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第二章 魔王様、小学校六年生をお過ごしになる

79 魔王様は中学時代はスローライフを楽しみたい。

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卒業式前日――。
我と魔法使いは卒業式で着る服の試着を部屋でしていた。
明日で小学生生活も終わりだ。感慨深いモノも込み上げてくる。
小学校時代は今思うと、アキラと出会ったり、勇者が襲われたり、魔法使いと一緒に暮らすようになったり、僧侶や武道家が来たりと、色々な事があった。
だが我は、勇者ともアキラとも、無論魔法使いとも上手くやってきたようにも思える。


「僕たちもついに大人の階段を登るんだね~」
「人生と言う意味では、ですね」
「魔王的にはどうなの、今回の人としての人生は」
「そうですね……中々感慨深いものもありますが、人とは脆弱だと思いましたよ。心も成長と共に昔の様に追い付いてきたという感じでしょうか」
「へー。昔から魔王は変わらないって叔父さん達からは聞いたけど?」
「そう見せているだけですよ。私だって人としての人生を歩み始めて色々学習することも多かったんですから」
「なるほどねぇ」


そう言って二人で卒業式に着るブレザー式の服を着て、可笑しくないかをチェックしていると勇者が入ってきた。
勇者は家族として卒業式に参加するらしく、我と魔法使いの明日の式の服装を見て頷いている、何故だろうか。


「感慨深いな! 二人と陣取りゲームしたことも懐かしい!」
「魔王軍と勇者軍はまだ健在ですか」
「健在だな。新たな魔王の登場を待っている所だ」
「勇者が新たな魔王を求めちゃ駄目でしょ」
「追放者が出ますよ、追放者が」
「なるほど、追放者が魔王になる展開って奴だな!!」
「勇者パーティーを追い出されたボクが魔王に成りあがるまで。みたいな小説になりそう」
「魔法使いさんが魔王軍に入るんですか? 勝ちは見えましたね」
「やめろよ、二人が揃って魔王軍でやってきたら勝ち目はないだろう?」
「戦う前に負けを認めるんですか?」
「まぁ、認めるよね、うん」
「だな!」
「まぁ、あなた方と陣取りゲームを楽しんだのも、いい思い出ですよ」


ああいう遊びは子供の姿でないと出来ない貴重な体験だろう。
特に男子にとって、ああいう遊びというのは刺激になる。如何に怪我をしないで動けるかの練習にもなるし、足の速さや機転の速さも重要視されるゲームは早々ない筈だ。


「そう言えば二人とも中学に入ったらどんな部活に入るんだ?」
「それ僕も悩んでたんだよね。出来れば魔王と同じ部活には入りたいけど」
「サバゲー部か、キャンプ部で迷ってます」
「両方お金が掛かるんだよね、それ……」
「特にサバゲー部はそうですね。大人がハマり込むと数百万単位で飛んでいくそうですし」
「だったらキャンプ部にしない?」
「そうですね、するならキャンプですかね。実用性がありますし」
「そんでさ、夏休みとかで僧侶と武道家もつれてキャンプしに行くの、楽しそうじゃない?」
「それ、一つお聞きしたいですが……料理できるの、私くらいですよね?」
「僕も覚えるさ」
「ならいいですが」
「なんだ、二人とも運動部に入ると思ってたのに」
「「せめて今世はスローライフを送りたい」」
「なるほど……」


オル・ディールでは殺伐とした人生を歩んできたのだから、今世は是非ともスローライフを送る為にも、無駄に動かねばならない運動部には所属したくはない。
そもそも剣道をすれば首を狙いたくなるし、柔道をすれば相手の骨を折りたくなる我には運動部は向かないのだと思ったのだ。
そもそも、ドジボールだのボール系もダメだった。
どうしても身体が「どう殺すべきか」と言うシフトに変わる為、絶対に向かない。
授業中ならまだしも、部活までそれになったらきっと大変なことになりそうな気がする。
スローライフ……今回の人生ではスローライフをおくるのだ。
しかし――。


「なぁ」
「「ん?」」
「スローライフって言うのは、平凡な人が送るのであって」
「「うん」」
「顔よし、頭脳良し、背丈もあって筋肉良し、運動神経抜群で大人顔負けの冷静沈着対応なお前たちには無理じゃないか?」
「「……」」
「女の子もほっとかないだろ?」
「さらばスローライフ」
「魔法使いさんは諦めるのが早いですね」
「冒険者ギルドであった絡まれとかもあるのかな……」
「学生の学び舎は冒険者ギルドだったんですか?」
「あながち間違いじゃない可能性もある」


どんな中学だ。
そもそも絡まれる理由など見当たらないが。


「他校生も同じ中学に入るだろ? 何かと争いとか起きそうな気もするぞ?」
「地域性と言う奴ですか?」
「寧ろ、他校に僕たちが屠った四天王とかいたらどうしよう」
「……ありえる、のでしょうか?」
「その時は魔王に何とかしてもらうしかないだろう?」
「それもそうだね」
「私を基準に考えて欲しくはないんですが……まぁ、その時は何とかしましょう。スローライフの為に」
「諦めてなかったんだね」
「諦めませんよ」
「まぁ、四天王がいたら間違いなく私などは狙われるだろうからな! 何とかしておいてくれ!」
「いたら、ですね。私はスローライフを送る為には努力を惜しみませんよ」


こうしてブレザーを脱ぎ何時もの作務衣に着替えると、明日に備えて早めの就寝となった。
明日は母がお寿司を取ってくれると言うし、ゆっくりできそうだ。
しかし――6年間同じクラスだった我たちもついに離れ離れになる日も来るのだろう。
そう思えば、新しい出会いも悪くないように思える。
四天王は嫌だが。

――まぁ、どうにかなるだろう。

そんな事を思いつつ、束の間の眠りについたのは言うまでもない。
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