったり、【ロストテクノロジー】と言う激レアなスキルを持っていたとしたら、話は変わったかもしれないがね」
「残念ながら、ユリのスキルは変わっていなかったよ。今もレアスキルは【石を出す程度の能力】だった。後数個あったと思うが、そちらは文字化けして読めなかった。もし【ロストテクノロジー】を持っていたとしたら、ユリが使わない筈がない」
「「「「確かに」」」」


 そう笑い合いこれにて【秘密のギルド長会議】は終わりとなった。
 各自、自分のギルドにいる職員が持っている『箱庭師』のお陰で此処に来ているだけだ。
 私も箱庭から出ると隣で大元の屋敷を所持していた副ギルドマスターに微笑み「何時もすまないね」と口にすると「箱庭師としてのお仕事ですから」と淡々と語る。

 しかし、ユリの持っているあの文字化けした部分には何と書いてあるのだろうか。
 気になるが、きっと教えてはくれないだろう。
 うーん、歯がゆいなぁ。
 ドマは絶対教えてくれないだろうし。
 そう言えば、ドマの着ていた服は元から持っていただろうか……。
 ユリが持っていた物を渡したのかも知れないな……。


「まぁ、ロストテクノロジーを超えるスキルは早々ないか」


 ――そう口にして書類整理を始めたのは言うまでもない。


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