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第二章 魔王様、小学校六年生をお過ごしになる
52 魔王様、仲間たちと異世界憧れ少年と対峙する①
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=原田ハガネside=
原田ハガネは、元々は陰キャである。
しかし、両親の転勤により新たな地に降り立ったハガネは、陰キャ卒業の為に奮闘していた。
高校デビューならぬ、転校生デビューで陽キャラを目指したのである。
女の子と話す事すら出来なかったハガネは奮闘した。
そんな中で出会ったのが勇者であった。
ハガネは思った。
【彼女こそが陽キャラ属性の太陽の人】だと。
ハガネは思った。
【勇者とか言われてマジカッコイイ!!】と。
くっ殺の女騎士とも違う、謎の高揚感に包まれたのである。
更に言えば、ハガネは異世界小説において有名である『ハーレム』と言うものにも憧れをもっており、彼女をまずは落とそうと決意した。
そして、決意した矢先にまさかの急所を殴られたのである。心が死亡である。
更に現在進行形で、ハガネは絶体絶命のピンチであった……。
「で? ハガネくんだっけ? なにうちの勇者に手を出してくれやがったの?」
「いくら興味があるからと言って、いきなり女性の胸を掴むのは男として最低な行いだぞ?」
「……スミマセン」
まさか、生徒会長の参謀及び、生徒会長の魔法使いと呼ばれる最強二人組に呼び出されるとは思っていなかったのだ。
ハガネはこの時、初めて勇者である小雪が生徒会会長の魔王の妹であることを知って海より深く絶望した。
それ以上に――目の前にいる参謀と魔法使いの殺気で心臓が口から今にも飛び出そうだったが、ハガネにとって学校の生徒会の三人とは、まさに憧れの存在だったのだ。
生徒会の魔法使い――中世的な顔立ちと色気を持ち、全ての物事を迅速にさばいていくスペシャリスト。無論、男女共に学校の人気ナンバー2の恵様。
生徒会の参謀様――スポーツ万能で背も高く誰からも親しまれやすい頼れる兄貴肌のアキラ様。特に圧倒的男性からの支持を集める人気ナンバー3である。
普通に生活していれば、絶対にお声を掛けられることがない事をハガネは知っていた。
そんな憧れの二人に呼び出され叱られている現状は……海より深く反省すると同時に、天にも昇る幸福だった。
あ――……異世界系の小説だと、恵様は間違いなく魔法使いポジションでさ。仲間の危機を颯爽と助けたりするんだろうな。
んでさ、アキラ様は頼れる前衛でさ。人が好過ぎて色々クエスト受けちゃったりしてさ。冒険者ギルドとかから一目置かれるような存在な訳。
言うなればSS冒険者から底辺冒険者への説教みたいなこの現状にマジ感謝。
――等と思っていると、魔法使いは大きな溜息を吐いて両腕を組んだ。
「あのさ~……僕たちの話、聞いてないよね?」
「あ、いえいえ……まとめると『俺たちの勇者に手を出すな!』みたいなラノベっぽい内容ってことですよね!! 解ります!!」
「ラノベみたいな内容って……」
「女騎士とかも萌えるけど、女勇者ってのもいいですよね!! なんかもう色々いま滾っちゃって!! 勇者小雪に『お前みたいな男には屈しない!』とか言われてみたい気分です!!」
「どうしてそうなった??」
「そもそも、それってどんなシチュエーションで言うセリフな訳? 僕たちの話を聞いて何でそこに走ったの?」
「一周回ると分からなくなります!」
つまり、緊張と興奮により色々脳内が整理できず、自分の欲望に忠実になっているだけなのだが、それに気づく人物はまだ来ない。
元々の陰キャ時代に培ったハガネの異世界小説フォルダーが火を噴いたのである。
「それに女勇者ってのがエロの塊ですよ!? 想像妄想で色々捗るじゃないですか! 穢れを知らない勇者小雪とそれを取り巻く環境! 魔王さえもが勇者を可愛がるシーンとかリアルで網膜に焼き付けたい!! そんで、穢れてしまった勇者を俺で上書きしたい! そんでもって家に勇者を閉じ込めて愛し愛されイチャラブラブ! 毎日味噌汁を作って欲しい!! そんな妄想とかしたことないんですか!? 何故ないんですか!? 可笑しくなんですか!?」
捲くし立てたハガネに魔法使いとアキラはドン引きしつつ、彼の背後に立っている人物の表情を見て喉から息が「ヒュッ」と出たことに、ハガネは気づいていない。
そう、背後に死神が……いや、魔王が立っていることに気が付いていなかった。
「大変、興味深い話をしておられますね……?」
地の底から響くような声に、ハガネはビクッと身体を震わせた。
それは無論、アキラと魔法使いも一緒だった。
「いえね? 先ほど妹が私を呼びに来まして……我が参謀と魔法使いでは手におえぬと言う連絡を受けて来てみたいのですが……いやいや、本当に。これはあなた方には手に余る」
「ま……魔王様!!」
意気揚々と振り向いたハガネだった。
会いたくてたまらない……人気ナンバー1の生徒会長の魔王様である。
カリスマはマックスで非の打ち所がない魔王様である。
憧れないほうが可笑しい!!!
――そう思っていた心は、魔王の顔を見て崩れ落ちることになる。
「随分と性癖を拗らせていらっしゃるようですね? しかも、私の妹をその性癖の道具にしようと仰いますか。一度……脳みそをぶちまけて綺麗に洗浄した方が宜しいかもしれませんね? どうです? 物理的に脳みそが飛び散る体験、為さいます?」
――魔王様はいい笑顔だった。
今まで見たこともない程の美しい笑顔だった。
けれど……眼は笑っておらず、喋りながら歩まれればハガネの体は窓へと後退し、気が付けば魔王の手が首を抑えており、背後には開いた窓。目に映るカーテンが風で揺れていた。
「ま……魔王様」
「痛いのは一瞬ですよ?」
優しい笑顔と殺気のこもった声。
この時やっとハガネは気が付いた……。
――勇者小雪の後ろは……兄の魔王が見張っているのだと。
その刹那、ハガネは興奮した。
この糞みたいな現実世界にだって――異世界が存在するじゃないかと。
そして何より、この異世界に自分も入りたいと願ってしまったのだ。
「どうします? 反省しますか? それとも――」
「反省します!! だから俺を異世界へ連れて行って下さい!!」
――思わぬ言葉に、魔王たちは目を見開いた。
原田ハガネは、元々は陰キャである。
しかし、両親の転勤により新たな地に降り立ったハガネは、陰キャ卒業の為に奮闘していた。
高校デビューならぬ、転校生デビューで陽キャラを目指したのである。
女の子と話す事すら出来なかったハガネは奮闘した。
そんな中で出会ったのが勇者であった。
ハガネは思った。
【彼女こそが陽キャラ属性の太陽の人】だと。
ハガネは思った。
【勇者とか言われてマジカッコイイ!!】と。
くっ殺の女騎士とも違う、謎の高揚感に包まれたのである。
更に言えば、ハガネは異世界小説において有名である『ハーレム』と言うものにも憧れをもっており、彼女をまずは落とそうと決意した。
そして、決意した矢先にまさかの急所を殴られたのである。心が死亡である。
更に現在進行形で、ハガネは絶体絶命のピンチであった……。
「で? ハガネくんだっけ? なにうちの勇者に手を出してくれやがったの?」
「いくら興味があるからと言って、いきなり女性の胸を掴むのは男として最低な行いだぞ?」
「……スミマセン」
まさか、生徒会長の参謀及び、生徒会長の魔法使いと呼ばれる最強二人組に呼び出されるとは思っていなかったのだ。
ハガネはこの時、初めて勇者である小雪が生徒会会長の魔王の妹であることを知って海より深く絶望した。
それ以上に――目の前にいる参謀と魔法使いの殺気で心臓が口から今にも飛び出そうだったが、ハガネにとって学校の生徒会の三人とは、まさに憧れの存在だったのだ。
生徒会の魔法使い――中世的な顔立ちと色気を持ち、全ての物事を迅速にさばいていくスペシャリスト。無論、男女共に学校の人気ナンバー2の恵様。
生徒会の参謀様――スポーツ万能で背も高く誰からも親しまれやすい頼れる兄貴肌のアキラ様。特に圧倒的男性からの支持を集める人気ナンバー3である。
普通に生活していれば、絶対にお声を掛けられることがない事をハガネは知っていた。
そんな憧れの二人に呼び出され叱られている現状は……海より深く反省すると同時に、天にも昇る幸福だった。
あ――……異世界系の小説だと、恵様は間違いなく魔法使いポジションでさ。仲間の危機を颯爽と助けたりするんだろうな。
んでさ、アキラ様は頼れる前衛でさ。人が好過ぎて色々クエスト受けちゃったりしてさ。冒険者ギルドとかから一目置かれるような存在な訳。
言うなればSS冒険者から底辺冒険者への説教みたいなこの現状にマジ感謝。
――等と思っていると、魔法使いは大きな溜息を吐いて両腕を組んだ。
「あのさ~……僕たちの話、聞いてないよね?」
「あ、いえいえ……まとめると『俺たちの勇者に手を出すな!』みたいなラノベっぽい内容ってことですよね!! 解ります!!」
「ラノベみたいな内容って……」
「女騎士とかも萌えるけど、女勇者ってのもいいですよね!! なんかもう色々いま滾っちゃって!! 勇者小雪に『お前みたいな男には屈しない!』とか言われてみたい気分です!!」
「どうしてそうなった??」
「そもそも、それってどんなシチュエーションで言うセリフな訳? 僕たちの話を聞いて何でそこに走ったの?」
「一周回ると分からなくなります!」
つまり、緊張と興奮により色々脳内が整理できず、自分の欲望に忠実になっているだけなのだが、それに気づく人物はまだ来ない。
元々の陰キャ時代に培ったハガネの異世界小説フォルダーが火を噴いたのである。
「それに女勇者ってのがエロの塊ですよ!? 想像妄想で色々捗るじゃないですか! 穢れを知らない勇者小雪とそれを取り巻く環境! 魔王さえもが勇者を可愛がるシーンとかリアルで網膜に焼き付けたい!! そんで、穢れてしまった勇者を俺で上書きしたい! そんでもって家に勇者を閉じ込めて愛し愛されイチャラブラブ! 毎日味噌汁を作って欲しい!! そんな妄想とかしたことないんですか!? 何故ないんですか!? 可笑しくなんですか!?」
捲くし立てたハガネに魔法使いとアキラはドン引きしつつ、彼の背後に立っている人物の表情を見て喉から息が「ヒュッ」と出たことに、ハガネは気づいていない。
そう、背後に死神が……いや、魔王が立っていることに気が付いていなかった。
「大変、興味深い話をしておられますね……?」
地の底から響くような声に、ハガネはビクッと身体を震わせた。
それは無論、アキラと魔法使いも一緒だった。
「いえね? 先ほど妹が私を呼びに来まして……我が参謀と魔法使いでは手におえぬと言う連絡を受けて来てみたいのですが……いやいや、本当に。これはあなた方には手に余る」
「ま……魔王様!!」
意気揚々と振り向いたハガネだった。
会いたくてたまらない……人気ナンバー1の生徒会長の魔王様である。
カリスマはマックスで非の打ち所がない魔王様である。
憧れないほうが可笑しい!!!
――そう思っていた心は、魔王の顔を見て崩れ落ちることになる。
「随分と性癖を拗らせていらっしゃるようですね? しかも、私の妹をその性癖の道具にしようと仰いますか。一度……脳みそをぶちまけて綺麗に洗浄した方が宜しいかもしれませんね? どうです? 物理的に脳みそが飛び散る体験、為さいます?」
――魔王様はいい笑顔だった。
今まで見たこともない程の美しい笑顔だった。
けれど……眼は笑っておらず、喋りながら歩まれればハガネの体は窓へと後退し、気が付けば魔王の手が首を抑えており、背後には開いた窓。目に映るカーテンが風で揺れていた。
「ま……魔王様」
「痛いのは一瞬ですよ?」
優しい笑顔と殺気のこもった声。
この時やっとハガネは気が付いた……。
――勇者小雪の後ろは……兄の魔王が見張っているのだと。
その刹那、ハガネは興奮した。
この糞みたいな現実世界にだって――異世界が存在するじゃないかと。
そして何より、この異世界に自分も入りたいと願ってしまったのだ。
「どうします? 反省しますか? それとも――」
「反省します!! だから俺を異世界へ連れて行って下さい!!」
――思わぬ言葉に、魔王たちは目を見開いた。
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