59 / 107
第二章 魔王様、小学校六年生をお過ごしになる
55 魔王様、仲間たちと異世界憧れ少年と対峙する④
しおりを挟む
思わぬ勇者の一言により、アキラは目を見開いて驚き、ハガネは何を言われたのか理解できずに固まった。
【繁殖期のサル】とまで呼ばれたハガネは次第に理由を理解したのか、顔を真っ赤にして俯いている。
「頭に下半身が生えたような考えであることは良く解った。だが、そんな男に誰が心を許すだろうな? 女を食物や所有物のように語る男に、何の魅力があるんだろうな? 将来結婚すればDVだのモラハラだのと言われるような男と付き合いたい、もしくは結婚したい女が居るとすれば顔を見てみたいものだ。敢えて言わせてもらうが、お前……私の兄や恵やアキラのような、人を引き付けるようなナニカを持っているのか? 持ってないだろう? 少なくとも、お前がクズであり、女の敵であることは否応なしに理解は出来たが、そんな奴を支えたいと思えるような女が自分に沢山出来るとでも思っているのか? だとしたら、余程の愚か者だな」
この場では唯一の女性視点……ではないが、勇者は大変ご立腹のようだ。
「話を黙って聞いていれば、女性の人権など全く無視して自分本位の考えのみで突き進んでなんと情けないことか。これが自分の浪漫であり妄想だけで済ませられる内容なら、こちらとしてもスルーできる問題だし、今後一切、お前には関わらないと決めることが出来るだけの内容だが、妄想で終わらせれば誰も傷つかないような内容を、現実世界で起こしたいと言う願望があるのなら、社会的抹殺も視野に入れないとな」
「「「「社会的抹殺」」」」
「女社会を甘く見るなよ。女とは幅広い付き合いを持ち、情報を素早く周囲に広めるだけのスキルが備わっている。つまり……私がクラスの女子の誰か一人にでもこの話題を話せば、一気に同じ学年に広がり、その話は兄弟姉妹に広がり、更に各家庭にその話題は広がる。そしてジワジワと学校全体に広がるのが――社会的抹殺だ」
つまり、勇者はハガネに対し「お前の人生の生きる場所を奪ってやろう」と言う宣言に近い事を口にしたのだ。
女社会の恐ろしさを改めて妹として転生してきた勇者から聞くことになろうとは……勇者も成長したものだな……。
「アキラが純愛で何が悪い。私が幼少期、命の危機にさらされた時……アキラは本当に命を賭して私を守り切った。アキラの言葉はとても重い……。だからこそ、上っ面の言葉だけではない事を私はよく知っている。だが、原田ハガネ! 貴様の言葉は薄っぺらい! お前のような男を愛する女が出来ると思っているのか!? そんな妄想は夢の中だけにしておけ! そんな魅力もない度胸もない覚悟もない男など、女が近づく筈もなければ、好きになる理由になることは一切無い事を脳裏に刻んでおくことだな!!」
勇者の一言により――原田ハガネは顔面蒼白で膝から崩れ落ちた。
両手を腰に当ててフンスと息を吐く勇者に、魔法使いは「怒るとコワイけど可愛い」と口にし、アキラは苦笑いし、我は勇者の隣に立つと床に崩れ落ちたままのハガネを見つめて溜息を零した。
事実――女社会とは、男社会よりも恐ろしいのだ。
何処から聞いたのか解らない裏ルートの話を持っているのは、大抵女の方である。
それを最大限に活用した場合、圧倒的不利になるのは目に見えて分かる事だろう。
【草の根運動】と揶揄されることもある出来事であっても、その根は深く広く長いのだ。
「ハガネさん。貴方の浪漫を否定するつもりはありません。ですが……この世は異世界ではありません。貴方の言うクソのような現実世界です。貴方の年齢では解らないかも知れませんが、貴方の起こした言動により、貴方の価値は決まります。もし仮に私達に価値を見出したのであれば、それは私たちが地道に積み上げてきた実績です。最初から持っているスキル等は些末な事です。要は使い方次第……。貴方の今後のスキルは、貴方が育てて周りに認めて貰って初めて発揮するものだと思いますよ」
この一言でハガネは目から大粒の涙を零し、小さく頷いた。
結局、異世界であろうとも、現実世界であろうとも、自分自身の頑張りを誰が評価するのかと言えば、周囲の人間だ。
更に言えば、この世界では結果が全てと言う、かなりハードルの高い評価となっている。
頑張っている経過は経過であって、評価には繋がらない。
確かにハガネの言う通り、クソのような世界なのかもしれないと、我は口に出さないにしても思ってしまった。
だが――。
「勇者と魔王兄妹……尊すぎるっ」
――両手で顔を覆い震える原田ハガネに、我たちは遠い目をして静かのその場を去ったのは、言うまでもない。
後日談だが、原田ハガネは結果的に言えば、異世界を諦めることは無かった。
それでも、勇者の痛恨の一撃が効いてはいるようで、女性軽視の発言を改め、常に勇者の傍に立ち【現実世界に降り立った勇者を補佐する有能な男】を今は目指しているらしい。
「最終目標は魔王と勇者兄妹を補佐する、有能補佐官らしいぞ」
「それはそれは。記憶と中身はオル・ディール産ですが、生まれも育ちもこの異世界の寺なんですがね」
「仏門に入るならソレでもいいんじゃない? それに本人が満足して変な動きをしないなら放っておくに限るし。でも勇者に弊害が起きるならこちらで対処するよ?」
魔法使いの言葉に勇者は小さく首を横に振ると、溜息を吐きつつ言葉を続けた。
「確かにウザい時はあるが、今までの態度を改め改心したと言っても過言ではない動きをしているから大丈夫だ。周囲からもハガネの変わりように色々聞かれたが、魔王軍三人に呼ばれて諭されたと伝えてある。周りの皆は納得した様子だったぞ」
「「「魔王軍三人」」」
「だから至って平和だ。寧ろ、平和で無くなるのは今からじゃないのか魔王」
その一言にハッとしカレンダーを見た。
もう直ぐ夏休み……夏休みに入れば、裏社会生まれの裏社会育ちである僧侶と武道家がこっちに引っ越してくるエックスデーが近づいていた。
「魔王、落ち着いて。君がスマホのマナーモードになってどうするんだい」
「ブルブル震える姿を動画で撮ればよかった」
「そんな事をしたら勇者のスマホを庭の池に沈めます。……とにかく、作戦を練らねば」
――我の貞操が危ない。
【繁殖期のサル】とまで呼ばれたハガネは次第に理由を理解したのか、顔を真っ赤にして俯いている。
「頭に下半身が生えたような考えであることは良く解った。だが、そんな男に誰が心を許すだろうな? 女を食物や所有物のように語る男に、何の魅力があるんだろうな? 将来結婚すればDVだのモラハラだのと言われるような男と付き合いたい、もしくは結婚したい女が居るとすれば顔を見てみたいものだ。敢えて言わせてもらうが、お前……私の兄や恵やアキラのような、人を引き付けるようなナニカを持っているのか? 持ってないだろう? 少なくとも、お前がクズであり、女の敵であることは否応なしに理解は出来たが、そんな奴を支えたいと思えるような女が自分に沢山出来るとでも思っているのか? だとしたら、余程の愚か者だな」
この場では唯一の女性視点……ではないが、勇者は大変ご立腹のようだ。
「話を黙って聞いていれば、女性の人権など全く無視して自分本位の考えのみで突き進んでなんと情けないことか。これが自分の浪漫であり妄想だけで済ませられる内容なら、こちらとしてもスルーできる問題だし、今後一切、お前には関わらないと決めることが出来るだけの内容だが、妄想で終わらせれば誰も傷つかないような内容を、現実世界で起こしたいと言う願望があるのなら、社会的抹殺も視野に入れないとな」
「「「「社会的抹殺」」」」
「女社会を甘く見るなよ。女とは幅広い付き合いを持ち、情報を素早く周囲に広めるだけのスキルが備わっている。つまり……私がクラスの女子の誰か一人にでもこの話題を話せば、一気に同じ学年に広がり、その話は兄弟姉妹に広がり、更に各家庭にその話題は広がる。そしてジワジワと学校全体に広がるのが――社会的抹殺だ」
つまり、勇者はハガネに対し「お前の人生の生きる場所を奪ってやろう」と言う宣言に近い事を口にしたのだ。
女社会の恐ろしさを改めて妹として転生してきた勇者から聞くことになろうとは……勇者も成長したものだな……。
「アキラが純愛で何が悪い。私が幼少期、命の危機にさらされた時……アキラは本当に命を賭して私を守り切った。アキラの言葉はとても重い……。だからこそ、上っ面の言葉だけではない事を私はよく知っている。だが、原田ハガネ! 貴様の言葉は薄っぺらい! お前のような男を愛する女が出来ると思っているのか!? そんな妄想は夢の中だけにしておけ! そんな魅力もない度胸もない覚悟もない男など、女が近づく筈もなければ、好きになる理由になることは一切無い事を脳裏に刻んでおくことだな!!」
勇者の一言により――原田ハガネは顔面蒼白で膝から崩れ落ちた。
両手を腰に当ててフンスと息を吐く勇者に、魔法使いは「怒るとコワイけど可愛い」と口にし、アキラは苦笑いし、我は勇者の隣に立つと床に崩れ落ちたままのハガネを見つめて溜息を零した。
事実――女社会とは、男社会よりも恐ろしいのだ。
何処から聞いたのか解らない裏ルートの話を持っているのは、大抵女の方である。
それを最大限に活用した場合、圧倒的不利になるのは目に見えて分かる事だろう。
【草の根運動】と揶揄されることもある出来事であっても、その根は深く広く長いのだ。
「ハガネさん。貴方の浪漫を否定するつもりはありません。ですが……この世は異世界ではありません。貴方の言うクソのような現実世界です。貴方の年齢では解らないかも知れませんが、貴方の起こした言動により、貴方の価値は決まります。もし仮に私達に価値を見出したのであれば、それは私たちが地道に積み上げてきた実績です。最初から持っているスキル等は些末な事です。要は使い方次第……。貴方の今後のスキルは、貴方が育てて周りに認めて貰って初めて発揮するものだと思いますよ」
この一言でハガネは目から大粒の涙を零し、小さく頷いた。
結局、異世界であろうとも、現実世界であろうとも、自分自身の頑張りを誰が評価するのかと言えば、周囲の人間だ。
更に言えば、この世界では結果が全てと言う、かなりハードルの高い評価となっている。
頑張っている経過は経過であって、評価には繋がらない。
確かにハガネの言う通り、クソのような世界なのかもしれないと、我は口に出さないにしても思ってしまった。
だが――。
「勇者と魔王兄妹……尊すぎるっ」
――両手で顔を覆い震える原田ハガネに、我たちは遠い目をして静かのその場を去ったのは、言うまでもない。
後日談だが、原田ハガネは結果的に言えば、異世界を諦めることは無かった。
それでも、勇者の痛恨の一撃が効いてはいるようで、女性軽視の発言を改め、常に勇者の傍に立ち【現実世界に降り立った勇者を補佐する有能な男】を今は目指しているらしい。
「最終目標は魔王と勇者兄妹を補佐する、有能補佐官らしいぞ」
「それはそれは。記憶と中身はオル・ディール産ですが、生まれも育ちもこの異世界の寺なんですがね」
「仏門に入るならソレでもいいんじゃない? それに本人が満足して変な動きをしないなら放っておくに限るし。でも勇者に弊害が起きるならこちらで対処するよ?」
魔法使いの言葉に勇者は小さく首を横に振ると、溜息を吐きつつ言葉を続けた。
「確かにウザい時はあるが、今までの態度を改め改心したと言っても過言ではない動きをしているから大丈夫だ。周囲からもハガネの変わりように色々聞かれたが、魔王軍三人に呼ばれて諭されたと伝えてある。周りの皆は納得した様子だったぞ」
「「「魔王軍三人」」」
「だから至って平和だ。寧ろ、平和で無くなるのは今からじゃないのか魔王」
その一言にハッとしカレンダーを見た。
もう直ぐ夏休み……夏休みに入れば、裏社会生まれの裏社会育ちである僧侶と武道家がこっちに引っ越してくるエックスデーが近づいていた。
「魔王、落ち着いて。君がスマホのマナーモードになってどうするんだい」
「ブルブル震える姿を動画で撮ればよかった」
「そんな事をしたら勇者のスマホを庭の池に沈めます。……とにかく、作戦を練らねば」
――我の貞操が危ない。
0
お気に入りに追加
43
あなたにおすすめの小説
猫のお菓子屋さん
水玉猫
絵本
クマのパン屋さんのおとなりに、猫のお菓子屋さんができました。
毎日、いろんな猫さんが、代わる代わるに、お店番。
お店番の猫さんが、それぞれ自慢のお菓子を用意します。
だから、毎日お菓子が変わります。
今日は、どんなお菓子があるのかな?
猫さんたちの美味しい掌編集。
ちょっぴり、シュールなお菓子が並ぶことも、ありますよ。
顔見知りの猫さんがお当番の日は、是非是非、のぞいてみてください!
生贄姫の末路 【完結】
松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。
それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。
水の豊かな国には双子のお姫様がいます。
ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。
もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。
王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。
小さな王子さまのお話
佐宗
児童書・童話
『これだけは覚えていて。あなたの命にはわたしたちの祈りがこめられているの』……
**あらすじ**
昔むかし、あるところに小さな王子さまがいました。
珠のようにかわいらしい黒髪の王子さまです。
王子さまの住む国は、生きた人間には決してたどりつけません。
なぜなら、その国は……、人間たちが恐れている、三途の河の向こう側にあるからです。
「あの世の国」の小さな王子さまにはお母さまはいませんが、お父さまや家臣たちとたのしく暮らしていました。
ある日、狩りの最中に、一行からはぐれてやんちゃな友達と冒険することに…?
『そなたはこの世で唯一の、何物にも代えがたい宝』――
亡き母の想い、父神の愛。くらがりの世界に生きる小さな王子さまの家族愛と成長。
全年齢の童話風ファンタジーになります。

剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です!
月芝
児童書・童話
国の端っこのきわきわにある辺境の里にて。
不自由なりにも快適にすみっこ暮らしをしていたチヨコ。
いずれは都会に出て……なんてことはまるで考えておらず、
実家の畑と趣味の園芸の二刀流で、第一次産業の星を目指す所存。
父母妹、クセの強い里の仲間たち、その他いろいろ。
ちょっぴり変わった環境に囲まれて、すくすく育ち迎えた十一歳。
森で行き倒れの老人を助けたら、なぜだか剣の母に任命されちゃった!!
って、剣の母って何?
世に邪悪があふれ災いがはびこるとき、地上へと神がつかわす天剣(アマノツルギ)。
それを産み出す母体に選ばれてしまった少女。
役に立ちそうで微妙なチカラを授かるも、使命を果たさないと恐ろしい呪いが……。
うかうかしていたら、あっという間に灰色の青春が過ぎて、
孤高の人生の果てに、寂しい老後が待っている。
なんてこったい!
チヨコの明日はどっちだ!

お姫様の願い事
月詠世理
児童書・童話
赤子が生まれた時に母親は亡くなってしまった。赤子は実の父親から嫌われてしまう。そのため、赤子は血の繋がらない女に育てられた。 決められた期限は十年。十歳になった女の子は母親代わりに連れられて城に行くことになった。女の子の実の父親のもとへ——。女の子はさいごに何を願うのだろうか。
中学生ユーチューバーの心霊スポットMAP
じゅん
児童書・童話
【第1回「きずな児童書大賞」大賞 受賞👑】
悪霊のいる場所では、居合わせた人に「霊障」を可視化させる体質を持つ「霊感少女」のアカリ(中学1年生)。
「ユーチューバーになりたい」幼なじみと、「心霊スポットMAPを作りたい」友達に巻き込まれて、心霊現象を検証することになる。
いくつか心霊スポットを回るうちに、最近増えている心霊現象の原因は、霊を悪霊化させている「ボス」のせいだとわかり――
クスっと笑えながらも、ゾッとする連作短編。
忠犬ハジッコ
SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。
「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。
※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、
今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。
お楽しみいただければうれしいです。
ローズお姉さまのドレス
有沢真尋
児童書・童話
最近のルイーゼは少しおかしい。
いつも丈の合わない、ローズお姉さまのドレスを着ている。
話し方もお姉さまそっくり。
わたしと同じ年なのに、ずいぶん年上のように振舞う。
表紙はかんたん表紙メーカーさまで作成
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる