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第二章 魔王様、小学校六年生をお過ごしになる
38 魔王様、修学旅行に行かれる②
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そして、修学旅行の日がやってきた。
朝早くからバスに乗り込み、我の隣はアキラ、通路挟んで隣は魔法使いだ。
魔法使いの隣に座る男子には可哀そうだが、諦めてもらうことにしよう。
長崎までの道のりはそう遠くは無い。
温泉つきのホテルとて楽しみだ。
以前、両親と勇者とで温泉旅行に一度だけ行った事があるが、温泉とはとにかく素晴らしいものだと理解している。
オル・ディールにいた時に知っていれば、魔王城に確実に作っていただろう代物だ。
ちなみに、勇者ははしゃぎすぎて温泉の床で滑って倒れ、更に湯辺りで倒れた。
あのコンボは中々素晴らしいものがあると兄なりに感心したものだ。
「戦争経験者からの言葉を聞くってあるけど、戦争経験者の人たちってもうどれくらい残ってるんだろうな……」
「そうですね、あれからかなりの月日が流れてますから」
「主に戦争の時のアレコレが展示されてる所にいくのがメインになりそうな気もするけど」
そう言って語り合う中、魔法使いが少しだけ遠い目をしたのを見逃さなかった。
――戦争。
オル・ディールで勇者や魔法使い達と戦った時ですら戦争中だった。
人間側がどうであったかなど我は知らないが、魔法使いなりに思うことがあるのだろう。
我らからすれば、まだたった11年、12年前の話なのだ。
「おみやげは二日目に買えるんだっけ」
「グラバー園あたりで買えそうですね」
ふいにアキラがそう問い掛けてきたので返事を返すと、アキラも何故か遠い目をした。
「ねーちゃんからお土産頼まれてさ……」
「あぁ……何を頼まれたのです」
「カステラ」
「安定の」
アキラの姉もカステラを所望か。
実は母と勇者からもカステラを頼まれている。
お客様に出す用にも欲しいらしく、我と魔法使いで分けて買ってくるようにと言われているのだ。
寺には連絡無しにお客が来る。
その対応をするのが、寺嫁の仕事の一つでもある。
ゆえに、母は何時も失礼が無い様に身奇麗にしているのが現状だ。
「小雪には何をプレゼントしようかなぁ……グラバー園にいくならどんなものがあるかな」
「宗教に関するものは止めて下さいよ、仮にも我が家は寺なんですから」
「そう言えば、昔忍者村に行った時、小雪に日本刀のキーホルダーあげたら凄く喜んだな~」
アキラが懐かしそうに口にした途端、魔法使いはムスッとした表情を浮かべた。
勇者はランドセルにそのキーホルダーを着けている、とても大切そうにしているのだ。
その事を知っている我と魔法使いからすれば、我は微笑ましく思うが、魔法使いにしては大変面白くない状況だろう。
「ボク、いつかアキラと全面戦争するかも知れない」
「何でだよ」
「小雪に関する事は負けたくないからね」
二人の間で火花が散ったが、我は気にせず茶を飲んだ。
「そもそも、一緒に暮らしてるボクのほうが有利なんだよ?」
「一体何の話をしてるんだよ。小雪は妹みたいなものだろ?」
「アキラは本当にそう思ってんの?」
「そうじゃなかったら何だって言うんだよ」
「二人ともお止めなさい。女子が聞き耳立ててますよ」
我の言葉に二人は押し黙り、暫しの沈黙が流れたが――。
「そもそも、小雪は私の事が大好きですよ。ええ、私の手料理が。相手を掴むなら胃袋までとはよく言ったものですね」
「くっ」
「むう」
「最近では小雪も料理を覚え始めましたし良い傾向です。さて、そろそろ長崎に着きますし仲良く散策しましょう。楽しみましょう。この時は今しか訪れないのですから」
我がそう締めくくるとアキラと魔法使いは溜息を吐いて「それもそうだな」と納得したようだ。
お土産は二日目の散策の際にとなり、長崎に着いたバスはそのまま各戦争跡地へ赴いては降り、そこでの黙祷が捧げられた。
戦争経験者の方の話も聞き、資料館に訪れた際、皆が目を背ける中、魔法使いだけは真っ直ぐ遺品を見つめ、言葉はなく……静かに目を閉じ苦痛の表情を浮かべていた。
帰る頃にはいつも通りに戻っていたが、少し気分が悪いと言って割り振られた部屋へと行ってしまう。
「恵?」
「私が行きましょう。アキラは班の点呼をお願いします」
「解った」
他の修学旅行生とすれ違いながら割り振られた部屋へと向かうと、魔法使いは外の見える窓側にある椅子に座り、外を眺めていた。
我の存在に気がついたのか、少し儚げに微笑むと両手肩を少しあげて皮肉交じりな言葉を吐く。
「随分とお人よしになったもんだね、魔王ダグラス」
「寺に産まれればお人よしにもなるでしょう」
「はは!違いない!」
そう言って笑うと魔法使いは再度外に眼を向けた。
寂しそうな、辛そうな、心此処にあらずな表情で外を見つめる魔法使いの前に座ると、きつく結んでいた口は開き、我に語りかけてきた。
そう――この世界に転生する前の話、オル・ディールの世界の事を……。
朝早くからバスに乗り込み、我の隣はアキラ、通路挟んで隣は魔法使いだ。
魔法使いの隣に座る男子には可哀そうだが、諦めてもらうことにしよう。
長崎までの道のりはそう遠くは無い。
温泉つきのホテルとて楽しみだ。
以前、両親と勇者とで温泉旅行に一度だけ行った事があるが、温泉とはとにかく素晴らしいものだと理解している。
オル・ディールにいた時に知っていれば、魔王城に確実に作っていただろう代物だ。
ちなみに、勇者ははしゃぎすぎて温泉の床で滑って倒れ、更に湯辺りで倒れた。
あのコンボは中々素晴らしいものがあると兄なりに感心したものだ。
「戦争経験者からの言葉を聞くってあるけど、戦争経験者の人たちってもうどれくらい残ってるんだろうな……」
「そうですね、あれからかなりの月日が流れてますから」
「主に戦争の時のアレコレが展示されてる所にいくのがメインになりそうな気もするけど」
そう言って語り合う中、魔法使いが少しだけ遠い目をしたのを見逃さなかった。
――戦争。
オル・ディールで勇者や魔法使い達と戦った時ですら戦争中だった。
人間側がどうであったかなど我は知らないが、魔法使いなりに思うことがあるのだろう。
我らからすれば、まだたった11年、12年前の話なのだ。
「おみやげは二日目に買えるんだっけ」
「グラバー園あたりで買えそうですね」
ふいにアキラがそう問い掛けてきたので返事を返すと、アキラも何故か遠い目をした。
「ねーちゃんからお土産頼まれてさ……」
「あぁ……何を頼まれたのです」
「カステラ」
「安定の」
アキラの姉もカステラを所望か。
実は母と勇者からもカステラを頼まれている。
お客様に出す用にも欲しいらしく、我と魔法使いで分けて買ってくるようにと言われているのだ。
寺には連絡無しにお客が来る。
その対応をするのが、寺嫁の仕事の一つでもある。
ゆえに、母は何時も失礼が無い様に身奇麗にしているのが現状だ。
「小雪には何をプレゼントしようかなぁ……グラバー園にいくならどんなものがあるかな」
「宗教に関するものは止めて下さいよ、仮にも我が家は寺なんですから」
「そう言えば、昔忍者村に行った時、小雪に日本刀のキーホルダーあげたら凄く喜んだな~」
アキラが懐かしそうに口にした途端、魔法使いはムスッとした表情を浮かべた。
勇者はランドセルにそのキーホルダーを着けている、とても大切そうにしているのだ。
その事を知っている我と魔法使いからすれば、我は微笑ましく思うが、魔法使いにしては大変面白くない状況だろう。
「ボク、いつかアキラと全面戦争するかも知れない」
「何でだよ」
「小雪に関する事は負けたくないからね」
二人の間で火花が散ったが、我は気にせず茶を飲んだ。
「そもそも、一緒に暮らしてるボクのほうが有利なんだよ?」
「一体何の話をしてるんだよ。小雪は妹みたいなものだろ?」
「アキラは本当にそう思ってんの?」
「そうじゃなかったら何だって言うんだよ」
「二人ともお止めなさい。女子が聞き耳立ててますよ」
我の言葉に二人は押し黙り、暫しの沈黙が流れたが――。
「そもそも、小雪は私の事が大好きですよ。ええ、私の手料理が。相手を掴むなら胃袋までとはよく言ったものですね」
「くっ」
「むう」
「最近では小雪も料理を覚え始めましたし良い傾向です。さて、そろそろ長崎に着きますし仲良く散策しましょう。楽しみましょう。この時は今しか訪れないのですから」
我がそう締めくくるとアキラと魔法使いは溜息を吐いて「それもそうだな」と納得したようだ。
お土産は二日目の散策の際にとなり、長崎に着いたバスはそのまま各戦争跡地へ赴いては降り、そこでの黙祷が捧げられた。
戦争経験者の方の話も聞き、資料館に訪れた際、皆が目を背ける中、魔法使いだけは真っ直ぐ遺品を見つめ、言葉はなく……静かに目を閉じ苦痛の表情を浮かべていた。
帰る頃にはいつも通りに戻っていたが、少し気分が悪いと言って割り振られた部屋へと行ってしまう。
「恵?」
「私が行きましょう。アキラは班の点呼をお願いします」
「解った」
他の修学旅行生とすれ違いながら割り振られた部屋へと向かうと、魔法使いは外の見える窓側にある椅子に座り、外を眺めていた。
我の存在に気がついたのか、少し儚げに微笑むと両手肩を少しあげて皮肉交じりな言葉を吐く。
「随分とお人よしになったもんだね、魔王ダグラス」
「寺に産まれればお人よしにもなるでしょう」
「はは!違いない!」
そう言って笑うと魔法使いは再度外に眼を向けた。
寂しそうな、辛そうな、心此処にあらずな表情で外を見つめる魔法使いの前に座ると、きつく結んでいた口は開き、我に語りかけてきた。
そう――この世界に転生する前の話、オル・ディールの世界の事を……。
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