上 下
74 / 74
アタシの魔王たる器をみせてやろうかね!!

第75話 これからと、そしてその先の――

しおりを挟む
 ――人間国がほぼ壊滅し、獣人国がアタシの庇護下になって三年。
 特に変わり映えのない生活をしているが、少しずつ、このダンジョンから冒険者を人間国に戻していっている。
 無論戻しても戻ってくる輩はいるが、そいつは仕方ない。
 楽園を一度味わうと、現実には帰りたがらないのが人間だ。

 だが、少しずつだが変わりつつあった。
 微々たる変化だが、それは少しずつ魔王領から始まっている。

 まず、最果ての街に【不可不思議キヌマート】……つまりコンビニ一号店が出来た。
 この情報は直ぐに人間国の王の元に行ったようで、毎日ではないが、頻繁に人間国の城からあらゆる品を買いに来ているのは知っている。
 知られていないと思っているのは人間国のアホな王くらいだ。

 戻っていく冒険者たちにより復興は思った以上に進んでいるようで、いい報告を聞くこともあれば悪い報告を聞くこともある。
 人生山あり谷ありだよ。

 ドワーフ王は未だに諦めちゃいないし、爺様との喧嘩は名物になりつつある。
 今の所、爺様一強だがね。
 流石アタシの夫だと惚れ直したのは内緒だよ? ヒヒヒ。
 そして、アタシと爺様に夜叉孫が生まれた。
 可愛い男の子と女の子の夜叉孫だ。
 カナデもなんだかんだと頑張ったんだねぇ……と有難く思う。
 ピアもミツリもよく頑張ったもんだ。

 しかし、人生で夜叉孫まで見るなんて思ってもいなかったからね。
 人としての人生ならまず見る事は無理だっただろう。
 何せこの異世界に召喚された時、アタシは既に病を患っていて、薬がなければ幾ばくも無い命だったのだから。

 無論爺様にも教えていない事実さ。カナデは恐らく知っているだろうが、怖くて言えないんだろうねぇ。
 だが、常時若返りで病気のなかった時代の体に戻っている為、健康体そのものだ。
 爺様も目立った病気をしていない働き盛りの年齢だからね。
 まだまだアタシと爺様が魔王領を、そして魔王と英雄として君臨していくんだろうが、それが世界の均等を保つというのなら安いもんだ。

 そう言えば、各場所を回っていた飢饉だが、人間界にもやはり飢饉はやってきた。
 だが、人間が少なくなっていた事や、天使族からの支援をガッツリ貰えた為、飢饉は乗り越える事が出来たらしい。
 この情報は驚くべきことに、人間王国の王太子より書簡で届いたのだ。

 陛下はまぁ、残念だが……。ショックでちぃっとばかり、頭が可笑しくなっちまった所があるらしい。
 そこで、徐々にだが王太子が王の仕事を引き受けているらしく、アタシの元に手紙が届くという訳だ。

『世代交代がしっかり果たせず王になりそうだね』と返事を返すと『これもまた、一つの時代が終わる為には必要な事だったのでしょう』と返事が返ってきており、カナデとは仲良く出来そうな国王になってくれそうだ。


 時代は巡る。
 だが、アタシと爺様、曾孫のカナデの時間は止まっていて、前には進まない。
 先にミツリが老いて死ぬだろう。
 それでも残る事を決めたのはミツリだ。
 カナデもそれを理解した上で第二妃に貰っている。
 こちらの世界で言えば、異世界人の血は残ったのだ。
 ただ、悲しい事に……アタシ達を置いて咲いては消えていく儚い命だがね……。

 それは、あちらの世界からの『忘れるな』と言う意味の贈り物なのかなんなのか。
 もしかしたら、これこそが一番のデバフなのかもしれないねぇ。

 それでもアタシ達は魔王として、その夫として、曾孫として生きて行かねばならない。
 この異世界で。
 平和の礎の為に。


「それは悪い事じゃないが、いい事でもない。でも、戦争を引き起こさないっていう意味では、最高に大事な存在がアタシ達なんだよ」
「そうですね」
「ワシら三人がいるからこそ、全ての国で飢えに苦しまず、戦争で親を亡くすことも、我が子を亡くすこともなく、当たり前ではないが、当たり前だと思える平和の上で生活が出来ておるんじゃよ」


 ――そう、魔王キヌはその為の生贄ともいえるかもしれないね。


 それでも一人じゃない。
 一人なら耐えれなかったかもしれないが、三人居れば未来は多少なりと明るい。
 そう思えたのは、幸せなことかもしれないね。


「さて、次はアタシと爺様とカナデの楽園でも作ろうか!」
「楽園……ですか?」
「ワシらのか? そりゃええのう!」
「んじゃ、いっちょダンジョンボスでも倒してダンジョンコアを手に入れようかね!」
「待ってください曾婆様!! どんな楽園を作るつもりです!?」
「せっかくネットスーパーがあるんだから、派手に使いたいじゃないか! 第三の人生だよ!! 大人しく着いていきな!!」


 下を向いてクヨクヨしてるのはアタシの性に合わないね!!
 次はアタシ達だけの楽園を作るとしようか!!
 何れアタシ達の事が神話になる頃、旅に出るのも良い。
 生きてる間は華の人生だ!


「ちゃっちゃとボスを倒して次の人生のスタートだよ!!」


 ――アタシ達が神話になる頃また物語は始まるかもしれないが、それまではこの異世界、平和でいておくれよ?


 ――完――
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

転生したおばあちゃんはチートが欲しい ~この世界が乙女ゲームなのは誰も知らない~

ピエール
ファンタジー
おばあちゃん。 異世界転生しちゃいました。 そういえば、孫が「転生するとチートが貰えるんだよ!」と言ってたけど チート無いみたいだけど? おばあちゃんよく分かんないわぁ。 頭は老人 体は子供 乙女ゲームの世界に紛れ込んだ おばあちゃん。 当然、おばあちゃんはここが乙女ゲームの世界だなんて知りません。 訳が分からないながら、一生懸命歩んで行きます。 おばあちゃん奮闘記です。 果たして、おばあちゃんは断罪イベントを回避できるか? [第1章おばあちゃん編]は文章が拙い為読みづらいかもしれません。 第二章 学園編 始まりました。 いよいよゲームスタートです! [1章]はおばあちゃんの語りと生い立ちが多く、あまり話に動きがありません。 話が動き出す[2章]から読んでも意味が分かると思います。 おばあちゃんの転生後の生活に興味が出てきたら一章を読んでみて下さい。(伏線がありますので) 初投稿です 不慣れですが宜しくお願いします。 最初の頃、不慣れで長文が書けませんでした。 申し訳ございません。 少しづつ修正して纏めていこうと思います。

裏の林にダンジョンが出来ました。~異世界からの転生幼女、もふもふペットと共に~

あかる
ファンタジー
私、異世界から転生してきたみたい? とある田舎町にダンジョンが出来、そこに入った美優は、かつて魔法学校で教師をしていた自分を思い出した。 犬と猫、それと鶏のペットと一緒にダンジョンと、世界の謎に挑みます!

器用さんと頑張り屋さんは異世界へ 〜魔剣の正しい作り方〜

白銀六花
ファンタジー
理科室に描かれた魔法陣。 光を放つ床に目を瞑る器用さんと頑張り屋さん。 目を開いてみればそこは異世界だった! 魔法のある世界で赤ちゃん並みの魔力を持つ二人は武器を作る。 あれ?武器作りって楽しいんじゃない? 武器を作って素手で戦う器用さんと、武器を振るって無双する頑張り屋さんの異世界生活。 なろうでも掲載中です。

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

処理中です...