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第二章 魔王様、小学校六年生をお過ごしになる

80 魔王様、ついに小学校をご卒業される。

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――そして卒業式。
卒業生の挨拶は、無論生徒会長であった我が行った。
既に泣き出している生徒も多い中、我は淡々と代表としての挨拶を務め、席に戻って長たらしい校長の挨拶や、お偉いさん方から届いたという話を聞き流しながら過ごした。
正直、この長たらしい話に意味があるとは思えない。
取り敢えず「ありがたく受け取っとけよ」と言う事だろう。知らぬ者にアレコレ言われたところで何も響かないと言うのに、暇な大人が多い事だな。

そして、一人一人が卒業証書を貰い、保護者と生徒に拍手されながら退場すると教室へと戻った。
担任の大野先生は号泣していた。
まぁ、色々あったから大変だったと言う思いからの涙かもしれないな。
思い返せば、小学校6年生が一番濃厚な日々を送ったように思える。
男女戦争に修学旅行、陣取りゲームにイジメ問題。バレンタイン騒動もあったな。
我は人間とは長年一緒だった人間を、簡単に裏切るものだと学習した。
自分の尺度で、自分の中の歪んだ正義で、時には暇だからと言う理由で。
何と脆弱で、何と愚かな生き物だろうかとほの暗く笑った。

確かに許しがたい行為の数も多かったが、問題行動を起こす者とは、他の場所でも問題行動を起こしやすい。
そこで己のしたことが自分に返ってきて学習すればいいが、学習しない馬鹿の方が多いのだ。


「皆さんは今日! 卒業しますが! 人生とは一度きりです!! 悔いのない人生を歩んで行って貰える事を祈っています!」


そう締めくくった担任の大野先生の言葉には同意する。
リーゼント頭を揺らしながら号泣する先生に、泣く生徒たちは多かったが我と魔法使いには一切の涙なんぞ無かった。
寧ろ、やっと解放されると思ったのだ。
この、今の時代にあっていない【学校】と言うシステムから、一時的にでもだが――。

最後に記念撮影を行い、卒業アルバムを貰い、我と魔法使いはさっさと歩き始めた。
アキラは「ちょっと待って――!!」と叫びながら付いてきたが、こんな日常も中学に入れば無くなるのだろうな。


「良い卒業式だったな!」
「そうですね、無駄に長い話が多くて飽き飽きしましたが」
「僕も飽きたー。知らない人から云々言われてもありがたみもなにもないね!」
「お前達、そう言う所だぞ?」
「何がです?」
「もっとこう……感動の卒業式をさ!」
「アキラ……それを私たちに求めるのは難しい事かと」
「うん、だよな! 分かってたけど求めたかった!!」
「まぁ、アキラと中々会えなくなるのは寂しいですよ?」
「そうだね、アキラと中々会えなくなるのは寂しいね」
「本当か!?」
「長年一緒でしたからね」
「僕は途中からだけど。まぁ恋敵でもあったし。最後の夏休みでお互いに思ったこと言い敢えてスッキリしたかな」
「ははは! 二人は中学に入ったら部活はどうするんだ?」
「私たちはキャンプ部に入ろうかと思ってます」
「キャンプか――……良いな、俺家族でよくキャンプ行ってたから、俺も入ろうかな」
「良いんですか? 運動部じゃなくても」
「そこは習い事でするから問題ないよ」


どうやら中学の部活でもアキラと過ごすことが出来そうだ。
勇者が喜ぶ姿が想像できる。


「でも、それいいかもね。アキラが浮気してるような場面を見たら僕は小雪を貰えるわけだし」
「浮気はしません――」
「本当にぃ?」
「俺は想ったら一途なの! 愛だって重いの!」
「ヤダー! 重たい愛情なんてヤダー!」
「小雪はそれでいいって言ってくれたからいいの!」
「惚気やがって――!!」
「まぁまぁ、兄としてもアキラが小雪を大事にしている姿は見ておきたいですし、良いのではないですか?」
「やった!! クラスがもし別々でも部活で一緒だな!」


そう言って笑うアキラに我たちも毒気を抜かれて笑い合った。
アキラのこう言う純粋な所が我たちには心地が良い。
六年間変わらず、純粋なまま成長したアキラに尊さすら覚えるな。


「そうだ、中学が始まる前までの間、どう過ごすんだ?」
「私たちは何時も通りですよ」
「そう、何時も通り寺のお勤めしつつ掃除とか色々かな」
「そっか」
「でも、キャンプする時の料理とかは研究しておきたいですね」
「お、いいね!」
「後は簡単なキャンプの仕方とかでしょうか。その辺りを調べてみます」
「僕もやろうかな」
「それなら、ソロキャンとか調べると良いぞ。色々載ってるし編集も上手いのが多いから」
「情報ありがとうございます。アキラはどうするんですか?」
「俺は小雪とデートするんだ」
「あーはいはい、惚気乙乙! 佑一郎もなんだかんだと彼女と仲良くしてるし、僕だけだよ彼女が出来なかったのは!」
「中学に期待しょうぜ!」
「上から目線ムカつく――!」


そんな事を言い合いながらも、我たちは親に呼ばれてその後は散り散りになり、それぞれ自宅へと帰っていった。
長年歩いたこの通学路ともサヨナラで、今後は自転車に乗って通り過ぎるだけの場所になるのだろう。

中学まで向かう自転車はマウンテンバイクを買って貰った。
籠はついていないが、後ろの座席に鞄を括りつけて学校に通う予定だ。
魔法使いも同じで、ママチャリではなくそちらを選んだ。
機動性が良い方が安全だと言う同じ意見だったのだ。

何はともあれ卒業し、帰宅後作務衣に着替えると勇者から「おめでとう!」と言う言葉を貰い、三人で紅白饅頭をお茶と一緒に食べた。


「勇者は春休みの間はアキラとデートですか?」
「なななな! 何故知っている!!」
「アキラが惚気ていましたよ」
「そうだよ。もうデレデレな顔でさ」
「そそそ、そうか! デレデレだったか!!」
「キスまではいいですけど、その先はまだ駄目ですからね?」
「分かっている!」
「夜の逢引き場所は決めておいた方が良いですよ。ちなみに鐘突き堂は私が使っています」
「それも知ってる。明りのある場所にするさ」
「暗い所で何をするつもりだったのかな?」
「ふしだらな事を言うな魔法使い! アキラだってふしだらじゃない筈だ!」
「男はオオカミだよ」
「ええ、全員ね」
「アキラは例外だ!」
「そう思っていられるのも、何時まででしょうね?」
「ねー?」


こうして、勇者は玄関からほど近い明かりのついた場所での逢引きが決まった様だ。
我の所からヘタをすれば見えるんだが……まぁ、目を瞑ろう。


「さて魔法使いさん、明日は一緒に本屋にでもいきませんか?」
「本屋?」
「ええ、キャンプ系の本買いましょう」
「いいね、お互いに一冊ずつでも買えば情報集めやすい」
「そうですね」


こうして卒業式が終わった次の日から、我たちは部活に入る為に、そしてお互いの楽しみの為に情報を集めていくのであった。


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