【中学突入!】転生魔王は寺に生まれる

うどん五段

文字の大きさ
上 下
40 / 107
第二章 魔王様、小学校六年生をお過ごしになる

37 魔王様、修学旅行に行かれる①

しおりを挟む
 男女戦争も無事終わり、一ヶ月が過ぎた。
 その頃になると、六年生最後の修学旅行の話が出始める。
 一泊二日の長崎への旅行、バスでの旅だ。
 修学旅行のしおり作りにも明け暮れ、更に生徒会の仕事もあり帰宅が遅れることが多々あったが、小学校最後の旅行だからと祖父も父も許してくれたのはあり難い。
 ――とは言え、しっかりと勤めは果たさねば許されないのが寺である。
一日不作一日不食いちにちなさざればいちにちくわざる】 
 ――自分が努めるべき努めを果たす、と言う事。
 その教えに反抗もせずついていけるのは、やはり前世の記憶――魔王ダグラスであった頃の我がいるからだろう。
 それでも、何処かでガス抜きをしなければ疲れは溜まる一方。ゆえに我はストレス発散に料理に走る。
 だがコレも悪いばかりではない。
 我の精神状態が料理の品数で解りやすいと言うメリットがあるらしく、大量の料理が出た次の日は少しだけ休むことが出来た。


 バスに乗っての一泊二日。
 行き先は長崎へと決まり、旅のしおりなるモノも出来上がった。
 戦争体験者からの情報を聞けると言うのは、オル・ディールでは当たり前の事だったかもしれない。
 当時、オル・ディールでは魔族との戦いの他、人間同士仲良く領地争いで戦争をよくしていたものだ。
 人間同士が仲良く戦争している間は、魔族は大変平和だった。
 それこそ、何時も人間同士で戦争をしていてくれと願うほどにだ。


「カステラ一番電話は二番」
「三時のオヤツは」
「それ以上はダメですよ」


 某カステラのCMの歌を歌うアキラと魔法使い。
 だが、長崎といえば確かにカステラだ。特にザラメのついたカステラは美味い。


「お土産はカステラですよね」
「カステラだな」
「カステラしかないよね、小雪の大好物だしね!」


 ――魔法使いの基準はいつでも勇者。
 確かに勇者はカステラが好きだ、もみじまんじゅうも好きだ。
 和菓子系は、勇者は何でも好きな気がするが、そこは触れないで置いた。


「小雪は羊羹ようかんも好きだろう?」
「一番はカステラだよ?」
羊羹ようかんだって大好きだろう?」
羊羹ようかんだって好きだけどカステラだよね?」


 なにやら不毛な言い合いをする魔法使いとアキラ。
 書類を纏めて机に置くと、我は大きく溜息を吐いた。


「小雪が一番好きなのは、ですよ?」
「ぐっ」
「むっ」
「さ、不毛な争いに終止符がつかれました。早く帰りましょう」


 こうして、とりあえず兄の料理は一番最高! と言う地位を得て帰宅し、旅のしおりで旅行に必要な道具を一式メモして母に手渡すと、歯ブラシなど旅行用を用意してくれることになった。

 一泊二日、されど一泊二日。
 小学校最後の旅行ともあり、思いで作りをシッカリしてくるようにと言われた。
 後は写真を撮ってもらったら、出来上がったら沢山買うようにとも。
 親の心理と言うヤツだろうが、我はあまり写真が好きではない。

 ――何となく、魂を抜かれそうな魔法でもついていそうな気がするだけだ。
 別に弱点とかではなく、何となくそんな気がするだけ。
 気のせいだと解ってはいるし、アキラが写真好きなので昔よりはだいぶ慣れた。
 それでも苦手なのには変わりないが。

 そんな時、しおりのスケジュールを見ていると、女子のお風呂が2回に分けられていることに気がついた。
 特に気にする情報でもないと思いその日はスルーしたのだが、翌日大変なことになっていた。


「なんで女子だけ風呂が2回あんの?」
「なんでなんでー?」


 一部の男子が暴走していた。
 理由を知っていての暴走、女子はうざったそうな表情でその男子達を見ている。


「煩いな~! 別にいいじゃん2回でも!」
「男子に迷惑かかる訳じゃないじゃん!」
「アレだろ? 生理だろ!」
「やだー! 生理が移っちゃう~!」
「煩いキモイ男子!!」


 あ、うん、確かに気持ち悪いな。
 と言うか、生理が移る病であるなら世界中の男性は移っていると思うんだがな。


「生理ってアレだろー?」
「アレだよなー」
「やっぱなー!」
「移っちゃうよなー!!」


 そう盛り上がりを見せたその時だった。


「え? 生理って大人へのステップでしょ? そうやってニヤニヤしながら話してるお前達ってまさか、まだ精通せいつうしてないの? だから移るとかいってんの?」


 魔法使いのその言葉に、クラス中の男子がほぼ同時に噴出した。
 無論、我も噴出した。
 無論女子は首を傾げて「精通?」 と言っている。
 固まる男子、我は溜息を吐いて魔法使いを見た。


「お止めなさい、六年生にもなって精通してない男子がいるはずないでしょう?」
「いや、だって生理が移るっていうなら精通してないってことじゃないの?」
「確かに大人の階段をまだのぼってないのかも知れませんが……」
「そもそも女子に生理来るの当たり前の事じゃん、当たり前の事をニヤニヤしながら口にするって気持ち悪いよね~。第一お前らの母親とかも生理きてんのに移るってウケルんだけど」


 魔法使いの爆弾発言に、最早ニヤニヤしていた男子はニヤニヤから一転、顔を真っ赤にさせて固まっている。
 元が女性の魔法使い、この手の話は徹底的に潰したくなるのだろう。


「はい! 恵君に質問!」
「なに?」
「精通ってなんですか?」


 女子の素直な、正に素直な質問に対し、魔法使いは――。


「帰ってお父さんに聞いたら一発だよ」
「じゃあ帰ったらお父さんに聞いてみよ」
「私はお兄ちゃんに聞いてみようかな」


 魔法使いの一言に、素直な女子のご家庭では男性陣が説明しようにも説明しがたい事になるのは明白だなと思った。
 一部の家庭では阿鼻叫喚の地獄絵図が出来るかもしれない。


「恵、もうその辺にしておけよ。デリケートな問題なんだしさ」
「ごめんごめん、ついお子様過ぎる男子がいてイジメたくなっちゃった」
「まぁ、確かにお子様な発言でしたね。生殖機能が備わる事は人間にとって当たり前の事ですし、なんら恥ずかしいことでは無いのですけどね」
「ユウもその辺にしとけ」
「申し訳ありません」


 顔を真っ赤にしながら止めるアキラに諭され、我も魔法使いもこれ以上口にする事はなかった。
 ただ言える事は――その後教室に微妙な空気が一日続いたくらいだろうか。



 その日の夜、鐘打ち堂にて聖女と会話している時にその話題を出すと、聖女にも覚えがあるらしく「男子あるあるだね」と苦笑いをしていた。


「男子のあるあるですか」
「そうだよ、生理が移るとかまさにそう。中学にもなれば言わなくなるけど、小学生まではそう言うこと言っちゃうのよね」
「一部の恒例な通過儀礼つうかぎれいなんでしょうかね」
「かも知れないね。でも恵ちゃんの返しは中々凄いと思う」


 確かに我もアレは凄いと思う。
 見た目が中性的な上にそう言う事を言われれば、男子にとっては大打撃に近い発言だっただろう。
 我ですら噴出したのだから。


「女子をおちょくってたつもりが、とんでもない攻撃を別方向から受けた感じだろうね」
「でしょうねぇ……まぁ、女子からすればスッキリする内容だったでしょう」
「多分?」
「多分」


 その後、長崎への修学旅行のおみやげは何が言いかとか、そう言う平和な話をして幸せな時間を過ごし、それから数日後――我は小学校六年生最後の修学旅行へと向かうことになる。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】だるま村へ

長透汐生
児童書・童話
月の光に命を与えられた小さなだるま。 目覚めたのは、町外れのゴミ袋の中だった。 だるまの村が西にあるらしいと知って、だるまは犬のマルタと一緒に村探しの旅に出る。旅が進むにつれ、だるま村の秘密が明らかになっていくが……。

荒川ハツコイ物語~宇宙から来た少女と過ごした小学生最後の夏休み~

釈 余白(しやく)
児童書・童話
 今より少し前の時代には、子供らが荒川土手に集まって遊ぶのは当たり前だったらしい。野球をしたり凧揚げをしたり釣りをしたり、時には決闘したり下級生の自転車練習に付き合ったりと様々だ。  そんな話を親から聞かされながら育ったせいなのか、僕らの遊び場はもっぱら荒川土手だった。もちろん小学生最後となる六年生の夏休みもいつもと変わらず、いつものように幼馴染で集まってありきたりの遊びに精を出す毎日である。  そして今日は鯉釣りの予定だ。今まで一度も釣り上げたことのない鯉を小学生のうちに釣り上げるのが僕、田口暦(たぐち こよみ)の目標だった。  今日こそはと強い意気込みで釣りを始めた僕だったが、初めての鯉と出会う前に自分を宇宙人だと言う女子、ミクに出会い一目で恋に落ちてしまった。だが夏休みが終わるころには自分の星へ帰ってしまうと言う。  かくして小学生最後の夏休みは、彼女が帰る前に何でもいいから忘れられないくらいの思い出を作り、特別なものにするという目的が最優先となったのだった。  はたして初めての鯉と初めての恋の両方を成就させることができるのだろうか。

【完】ノラ・ジョイ シリーズ

丹斗大巴
児童書・童話
✴* ✴* 母の教えを励みに健気に頑張る女の子の成長と恋の物語 ✴* ✴* ▶【シリーズ1】ノラ・ジョイのむげんのいずみ ~みなしごノラの母の教えと盗賊のおかしらイサイアスの知られざる正体~ 母を亡くしてみなしごになったノラ。職探しの果てに、なんと盗賊団に入ることに! 非道な盗賊のお頭イサイアスの元、母の教えを励みに働くノラ。あるとき、イサイアスの正体が発覚! 「え~っ、イサイアスって、王子だったの!?」いつからか互いに惹かれあっていた二人の運命は……? 母の教えを信じ続けた少女が最後に幸せをつかむシンデレラ&サクセスストーリー ▶【シリーズ2】ノラ・ジョイの白獣の末裔 お互いの正体が明らかになり、再会したノラとイサイアス。ノラは令嬢として相応しい教育を受けるために学校へ通うことに。その道中でトラブルに巻き込まれて失踪してしまう。慌てて後を追うイサイアスの前に現れたのは、なんと、ノラにうりふたつの辺境の民の少女。はてさて、この少女はノラなのかそれとも別人なのか……!? ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴*

盲目魔女さんに拾われた双子姉妹は恩返しをするそうです。

桐山一茶
児童書・童話
雨が降り注ぐ夜の山に、捨てられてしまった双子の姉妹が居ました。 山の中には恐ろしい魔物が出るので、幼い少女の力では山の中で生きていく事なんか出来ません。 そんな中、双子姉妹の目の前に全身黒ずくめの女の人が現れました。 するとその人は優しい声で言いました。 「私は目が見えません。だから手を繋ぎましょう」 その言葉をきっかけに、3人は仲良く暮らし始めたそうなのですが――。 (この作品はほぼ毎日更新です)

忠犬ハジッコ

SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。 「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。 ※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、  今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。  お楽しみいただければうれしいです。

魔法使いアルル

かのん
児童書・童話
 今年で10歳になるアルルは、月夜の晩、自分の誕生日に納屋の中でこっそりとパンを食べながら歌を歌っていた。  これまで自分以外に誰にも祝われる事のなかった日。  だが、偉大な大魔法使いに出会うことでアルルの世界は色を変えていく。  孤独な少女アルルが、魔法使いになって奮闘する物語。  ありがたいことに書籍化が進行中です!ありがとうございます。

剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です!

月芝
児童書・童話
国の端っこのきわきわにある辺境の里にて。 不自由なりにも快適にすみっこ暮らしをしていたチヨコ。 いずれは都会に出て……なんてことはまるで考えておらず、 実家の畑と趣味の園芸の二刀流で、第一次産業の星を目指す所存。 父母妹、クセの強い里の仲間たち、その他いろいろ。 ちょっぴり変わった環境に囲まれて、すくすく育ち迎えた十一歳。 森で行き倒れの老人を助けたら、なぜだか剣の母に任命されちゃった!! って、剣の母って何? 世に邪悪があふれ災いがはびこるとき、地上へと神がつかわす天剣(アマノツルギ)。 それを産み出す母体に選ばれてしまった少女。 役に立ちそうで微妙なチカラを授かるも、使命を果たさないと恐ろしい呪いが……。 うかうかしていたら、あっという間に灰色の青春が過ぎて、 孤高の人生の果てに、寂しい老後が待っている。 なんてこったい! チヨコの明日はどっちだ!

守護霊のお仕事なんて出来ません!

柚月しずく
児童書・童話
事故に遭ってしまった未蘭が目が覚めると……そこは死後の世界だった。 死後の世界には「死亡予定者リスト」が存在するらしい。未蘭はリストに名前がなく「不法侵入者」と責められてしまう。 そんな未蘭を救ってくれたのは、白いスーツを着た少年。柊だった。 助けてもらいホッとしていた未蘭だったが、ある選択を迫られる。 ・守護霊代行の仕事を手伝うか。 ・死亡手続きを進められるか。 究極の選択を迫られた未蘭。 守護霊代行の仕事を引き受けることに。 人には視えない存在「守護霊代行」の任務を、なんとかこなしていたが……。 「視えないはずなのに、どうして私のことがわかるの?」 話しかけてくる男の子が現れて――⁉︎ ちょっと不思議で、信じられないような。だけど心温まるお話。

処理中です...