【中学突入!】転生魔王は寺に生まれる

うどん五段

文字の大きさ
上 下
72 / 107
第二章 魔王様、小学校六年生をお過ごしになる

67 魔王様は小学6年の最後の夏休みを遊び倒したい⑪

しおりを挟む
校舎の屋根にのぼったことは、言うまでもなく――コッテリと担任が保護者達に叱られた。
夏休み明けはきっと先生の修羅場だろうとは思うが、我たち六年生にとっては、最高の思い出となったのは言うまでもない。

校舎の屋根から見える景色に、不覚にも胸が弾んだ。
異世界に来て、この校舎から巣立って、また大人になって……そう言う未来を思い描くのは、人間だからだろうか?
魔王だった時代では到底考えられぬ充実感。
人間とは――こんな生き物だったのだなと改めて理解出来た。

さて、陽も落ちる頃になると、農家の家からスイカの差し入れが沢山あった。
やりたい人は存分にスイカ割りをして良いという事で、名乗りを上げたのはアキラだった。


「アキラ、この前寺でスイカ割りをしたじゃありませんか」
「いいや祐一郎。あれはスイカ割りじゃなく、スイカを木刀で斬ったんだ。本当のスイカ割りを俺はしたい」
「失礼ですね、あれから暇を見てコンクリートが切れないタイプの木刀を作っているというのに」
「お前は無駄に精密な木刀を作ろうとするなぁ……」


とは言え、スイカ割りをしたいというアキラを止めることは野暮と言うもの。
皆で集まって、右だ左だ真っ直ぐだ、と囃し立て、何とか割れたスイカにアキラは満足げに微笑んだ。


「潰れているじゃないですか。やはり木刀の方が綺麗で美味しいのでは?」
「お前の基準は良く解らないが、スイカ割りってのはこういうモノを言うんだぞ」
「祐一郎に新しい常識を教えていくのはちょっと至難の業だよね。ぶっ飛んでるから」
「ぶっ飛んでるとは失礼な」


そう言いつつもスイカを食べると夏の味がする。
幼少期から食べているスイカの思い出が色々と思い出され、クワガタの餌にしただの、種を庭に飛ばしまくっただの、平和な会話が続いている。
スイカを食べ終われば、もう夏休みのイベントは終わりだろうか。
陽も暮れてきて解散するには丁度いい時間ではあるのだが――。
そう思っていると、暗がりからシュッと光が見えたかと思えば、ロケット花火が空で破裂する音が聞こえた。


「お前たち――! 最期のイベントは花火だ! 一人一本ずつ好きな花火を取れ!」
「先生――! 花火がショボイでーす!」
「打ち上げ花火がありませーん!」
「線香花火も花火は花火だ! 予算の都合だ文句を言うな!」


どうやら自前で花火を用意したらしく、クラスメイト一人一本の花火を手渡された。
種類は様々、ロケット花火に煙玉、ねずみ花火に爆竹、そして――線香花火。
普通の花火は早々に男子が奪っていき、女子は線香花火が主になったようだ。
遠くでネズミ花火に火をつけて放り投げたのだろう。男子の悲鳴と雄叫びが聞こえてくるし、空ではロケット花火の破裂音が鳴り響いている。
煙玉を用いた男子の遊びと、女子による線香花火を使った乙女の話。
色々な思いが詰まった、小学校最後の夏休みの思い出作りだ。


「俺も線香花火しか取れなかったや」
「僕もだよ」
「私も線香花火です。適当にパチパチしますか」


そう言って蝋燭から線香花火に火をつけると、少し移動してから座り込み、パチパチと光る線香花火を見つめた。
短くも、長くも感じられる時間……我たちは無言で花火を見つめ、ポトリ、また一つポトリと地面に落ちる炎を見つめ、大きく息を吸っては吐いた。
思い起こせば、学生時代と言うのは花火に似ているのかも知れない。
一生懸命燃えて、終わりは直ぐにやってくる。


「祐一郎がドライフラワーみたいな考えしてる気がする」
「奇遇だね、僕も思ってたよ」
「失礼ですね、枯れてもいませんしドライフラワーにもなってませんよ」
「じゃあ何を考えてたんだ?」
「内緒です」


そう言って立ち上がると、線香花火を花火専用バケツに入れて処理し、各々家路へと帰ることになった。
無論、担任には帰る旨を伝えなくてはならないが、それは楽しんだ者の義務として必要な事だろう。
こうして、アキラとも別れて寺に帰り、金突き堂で魔法使いと会話する機会が出来た。
今日の出来事を少し聞くことが出来たが――。


「不毛な片思いをしてたことに漸く気が付いたよ」


そう言って笑っていた。


「あーあ、僕も素直じゃないなー」
「元から素直ではありませんがどうしたんです」
「嫉妬だよ、嫉妬。魔王は寺の跡継ぎだから仕方ないとしてさ。アキラが将来の夢を持って頑張ってることなんて知らなかった」
「まぁ、言葉にして言う事ではありませんからね」
「だから嫉妬した。僕も将来の夢をシッカリと練りたい」
「そうですか、良い事では?」
「それに、魔王やアキラに堂々と言える職業に就きたい」
「住職に警察官と遜色ない職業ですか、大変ですね」
「でも、良い目標が出来た。やっぱ目標あると違うよ」


そう言って真っ直ぐ背伸びをして前を見据える魔法使いに、我はフッと笑みを零し、世闇に響くセミの声を聴いていた。
魔法使いが将来どんな夢を持つのか、どんな職業に就くのかは分からない。
だが、未来に進みたいと言う気持ちは――誰にも馬鹿に出来る事ではない筈だ。


「期待してますよ? 魔法使いさん」
「魔王は魔王らしく住職頑張れよ。 頭剃る時は笑ってあげる」
「気が重いですねぇ」


そう言って笑い合い家に入ると、その日は早々に眠りについた。
そして翌朝――。

しおりを挟む
ツギクルバナー
感想 0

あなたにおすすめの小説

猫のお菓子屋さん

水玉猫
絵本
クマのパン屋さんのおとなりに、猫のお菓子屋さんができました。 毎日、いろんな猫さんが、代わる代わるに、お店番。 お店番の猫さんが、それぞれ自慢のお菓子を用意します。 だから、毎日お菓子が変わります。 今日は、どんなお菓子があるのかな? 猫さんたちの美味しい掌編集。 ちょっぴり、シュールなお菓子が並ぶことも、ありますよ。 顔見知りの猫さんがお当番の日は、是非是非、のぞいてみてください!

小さな王子さまのお話

佐宗
児童書・童話
『これだけは覚えていて。あなたの命にはわたしたちの祈りがこめられているの』…… **あらすじ** 昔むかし、あるところに小さな王子さまがいました。 珠のようにかわいらしい黒髪の王子さまです。 王子さまの住む国は、生きた人間には決してたどりつけません。 なぜなら、その国は……、人間たちが恐れている、三途の河の向こう側にあるからです。 「あの世の国」の小さな王子さまにはお母さまはいませんが、お父さまや家臣たちとたのしく暮らしていました。 ある日、狩りの最中に、一行からはぐれてやんちゃな友達と冒険することに…? 『そなたはこの世で唯一の、何物にも代えがたい宝』―― 亡き母の想い、父神の愛。くらがりの世界に生きる小さな王子さまの家族愛と成長。 全年齢の童話風ファンタジーになります。

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

中学生ユーチューバーの心霊スポットMAP

じゅん
児童書・童話
【第1回「きずな児童書大賞」大賞 受賞👑】  悪霊のいる場所では、居合わせた人に「霊障」を可視化させる体質を持つ「霊感少女」のアカリ(中学1年生)。  「ユーチューバーになりたい」幼なじみと、「心霊スポットMAPを作りたい」友達に巻き込まれて、心霊現象を検証することになる。  いくつか心霊スポットを回るうちに、最近増えている心霊現象の原因は、霊を悪霊化させている「ボス」のせいだとわかり――  クスっと笑えながらも、ゾッとする連作短編。

忠犬ハジッコ

SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。 「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。 ※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、  今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。  お楽しみいただければうれしいです。

剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です!

月芝
児童書・童話
国の端っこのきわきわにある辺境の里にて。 不自由なりにも快適にすみっこ暮らしをしていたチヨコ。 いずれは都会に出て……なんてことはまるで考えておらず、 実家の畑と趣味の園芸の二刀流で、第一次産業の星を目指す所存。 父母妹、クセの強い里の仲間たち、その他いろいろ。 ちょっぴり変わった環境に囲まれて、すくすく育ち迎えた十一歳。 森で行き倒れの老人を助けたら、なぜだか剣の母に任命されちゃった!! って、剣の母って何? 世に邪悪があふれ災いがはびこるとき、地上へと神がつかわす天剣(アマノツルギ)。 それを産み出す母体に選ばれてしまった少女。 役に立ちそうで微妙なチカラを授かるも、使命を果たさないと恐ろしい呪いが……。 うかうかしていたら、あっという間に灰色の青春が過ぎて、 孤高の人生の果てに、寂しい老後が待っている。 なんてこったい! チヨコの明日はどっちだ!

お姫様の願い事

月詠世理
児童書・童話
赤子が生まれた時に母親は亡くなってしまった。赤子は実の父親から嫌われてしまう。そのため、赤子は血の繋がらない女に育てられた。 決められた期限は十年。十歳になった女の子は母親代わりに連れられて城に行くことになった。女の子の実の父親のもとへ——。女の子はさいごに何を願うのだろうか。

ローズお姉さまのドレス

有沢真尋
児童書・童話
最近のルイーゼは少しおかしい。 いつも丈の合わない、ローズお姉さまのドレスを着ている。 話し方もお姉さまそっくり。 わたしと同じ年なのに、ずいぶん年上のように振舞う。 表紙はかんたん表紙メーカーさまで作成

処理中です...