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第二章 魔王様、小学校六年生をお過ごしになる
【閑話】
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~side 従姉妹~
「さぁ、もう直ぐお母さんの実家のお寺よ~!」
「やっと里帰りさせることが出来てオレとしても嬉しいよ」
そんな会話をしながら、黒塗りベンツを走らせるお父様。
お母様は嬉しそうに艶やかな黒に紅色の花を散らした絞り入りの着物で着飾っている。
転生した時、わたくしはオル・ディールではない世界に生れ落ちたことに驚いた。
それ以上に混乱したわたくしには、双子の姉がおり、その姉がなんと――。
「ワシも従兄妹とやらに会うのは楽しみじゃのう! なぁ?葉月!」
「え? ええ……そうですわね。お姉様……」
双子の姉は、前世では一緒に魔王を倒し、そして世界に名高い武闘家様でした。
お年を召しつつもその動きのキレは勇者様と本気でバトル出来るほど。
武闘家様の闘気に当てられた魔物は動くことすら出来なくなるほどの強さを誇っていたのですが、残念ながら一緒に双子として生まれて来てしまった所為なのか、普通の女の子のようになってしまわれました。
<PBR>
お慕いしていた武闘家様が異世界では双子のお姉様……わたくしは人知れず涙したものです。
「葉月ちゃん皐月ちゃんも楽しみよね!」
「おお! ワシも気合を入れてオシャレしてみたからのう! 見よ葉月、このワシのミニスカ姿を! 従兄妹の兄のほうがワシの美脚にほれ込んだりしてのう! ファッハッハ!」
「ははは!! 皐月の豪快さがあれば相手の男なんざイチコロよ!」
「わたくしは脚を出すのは感心しませんわ」
「ファッハッハッハ! 折角オナゴに生まれたのに、楽しまずにどうする!」
……武闘家様は、この世界に女性として生れ落ちた事を心底楽しんでおられる様子。
武闘家様が楽しいのなら、わたくしも強く言うことも出来ません。小さく溜息を吐いて何とかお揃いの服装から、出来るだけ清楚な服装を選んで向かいました。
外に見える景色が都会から柔らかい田園風景も見えるエリアへと差し掛かったとき、わたくしと武闘家様は背筋がゾクッと……何故か解りませんが、入ってはいけないエリアに入ってしまったような感覚に陥りました。
「お姉様……」
「フム、これは……もう少し様子を見たほうがよさそうじゃな」
「えぇ……そうですわね」
魔王城に入る前に似た刺々しく刺さるナニカ。
いえ、まさか魔王がこの世界に私達のように転生しているとは考えられません。
――悪は生まれ変わりなど出来ないのですもの。
聖なる心を持つものこそ、生まれ変わることが出来るのだと、生まれ育った教会では教えられました。
けれど、でも、何故?
そんな事を思いながら車はお寺に到着し、わたくしと武闘家様は顔を見合わせ頷くと、お寺の門の前に立ちました。
「……まるで魔王城のようですわね」
「血が滾るではないか」
「まさか本当に魔王がこの世界に転生してきているのでしょうか?」
「もしそうなら……」
――もしそうなら、今のわたくし達にどう抗えと言うのでしょうか。
今はただの特殊な事も魔法も使えない、非力な娘です。
魔王の相手など出来るはずがありません。
頬を伝う汗、それは武闘家様も同じで、大きく息を吸うと気合を入れてわたくしの手を引き、門を潜りました。
お寺の玄関で靴脱ぎ、神経を尖らせながら案内された部屋へと入り、震える手で出されたお茶を飲んでいると、お父様とお母様は従兄妹のご家族と談話しはじめました。
「そろそろうちの息子達と預かってる子も来ると思うんだがね」
「お茶菓子を作ってくれてるの、時間に間に合うように作れたのかしら?」
「小雪が寝坊したからな……祐一郎が静かに怒っていたよ」
そう言って笑い会う従兄妹のご両親。
先ほどから感じる強い波動は正しく魔王のもの。
わたくしと武闘家様二人でどう戦えと言うのでしょう……いいえ、この世界でどう立ち向かえというのでしょう……余りにも酷過ぎます……。
ポロポロと涙が零れ落ちそうになったその時――襖が開き現れた姿に目を見開きました。
その刹那―――。
「「「「あっ!!」」」」
あ……あぁ、なんてことでしょう。
あなた方もこの世界にいたのですね!
「二人とも何故ここに!!」
「うわぁ……ボク、なんか色々脳内追いつかないかもしれない」
間違いなく、勇者様と魔法使い様!! 武闘家様も驚き、喜びを隠せず立ち上がり駆け寄ったその時でした。
「やはり私の勘は当たりましたか……」
ゾッ―――と襲い掛かる悪寒。勇者様と魔法使い様の後ろから現れたのは……魔王でした。
恐怖のあまり声すら出ないわたくし……けれど武闘家様は違いました。
しなやかに、それでいて素早く動き魔王に拳を突きつけ――。
「折角の茶菓子を無駄にするおつもりですか! 初対面でせいけん突きをしようとするお転婆さんには焼き菓子あげませんよ!!」
ゴスッ と言う音が武闘家様の拳が魔王に伸びる前に、無残にも武闘家様の頭に落ちたのです。
その場に蹲る武闘家様、呆然とする家族、呆れて頭を抱える魔法使い様……そして「懐かしいな何となく」と遠い目をしたまま口にする勇者様。
「教育的指導です。決して暴力ではありません、良いですね?」
「あ、はい」
「そうですね」
魔王の言葉に勇者様と魔法使い様まで頷いて……嗚呼っもしや心を魔王に売ってしまったのですか!?
あまりのショックに、わたくしはそこで意識を失いました……。
「さぁ、もう直ぐお母さんの実家のお寺よ~!」
「やっと里帰りさせることが出来てオレとしても嬉しいよ」
そんな会話をしながら、黒塗りベンツを走らせるお父様。
お母様は嬉しそうに艶やかな黒に紅色の花を散らした絞り入りの着物で着飾っている。
転生した時、わたくしはオル・ディールではない世界に生れ落ちたことに驚いた。
それ以上に混乱したわたくしには、双子の姉がおり、その姉がなんと――。
「ワシも従兄妹とやらに会うのは楽しみじゃのう! なぁ?葉月!」
「え? ええ……そうですわね。お姉様……」
双子の姉は、前世では一緒に魔王を倒し、そして世界に名高い武闘家様でした。
お年を召しつつもその動きのキレは勇者様と本気でバトル出来るほど。
武闘家様の闘気に当てられた魔物は動くことすら出来なくなるほどの強さを誇っていたのですが、残念ながら一緒に双子として生まれて来てしまった所為なのか、普通の女の子のようになってしまわれました。
<PBR>
お慕いしていた武闘家様が異世界では双子のお姉様……わたくしは人知れず涙したものです。
「葉月ちゃん皐月ちゃんも楽しみよね!」
「おお! ワシも気合を入れてオシャレしてみたからのう! 見よ葉月、このワシのミニスカ姿を! 従兄妹の兄のほうがワシの美脚にほれ込んだりしてのう! ファッハッハ!」
「ははは!! 皐月の豪快さがあれば相手の男なんざイチコロよ!」
「わたくしは脚を出すのは感心しませんわ」
「ファッハッハッハ! 折角オナゴに生まれたのに、楽しまずにどうする!」
……武闘家様は、この世界に女性として生れ落ちた事を心底楽しんでおられる様子。
武闘家様が楽しいのなら、わたくしも強く言うことも出来ません。小さく溜息を吐いて何とかお揃いの服装から、出来るだけ清楚な服装を選んで向かいました。
外に見える景色が都会から柔らかい田園風景も見えるエリアへと差し掛かったとき、わたくしと武闘家様は背筋がゾクッと……何故か解りませんが、入ってはいけないエリアに入ってしまったような感覚に陥りました。
「お姉様……」
「フム、これは……もう少し様子を見たほうがよさそうじゃな」
「えぇ……そうですわね」
魔王城に入る前に似た刺々しく刺さるナニカ。
いえ、まさか魔王がこの世界に私達のように転生しているとは考えられません。
――悪は生まれ変わりなど出来ないのですもの。
聖なる心を持つものこそ、生まれ変わることが出来るのだと、生まれ育った教会では教えられました。
けれど、でも、何故?
そんな事を思いながら車はお寺に到着し、わたくしと武闘家様は顔を見合わせ頷くと、お寺の門の前に立ちました。
「……まるで魔王城のようですわね」
「血が滾るではないか」
「まさか本当に魔王がこの世界に転生してきているのでしょうか?」
「もしそうなら……」
――もしそうなら、今のわたくし達にどう抗えと言うのでしょうか。
今はただの特殊な事も魔法も使えない、非力な娘です。
魔王の相手など出来るはずがありません。
頬を伝う汗、それは武闘家様も同じで、大きく息を吸うと気合を入れてわたくしの手を引き、門を潜りました。
お寺の玄関で靴脱ぎ、神経を尖らせながら案内された部屋へと入り、震える手で出されたお茶を飲んでいると、お父様とお母様は従兄妹のご家族と談話しはじめました。
「そろそろうちの息子達と預かってる子も来ると思うんだがね」
「お茶菓子を作ってくれてるの、時間に間に合うように作れたのかしら?」
「小雪が寝坊したからな……祐一郎が静かに怒っていたよ」
そう言って笑い会う従兄妹のご両親。
先ほどから感じる強い波動は正しく魔王のもの。
わたくしと武闘家様二人でどう戦えと言うのでしょう……いいえ、この世界でどう立ち向かえというのでしょう……余りにも酷過ぎます……。
ポロポロと涙が零れ落ちそうになったその時――襖が開き現れた姿に目を見開きました。
その刹那―――。
「「「「あっ!!」」」」
あ……あぁ、なんてことでしょう。
あなた方もこの世界にいたのですね!
「二人とも何故ここに!!」
「うわぁ……ボク、なんか色々脳内追いつかないかもしれない」
間違いなく、勇者様と魔法使い様!! 武闘家様も驚き、喜びを隠せず立ち上がり駆け寄ったその時でした。
「やはり私の勘は当たりましたか……」
ゾッ―――と襲い掛かる悪寒。勇者様と魔法使い様の後ろから現れたのは……魔王でした。
恐怖のあまり声すら出ないわたくし……けれど武闘家様は違いました。
しなやかに、それでいて素早く動き魔王に拳を突きつけ――。
「折角の茶菓子を無駄にするおつもりですか! 初対面でせいけん突きをしようとするお転婆さんには焼き菓子あげませんよ!!」
ゴスッ と言う音が武闘家様の拳が魔王に伸びる前に、無残にも武闘家様の頭に落ちたのです。
その場に蹲る武闘家様、呆然とする家族、呆れて頭を抱える魔法使い様……そして「懐かしいな何となく」と遠い目をしたまま口にする勇者様。
「教育的指導です。決して暴力ではありません、良いですね?」
「あ、はい」
「そうですね」
魔王の言葉に勇者様と魔法使い様まで頷いて……嗚呼っもしや心を魔王に売ってしまったのですか!?
あまりのショックに、わたくしはそこで意識を失いました……。
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