65 / 107
第二章 魔王様、小学校六年生をお過ごしになる
60 魔王様は小学6年の最後の夏休みを遊び倒したい④
しおりを挟む
朝のお勤めは大事な事だ。
そして合間を縫って、小さな自分だけの畑は宝物庫だ。
夏野菜が実り、食べ頃の野菜たちを見ると「どう料理してくれようか……」と笑みが零れる。
洋食か、和食か、はたまた中華か……。
実りし夏野菜に胸が躍る我だが、家庭菜園の戦いは日差しと虫との激戦であった。
大事な苗や野菜を食い荒らす虫を駆除するのは大変だ。
美味くて新鮮な野菜程狙われやすい。
更に言えば、無農薬に拘っている為、虫との戦は日に日に激しさを増している。
それでも艶やかな野菜を見れば心が躍る為、農家の大変さを噛みしめながら、日々口にする野菜に感謝しながら育てている。
裏庭にある地下水からの冷水に、今日のオヤツの主役である野菜とスイカを冷やしてから汗を拭うと、勇者が麦茶を持ってきてくれたようだ。
「魔王よ、頼まれていた網とコンクリートとトングは用意したぞ」
「助かります。これでオヤツの焼きとうもろこしの準備は万全ですね」
「今すぐトウモロコシを収穫しないのか?」
「どんな野菜でも採れたてと言うのが美味しいのですよ」
そういって褒美であるトマトを勇者に渡すと、現在人気の某アニメのように「うまい!」と叫びながらトマトを食べる勇者。
採れたては農家だからこそ味わえる最高の味だ。
「今日の墓掃除はあなた方女性陣でしたが、他の二人はどうしました?」
「今シャワー浴びてる」
「なるほど、身綺麗にするのは良い事です」
そう言うと着替えを用意していた我は、近くの水道にホースを差し、パンツ以外の服を脱ぎ捨てると水浴びをして汗を流した。
夏場だからこその最高のひと時である。
勇者にとっては見慣れた光景な為、最早とやかく言ってくることは無いが――。
「はぁ……魔王の水浴び姿なんぞみても面白くもない」
「奇遇ですね。私も勇者の水浴び姿なんぞみても面白くありませんし、実の妹に対し欲情するほど困ってもいません」
「クソ! 少しは狼狽えろ! これでも少しは成長したんだ!」
「アキラなら狼狽えるでしょうねぇ……純粋培養液で育ったような男ですし」
「アキラはまぁ……」
「それに、今年の夏休み最後の夏祭りは、二人でデートなんでしょう?」
そう告げると勇者は顔を真っ赤に染めて「なっ なっ!! 何を言っている!!」と慌てた。
アキラから既に聞き及んでいる内容な為、今更恥ずかしがることも無いだろうに。
「良いじゃないですか。あの事件後、あなた方は一緒に夏祭りを楽しむ余裕が無かったように思います。この機会に少しは進展なさい」
「うっ……」
「あの時、勇者も傷ついたでしょうが、アキラもまた酷く傷ついていたのですよ」
――長谷川事件。
そう呼ばれるあの最悪の夏祭りの日は、我にとっても深く傷ついた事件であった。
幼かった勇者は殺されかけ、それを守ろうとしたアキラは酷い怪我を負った。
あの時、何故我がアキラの向かった方向に行けなかったのか、当時の自分を思い出しても悔やまれる事件だ。
「デートで少しでも女性に見て貰えると良いですね」
「うるさい!」
「おやおや、顔が真っ赤ですよ? そろそろアキラが来るのに大丈夫ですか?」
「魔王最悪だ!!」
「魔王ですから」
そう言うと我にトマトのヘタを投げつけ勇者は逃走。
水浴びも終わり麦茶をグッと飲み干すと、煩い双子が来る前にその場で着替えた。
しかし――。
「魔王様の裸、ゲットですわよ!」
「ああ、実に素晴らしいものじゃったわい!」
「いずれわたくし達のモノに……フフフ!」
「………」
時すでに遅し。
いや、気配の消し方が我でも気づかぬほどとは恐れ入る。
「そこの僧侶と言う名の痴女と、そこの武道家と言う名の痴女、出てきなさい」
「カメラは死守ですわ――!!」
「逃げるぞ――!!」
「待ちなさい! ナニを撮ったのです!! 消しなさい!!」
こうして、アキラが来るまでの間、寺中を逃げ回る僧侶と武道家、そしてそれを追いかける我が居たのは言うまでもなく、アキラの登場に助けを求めた我に反応し、無事隠し撮りは削除することが出来た。
「あなた方のカメラは没収です! 使っていい時にお渡しします」
「幾つもの隠し撮りが消されましたわぁあ!!」
「ナイスショットが多かったのに残念無念っ!!」
どんな隠し撮りがあったのかは――黙秘させて頂きます。
そして合間を縫って、小さな自分だけの畑は宝物庫だ。
夏野菜が実り、食べ頃の野菜たちを見ると「どう料理してくれようか……」と笑みが零れる。
洋食か、和食か、はたまた中華か……。
実りし夏野菜に胸が躍る我だが、家庭菜園の戦いは日差しと虫との激戦であった。
大事な苗や野菜を食い荒らす虫を駆除するのは大変だ。
美味くて新鮮な野菜程狙われやすい。
更に言えば、無農薬に拘っている為、虫との戦は日に日に激しさを増している。
それでも艶やかな野菜を見れば心が躍る為、農家の大変さを噛みしめながら、日々口にする野菜に感謝しながら育てている。
裏庭にある地下水からの冷水に、今日のオヤツの主役である野菜とスイカを冷やしてから汗を拭うと、勇者が麦茶を持ってきてくれたようだ。
「魔王よ、頼まれていた網とコンクリートとトングは用意したぞ」
「助かります。これでオヤツの焼きとうもろこしの準備は万全ですね」
「今すぐトウモロコシを収穫しないのか?」
「どんな野菜でも採れたてと言うのが美味しいのですよ」
そういって褒美であるトマトを勇者に渡すと、現在人気の某アニメのように「うまい!」と叫びながらトマトを食べる勇者。
採れたては農家だからこそ味わえる最高の味だ。
「今日の墓掃除はあなた方女性陣でしたが、他の二人はどうしました?」
「今シャワー浴びてる」
「なるほど、身綺麗にするのは良い事です」
そう言うと着替えを用意していた我は、近くの水道にホースを差し、パンツ以外の服を脱ぎ捨てると水浴びをして汗を流した。
夏場だからこその最高のひと時である。
勇者にとっては見慣れた光景な為、最早とやかく言ってくることは無いが――。
「はぁ……魔王の水浴び姿なんぞみても面白くもない」
「奇遇ですね。私も勇者の水浴び姿なんぞみても面白くありませんし、実の妹に対し欲情するほど困ってもいません」
「クソ! 少しは狼狽えろ! これでも少しは成長したんだ!」
「アキラなら狼狽えるでしょうねぇ……純粋培養液で育ったような男ですし」
「アキラはまぁ……」
「それに、今年の夏休み最後の夏祭りは、二人でデートなんでしょう?」
そう告げると勇者は顔を真っ赤に染めて「なっ なっ!! 何を言っている!!」と慌てた。
アキラから既に聞き及んでいる内容な為、今更恥ずかしがることも無いだろうに。
「良いじゃないですか。あの事件後、あなた方は一緒に夏祭りを楽しむ余裕が無かったように思います。この機会に少しは進展なさい」
「うっ……」
「あの時、勇者も傷ついたでしょうが、アキラもまた酷く傷ついていたのですよ」
――長谷川事件。
そう呼ばれるあの最悪の夏祭りの日は、我にとっても深く傷ついた事件であった。
幼かった勇者は殺されかけ、それを守ろうとしたアキラは酷い怪我を負った。
あの時、何故我がアキラの向かった方向に行けなかったのか、当時の自分を思い出しても悔やまれる事件だ。
「デートで少しでも女性に見て貰えると良いですね」
「うるさい!」
「おやおや、顔が真っ赤ですよ? そろそろアキラが来るのに大丈夫ですか?」
「魔王最悪だ!!」
「魔王ですから」
そう言うと我にトマトのヘタを投げつけ勇者は逃走。
水浴びも終わり麦茶をグッと飲み干すと、煩い双子が来る前にその場で着替えた。
しかし――。
「魔王様の裸、ゲットですわよ!」
「ああ、実に素晴らしいものじゃったわい!」
「いずれわたくし達のモノに……フフフ!」
「………」
時すでに遅し。
いや、気配の消し方が我でも気づかぬほどとは恐れ入る。
「そこの僧侶と言う名の痴女と、そこの武道家と言う名の痴女、出てきなさい」
「カメラは死守ですわ――!!」
「逃げるぞ――!!」
「待ちなさい! ナニを撮ったのです!! 消しなさい!!」
こうして、アキラが来るまでの間、寺中を逃げ回る僧侶と武道家、そしてそれを追いかける我が居たのは言うまでもなく、アキラの登場に助けを求めた我に反応し、無事隠し撮りは削除することが出来た。
「あなた方のカメラは没収です! 使っていい時にお渡しします」
「幾つもの隠し撮りが消されましたわぁあ!!」
「ナイスショットが多かったのに残念無念っ!!」
どんな隠し撮りがあったのかは――黙秘させて頂きます。
0
お気に入りに追加
43
あなたにおすすめの小説
生贄姫の末路 【完結】
松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。
それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。
水の豊かな国には双子のお姫様がいます。
ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。
もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。
王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。
忠犬ハジッコ
SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。
「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。
※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、
今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。
お楽しみいただければうれしいです。

お姫様の願い事
月詠世理
児童書・童話
赤子が生まれた時に母親は亡くなってしまった。赤子は実の父親から嫌われてしまう。そのため、赤子は血の繋がらない女に育てられた。 決められた期限は十年。十歳になった女の子は母親代わりに連れられて城に行くことになった。女の子の実の父親のもとへ——。女の子はさいごに何を願うのだろうか。
王女様は美しくわらいました
トネリコ
児童書・童話
無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。
それはそれは美しい笑みでした。
「お前程の悪女はおるまいよ」
王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。
きたいの悪女は処刑されました 解説版
ローズお姉さまのドレス
有沢真尋
児童書・童話
最近のルイーゼは少しおかしい。
いつも丈の合わない、ローズお姉さまのドレスを着ている。
話し方もお姉さまそっくり。
わたしと同じ年なのに、ずいぶん年上のように振舞う。
表紙はかんたん表紙メーカーさまで作成

村から追い出された変わり者の僕は、なぜかみんなの人気者になりました~異種族わちゃわちゃ冒険ものがたり~
めーぷる
児童書・童話
グラム村で変わり者扱いされていた少年フィロは村長の家で小間使いとして、生まれてから10年間馬小屋で暮らしてきた。フィロには生き物たちの言葉が分かるという不思議な力があった。そのせいで同年代の子どもたちにも仲良くしてもらえず、友達は森で助けた赤い鳥のポイと馬小屋の馬と村で飼われている鶏くらいだ。
いつもと変わらない日々を送っていたフィロだったが、ある日村に黒くて大きなドラゴンがやってくる。ドラゴンは怒り村人たちでは歯が立たない。石を投げつけて何とか追い返そうとするが、必死に何かを訴えている.
気になったフィロが村長に申し出てドラゴンの話を聞くと、ドラゴンの巣を荒らした者が村にいることが分かる。ドラゴンは知らぬふりをする村人たちの態度に怒り、炎を噴いて暴れまわる。フィロの必死の説得に漸く耳を傾けて大人しくなるドラゴンだったが、フィロとドラゴンを見た村人たちは、フィロこそドラゴンを招き入れた張本人であり実は魔物の生まれ変わりだったのだと決めつけてフィロを村を追い出してしまう。
途方に暮れるフィロを見たドラゴンは、フィロに謝ってくるのだがその姿がみるみる美しい黒髪の女性へと変化して……。
「ドラゴンがお姉さんになった?」
「フィロ、これから私と一緒に旅をしよう」
変わり者の少年フィロと異種族の仲間たちが繰り広げる、自分探しと人助けの冒険ものがたり。
・毎日7時投稿予定です。間に合わない場合は別の時間や次の日になる場合もあります。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる