【中学突入!】転生魔王は寺に生まれる

うどん五段

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第二章 魔王様、小学校六年生をお過ごしになる

70 魔王様達は、小学校最後の夏祭りに挑まれる③

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――アキラside――


――小雪との初めてのデート中、全体放送が流れた。
名前は出てこないが、多分母ちゃんが言っていた長谷川の事だろう。
やっぱり戻ってきてたのか……。


「なんだ? 迷子のお知らせか?」
「ははは! 懐かしいな、あの時は小雪ちゃんが迷子になったんだっけ」
「今の私は迷子にはならないぞ!」
「そうだな!」


繋いだ手をワザと見せると小雪は顔を赤くしてプイッと顔を反らした。
そんな所も可愛くて、できれば両想いで合って欲しいとずっと思っている。
――いや、自分の想いが伝わらなくとも、ずっと守っていく女の子だと思っていた。

数年前の長谷川事件。
あの時、まだ幼かった小雪は川に投げ捨てられ溺れていた。
それに気づいて、川に飛び込んで必死に小雪を助けたのは、間違いなく自分だった。
そのあとの事は必至で、小雪に怪我一つ追わせたくなくて、安心させたくて笑ってあげるのが精いっぱいだったあの頃の自分。
今でも夢に見る……小雪の大粒の涙と絶望した顔。
そうさせたのは長谷川なのか、自分なのかは分からない。

守りたかった少女を守れなかった。
結果、それだけがずっと自分の中にくすぶって月日が流れた。
でも、無駄に月日を流させただけではなかった。
あの時から自分を鍛えはじめ、合気道と空手を必死に習った。
本当は柔道も習いたかったけど、親の金銭面から今は断念している。
――中学になったら習わせてくれると約束した親には感謝してしきれない。

俺の習い事は、大切な人をもう傷つけさせない為の習い事だ。
実践向きの習い事をすることで、いざという時は守り切ろうと――せめて時間稼ぎ位は出来るようになろうと必死に食らいついた。
小学生対抗の全国大会で三位にはなったけれど、満足何て出来やしない。
いつか、大人部門になったときには優勝したいと思っている。
――この小さな手をした彼女を守る為にも。

二人祭りをそこそこ堪能すると、川沿いを歩いた。
嫌な思い出が蘇るところではあるが、小雪の方から誘ってきたのだ。
きっと小雪には当時の記憶が戻っているんだと思うと、守れなかったあの時の事を謝罪するには丁度いいんだと、振られる前提でついていった。


「なぁアキラ」
「ん?」
「あの時、駆けつけてくれたアキラの事は今でも覚えているんだ」
「……そっか」


――守れなくてごめんね。
そう続きを口にしようとした時、小雪は立ち止まり俺に抱き着いてきた。
思わぬ事で一瞬動揺し、続きの言葉を言えないでいると小雪は強く強く俺を抱きしめてくる。


「川に投げ飛ばされて死ぬかと思った時、アキラが助けてくれた。瓶で殴られると思った時アキラが盾になってくれた……沢山……沢山の血が、今でも怖い」
「小雪ちゃん……」
「アキラを失うと思ったら……怖くてどうにかなりそうだったんだっ」


思わぬ言葉に目を見開き、小さく震える彼女を見ると、もっともっと、強く抱きしめられた。
殺されそうになった事より、俺が死ぬかもしれないって怖かったのか?
いいや、自分が殺されかけた方が怖いに決まってる。
そう思って口を開いた瞬間、小雪は顔を上げて涙を流しながら俺を見た。


「当時の私は幼かったから、大人の人たちがアキラに応急手当をしているのを見るしか出来なかった。アキラが救急車で運ばれて、その間も私は何もすることが出来なかった! 私にも守る力が欲しい……アキラが目を覚まして会った時、私は決めたんだ! アキラが傷ついても助けることが出来るように、私は将来看護師になる!」
「――っ」
「まだ血を見るのは怖い……でも、アキラを失う事の方がもっと怖い。アキラが私を守ると言うのなら、私にも守らて欲しい!!」
「小雪ちゃ」
「アキラの事が好きだ!!」


ドクンッと……心臓が撥ねた音がした。
自分から失恋決定だと、此処に案内されながら思っていたのに……大事な彼女から好きだと言われて顔が真っ赤になるのが分かる。

嬉しい。
恥ずかしい。
もどかしい。
抱きしめたい。

煩い心臓を無視して、俺は思いきり小雪を抱きしめた。
ポロポロと涙が零れた理由は解らない。
ただ、ただ本当に嬉しかった。
情けなかったあの当時の自分を、弱かった当時の自分を今、大声で叫んで褒めてやりたい気持ちが溢れてくる。

――よくやったぞお前。
――やっぱり守り切ることが出来ていたんだな。
――そして、そして……。


「小雪ちゃんは……強い子だなぁ」


あんな怖い目にあったのに、自分の事より俺の心配をしてくれるなんて……。
怪我が治った時、もう小雪に会う事をやめた方が彼女の為じゃないかとずっと思っていた。
でも、それが出来なかった。
その時にはもう、小雪の事が好きになっていた。
幼いが故に我慢何て出来なくて、祐一郎の友人であることを良い事に、彼女の笑顔を見たくて――。


「俺もずっとずっと前から……好きだったんだよ?」


震える声で、やっと言える。
やっという事を許してくれるだろうか?
ずっとずっと前から好きだったと伝えても、大丈夫なんだろうか。
その答えは目の前にある。
大輪の花のように、涙を零しながら嬉しそうに微笑む小雪の笑顔。
まだまだ幼い少女の筈なのに、どこか大人の女性のように感じて……ぎゅっと抱きしめた。


「私の方が好きだった」
「俺の方が好きだったよ」
「じゃあ両想いだったんだな」
「そうだね」
「もう、離れてやれないからな」
「離さないよ」
「浮気も許さないからな」
「小雪が可愛いのに浮気なんて出来ないよ。恵と祐一郎に殺されるよ俺」
「ははは! それもそうだな!」


泣いているのに笑って。
泣いているのに嬉しそうに笑ってる小雪が、余りにも健気で、余りにも愛おしくて、頭が沸騰してどうにかなりそうだった。


「キスくらいしてくれても構わないんだぞ?」
「そっ! それはまだ早い!」
「何故だ? 兄さんは千寿とチュッチュしてたぞ?」
「それは頬にだろう?」
「なら頬なら許してくれるんだな!」
「うわっ!」


腕に回していた手を急に離され、両頬を掴まれるとグイッと近づけられる。
そして頬に柔らかくて気持ちの良い感触が落ちてくると、呆然としながら小雪を見た。
頬を真っ赤に染めて上目遣いで俺を見てくる小雪に、心臓はもう破裂寸前だ。


「もう、許されるんだろう?」
「なにが……」
「両想いなら、付き合ってくれるんだろう?」
「付き合いたいよ。付き合って良いの?俺達」
「私が付き合いたいって言ってるんだ。恋人になりたいって言ってるんだ。アキラは恋人になりたくないのか?」
「なりたいです!」
「なら、今日が記念日だ! 嫌な事を上書きする良い日になったな!」


数年前、小雪が襲われてから、今年やっとここに二人でやってきて、新しい記念日に。
小雪の言う嫌な事を上書きと言う言葉に、俺はやっと自分らしく笑うことが出来た。


「じゃあ正式に言うよ」
「ん?」
「俺と恋人になってください」
「無論だとも!」


俺の胸に飛び込んでくる小雪が可愛すぎる!
俺だけの小雪だ。
他の誰にも渡さない。
アキラにだって渡せなかったんだ。
俺だけの、特別な小雪なんだ……。


「小雪ちゃん」
「ん?」
「キスは小雪ちゃんが中学生になったらね?」
「ほほう? アキラは我慢できるのかな?」
「我慢して見せるさ」


――自信はないけども。
とは、流石に口には出さず小雪の額にキスを落とした。
途端、顔を真っ赤に染める小雪に俺は微笑み、優しく抱きしめたその時だった。



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