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アタシの魔王たる器をみせてやろうかね!!

第71話 英雄は魔王を永遠の愛を誓っていた

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 ――その日、魔王城に警報が鳴り響いた。
 冒険者達は「なんだ?」と困惑しているし、アタシは魔王城にいた為、急ぎクリスタルに手を翳して警報の出所を調べた。
 その時。


「魔王様!! 城壁を登ってくる男性がいます!!」
「城壁!?」
「真っ直ぐ魔王城に向かって……」
「こちらですわ!!」


 そうピアが窓の外を指さした為、急いで向かい開けっぱなしの窓から下を見ると、確かに男性が登ってきている。
 しかも、見たことのある男性が。


「じ、じ、じ……」
「どうなさいました魔王様!!」
「爺様なんでアンタがここにいんのさ!!!」


 城壁を登ってきているのは他でもない、アタシの死んだ旦那だった!!
 まさか『英雄召喚』がどうのってピアが言っていた事があるが、爺様あんた【英雄】だったのかい!?


「お、お!? 婆様~~!! やっぱり魔王キヌとは、婆様じゃったかぁ~~!! 生き返って来てみるもんじゃなぁ~~!!」
「ひっ!!」


 そういうと爺様はアタシを見て輝く笑顔を振りまき高速で登ってきた!!
 英雄ってこんな気持ち悪い速度で壁を這い上がってこれるのかい!?


「曾婆様どうしました!!」
「カナデ!! じ、じ、爺様が!!」
「曾爺様がどう……し……え?」


 そう言って固まった曾孫に、横に感じる熱に……アタシはギギギッと横を見ると、爺様は窓枠に座って笑顔でアタシを見ていた。


「なんじゃ、婆様も常時若返りか、ワシと一緒じゃな」
「じ、爺様」
「天使族の所にいたんじゃが、魔王を殺せだの、生き残りの獣人を赤子も揃って殺せなど言うもんでな? 嫌になって出てきてしもうたわ」
「あ、ああ……そうなのかい?」
「なぁ婆様や、婆様は戦争で苦しむ一般人を見たくなくて避難民を受け入れることにしたのじゃろう? 婆様は優しいからのう! 良く分かっとるぞ!!」


 そう言って嬉しそうに笑う姿は30代くらいの爺様で、窓枠からすっと飛び降りるとアタシを抱きしめて「ワシの婆様は最高じゃああ!!」と叫んだ。
 四天王は硬直してるし、ピアは目を見開いて固まっているし、モーダンはメガネを上げながら動揺しているし……どうしようかねぇ……。


「爺様、取りあえず落ち着きな」
「70歳で死んで申し訳なかったんじゃよ!!」
「分かったから」
「置いていきたくはなかったんじゃよ!!」
「知ってるから!」
「ううぅぅ……婆様と離れたくはなかったんじゃ……死んでもずっとそばに居続けておったんじゃよ」
「それは気味悪いねぇ!!」
「もう離さんから安心してくれ婆様ぁぁぁぁあああ!!」


 そう言って泣きじゃくる英雄爺……もとい、アタシの夫、田中タケオ。
 溜息を吐き、背中を撫でながら「全く、仕方ない爺様だよ」と告げると、落ち着くまでそのままにすることにした。
 しかし――。


「曾爺様」
「お? ワシが死んだあとに生まれた曾孫の~~~カナデか!」
「初めまして曾爺様。曾爺様と曾婆様は別居婚をしていたと聞いていますが」
「しておったな!」
「何故、愛し合っている二人がそんな真似を?」


 確かに不思議に思うだろう。
 だが、それは偏にアタシの責任でもある。


「ああ、それはな。婆様に付きまとう男がおってな。家族とワシが危ないと知った婆様が、家庭では冷え切っているという状態にして、離婚は絶対しないでそのままで様子を見るって言いだしたからじゃよ。警察も当時はストーカーで動いてはくれんかったからな」
「そんな理由があったんですか!?」


 まぁ、このことは爺様と二人秘密にしようって言い合って決めたことだったから、家族で知ってるのは息子達くらいだ。


「見ての通り、婆様は美人じゃろう? 良からぬ事を考える馬鹿な男は多くてな」
「なるほど……」
「その男が来ておったから、死ぬ時まで演技をして通した。憎まれ役を一身で受けたんじゃ……。全く、死んだ時くらい泣いてくれたらいいのに、陰で泣くくらいなら、泣いてくれて良かったのに……」
「ふん」


 そう言って爺様をペチンと叩いて離れると、爺様は苦笑いしながらカナデの元へと向かった。


「未来に命を繋ぐ為に、ワシと婆様が家族を守る為にやったことじゃて。家庭内別居は寂しかったが、たまに二人で飲む酒は、それはもう最高に美味じゃったぞ!」
「曾爺様……」
「結局、あの野郎はどうなったんじゃったかのう?」
「知らない所で何かやらかして、80代でムショに入ったよ」
「はっはっは! 人生悪いことは出来んもんじゃて!」


 そう言って笑う爺様のステータスを見ると、流石にエグイ英雄ステータス。
 しかも【魔王の夫】と出てる時点で、天使族は不味いと思ったんじゃないかね。


「爺様、アンタ、天使族にアタシに会うなって言われなかったかい?」
「言われたのう。じゃが天使族が【魔王キヌ】って連呼するもんでな? やり方や性格からお前さんじゃないかと思って来てみたんじゃ。それにステイタスにも【魔王の夫】と出ておったからのう」
「で、当たりだったと」
「最高の気分じゃな!」


 嬉しそうに語る爺様に頭を抱えつつ溜息が零れたが、アタシもなんだかんだと嬉しい気持ちはある。
 全く、ドワーフ王が帰った矢先に今度は爺様かい。
 ドワーフ王には悪いが、アタシは操の誓いを立ててるんだから、誰かに心が揺らぐって事は無いんだよ。
 人生たった一人に捧げたものだ。二つもあってたまるもんかい。


「でも、これで天使族も早々手を出せなくなりますわ。魔王キヌ様に英雄タケオ様。鉄壁の守りですもの!!」
「じゃあ、落ち着いたところで、爺様」
「ん?」
「洗い浚い、天使族が何を喋っていたか、吐いて貰おうかねぇ」


 そう顎クイして聞くと、爺様は頬を染めつつ「沢山話すとするかの」と嬉しそうに笑ったのだった。
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