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第二章 魔王様、小学校六年生をお過ごしになる
43 魔王様、僧侶と語り合ってみる
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涙をポロポロ流しながら此方を睨みつける従兄妹であり僧侶。
襖を静かに閉めると、我の前に正座して涙をそのままに我に話しかけてきた。
「魔王、わたくしは貴方の行いを許すことが出来ません」
「許して貰おうとは思っていませんよ」
「開き直って忌々しいっ」
「そもそも、魔族は人間同士の戦争を一旦止める為のストッパーでしかないでしょう。人間側の都合で魔族に争いの責任を押し付ける……一体どちらのほうが汚いのでしょうね」
我の言葉に一瞬息を止める僧侶。無論息を止めたのは勇者も一緒だった。
しかし、我の言葉に同調する者がこの場に二人いる、魔法使いと武闘家だ。
「確かに、人間側の都合で魔族に責任を押し付けていたのは……事実じゃしのう」
「武闘家様!?」
「人間同士の戦争を止める為に魔族を利用する。その決定は天の啓示と称して教会が行っていたのは事実だよ。まぁ、僧侶には酷な話だろうけどね」
「それは本当なのか……?」
勇者の言葉に魔法使いと武闘家は頷き、勇者は力なく畳みに座り込んでしまった。
魔族を払う為の旅路。
魔族の王である魔王を打ち倒せば、戦争も無くなり平和になると言う嘘を信じていたのは勇者と僧侶だけのようだ。
――聖女はどう思っていたのかは知らない。
だが、封印されるあの瞬間の聖女を鑑みるに、きっと聖女も魔法使いや武闘家と同じで人間側の事情だと知っていたのだと思う。
光属性を持つ貴重な人物は、聖女として担ぎ上げられることが多いのだと曾婆様から聞いていた我は、茶を啜り小さく息を吐いた。
「魔族が悪い、魔族がいなければ、そう教え込まれるのが人間でしょうが、実際魔族、魔物がいないと生活ができないのは人間側でしょう」
「そんな事はありませんわ!」
「本当に?」
我の真っ直ぐに見つめる瞳に、僧侶は顔を逸らして「そんな事は……」と呟いた。
実際、冒険者と呼ばれる人間達、そして錬金術や鍛冶師にとって、魔物や魔族から剥ぎ取る素材は多いのは知っていた。
寧ろ、冒険者と呼ばれる人間達からすれば、魔族、魔物を狩らねば生活できない。
魔族や魔物がいなくなれば、そう言う冒険者達の職が無くなり、盗賊や恐喝と言った治安を脅かす存在になることもあるのだ。
「魔族や魔物が人間の治安を守るための存在であったことは、間違ってはいないでしょう?」
「確かにそういう考えを持つ人たちも多かったのは事実ですわ……けれど魔族は悪だと教えられてきましたもの。教会は正しくて魔族は悪だと」
「教えられてきただけですか? 実際貴方が勇者たちと旅をして見て来た事実と、教会の教え、どちらを信じると言うのです?」
我の言葉に僧侶は唇を噛み締め俯いてしまった。
少し言いすぎただろうかと思ったが、この点については我としても引く訳には行かない。
「まぁ、今はこの異世界での生活を円満にしていく為の努力を考えたほうが宜しいですよ。オル・ディールに戻る事は難しいでしょうからね」
「それは……そうですわね」
大きく息を吐くように口にした僧侶に、我は結局優しくしてしまった事に苦笑いが出てしまう。
やはりこの異世界での生活は、我の性格を充分に変えるだけの威力があったようだ。
だが、そんな我と僧侶のやり取りをみていて、武闘家は二ヤリと笑い声を掛けてきた。
「ところで……魔王よ」
「何です?」
「お前さんの今の職業はなんじゃ」
「異世界で僧侶してますが何か?」
「うむ、僧侶よ。聞いたか?魔王は異世界で僧侶をしておるそうじゃぞ」
「……魔王が聖職者とか認めたくありませんわね」
頭痛でもしているのか、僧侶は眉を顰め頭に手を当てて首を何度も振った。
「失礼ですね、魔王でも聖職者になれる異世界に来たのですから仕方ないでしょう?それとも何です?魔王が仏の教えを伝えてはいけないと言う決まりでもあるのですか?」
「そう言うわけではありませんわ。信仰は魔族も関係ないと……思います」
「そもそも、そう言う決まりがあるのであれば、私が寺に転生すること事態可笑しな話なんですよね。それは貴女にも言えることですよ」
我の言葉に僧侶は眉を寄せ「そうでしたわね……」と呟くと大きく溜息を吐いた。
事実、オル・ディールでは僧侶をしていたのに、この異世界ではヤクザの組長の娘に生まれ変わってきているのだ。この事実は僧侶にとっては辛いところだろう。
「この異世界では、神の教えよりも欲を選ぶ人間が多いですわ」
「ええ、その様ですね」
「禁欲であれ……とは言いませんけれど、この異世界では難しい現実なのだと知っています」
「そうですか」
「その上で魔王、貴方に伺いたいのです。魔王でも僧侶が務まるのですか?魔王でも人間達の上に立つ事が出来るのですか?導くことが出来るのですか?」
真っ直ぐに我を見つめて、まるで嘲笑うような質問をしてきた僧侶に多少なりとムッとはしたが、その言葉を聞いていた魔法使いがクスクスと笑いながら我の隣に来た。
「僧侶、よっぽど悔しいみたいだけど、魔王は凄いんだよ?」
「まぁ、どう凄いのか教えて頂きたいですわ」
「まず、既に僧侶として活動が出来る状態である事が一つ。もう魔王は僧籍を持っているからね」
「……え?」
「更に言うと、魔王でも人間達の上に立つ、導くことが出来るのかと言われればイエスだよ。だって魔王は小学校で生徒会長だよ?」
「「……え?」」
双子の声が重なり視線が我に向かう。
事実を言っただけなのに何故ここまで驚かれなくてはならないのか。
解せぬ。
「だから、僧侶が思っているほど魔王は馬鹿でも愚かでも無いって事。ちゃんと人を導く事も出来るし、何よりカリスマがあるから生徒会長をしていても違和感は無い。寧ろ魔王をお手本にしたい子供達は多いと思うよ」
魔法使いの言葉に僧侶は手を口に当て「そんな事が……ありえない……」と放心し、武闘家は「魔王は何でも出来るんじゃのう」と驚いていた。
「それと、勇者もボクも魔王に魂を売ったとか言われるのは心外だ。ボクと勇者は魔王の“今”を理解して一緒にいる。異世界での魔王は、ボク達にとって好ましい姿だと思うよ」
「そうだな!自慢のお兄さんがいて良いですね~なんて言われる事も多いけど、今の魔王は自慢の兄である事は間違いないぞ!」
最後は勇者も我をヨイショしていたが、何故かそれを素直に取ることが出来ない。
何故なら――。
「だから魔王よ!私にその茶菓子を寄こすんだ!自慢の兄だと言ってあげたのだからな!」
「ヨイショすると思えばやはりそんなことだろうと思いましたよ、クソ勇者」
「なっ!私にはクソって言うなっていうのに自分だって言ってるじゃないか!」
「すみません、口が滑りました。いけませんね、汚い言葉を使えば自分に返ってくるのですから気をつけねば」
そう言うと我は放心している僧侶となにやら考え込んでいる武闘家に向き合った。
「とにかく、この異世界ではお互い仲良くやっていきましょう。いがみ合っても良いことなどありませんし、親を心配させるだけですからね。互いに心の平穏の為にある程度の距離を持って過ごしてもらって構いません」
「悟っておるのう」
「伊達に異世界で僧侶してませんから」
我の言葉に僧侶は両手で顔を覆い「わたくしが寺に生まれたかった」と嘆き、武闘家に慰められていた。
この様子で明日からの七夕祭り……大丈夫だろうかと思いつつも、静かに残りの茶を啜った次の日――。
「この朝食美味いのう!!」
「本当に!朝から理想的なご飯ですわ!!」
そう言って我の作った朝食を食べる僧侶と武闘家に、魔法使いと勇者が一言。
「だって、魔王の手作りだぞ?」
「美味しいに決まってるよね?」
「「……」」
目を見開いて我を見つめる双子を無視して味噌汁を頂く我の姿があった。
襖を静かに閉めると、我の前に正座して涙をそのままに我に話しかけてきた。
「魔王、わたくしは貴方の行いを許すことが出来ません」
「許して貰おうとは思っていませんよ」
「開き直って忌々しいっ」
「そもそも、魔族は人間同士の戦争を一旦止める為のストッパーでしかないでしょう。人間側の都合で魔族に争いの責任を押し付ける……一体どちらのほうが汚いのでしょうね」
我の言葉に一瞬息を止める僧侶。無論息を止めたのは勇者も一緒だった。
しかし、我の言葉に同調する者がこの場に二人いる、魔法使いと武闘家だ。
「確かに、人間側の都合で魔族に責任を押し付けていたのは……事実じゃしのう」
「武闘家様!?」
「人間同士の戦争を止める為に魔族を利用する。その決定は天の啓示と称して教会が行っていたのは事実だよ。まぁ、僧侶には酷な話だろうけどね」
「それは本当なのか……?」
勇者の言葉に魔法使いと武闘家は頷き、勇者は力なく畳みに座り込んでしまった。
魔族を払う為の旅路。
魔族の王である魔王を打ち倒せば、戦争も無くなり平和になると言う嘘を信じていたのは勇者と僧侶だけのようだ。
――聖女はどう思っていたのかは知らない。
だが、封印されるあの瞬間の聖女を鑑みるに、きっと聖女も魔法使いや武闘家と同じで人間側の事情だと知っていたのだと思う。
光属性を持つ貴重な人物は、聖女として担ぎ上げられることが多いのだと曾婆様から聞いていた我は、茶を啜り小さく息を吐いた。
「魔族が悪い、魔族がいなければ、そう教え込まれるのが人間でしょうが、実際魔族、魔物がいないと生活ができないのは人間側でしょう」
「そんな事はありませんわ!」
「本当に?」
我の真っ直ぐに見つめる瞳に、僧侶は顔を逸らして「そんな事は……」と呟いた。
実際、冒険者と呼ばれる人間達、そして錬金術や鍛冶師にとって、魔物や魔族から剥ぎ取る素材は多いのは知っていた。
寧ろ、冒険者と呼ばれる人間達からすれば、魔族、魔物を狩らねば生活できない。
魔族や魔物がいなくなれば、そう言う冒険者達の職が無くなり、盗賊や恐喝と言った治安を脅かす存在になることもあるのだ。
「魔族や魔物が人間の治安を守るための存在であったことは、間違ってはいないでしょう?」
「確かにそういう考えを持つ人たちも多かったのは事実ですわ……けれど魔族は悪だと教えられてきましたもの。教会は正しくて魔族は悪だと」
「教えられてきただけですか? 実際貴方が勇者たちと旅をして見て来た事実と、教会の教え、どちらを信じると言うのです?」
我の言葉に僧侶は唇を噛み締め俯いてしまった。
少し言いすぎただろうかと思ったが、この点については我としても引く訳には行かない。
「まぁ、今はこの異世界での生活を円満にしていく為の努力を考えたほうが宜しいですよ。オル・ディールに戻る事は難しいでしょうからね」
「それは……そうですわね」
大きく息を吐くように口にした僧侶に、我は結局優しくしてしまった事に苦笑いが出てしまう。
やはりこの異世界での生活は、我の性格を充分に変えるだけの威力があったようだ。
だが、そんな我と僧侶のやり取りをみていて、武闘家は二ヤリと笑い声を掛けてきた。
「ところで……魔王よ」
「何です?」
「お前さんの今の職業はなんじゃ」
「異世界で僧侶してますが何か?」
「うむ、僧侶よ。聞いたか?魔王は異世界で僧侶をしておるそうじゃぞ」
「……魔王が聖職者とか認めたくありませんわね」
頭痛でもしているのか、僧侶は眉を顰め頭に手を当てて首を何度も振った。
「失礼ですね、魔王でも聖職者になれる異世界に来たのですから仕方ないでしょう?それとも何です?魔王が仏の教えを伝えてはいけないと言う決まりでもあるのですか?」
「そう言うわけではありませんわ。信仰は魔族も関係ないと……思います」
「そもそも、そう言う決まりがあるのであれば、私が寺に転生すること事態可笑しな話なんですよね。それは貴女にも言えることですよ」
我の言葉に僧侶は眉を寄せ「そうでしたわね……」と呟くと大きく溜息を吐いた。
事実、オル・ディールでは僧侶をしていたのに、この異世界ではヤクザの組長の娘に生まれ変わってきているのだ。この事実は僧侶にとっては辛いところだろう。
「この異世界では、神の教えよりも欲を選ぶ人間が多いですわ」
「ええ、その様ですね」
「禁欲であれ……とは言いませんけれど、この異世界では難しい現実なのだと知っています」
「そうですか」
「その上で魔王、貴方に伺いたいのです。魔王でも僧侶が務まるのですか?魔王でも人間達の上に立つ事が出来るのですか?導くことが出来るのですか?」
真っ直ぐに我を見つめて、まるで嘲笑うような質問をしてきた僧侶に多少なりとムッとはしたが、その言葉を聞いていた魔法使いがクスクスと笑いながら我の隣に来た。
「僧侶、よっぽど悔しいみたいだけど、魔王は凄いんだよ?」
「まぁ、どう凄いのか教えて頂きたいですわ」
「まず、既に僧侶として活動が出来る状態である事が一つ。もう魔王は僧籍を持っているからね」
「……え?」
「更に言うと、魔王でも人間達の上に立つ、導くことが出来るのかと言われればイエスだよ。だって魔王は小学校で生徒会長だよ?」
「「……え?」」
双子の声が重なり視線が我に向かう。
事実を言っただけなのに何故ここまで驚かれなくてはならないのか。
解せぬ。
「だから、僧侶が思っているほど魔王は馬鹿でも愚かでも無いって事。ちゃんと人を導く事も出来るし、何よりカリスマがあるから生徒会長をしていても違和感は無い。寧ろ魔王をお手本にしたい子供達は多いと思うよ」
魔法使いの言葉に僧侶は手を口に当て「そんな事が……ありえない……」と放心し、武闘家は「魔王は何でも出来るんじゃのう」と驚いていた。
「それと、勇者もボクも魔王に魂を売ったとか言われるのは心外だ。ボクと勇者は魔王の“今”を理解して一緒にいる。異世界での魔王は、ボク達にとって好ましい姿だと思うよ」
「そうだな!自慢のお兄さんがいて良いですね~なんて言われる事も多いけど、今の魔王は自慢の兄である事は間違いないぞ!」
最後は勇者も我をヨイショしていたが、何故かそれを素直に取ることが出来ない。
何故なら――。
「だから魔王よ!私にその茶菓子を寄こすんだ!自慢の兄だと言ってあげたのだからな!」
「ヨイショすると思えばやはりそんなことだろうと思いましたよ、クソ勇者」
「なっ!私にはクソって言うなっていうのに自分だって言ってるじゃないか!」
「すみません、口が滑りました。いけませんね、汚い言葉を使えば自分に返ってくるのですから気をつけねば」
そう言うと我は放心している僧侶となにやら考え込んでいる武闘家に向き合った。
「とにかく、この異世界ではお互い仲良くやっていきましょう。いがみ合っても良いことなどありませんし、親を心配させるだけですからね。互いに心の平穏の為にある程度の距離を持って過ごしてもらって構いません」
「悟っておるのう」
「伊達に異世界で僧侶してませんから」
我の言葉に僧侶は両手で顔を覆い「わたくしが寺に生まれたかった」と嘆き、武闘家に慰められていた。
この様子で明日からの七夕祭り……大丈夫だろうかと思いつつも、静かに残りの茶を啜った次の日――。
「この朝食美味いのう!!」
「本当に!朝から理想的なご飯ですわ!!」
そう言って我の作った朝食を食べる僧侶と武闘家に、魔法使いと勇者が一言。
「だって、魔王の手作りだぞ?」
「美味しいに決まってるよね?」
「「……」」
目を見開いて我を見つめる双子を無視して味噌汁を頂く我の姿があった。
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