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第二章 魔王様、小学校六年生をお過ごしになる
77 魔王様は勇者と異世界の人間について語り合う。
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二カ月過ぎた頃、狩野は学校に午前中だけと言う形で復帰をし始め、師走に入る頃には毎日学校に来て、今まで一緒だったグループと決別し、別のグループとで楽しくやっているようだ。
時折、魔法使いと話をしているようだが、その顔に憂いはない。
狩野とは違い、イジメ主犯格のグループは少々居心地が悪そうだが、それは自業自得でありなんら問題はない。
ただ残念なのは、6年間同じクラスでやってきたというのに、6年目にして信用を裏切り、いじめを行った……と言う事に関しては、彼女たちの愚かさと同時に、弱さが浮き彫りになったと言う形だろうと我は思う。
思春期ゆえか、心の安定がなされないが故なのかは分からないが、もう少し人生、心にゆとりを持たねばならないと思う。
この異世界の人間たちは生き急ぎ過ぎる。
まるで明日は死ぬかもしれないと言う冒険者のようだ。
いや、冒険者の方がまだ心にゆとりがあったかも知れない。
焦りが余裕をなくし、視野を狭くする。
それが、人間でも魔物でも、一番恐ろしい事だと再確認した。
12月にもなれば、残る小学校生活は僅かだ。
長年連れ添ったランドセルとも別れを告げる日も近いだろう。
自分のこれまでの人生で、小学校の6年間と言うのはあっという間で、それでいて濃厚であったことに変わりはない。
中学の三年間。
高校の三年間。
こちらはどうなるのかは分からないが、大人へと進み道として、また生き急ぐのだろうと思うと溜息が零れた。
「なんだ魔王、珍しく暗い顔をしているな」
「貴女は相変わらず能天気な顔をしていますね」
家で作務衣に着替え、ゆっくりとしていると勇者が部屋にやってきた。
勇者もまた、彼女たちのように、彼らのように生き急ぐのだろうか?
「魔法使いに聞いたぞ。色々大変だったな」
「私が大変と言うより、教室の空気自体が重いと言うか、張りつめているというか。それも一時的なものでしょうが居心地はわるいですね。本人たちが心の底からシッカリと反省していればよいのですが」
「無理だろ」
「貴女も魔法使いと同じことを言いますね」
「人間は何度でも失敗する。何度でも同じことを繰り返す。だが、学習能力はこちらの異世界の人間たちの方が出来が悪い」
「ほう?」
勇者から辛辣な言葉を聞くとは思わなかった為驚いていると、勇者は我の前に胡坐をかいて座った。
「こちらの人間たちは、冒険者のようにグループを作る。まぁ、それは生きる為に群れをつくる本能だろう。故に、その中でのトラブルとは外に漏れにくくもある」
「ふむ」
「異世界の人間たちは、そのトラブルを隠蔽するのがとてもうまい。私とて陰でなんと言われているか分からないくらいだ」
「勇者にも色々あるんですねぇ」
「女社会は苛烈だぞ」
そう言って思いきり溜息を吐く勇者に、少々同情してしまった。
この裏表のない勇者ですら陰で何かを言われているとしたら、こちらの異世界の人間たちの余裕のなさは余程なのだろう。
「群れに所属しない人間の方が、寧ろ強いとさえ私は思う」
「ああ、群れてる人間が言う陰キャと言う方々ですか?」
「そうだな、彼らの方がある意味賢い選択をしているとも言える。問題があるとすれば、学校と言う名のシステムだろうな。群れを強制的に作らせる仕組みは良くないと思う」
「ふむ」
「今の時代にあっていないとさえ言えるだろう。個性が大事、個人が大事と言いつつ、それを殺すために群れを作らせる。そんなもの、個性を殺しましょう。個人の尊重は二の次です。って言っているようなものだと思うぞ?」
「辛辣ですねぇ」
「私の年齢でそれを感じるくらいだ。当時成人していたからこそ、まだ大人の対応は出来るが、まだまだ子供である年頃には、その矛盾に言葉無く気づき、反発し、大人の言葉が本当なのか、信じられるのかどうかわからず焦り、結果、ほころびが出来るとも考えられる」
「まぁ、一理ありでしょうか」
「大人も勝手だ。右と言えば左、左と言えば右、コロコロと言う事が変わる。そんな大人をどうやって信じろというのだ」
「勇者もストレスが溜まっているんですね」
随分前に母が勇者のクラスの担任は頼りないと言っていたが、実際に毎日目にする勇者たちにとっては尚更頼りない大人に見えるのだろう。
「その点、オル・ディールの方がまだ大人たちはシッカリと自分を持ち、前を向いていたと思う」
「優柔不断では死に直結しますからね」
「冒険者であれば死に直結するが、冒険者でないのなら金に関わる問題だぞ」
「死活問題でしたか」
「だからこそ、異世界の人間たち、大人を含めてだが、脆弱なんだ」
此処まで辛辣な勇者も珍しいが、人間社会を両方で知っている勇者からしてみれば、そうみえるのだろう。
我としても、異世界の人間よりオル・ディールの人間たちの方が、骨があったように感じられる。
「勇者も苦労しているんですねぇ」
「全くだ!」
「今日は私たちを労うために、美味しい晩御飯にしましょう」
「うむ!」
その夜、味噌鍋を作り英気を養ったのは言うまでもなく、味噌鍋は美味しく綺麗に無くなった。
お腹が膨れればイライラも少しは落ち着く。
夕飯が美味しければ特に。
やはり、一日の〆である晩御飯は、お腹いっぱい食べて次の日に備えねば、この異世界はままならないのかも知れないと思った世知辛い異世界での夜の事であった。
時折、魔法使いと話をしているようだが、その顔に憂いはない。
狩野とは違い、イジメ主犯格のグループは少々居心地が悪そうだが、それは自業自得でありなんら問題はない。
ただ残念なのは、6年間同じクラスでやってきたというのに、6年目にして信用を裏切り、いじめを行った……と言う事に関しては、彼女たちの愚かさと同時に、弱さが浮き彫りになったと言う形だろうと我は思う。
思春期ゆえか、心の安定がなされないが故なのかは分からないが、もう少し人生、心にゆとりを持たねばならないと思う。
この異世界の人間たちは生き急ぎ過ぎる。
まるで明日は死ぬかもしれないと言う冒険者のようだ。
いや、冒険者の方がまだ心にゆとりがあったかも知れない。
焦りが余裕をなくし、視野を狭くする。
それが、人間でも魔物でも、一番恐ろしい事だと再確認した。
12月にもなれば、残る小学校生活は僅かだ。
長年連れ添ったランドセルとも別れを告げる日も近いだろう。
自分のこれまでの人生で、小学校の6年間と言うのはあっという間で、それでいて濃厚であったことに変わりはない。
中学の三年間。
高校の三年間。
こちらはどうなるのかは分からないが、大人へと進み道として、また生き急ぐのだろうと思うと溜息が零れた。
「なんだ魔王、珍しく暗い顔をしているな」
「貴女は相変わらず能天気な顔をしていますね」
家で作務衣に着替え、ゆっくりとしていると勇者が部屋にやってきた。
勇者もまた、彼女たちのように、彼らのように生き急ぐのだろうか?
「魔法使いに聞いたぞ。色々大変だったな」
「私が大変と言うより、教室の空気自体が重いと言うか、張りつめているというか。それも一時的なものでしょうが居心地はわるいですね。本人たちが心の底からシッカリと反省していればよいのですが」
「無理だろ」
「貴女も魔法使いと同じことを言いますね」
「人間は何度でも失敗する。何度でも同じことを繰り返す。だが、学習能力はこちらの異世界の人間たちの方が出来が悪い」
「ほう?」
勇者から辛辣な言葉を聞くとは思わなかった為驚いていると、勇者は我の前に胡坐をかいて座った。
「こちらの人間たちは、冒険者のようにグループを作る。まぁ、それは生きる為に群れをつくる本能だろう。故に、その中でのトラブルとは外に漏れにくくもある」
「ふむ」
「異世界の人間たちは、そのトラブルを隠蔽するのがとてもうまい。私とて陰でなんと言われているか分からないくらいだ」
「勇者にも色々あるんですねぇ」
「女社会は苛烈だぞ」
そう言って思いきり溜息を吐く勇者に、少々同情してしまった。
この裏表のない勇者ですら陰で何かを言われているとしたら、こちらの異世界の人間たちの余裕のなさは余程なのだろう。
「群れに所属しない人間の方が、寧ろ強いとさえ私は思う」
「ああ、群れてる人間が言う陰キャと言う方々ですか?」
「そうだな、彼らの方がある意味賢い選択をしているとも言える。問題があるとすれば、学校と言う名のシステムだろうな。群れを強制的に作らせる仕組みは良くないと思う」
「ふむ」
「今の時代にあっていないとさえ言えるだろう。個性が大事、個人が大事と言いつつ、それを殺すために群れを作らせる。そんなもの、個性を殺しましょう。個人の尊重は二の次です。って言っているようなものだと思うぞ?」
「辛辣ですねぇ」
「私の年齢でそれを感じるくらいだ。当時成人していたからこそ、まだ大人の対応は出来るが、まだまだ子供である年頃には、その矛盾に言葉無く気づき、反発し、大人の言葉が本当なのか、信じられるのかどうかわからず焦り、結果、ほころびが出来るとも考えられる」
「まぁ、一理ありでしょうか」
「大人も勝手だ。右と言えば左、左と言えば右、コロコロと言う事が変わる。そんな大人をどうやって信じろというのだ」
「勇者もストレスが溜まっているんですね」
随分前に母が勇者のクラスの担任は頼りないと言っていたが、実際に毎日目にする勇者たちにとっては尚更頼りない大人に見えるのだろう。
「その点、オル・ディールの方がまだ大人たちはシッカリと自分を持ち、前を向いていたと思う」
「優柔不断では死に直結しますからね」
「冒険者であれば死に直結するが、冒険者でないのなら金に関わる問題だぞ」
「死活問題でしたか」
「だからこそ、異世界の人間たち、大人を含めてだが、脆弱なんだ」
此処まで辛辣な勇者も珍しいが、人間社会を両方で知っている勇者からしてみれば、そうみえるのだろう。
我としても、異世界の人間よりオル・ディールの人間たちの方が、骨があったように感じられる。
「勇者も苦労しているんですねぇ」
「全くだ!」
「今日は私たちを労うために、美味しい晩御飯にしましょう」
「うむ!」
その夜、味噌鍋を作り英気を養ったのは言うまでもなく、味噌鍋は美味しく綺麗に無くなった。
お腹が膨れればイライラも少しは落ち着く。
夕飯が美味しければ特に。
やはり、一日の〆である晩御飯は、お腹いっぱい食べて次の日に備えねば、この異世界はままならないのかも知れないと思った世知辛い異世界での夜の事であった。
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