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第二章 魔王様、小学校六年生をお過ごしになる

69 魔王様達は、小学校最後の夏祭りに挑まれる②

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「え! 長谷川くんが!?」
「不確かな情報ですが少々心配ですので、デートはまた今度でも宜しいでしょうか?」
「それは仕方ないよ。小さい子二人も来てるんだもの。恵くんも一緒に行きましょう?」
「そうさせて貰うよ」
「「尊い……」」


聖女を迎えに行き、事の内容を伝えると直ぐに了承してくれた。
尊い……久しぶりのデートが無くなったのに、こうして子憎たらしい……いや、幼い子供を守ろうとする姿がまた愛おしいと感じる。
そして双子である僧侶と武闘家が聖女を見て「尊い」と言っているのは理解できる。
我の将来の妻は尊いのだ。


「初めてお会いしますわね。わたくしは葉月と申します」
「ワシは皐月じゃ」
「初めまして、私は心の寿と書いてシンジュと言うの。宜しくね」
「「名前まで尊い」」


こうして、計5人で夏祭りを回る事になり、そう遠くない場所には僧侶と武闘家の家から来てもらった護衛のヤーさんが付いて来てくれる。
更にありがたい事に、バレない様に勇者とアキラの所にも付いて来てくれているらしく、後で二人にリンゴ飴でも奢ってやろうと決めた。
防御すべき事なら強くした方が、効率がいい。
ましてやこの異世界では、何が起きるか解らないのだから。

しかし――。


「心寿の浴衣姿も美しいですね」
「ありがとう。夏らしい浴衣が良かったんだけど、子供過ぎないかしら?」
「紺に美しい金魚と波紋、素敵ですよ」
「ゆうちゃんの着流しも素敵よ。恵くんのはなんというか……色気ね!」
「色気……」
「エンジ色は花魁の中に着る肌着に近い色じゃろう? 色気じゃよ色気」
「和の色気とは素晴らしい破壊力でしてよ?」
「男の僕に何を求めてるのさ」
「中世的な顔でエンジの着流し、一部の男女問わず萌えるのではありませんか?」
「そんな萌えは欲しくなかったよ」


そんな話をしながら徒歩15分先にある夏祭り会場へと入ると、既に出店は大賑わい。
僧侶と武闘家は夏祭りと言うのは初めての体験らしく、あちらこちらを見ては興奮していた。
また、アキラたちに護衛を付けてくれたお礼と称し、まず僧侶が欲しがった綿あめをプレゼントし、武闘家が欲しがったリンゴ飴をプレゼントするとガリガリ音をたてて食べていた。
可笑しい、リンゴ飴は舐めるものではなかっただろうか。
あっという間にリンゴすら食べつくした武闘家に、少しだけ疑問が沸いたが放っておくことにする。

それよりも、周囲を見渡しても長谷川らしき人物の姿は見当たらない。
やはり勘違いの情報だったのだろうか?
一応護衛してくれている裏社会の方々には、当時の長谷川の写真を見せている為、何かあれば動いてくれるだろうが、何せ人が多いと心労も絶えない。
とは言え、初めての夏祭りを堪能している双子を考えると、ギリギリまで心労は絶えるべきだろう。


「射的に金魚すくいにくじ引き!」
「お好み焼きに焼きそばにイカ焼き!」
「「最高(ですわ!)」」


双子はそんな我の心労など知りもせず、本当にあちらこちら見ては興奮しているようで、時おり屋台のおじさんからオマケを貰ったりして楽しんでいる。


「お祭りってついつい高いのに色々買っちゃいそうになるよね」
「わかるわ。この時にしか食べれないって言われるとお財布が緩むわね」
「気持ちはわかりますが、かき氷が一つ500円と言うのはボッタくり以上の何物でもありませんよ」


屋台を冷かしながらも、各自好きなものを多少自重しながら食べ歩く中、祭りに参加中といういで立ちの護衛が我に走り寄った。
耳元で「居ましたよ」と告げると、視線の先を同じように見つめ、当時よりも大きく育った……と言うか、あの当時より荒れた様子の見た目の長谷川がこちらを睨みつけているのが分かった。


「いましたね」
「どうします?」
「少し近くにいて護衛を。私たちに何かあれば即捕えてください。離れて行った場合は追いかけてください。何かをする素振りがあれば多少乱暴にして構いません」
「了解です」


指示を出して隣の聖女と魔法使いの袖を引っ張ると、それが合図にしていた為ハッとしたようだ。
――近くに居る。
それが緊張をもたらすことは分かっていたが、妹に扮した僧侶に目を配らせながら長谷川の様子を目の隅で確認する。

苛立ち、怒り、今にもこちらに喧嘩を吹っ掛けてきそうな雰囲気の長谷川に、我は気づかぬふりをして良い兄を演じる。
良い兄を演じ始めると双子も理解したようで、僧侶は勇者の喋り口調に、武闘家は僧侶へ友達口調で盛り上がり始める。
流石にこの人数に突っ込んでくる事はあまり考えられないが、人間と言うのは何処で何が起きるか解らない。
警戒を強めつつも聖女と仲良くもしていると、大きく舌打ちをして走り去っていった。
すると、長谷川の後ろを二人いるうちの一人の護衛がついていくように走り出し、後は任せることにしたのだ。


「脅威は去ったようですね。護衛の方が追いかけていきました」
「あら、でもあちらの方角は確か……」
「ええ、アキラと小雪がデートしている場所ですね」
「本当に大丈夫なの!? 今すぐ助けに行った方が、」
「派手に私たちが動くより、裏社会の護衛の方の方が場慣れしています。任せた方が良いでしょう。何よりこの双子専用の護衛ですよ。腕は確かです」
「ワシらの護衛の奴らはな、爺様が特に気に入っている腕っぷしの強い奴を寄こしてくれておるんじゃよ」
「長谷川くらいなら首の骨を折るのは赤子の首をひねるより簡単かもしれませんわね」


長谷川、大丈夫だろうか。
反対に長谷川の心配を思わずしたのは我だけではあるまい。


「安心せぇ。多少手ひどくやったところで骨折が数か所あるか……」
「痛みと出血で動くことが出来ないままその辺に転がってるかのどちらかですわ」
「「「多少の手酷くがソレ」」」
「それがワシらのような裏社会の人間の世界じゃからのう」
「まだ生易しいやり方と思いますけれど……?」


この僧侶と武闘家、殺伐とした生活を送り過ぎた弊害でもでてるんじゃないだろうか。
そんな家の婿にと言われていた我と魔法使い。
よくぞ逃げ切れたと褒め合いたいところだ。


「何にしても、長谷川が居たことを教えに行かねばなりませんね。寄合所に行きますか」
「そうだね、放送流してくれれば大人たちも動くだろうし」
「でも、何の為に戻ってきたのかしら。あんなにグレて」
「家出でもしたんでしょう。ですが私たちの年齢ではまだ保護者が必要ですからね。そこは徹底して頂くか、少年院にでも入って頂きましょう」


こうして我たちは人波を避けつつ寄合所まで向かい、長谷川を見たと言う情報を伝えると、慌てた寄合所の方々及び、警備関係の若い男性までもが立ち上がり一気に動きだした。
向かった先は多分――あの事件が起きた場所。
そう告げると、勇者たちには悪いが長谷川を捕まえてからイチャイチャして頂きたい。
流れる緊急放送。
走り出す警備関係者。
それが――あの事件の忌まわしさ、そして今も尚、語り継がれる事件なのだ。


「後は大人に任せましょう」
「小雪が心配じゃがな」
「大丈夫ですよ、仮に長谷川が相当な手練れだったとして、強さは互角かと」
「何故そう言い切れる」


武闘家の言葉に我が答えを悩んでいると、魔法使いがヒョッコリ顔を出して答えた。


「だって、アキラは空手と合気道の小学生部門の全国大会三位だし、魔王ともよく戦ってるよね?」
「ええ、早朝ですが。強さは五分五分ですね」


朝の運動は幼い頃からの我らの日課。
その時間帯はまだ布団の中の僧侶と武闘家たちは知らなかったようだ。


「もし仮に長谷川が全国大会優勝者並みだとしたら問題ですがね」
「それはないんじゃないかなー」
「私もそれは無いと思うわ。あったら人ゴミかき分けて私達に攻撃してるわよ」
「まぁ、そういう事です」


そう言いながら我らは新たに屋台飯を買いながら祭りを堪能していたその頃――。



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