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35 魔物討伐隊の記録①
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――魔物討伐隊の記録side――
【レジェンドモンスター】と呼ばれるモンスターは、稀に生まれる超強力で恐ろしい個体だ。
一匹だけで国を自由に滅ぼすことが出来る脅威のモンスターであり、テイムする事など絶対に不可能――と言うのが、今までの見解だった。
所が今、俺の目の前には憧れの先輩で【魔物たちの悪魔】と呼ばれたエンジュさんの婚約者にして、その【レジェンドモンスター】を二匹テイムしているユリさんを見た時、魔物討伐隊隊長ヴァンドナ様は確かにこうおっしゃった。
「いや、エンジュが分からんでも仕方ない。これほど普通のフェアリードラゴンとベビースライムのフリをしているレジェンドモンスターなど初めて見たわ」
「良かったですっ!!」
先輩は心底ホッとした様子で、隊長は額に汗を掻き震えていた。
【フェアリードラゴンのレジェンドモンスター】である【ホムラ】様。
【ベビースライムのレジェンドモンスター】である【タキ】様は、それぞれユリ様についてきた魔物で、本来はとても大人しいのだという。
初め聞いた時は全員が「まさか」と思ったが、事実ユリ様がシャース王国にいる際にも暴れなかったし、この国に来てからは初めての問題を起こしたのは、主であるユリ様を害そうとした馬鹿な者達への正当防衛と言うべきか、先制攻撃と言うべきか、守るために攻撃をしただけ。
しかも、命を取るまでの攻撃はなさらなかった。
本来ならば全員の首と胴体が離れていても可笑しくはない。
それなのに、二匹のレジェンドモンスターは人を殺めるという禁忌を犯しはしなかった。愚か者どもは彼らの主を殺そうとしたのに。
何故そうしなかったのかと聞けば――。
「アホウ。ユリが悲しむじゃろうが」
「ボクタチ ユリカナシムコト シタクナイケドネ? タマニハ バツハ アタエルヨ」
「そうじゃな、時には罰は与えるのう。ユリを守る為なら国一つ無くなる等安いもんよ」
「ソウダネ!」
か弱く見えてもレジェンドモンスター……考えはやはりレジェンド様だった。
魔法騎士団より鑑定の使える魔導士が来たが、震えながら二匹を鑑定して、その恐ろしさにまずゾッとしていた。
特にホムラ様一匹で城等消し飛ぶくらいの強さがあった。
その上タキ様は回復系にも優れているのに攻撃もシッカリ出来る為、その強さを考えるとゾッとする。
しかし肝心の主であるユリ様は、「お爺ちゃんもタキちゃんも凄いのよね!」とニコニコして二匹を撫でていらっしゃるし、褒められて嬉しいのか、二匹はとても幸せそうな表情で撫でられていた。
「いいかお前達、そしてエンジュも良く聞け。ユリはとっても優しい子なんじゃよ。そしてちょっと抜けた所のある可愛い天然さんでもあるが、同時に冷静に物事を見ることもできる。古代で言えば聖女様のような生き物じゃ。力は石を作るくらいの力しかないがのう。じゃが、レジェンドモンスターである我々を恐れず、寧ろとてもとても大事に慈しみ、その手で食事を与え、愛して下さる。その優しさを知っているからこそ、ワシ等二匹はユリを真の主と認め、常に守ろうとする。よいか、ユリを自分たちの言いなりにしよう等と企む者がおれば、その時点で、そ奴の命は最早無いものと思え」
「ソウダゾー? ナイモノトオモエー」
「まぁ、エンジュは大事な主の婚約者じゃからな。ワシらは気に入っておるよ。そなたの事も、そなたの家族の事も」
「あ、ありがとう」
「で、他に聞きたいことはなんじゃ」
そうホムラ様がお聞きになると、ヴァンドナ様冷や汗を垂らしつつ「では」と口にし、唾を飲み込んでお聞きになる。
「ユリ様の安全さえ保障されていれば、この国は安泰なのですな?」
「うむ、ユリが自由に楽しく生活出来ればそれでよい。無理やり命令したり、見下したり、ユリが望まない事を強制した場合は……分かっておるじゃろう?」
「はっ!」
「つまりはそう言う事じゃ。ユリがハッピーならワシらもハッピー!」
「ダカラ コノクニヲ コウゲキシナイヨ。ユリガ ハッピーナラネ!」
「分かりました。ご質問にお答え頂き誠にありがとう御座います」
「うむうむ」
「ソレデー? コレカラ オウサマニアウノー?」
「そうでした。陛下との謁見でしたよね?」
「既に陛下は謁見の間にてお待ちになっていらっしゃる。後はユリ様のお気持ち次第だが……どうかこの国に一番いい方法をお選び下さるようお願い致します」
「はぁ……関わらないのが一番だと思いますけど」
「それはっ! 分かっているのですが……」
「取り敢えずお話は聞きます。でも決めるのはお爺ちゃんたちにも聞いてみないとですから」
「はい、存じ上げております」
「ではご案内致します」
「エンジュさんもついて来てね?」
「分かった」
こうして我々も、何者も危害を加えぬよう、ユリ様とレジェンド様達の周囲をゾロゾロと取り囲みながら歩き、謁見の間に到着した。扉が開かれ、我々もユリ様達と共に中に入った。
正直怖いという気持ちしかないが、陛下が冷静に対応して下さればいいが。
そう思っていると謁見の間には王妃様もいらっしゃっていた。ああ、波乱しか感じない。
「フェアリードラゴンのレジェンドモンスター、ホムラ様及び、ベビースライムのレジェンドモンスター、タキ様、そして二匹と契約しているユリ様と、その婚約者をお連れ致しました」
「うむ。よもやガーネットのそなた達の元にレジェンドモンスターが居ようとは、想像もしていなかったぞ」
「申し訳ありません。ユリからは一度聞いていたのですが、余りにも普通のフェアリードラゴンとベビースライムでしたので忘れておりました……」
「いえ、陛下。魔物討伐隊隊長として言わせて頂きますと、我々ですら見破るのは困難かと」
「鑑定してようやくレジェンドクラスだと判明しました。完璧に普通のフェアリードラゴンとベビースライムに擬態しておられます」
「何という……」
そう言って陛下すら顔を青くし、王妃様は大層不安げな様子だ。お二人とも自国に爆弾を二つも抱えているとは思わなかったのだろう。
「その……本当に国を滅ぼすだけの力があるのですか?」
「あるぞい」
「アルネー」
「嗚呼、陛下……」
「でも、ワシ等は好きで滅ぼそうとも思わんよ」
そうホムラ様が落ち着いた声で伝えると、陛下も王妃もホムラ様を見た。
「ユリはこの国を大事に思って居るし、婚約者の事も家族の事も大事に思って居る。そんな彼らのいる国を滅ぼそうとは、今は、思わんのう」
「ソウダネ。デモ、ユリヲ ジブンタチノ ツゴウノイイヨウニ、リヨウシヨウッテ カンガエテルナラ ハナシハベツダケド」
「そうじゃな、話は別じゃな」
「その様な事は考えもいたしません。ユリ様にも自由にこの国に居て貰って今まで通りの生活をして頂ければ結構です。ですからどうか、この国を庇護して下さいませんか?」
そう国王陛下が口にすると、ホムラ様は「フム」と口にし、ユリ様の腕から離れてパタパタと飛ばれた。
「庇護、庇護のう……。この国に必要か?」
「はい。まだ隣の国シャース王国が敗戦したばかりで情勢は不安定です。国民を安心させる、他国が害そうとは思わない、その二つの為に、どうか庇護を下さいませんか?」
「庇護を与えたら何をくれる」
「それは……」
「よもやタダでとは言うまい?」
流石ホムラ様……陛下相手でもまるで子供を相手にするかのように飄々としてらっしゃる。
ユリ様の頭の上にいたタキ様はユリ様の肩の上に移動して、スリスリとユリ様の頬に身体を寄せて甘えている。
「もちろんタダでとは申しません。お望みの物があるのでしたら伺います」
「そうか。ワシ達はな、ユリを基準に物事を考えるんじゃ。つまり、ユリが幸せならそれで良い。仕事が忙しかろうと楽しんでいればそれでいいと思って居る。所がじゃ。『王家御用達』兼『魔物討伐隊御用達』になってから山ほど依頼が殺到するのは仕方ないとしてもじゃ。しかし! 貴族連中の態度は目に余る!!」
激しい怒りの咆哮に陛下は玉座から降り膝をついて頭を下げた。
これには我々も続けて同じように頭を下げたが、ホムラ様はまだ怒っていた。
「なんじゃあの貴族連中は!! 作ったら作ったで文句を言って金を投げ渡す! あり得ぬ!! あり得ぬぞ!! 製作者がどれだけ苦労しながら作っていると思って居る!! 作って貰って当たり前と言うあの根性気に入らん!!」
「我が国の貴族が申し訳御座いません!!」
「どうかお怒りをお鎮め下さい!!」
誰もが平伏し、ホムラ様に怒りを抑えて貰おうと懇願する最中、のんびりとした声が響き渡る。
「駄目よお爺ちゃん、そんなに怒ると血圧が上がるわ」
「むう……しかし、皆が精一杯作ったアイテムじゃぞ? それをじゃぞ!? 物を貰えば用済みとばかりに金を投げつけおって……腹が立って仕方ないわ……」
「そうね、王室騎士団隊長の割にはちょっと酷かったわね。あれって財務部用のアイテムだったのに、横から奪って行ってお金足りてないのに投げつけて去って行ったのよ? 信じられる?」
「それは誠ですか!?」
そう叫んだ陛下は、直ぐに兵士に「即刻、王室騎士団団長を連れてこい!」と命令し、兵士たちは震えながら部屋から走り去った。
ホムラ様が恐ろしい咆哮を上げていたのに、エンジュさんは「爺さん落ち着け、身体に堪えるぞ」と両手を伸ばして抱っこしようとしている……魔物の悪魔じゃない、あれでは悪魔では……っ!!
「しかしのうエンジュや。お前さんの大事なガーネットの商品を、あんなふうに奪われれば怒りも沸こうに」
「陛下を守る騎士団ならと俺も怒りを抑えた。だが、アレは無いな……当初の予定通り財務部に納品したいので、出来れば返して貰いたい」
「カエセカエセー」
「必ずや奪い取られたアイテムを回収致します!! おい、直ぐにアイテムを回収してこい! 今すぐだ!!」
こうして慌ただしくなった中、暫くすると縄に繋がれた王室騎士団長が騒ぎながら謁見の前に連れてこられた。床に平伏している陛下の姿に驚いて硬直する。それから数十分後、全てのアイテムを回収して戻ってきた兵士は、何故かボロボロになっていた。
一体何が起きたのだろうか!?
【レジェンドモンスター】と呼ばれるモンスターは、稀に生まれる超強力で恐ろしい個体だ。
一匹だけで国を自由に滅ぼすことが出来る脅威のモンスターであり、テイムする事など絶対に不可能――と言うのが、今までの見解だった。
所が今、俺の目の前には憧れの先輩で【魔物たちの悪魔】と呼ばれたエンジュさんの婚約者にして、その【レジェンドモンスター】を二匹テイムしているユリさんを見た時、魔物討伐隊隊長ヴァンドナ様は確かにこうおっしゃった。
「いや、エンジュが分からんでも仕方ない。これほど普通のフェアリードラゴンとベビースライムのフリをしているレジェンドモンスターなど初めて見たわ」
「良かったですっ!!」
先輩は心底ホッとした様子で、隊長は額に汗を掻き震えていた。
【フェアリードラゴンのレジェンドモンスター】である【ホムラ】様。
【ベビースライムのレジェンドモンスター】である【タキ】様は、それぞれユリ様についてきた魔物で、本来はとても大人しいのだという。
初め聞いた時は全員が「まさか」と思ったが、事実ユリ様がシャース王国にいる際にも暴れなかったし、この国に来てからは初めての問題を起こしたのは、主であるユリ様を害そうとした馬鹿な者達への正当防衛と言うべきか、先制攻撃と言うべきか、守るために攻撃をしただけ。
しかも、命を取るまでの攻撃はなさらなかった。
本来ならば全員の首と胴体が離れていても可笑しくはない。
それなのに、二匹のレジェンドモンスターは人を殺めるという禁忌を犯しはしなかった。愚か者どもは彼らの主を殺そうとしたのに。
何故そうしなかったのかと聞けば――。
「アホウ。ユリが悲しむじゃろうが」
「ボクタチ ユリカナシムコト シタクナイケドネ? タマニハ バツハ アタエルヨ」
「そうじゃな、時には罰は与えるのう。ユリを守る為なら国一つ無くなる等安いもんよ」
「ソウダネ!」
か弱く見えてもレジェンドモンスター……考えはやはりレジェンド様だった。
魔法騎士団より鑑定の使える魔導士が来たが、震えながら二匹を鑑定して、その恐ろしさにまずゾッとしていた。
特にホムラ様一匹で城等消し飛ぶくらいの強さがあった。
その上タキ様は回復系にも優れているのに攻撃もシッカリ出来る為、その強さを考えるとゾッとする。
しかし肝心の主であるユリ様は、「お爺ちゃんもタキちゃんも凄いのよね!」とニコニコして二匹を撫でていらっしゃるし、褒められて嬉しいのか、二匹はとても幸せそうな表情で撫でられていた。
「いいかお前達、そしてエンジュも良く聞け。ユリはとっても優しい子なんじゃよ。そしてちょっと抜けた所のある可愛い天然さんでもあるが、同時に冷静に物事を見ることもできる。古代で言えば聖女様のような生き物じゃ。力は石を作るくらいの力しかないがのう。じゃが、レジェンドモンスターである我々を恐れず、寧ろとてもとても大事に慈しみ、その手で食事を与え、愛して下さる。その優しさを知っているからこそ、ワシ等二匹はユリを真の主と認め、常に守ろうとする。よいか、ユリを自分たちの言いなりにしよう等と企む者がおれば、その時点で、そ奴の命は最早無いものと思え」
「ソウダゾー? ナイモノトオモエー」
「まぁ、エンジュは大事な主の婚約者じゃからな。ワシらは気に入っておるよ。そなたの事も、そなたの家族の事も」
「あ、ありがとう」
「で、他に聞きたいことはなんじゃ」
そうホムラ様がお聞きになると、ヴァンドナ様冷や汗を垂らしつつ「では」と口にし、唾を飲み込んでお聞きになる。
「ユリ様の安全さえ保障されていれば、この国は安泰なのですな?」
「うむ、ユリが自由に楽しく生活出来ればそれでよい。無理やり命令したり、見下したり、ユリが望まない事を強制した場合は……分かっておるじゃろう?」
「はっ!」
「つまりはそう言う事じゃ。ユリがハッピーならワシらもハッピー!」
「ダカラ コノクニヲ コウゲキシナイヨ。ユリガ ハッピーナラネ!」
「分かりました。ご質問にお答え頂き誠にありがとう御座います」
「うむうむ」
「ソレデー? コレカラ オウサマニアウノー?」
「そうでした。陛下との謁見でしたよね?」
「既に陛下は謁見の間にてお待ちになっていらっしゃる。後はユリ様のお気持ち次第だが……どうかこの国に一番いい方法をお選び下さるようお願い致します」
「はぁ……関わらないのが一番だと思いますけど」
「それはっ! 分かっているのですが……」
「取り敢えずお話は聞きます。でも決めるのはお爺ちゃんたちにも聞いてみないとですから」
「はい、存じ上げております」
「ではご案内致します」
「エンジュさんもついて来てね?」
「分かった」
こうして我々も、何者も危害を加えぬよう、ユリ様とレジェンド様達の周囲をゾロゾロと取り囲みながら歩き、謁見の間に到着した。扉が開かれ、我々もユリ様達と共に中に入った。
正直怖いという気持ちしかないが、陛下が冷静に対応して下さればいいが。
そう思っていると謁見の間には王妃様もいらっしゃっていた。ああ、波乱しか感じない。
「フェアリードラゴンのレジェンドモンスター、ホムラ様及び、ベビースライムのレジェンドモンスター、タキ様、そして二匹と契約しているユリ様と、その婚約者をお連れ致しました」
「うむ。よもやガーネットのそなた達の元にレジェンドモンスターが居ようとは、想像もしていなかったぞ」
「申し訳ありません。ユリからは一度聞いていたのですが、余りにも普通のフェアリードラゴンとベビースライムでしたので忘れておりました……」
「いえ、陛下。魔物討伐隊隊長として言わせて頂きますと、我々ですら見破るのは困難かと」
「鑑定してようやくレジェンドクラスだと判明しました。完璧に普通のフェアリードラゴンとベビースライムに擬態しておられます」
「何という……」
そう言って陛下すら顔を青くし、王妃様は大層不安げな様子だ。お二人とも自国に爆弾を二つも抱えているとは思わなかったのだろう。
「その……本当に国を滅ぼすだけの力があるのですか?」
「あるぞい」
「アルネー」
「嗚呼、陛下……」
「でも、ワシ等は好きで滅ぼそうとも思わんよ」
そうホムラ様が落ち着いた声で伝えると、陛下も王妃もホムラ様を見た。
「ユリはこの国を大事に思って居るし、婚約者の事も家族の事も大事に思って居る。そんな彼らのいる国を滅ぼそうとは、今は、思わんのう」
「ソウダネ。デモ、ユリヲ ジブンタチノ ツゴウノイイヨウニ、リヨウシヨウッテ カンガエテルナラ ハナシハベツダケド」
「そうじゃな、話は別じゃな」
「その様な事は考えもいたしません。ユリ様にも自由にこの国に居て貰って今まで通りの生活をして頂ければ結構です。ですからどうか、この国を庇護して下さいませんか?」
そう国王陛下が口にすると、ホムラ様は「フム」と口にし、ユリ様の腕から離れてパタパタと飛ばれた。
「庇護、庇護のう……。この国に必要か?」
「はい。まだ隣の国シャース王国が敗戦したばかりで情勢は不安定です。国民を安心させる、他国が害そうとは思わない、その二つの為に、どうか庇護を下さいませんか?」
「庇護を与えたら何をくれる」
「それは……」
「よもやタダでとは言うまい?」
流石ホムラ様……陛下相手でもまるで子供を相手にするかのように飄々としてらっしゃる。
ユリ様の頭の上にいたタキ様はユリ様の肩の上に移動して、スリスリとユリ様の頬に身体を寄せて甘えている。
「もちろんタダでとは申しません。お望みの物があるのでしたら伺います」
「そうか。ワシ達はな、ユリを基準に物事を考えるんじゃ。つまり、ユリが幸せならそれで良い。仕事が忙しかろうと楽しんでいればそれでいいと思って居る。所がじゃ。『王家御用達』兼『魔物討伐隊御用達』になってから山ほど依頼が殺到するのは仕方ないとしてもじゃ。しかし! 貴族連中の態度は目に余る!!」
激しい怒りの咆哮に陛下は玉座から降り膝をついて頭を下げた。
これには我々も続けて同じように頭を下げたが、ホムラ様はまだ怒っていた。
「なんじゃあの貴族連中は!! 作ったら作ったで文句を言って金を投げ渡す! あり得ぬ!! あり得ぬぞ!! 製作者がどれだけ苦労しながら作っていると思って居る!! 作って貰って当たり前と言うあの根性気に入らん!!」
「我が国の貴族が申し訳御座いません!!」
「どうかお怒りをお鎮め下さい!!」
誰もが平伏し、ホムラ様に怒りを抑えて貰おうと懇願する最中、のんびりとした声が響き渡る。
「駄目よお爺ちゃん、そんなに怒ると血圧が上がるわ」
「むう……しかし、皆が精一杯作ったアイテムじゃぞ? それをじゃぞ!? 物を貰えば用済みとばかりに金を投げつけおって……腹が立って仕方ないわ……」
「そうね、王室騎士団隊長の割にはちょっと酷かったわね。あれって財務部用のアイテムだったのに、横から奪って行ってお金足りてないのに投げつけて去って行ったのよ? 信じられる?」
「それは誠ですか!?」
そう叫んだ陛下は、直ぐに兵士に「即刻、王室騎士団団長を連れてこい!」と命令し、兵士たちは震えながら部屋から走り去った。
ホムラ様が恐ろしい咆哮を上げていたのに、エンジュさんは「爺さん落ち着け、身体に堪えるぞ」と両手を伸ばして抱っこしようとしている……魔物の悪魔じゃない、あれでは悪魔では……っ!!
「しかしのうエンジュや。お前さんの大事なガーネットの商品を、あんなふうに奪われれば怒りも沸こうに」
「陛下を守る騎士団ならと俺も怒りを抑えた。だが、アレは無いな……当初の予定通り財務部に納品したいので、出来れば返して貰いたい」
「カエセカエセー」
「必ずや奪い取られたアイテムを回収致します!! おい、直ぐにアイテムを回収してこい! 今すぐだ!!」
こうして慌ただしくなった中、暫くすると縄に繋がれた王室騎士団長が騒ぎながら謁見の前に連れてこられた。床に平伏している陛下の姿に驚いて硬直する。それから数十分後、全てのアイテムを回収して戻ってきた兵士は、何故かボロボロになっていた。
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