41 / 107
第二章 魔王様、小学校六年生をお過ごしになる
38 魔王様、修学旅行に行かれる②
しおりを挟む
そして、修学旅行の日がやってきた。
朝早くからバスに乗り込み、我の隣はアキラ、通路挟んで隣は魔法使いだ。
魔法使いの隣に座る男子には可哀そうだが、諦めてもらうことにしよう。
長崎までの道のりはそう遠くは無い。
温泉つきのホテルとて楽しみだ。
以前、両親と勇者とで温泉旅行に一度だけ行った事があるが、温泉とはとにかく素晴らしいものだと理解している。
オル・ディールにいた時に知っていれば、魔王城に確実に作っていただろう代物だ。
ちなみに、勇者ははしゃぎすぎて温泉の床で滑って倒れ、更に湯辺りで倒れた。
あのコンボは中々素晴らしいものがあると兄なりに感心したものだ。
「戦争経験者からの言葉を聞くってあるけど、戦争経験者の人たちってもうどれくらい残ってるんだろうな……」
「そうですね、あれからかなりの月日が流れてますから」
「主に戦争の時のアレコレが展示されてる所にいくのがメインになりそうな気もするけど」
そう言って語り合う中、魔法使いが少しだけ遠い目をしたのを見逃さなかった。
――戦争。
オル・ディールで勇者や魔法使い達と戦った時ですら戦争中だった。
人間側がどうであったかなど我は知らないが、魔法使いなりに思うことがあるのだろう。
我らからすれば、まだたった11年、12年前の話なのだ。
「おみやげは二日目に買えるんだっけ」
「グラバー園あたりで買えそうですね」
ふいにアキラがそう問い掛けてきたので返事を返すと、アキラも何故か遠い目をした。
「ねーちゃんからお土産頼まれてさ……」
「あぁ……何を頼まれたのです」
「カステラ」
「安定の」
アキラの姉もカステラを所望か。
実は母と勇者からもカステラを頼まれている。
お客様に出す用にも欲しいらしく、我と魔法使いで分けて買ってくるようにと言われているのだ。
寺には連絡無しにお客が来る。
その対応をするのが、寺嫁の仕事の一つでもある。
ゆえに、母は何時も失礼が無い様に身奇麗にしているのが現状だ。
「小雪には何をプレゼントしようかなぁ……グラバー園にいくならどんなものがあるかな」
「宗教に関するものは止めて下さいよ、仮にも我が家は寺なんですから」
「そう言えば、昔忍者村に行った時、小雪に日本刀のキーホルダーあげたら凄く喜んだな~」
アキラが懐かしそうに口にした途端、魔法使いはムスッとした表情を浮かべた。
勇者はランドセルにそのキーホルダーを着けている、とても大切そうにしているのだ。
その事を知っている我と魔法使いからすれば、我は微笑ましく思うが、魔法使いにしては大変面白くない状況だろう。
「ボク、いつかアキラと全面戦争するかも知れない」
「何でだよ」
「小雪に関する事は負けたくないからね」
二人の間で火花が散ったが、我は気にせず茶を飲んだ。
「そもそも、一緒に暮らしてるボクのほうが有利なんだよ?」
「一体何の話をしてるんだよ。小雪は妹みたいなものだろ?」
「アキラは本当にそう思ってんの?」
「そうじゃなかったら何だって言うんだよ」
「二人ともお止めなさい。女子が聞き耳立ててますよ」
我の言葉に二人は押し黙り、暫しの沈黙が流れたが――。
「そもそも、小雪は私の事が大好きですよ。ええ、私の手料理が。相手を掴むなら胃袋までとはよく言ったものですね」
「くっ」
「むう」
「最近では小雪も料理を覚え始めましたし良い傾向です。さて、そろそろ長崎に着きますし仲良く散策しましょう。楽しみましょう。この時は今しか訪れないのですから」
我がそう締めくくるとアキラと魔法使いは溜息を吐いて「それもそうだな」と納得したようだ。
お土産は二日目の散策の際にとなり、長崎に着いたバスはそのまま各戦争跡地へ赴いては降り、そこでの黙祷が捧げられた。
戦争経験者の方の話も聞き、資料館に訪れた際、皆が目を背ける中、魔法使いだけは真っ直ぐ遺品を見つめ、言葉はなく……静かに目を閉じ苦痛の表情を浮かべていた。
帰る頃にはいつも通りに戻っていたが、少し気分が悪いと言って割り振られた部屋へと行ってしまう。
「恵?」
「私が行きましょう。アキラは班の点呼をお願いします」
「解った」
他の修学旅行生とすれ違いながら割り振られた部屋へと向かうと、魔法使いは外の見える窓側にある椅子に座り、外を眺めていた。
我の存在に気がついたのか、少し儚げに微笑むと両手肩を少しあげて皮肉交じりな言葉を吐く。
「随分とお人よしになったもんだね、魔王ダグラス」
「寺に産まれればお人よしにもなるでしょう」
「はは!違いない!」
そう言って笑うと魔法使いは再度外に眼を向けた。
寂しそうな、辛そうな、心此処にあらずな表情で外を見つめる魔法使いの前に座ると、きつく結んでいた口は開き、我に語りかけてきた。
そう――この世界に転生する前の話、オル・ディールの世界の事を……。
朝早くからバスに乗り込み、我の隣はアキラ、通路挟んで隣は魔法使いだ。
魔法使いの隣に座る男子には可哀そうだが、諦めてもらうことにしよう。
長崎までの道のりはそう遠くは無い。
温泉つきのホテルとて楽しみだ。
以前、両親と勇者とで温泉旅行に一度だけ行った事があるが、温泉とはとにかく素晴らしいものだと理解している。
オル・ディールにいた時に知っていれば、魔王城に確実に作っていただろう代物だ。
ちなみに、勇者ははしゃぎすぎて温泉の床で滑って倒れ、更に湯辺りで倒れた。
あのコンボは中々素晴らしいものがあると兄なりに感心したものだ。
「戦争経験者からの言葉を聞くってあるけど、戦争経験者の人たちってもうどれくらい残ってるんだろうな……」
「そうですね、あれからかなりの月日が流れてますから」
「主に戦争の時のアレコレが展示されてる所にいくのがメインになりそうな気もするけど」
そう言って語り合う中、魔法使いが少しだけ遠い目をしたのを見逃さなかった。
――戦争。
オル・ディールで勇者や魔法使い達と戦った時ですら戦争中だった。
人間側がどうであったかなど我は知らないが、魔法使いなりに思うことがあるのだろう。
我らからすれば、まだたった11年、12年前の話なのだ。
「おみやげは二日目に買えるんだっけ」
「グラバー園あたりで買えそうですね」
ふいにアキラがそう問い掛けてきたので返事を返すと、アキラも何故か遠い目をした。
「ねーちゃんからお土産頼まれてさ……」
「あぁ……何を頼まれたのです」
「カステラ」
「安定の」
アキラの姉もカステラを所望か。
実は母と勇者からもカステラを頼まれている。
お客様に出す用にも欲しいらしく、我と魔法使いで分けて買ってくるようにと言われているのだ。
寺には連絡無しにお客が来る。
その対応をするのが、寺嫁の仕事の一つでもある。
ゆえに、母は何時も失礼が無い様に身奇麗にしているのが現状だ。
「小雪には何をプレゼントしようかなぁ……グラバー園にいくならどんなものがあるかな」
「宗教に関するものは止めて下さいよ、仮にも我が家は寺なんですから」
「そう言えば、昔忍者村に行った時、小雪に日本刀のキーホルダーあげたら凄く喜んだな~」
アキラが懐かしそうに口にした途端、魔法使いはムスッとした表情を浮かべた。
勇者はランドセルにそのキーホルダーを着けている、とても大切そうにしているのだ。
その事を知っている我と魔法使いからすれば、我は微笑ましく思うが、魔法使いにしては大変面白くない状況だろう。
「ボク、いつかアキラと全面戦争するかも知れない」
「何でだよ」
「小雪に関する事は負けたくないからね」
二人の間で火花が散ったが、我は気にせず茶を飲んだ。
「そもそも、一緒に暮らしてるボクのほうが有利なんだよ?」
「一体何の話をしてるんだよ。小雪は妹みたいなものだろ?」
「アキラは本当にそう思ってんの?」
「そうじゃなかったら何だって言うんだよ」
「二人ともお止めなさい。女子が聞き耳立ててますよ」
我の言葉に二人は押し黙り、暫しの沈黙が流れたが――。
「そもそも、小雪は私の事が大好きですよ。ええ、私の手料理が。相手を掴むなら胃袋までとはよく言ったものですね」
「くっ」
「むう」
「最近では小雪も料理を覚え始めましたし良い傾向です。さて、そろそろ長崎に着きますし仲良く散策しましょう。楽しみましょう。この時は今しか訪れないのですから」
我がそう締めくくるとアキラと魔法使いは溜息を吐いて「それもそうだな」と納得したようだ。
お土産は二日目の散策の際にとなり、長崎に着いたバスはそのまま各戦争跡地へ赴いては降り、そこでの黙祷が捧げられた。
戦争経験者の方の話も聞き、資料館に訪れた際、皆が目を背ける中、魔法使いだけは真っ直ぐ遺品を見つめ、言葉はなく……静かに目を閉じ苦痛の表情を浮かべていた。
帰る頃にはいつも通りに戻っていたが、少し気分が悪いと言って割り振られた部屋へと行ってしまう。
「恵?」
「私が行きましょう。アキラは班の点呼をお願いします」
「解った」
他の修学旅行生とすれ違いながら割り振られた部屋へと向かうと、魔法使いは外の見える窓側にある椅子に座り、外を眺めていた。
我の存在に気がついたのか、少し儚げに微笑むと両手肩を少しあげて皮肉交じりな言葉を吐く。
「随分とお人よしになったもんだね、魔王ダグラス」
「寺に産まれればお人よしにもなるでしょう」
「はは!違いない!」
そう言って笑うと魔法使いは再度外に眼を向けた。
寂しそうな、辛そうな、心此処にあらずな表情で外を見つめる魔法使いの前に座ると、きつく結んでいた口は開き、我に語りかけてきた。
そう――この世界に転生する前の話、オル・ディールの世界の事を……。
0
お気に入りに追加
43
あなたにおすすめの小説
猫のお菓子屋さん
水玉猫
絵本
クマのパン屋さんのおとなりに、猫のお菓子屋さんができました。
毎日、いろんな猫さんが、代わる代わるに、お店番。
お店番の猫さんが、それぞれ自慢のお菓子を用意します。
だから、毎日お菓子が変わります。
今日は、どんなお菓子があるのかな?
猫さんたちの美味しい掌編集。
ちょっぴり、シュールなお菓子が並ぶことも、ありますよ。
顔見知りの猫さんがお当番の日は、是非是非、のぞいてみてください!
生贄姫の末路 【完結】
松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。
それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。
水の豊かな国には双子のお姫様がいます。
ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。
もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。
王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。
中学生ユーチューバーの心霊スポットMAP
じゅん
児童書・童話
【第1回「きずな児童書大賞」大賞 受賞👑】
悪霊のいる場所では、居合わせた人に「霊障」を可視化させる体質を持つ「霊感少女」のアカリ(中学1年生)。
「ユーチューバーになりたい」幼なじみと、「心霊スポットMAPを作りたい」友達に巻き込まれて、心霊現象を検証することになる。
いくつか心霊スポットを回るうちに、最近増えている心霊現象の原因は、霊を悪霊化させている「ボス」のせいだとわかり――
クスっと笑えながらも、ゾッとする連作短編。
忠犬ハジッコ
SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。
「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。
※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、
今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。
お楽しみいただければうれしいです。

剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です!
月芝
児童書・童話
国の端っこのきわきわにある辺境の里にて。
不自由なりにも快適にすみっこ暮らしをしていたチヨコ。
いずれは都会に出て……なんてことはまるで考えておらず、
実家の畑と趣味の園芸の二刀流で、第一次産業の星を目指す所存。
父母妹、クセの強い里の仲間たち、その他いろいろ。
ちょっぴり変わった環境に囲まれて、すくすく育ち迎えた十一歳。
森で行き倒れの老人を助けたら、なぜだか剣の母に任命されちゃった!!
って、剣の母って何?
世に邪悪があふれ災いがはびこるとき、地上へと神がつかわす天剣(アマノツルギ)。
それを産み出す母体に選ばれてしまった少女。
役に立ちそうで微妙なチカラを授かるも、使命を果たさないと恐ろしい呪いが……。
うかうかしていたら、あっという間に灰色の青春が過ぎて、
孤高の人生の果てに、寂しい老後が待っている。
なんてこったい!
チヨコの明日はどっちだ!

お姫様の願い事
月詠世理
児童書・童話
赤子が生まれた時に母親は亡くなってしまった。赤子は実の父親から嫌われてしまう。そのため、赤子は血の繋がらない女に育てられた。 決められた期限は十年。十歳になった女の子は母親代わりに連れられて城に行くことになった。女の子の実の父親のもとへ——。女の子はさいごに何を願うのだろうか。
ローズお姉さまのドレス
有沢真尋
児童書・童話
最近のルイーゼは少しおかしい。
いつも丈の合わない、ローズお姉さまのドレスを着ている。
話し方もお姉さまそっくり。
わたしと同じ年なのに、ずいぶん年上のように振舞う。
表紙はかんたん表紙メーカーさまで作成

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる