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第二章 魔王様、小学校六年生をお過ごしになる

74 魔王様達は、突如始まったイジメ問題に直面する②

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――魔法使いside――


この異世界にきて、色々な事を経験し、学んだことがある。
オル・ディールとは違う、オル・ディールに無い人間性。
この異世界では、人と言うのは簡単に「死にたい」「死ぬ」と口にするのが、僕にとっては衝撃的な事だった。
何かあれば「死ぬ」、何かあれば「死にたい」。
オル・ディールでは死とは隣り合わせの世界だった。

一人では生きていけない。
冒険者になればいつでも死と隣り合わせの生活。
今日は生きているかも知れない。
けれど、明日は死んでいるかもしれない。
――殺されているかもしれない。


そんな生活を想うと、この異世界の死はとても軽く感じられた。
ところがだ。
この異世界で、本当に死にたいと思う人間もいることを僕は知った。
子供でも思う程の死は、この世界で多いのは【イジメ】による死を願う事だった。
人権を潰され、嘲笑われ、友と思っていた人間に裏切られ、表ではニコニコしながら裏では人を簡単に殺す世界。
正直、この異世界は生きづらい世界だと思った。

人間の裏表が激しい世界ともいえる。

結局、自分たちのイライラや持て余した感情のハゲ口は、他人を攻撃することで発散するような人間が多いのがこの異世界でだと気が付いたとき、異世界の人間の脆弱性を強く感じた。

必要な時にだけすり寄って。
要らなくなったら切り捨てて。
毎日がソレの繰り返し。

決まった仲間内ですらソレだからこそ、質が悪い。
特に女子にその特徴は良く見られた。
皆が均等でなければならないような緊迫感。
少しでも違う事をすれば一斉攻撃の後、排除される世界。


この異世界の脆弱性は、信じられないものではあった。
故に、自分が強くなければ、割り切らねば強くは生きることは出来なかったのだろう。
けれど、誰だって強くはない。
踏みつけられれば痛いし、攻撃されれば傷を負う。
それが分からない連中の多さと、負けた側へのフォローが一切ないこの異世界は、オル・ディールよりも生き辛い。


そんな事を思いつつ自転車を走らせ狩野の家に到着すると、庭で畑仕事をしていた狩野のお婆さんを見つけることが出来た。
女子が来たと思ったお婆さんは一瞬顔を顰めたけれど、僕の許にやってきてくれた。


「女子は寄こさないで欲しいって言ったんだけどね」
「僕は男だよ」
「あらま、アンタみたいな可愛い顔の男の子が居るとは思わなんだ」
「これから狩野に渡す物は僕が持ってくることになってるから、狩野に恵くんが持ってくるって言ってくれたら多分伝わると思う」
「ははは、名前まで女の子みたいだねぇ」


そう言ってお婆さんは溜まっていたプリントを貰い、深く溜息を吐いた。
言いたい事は解る。
何故、自分の孫娘がこんなことにと思っているのだろう。


「狩野は」
「塞ぎ込んでるよ。暫く誰にも会いたくないってね」
「そうですか。気が向いた時でいいから僕と適当な話でもしようって伝えておいてください」
「ありがとね、恵くん」
「いえいえ、元々馬鹿をやらかした女子が悪いんですし、狩野は何も悪くはないって思ってるから」


そう――狩野は悪くない。
ただ、クラスの女子の中では美人に分類されていて、少し大人しい女子だっただけ。


「狩野は、何一つ悪くない」


最後のポツリと呟くように口にすると、お婆さんは顔をクシャクシャにして僕の手を取った。
続けて出た言葉は「ありがとう」だった。
そう、イジメている人間にはわからない。
イジメているその人間にも、自分と同じように家族が居ることを。
その家族さえも傷つけていることを知らない。
脳みそが足りない人間が多すぎるんだ。

この異世界の人間は――考えが足りない。思考が足りない。今さえ良ければいいという安楽的な考えが多すぎる。
それが嫌になる……。


その後、僕は自転車に乗って寺へと戻ろうとした時、二階から狩野の姿がちらりと見えたけれど、表情まではわからない。
ただ、お婆さんに大きく手を振って僕は帰った。


――今さえ良ければ。
それは後々、大人になっても自分を苦しめる有刺鉄線のようなもの。
それに気が付く人間は、そう多くない事を僕は知っている。


「この異世界は、甘え腐った人間が多いなぁ」

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