【中学突入!】転生魔王は寺に生まれる

うどん五段

文字の大きさ
上 下
81 / 107
第二章 魔王様、小学校六年生をお過ごしになる

76 魔王様達は、突如始まったイジメ問題に直面する④

しおりを挟む
――魔法使いside――

「謝られても困るって。許す気になれないって答えた」
「許さなくていいじゃん」
「うん」
「一生、狩野もアイツらを見下して生活すればいいよ」


僕は、にこやかに、そう答えた。
けれど、狩野にとっては衝撃的だったようで、目を見開いて僕を見ていた。


「見下して、良いと思う?」
「反対に聞くけど、なんで見下しちゃいけないって思うの?」
「……」
「自分がされたことを相手にしてるような気分になるから?」


僕がそう問いかけると、狩野は頷いた。
何と言うか、甘い考えだ。
これがオル・ディールなら狩野は魔物に殺されなくても、人間に殺されているだろうな。


「自分がされて嫌な事は相手にしちゃいけないって……」
「でも許せないんでしょ?」
「うん」
「報復しないだけ狩野は偉いよ。僕なら報復するね、徹底的に」


笑顔で告げると狩野は「まぁ、恵くんだったらそうかな」と苦笑いしていた。


「こういう事はさ、白黒ハッキリさせておいた方がいいんだよ。イジメられる方が悪いなんてことは無いんだから。あいつ等がしたことは、下衆の極みだよ」
「うん」
「下衆って、死ぬまで下衆だと思うんだよね。これ僕持論」
「うん」
「狩野はさ、優しすぎるんだよ。僕から見れば綺麗すぎるくらいだね」
「そう……なのかな」
「僕から見ればね。綺麗だから汚れたくないというより、綺麗な心根があるからイジメた相手の事は許したくないけど、もう関わりたくない。違う?」
「うん」
「関わらなくていいんだよ。下衆は下衆のままなんだから。後悔しました~反省しましたーって言っても、結局人間の本質、根本って変わらないからね」
「うん」
「中学でも同じこと繰り返すじゃないの?」
「そう……だろうね」
「で、自分が傷つけられる側になってやっと気づくタイプの下衆ってさ、滑稽だよね。僕の言ってる言葉は辛辣かもしれないけど、事実だと思うよ」
「うん」
「それに、僕も今回の事に関しては怒ってるしね」


そう、僕は怒っているんだ。
安易に人を傷つけて笑う行為は許される事ではない。
大嫌いだ。
そんな僕を見た狩野は、やっと何時ものように笑った。


「怒ってくれる人がいるって、嬉しいね」
「そう? 祐一郎もアキラも怒ってたよ。祐一郎なんて何て言ったと思う? 『下衆と同じクラスで6年間も一緒だったと思うとゾッとしますね』って言ってたからね。アキラはアキラで『あいつらの頭可笑しいんじゃないのか?病院で診てもらった方がいいんじゃないか?』って別のベクトルで心配してたよ」
「あはははは!」


想像が出来たのだろう、狩野は笑い始めた。
少しは心が楽になったんだろう。笑顔が少しだけ増えた気もする。


「ま、そんな訳だから。狩野はもう少し学校休んで、アイツらを追い込むと良いよ」
「私が学校を休むことで、あの人たちが苦しむの?」
「そりゃそうさ。来なくてキャッキャってのはバレてないからこそ出来る事であって、親もクラス全員にもバレてる連中の場合は、肩身の狭いツラーイ一日が毎日待ってるのと一緒だからね。だから狩野は好きなだけ休んで、シッカリとアイツらにお灸を据えればいいよ」
「そっか」
「んで、たまに学校に来て、早退して、たまに学校に来て、早退してって繰り返しておけばOK。徐々に学校に居る時間をジワジワ増やしておくのもお勧めするよ」
「そうなの?」
「追い込むんだよ。ある種の見せしめかな」
「恵くんは結構露骨だね」
「嫌いなものは嫌いだから。僕はそう言う人間だよ」
「でも、そう言うのもアリかもしれないって思い始めてる。私だけ辛い思いをするわけじゃないもの」


少しだけスッキリした表情を見せた狩野に、僕は立ち上がると背伸びをした。


「後一か月休んでさ、後はジワジワ学校に来始めればいいさ。いる場所がないなら、どうぞ僕の隣へ」
「他の女子に今度はイジメられそうね」
「それはないんじゃない? クラス全員、毎日僕が狩野の家に行ってることは知ってるわけだし」
「それもそうかな」
「卒業までもう少しなんだしさ、折角こんなことが切っ掛けで仲良くなったんだし、一緒に卒業しようよ」
「そうさせて貰うわ」


そう言うと狩野も立ち上がり、スカートを叩いて砂を払った。
表情も幾分スッキリしているし、これなら少しずつ心の傷も治り始めるだろう。


「毎日来てくれてたのが恵くんで良かった」
「そりゃどうも」
「明日も話せる?」
「話せるよ」
「じゃあ、明日も待ってる」
「ん、明日も話そう」


それから一か月、狩野の許へ行っては他愛のない会話もしながら過ごし、狩野は徐々に元気になっていった。
数回女子からは電話もあったようだけれど、イジメをした女子ではなかったそうだ。
他の女子も少しずつ狩野の事を心配して電話を掛けてくるようになっていた。
そうすると、狩野も徐々にだが元気になっていき、午前中だけ学校に来ることも増えてくるようになった。
早退するのは理由が理由なだけに、先生からNOが出ることは無かった。
イジメた側は、居心地がわるそうにしていたけれど自業自得。
狩野は別の女子グループに入ることができ、それから少しずつ学校に居る時間を増やしていき、僕と狩野はよく一緒に話す間柄にもなった。
まぁ、男子と女子とじゃ話す間柄になっても、会話の内容が続かない部分は致し方ないのかも知れない。
けれど、狩野と僕との距離は随分と近いものになった。


「恵くん」
「どうしたの狩野」
「私も恵くんみたいな人間になれるかしら?」
「無理じゃない? だって狩野は綺麗すぎるもん」


――狩野は、やっぱり狩野だった。
イジメられて不登校になっても、多少暗さは残っても、やっぱり心根は綺麗なままだった。
それは一つの奇跡であることに気づくのは――ずっと後の事。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

猫のお菓子屋さん

水玉猫
絵本
クマのパン屋さんのおとなりに、猫のお菓子屋さんができました。 毎日、いろんな猫さんが、代わる代わるに、お店番。 お店番の猫さんが、それぞれ自慢のお菓子を用意します。 だから、毎日お菓子が変わります。 今日は、どんなお菓子があるのかな? 猫さんたちの美味しい掌編集。 ちょっぴり、シュールなお菓子が並ぶことも、ありますよ。 顔見知りの猫さんがお当番の日は、是非是非、のぞいてみてください!

桃の木と王子様

色部耀
児童書・童話
一口食べれば一日健康に生きられる桃。そんな桃の木に関する昔話

お姫様の願い事

月詠世理
児童書・童話
赤子が生まれた時に母親は亡くなってしまった。赤子は実の父親から嫌われてしまう。そのため、赤子は血の繋がらない女に育てられた。 決められた期限は十年。十歳になった女の子は母親代わりに連れられて城に行くことになった。女の子の実の父親のもとへ——。女の子はさいごに何を願うのだろうか。

忠犬ハジッコ

SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。 「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。 ※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、  今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。  お楽しみいただければうれしいです。

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

昨日の敵は今日のパパ!

波湖 真
児童書・童話
アンジュは、途方に暮れていた。 画家のママは行方不明で、慣れない街に一人になってしまったのだ。 迷子になって助けてくれたのは騎士団のおじさんだった。 親切なおじさんに面倒を見てもらっているうちに、何故かこの国の公爵様の娘にされてしまった。 私、そんなの困ります!! アンジュの気持ちを取り残したまま、公爵家に引き取られ、そこで会ったのは超不機嫌で冷たく、意地悪な人だったのだ。 家にも帰れず、公爵様には嫌われて、泣きたいのをグッと我慢する。 そう、画家のママが戻って来るまでは、ここで頑張るしかない! アンジュは、なんとか公爵家で生きていけるのか? どうせなら楽しく過ごしたい! そんな元気でちゃっかりした女の子の物語が始まります。

見習い錬金術士ミミリの冒険の記録〜討伐も採集もお任せください!ご依頼達成の報酬は、情報でお願いできますか?〜

うさみち
児童書・童話
【見習い錬金術士とうさぎのぬいぐるみたちが描く、スパイス混じりのゆるふわ冒険!情報収集のために、お仕事のご依頼も承ります!】 「……襲われてる! 助けなきゃ!」  錬成アイテムの採集作業中に訪れた、モンスターに襲われている少年との突然の出会い。  人里離れた山陵の中で、慎ましやかに暮らしていた見習い錬金術士ミミリと彼女の家族、機械人形(オートマタ)とうさぎのぬいぐるみ。彼女たちの運命は、少年との出会いで大きく動き出す。 「俺は、ある人たちから頼まれて預かり物を渡すためにここに来たんだ」  少年から渡された物は、いくつかの錬成アイテムと一枚の手紙。 「……この手紙、私宛てなの?」  少年との出会いをキッカケに、ミミリはある人、あるアイテムを探すために冒険を始めることに。  ――冒険の舞台は、まだ見ぬ世界へ。  新たな地で、右も左もわからないミミリたちの人探し。その方法は……。 「討伐、採集何でもします!ご依頼達成の報酬は、情報でお願いできますか?」  見習い錬金術士ミミリの冒険の記録は、今、ここから綴られ始める。 《この小説の見どころ》 ①可愛いらしい登場人物 見習い錬金術士のゆるふわ少女×しっかり者だけど寂しがり屋の凄腕美少女剣士の機械人形(オートマタ)×ツンデレ魔法使いのうさぎのぬいぐるみ×コシヌカシの少年⁉︎ ②ほのぼのほんわか世界観 可愛いらしいに囲まれ、ゆったり流れる物語。読了後、「ほわっとした気持ち」になってもらいたいをコンセプトに。 ③時々スパイスきいてます! ゆるふわの中に時折現れるスパイシーな展開。そして時々ミステリー。 ④魅力ある錬成アイテム 錬金術士の醍醐味!それは錬成アイテムにあり。魅力あるアイテムを活用して冒険していきます。 ◾️第3章完結!現在第4章執筆中です。 ◾️この小説は小説家になろう、カクヨムでも連載しています。 ◾️作者以外による小説の無断転載を禁止しています。 ◾️挿絵はなんでも書いちゃうヨギリ酔客様からご寄贈いただいたものです。

四尾がつむぐえにし、そこかしこ

月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。 憧れのキラキラ王子さまが転校する。 女子たちの嘆きはひとしお。 彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。 だからとてどうこうする勇気もない。 うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。 家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。 まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。 ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、 三つのお仕事を手伝うことになったユイ。 達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。 もしかしたら、もしかしちゃうかも? そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。 結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。 いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、 はたしてユイは何を求め願うのか。 少女のちょっと不思議な冒険譚。 ここに開幕。

処理中です...