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アタシの魔王たる器をみせてやろうかね!!

第70話 英雄召喚で現れた男性は――

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 ――天使族side――


 その後、次々に領地に引き籠っていた獣人族を断頭台へと連れて行き、力のある獣人族を淘汰していった。
 そして、どこかに消えたクリスタルが無いかをしらみつぶしに探したのだが、見つからなかったのだ。
 あのクリスタルは神より賜りしもの。
 天使族の国にもあるが、この世界を平穏に保つためのキーアイテムでもあった。
 それが……消えたのだ。

 どこかに存在はしている筈。砕けて消えたわけではないのだから。
 だが、王には子供がいなかったという情報だ。
 それなのに何故――。可能性があるとすれば、隠し子がいたに違いない。
 そうなれば、相手は貴族籍をもつ娘との間に出来た子供だろうと探したが、銀の髪の狼族の者は見つからなかった。


「まさか、一般人に神格の者がいる可能性は……?」
「否定はできませんが、いれば話題になるでしょう。何せ銀の髪は王族の証。それだけで目立ちます」
「そう言えば、人間の世界に銀の髪をもつ獣人がいたという情報を聞いております」
「誠か!?」
「はい! ですが、ある日を境に消えたという情報です」
「むう……。それでは情報にならんではないか!」
「申し訳ありません!!」
「タケオ殿はどう思われる」


 そう私が【英雄召喚】した男性、『田中 タケオ』に声を掛けると、彼は鳥に餌を与えつつ「そうですね……」と小さく呟いた。


「それを考えるのは、あなた方の役目でしょう」
「それはそうだが……」
「俺の役目は、悪を裁くというだけの筈です。まぁ、魔王が悪だとは一切思いませんが?」
「何を仰る!! 獣人族を保護している時点で、」
「戦争に巻き込まれる一般人を守った。と言う時点で英雄です」
「くっ」
「その英雄を天使族は殺せと言う。どちらが悪だろうか」


 そう呟いたタケオに、私たちはタケオの感じている怒りを肌で感じ、背筋が寒くなる。
 英雄は勇者のように簡単には扱えないし、簡単には洗脳もされない。
 己の過去の記憶も相まって、とても扱いづらいのだ。
 だが、その過去の記憶があったからこそ、英雄としてこの世界に召喚出来たのだが……。


「しかしタケオ殿。魔王とは人間を堕落させているのですよ?」
「あちらの世界でも、人間を堕落させるものは多くありましたよ」
「だが、こちらの世界ではそれは良くないものだ。多くの冒険者を早く解放せねばならないのです!! 冒険者を人質にとられているのと同義ですぞ!」
「……その魔王領にあるダンジョンを攻略せよと言ったのは、人間国だと聞いているが?」


 情報収集も半端ないな……。
 こちらが伏せている情報をいとも簡単に見つけて先回りする頭脳。流石英雄と言ったところか。


「魔王キヌは恐ろしい存在だ。あの者を放置していれば更なる混乱が」
「これ以上の混乱は起きないだろう」
「魔王が本気になれば天使国とて危ういのですぞ!?」
「喧嘩を売らなければいい」
「タケオ殿!!」
「俺から見れば、天使族が魔王に対し、必要以上に怯え散らしているようにしか見えない。魔王が天使族に何をした?」


 そう言われると言葉に詰まる。
 確かに天使族に魔王は何もしていない。



「魔王がしたことは、前魔王の仇討に他ならず、尚且つ戦争で一番被害を受ける筈の一般人を保護したくらいだ。褒める事はあれど、殺すだけの問題は何一つ犯していない」
「それは……しかし、保護していると言いつつ奴隷にしている可能性もある」
「奴隷か……確かに獣人族は戦争で負けたが、トップは既に死んでいる。墓も用意されず見せしめにされているではないか。一般住民は犯罪者でもない者たち。彼らを奴隷にする意味もない」
「しかし、魔王ですぞ!?」


 そう再度口にすると、タケオ殿は大きく溜息を吐き「では、俺が魔王領に向かい、偵察にいってこよう」と口にした。
 英雄ならば大抵の呪いや精神的攻撃は受けないだろうが……。


「それならば、魔王には決して会わず、天使族からの使者として書簡だけ持って行ってください。獣人族を全て引き渡すようにと今から、」
「何故保護されている獣人たちを?」
「我々天使族は獣人族に勝ったのです!! ならば、必要ない獣人族は淘汰すべきだ」
「それこそ横暴。天使族が聞いて呆れる。罪もない赤子や年寄りまで殺すというのか?」
「なっ!! 赤子は後に大きくなって天使族を恨むでしょう! 速やかに淘汰すべきです!!」


 その言葉にやっと振り向いたタケオ殿だったが、その目には怒りの色が強く滲んでいて、思わず我ら天使族は武器を手に取った。


「……どうやらこれ以上天使族の傍に居るのも意味がないようだ。俺は自由に動くとしよう」
「お待ちくださいタケオ殿!!」
「魔王キヌ……まさか……なのか?」


 そう呟いて塔から飛び降りたタケオ殿を止めるすべは最早なく、英雄の心を掴むことが出来なかった我らに責任はあるだろう。
 だが……。


「いや、僅かな可能性だが……。魔王と英雄がぶつかり合えば、間違いなく魔王とて無事では済まない。そうなる可能性に掛けるしかあるまい」
「しかし、タケオ殿は余りにもお優しすぎる」
「魔王にいい様に言いくるめられるのではありませんか?」
「聞けば、ドワーフ王ですら膝をついて愛を乞う程の美人だというではありませんか」


 ――確かに美しい女性だった。
 あの者は確かに魔王の器ではなく、英雄の器であった。
 だからこそ恐ろしいのだ。
 その目が、天使族を敵として認識した時が……。


「タケオ殿……」


 もう二度と戻ってくることは無いであろうタケオに、俺は溜息を吐いた。
 何故戻ってこないと分かるのか……。その理由は簡単だ。
 何故なら、タケオ殿は――【魔王の夫】なのだから……。

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