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第二章 魔王様、小学校六年生をお過ごしになる

36 魔王様、男女戦争に巻き込まれる④

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 その日は珍しく女子が授業に参加した。

 いや、珍しいなんて言い方も可笑しいな。
 そもそも授業を受けると言う事はこの異世界では当たり前の事なのだから。
 だが、妙に胸騒ぎがする……何かの前触れのような嫌な感じだ。
 我の感じている胸騒ぎは魔法使いも感じていたようで、だからと言って事前に対応出きるかと言うと、そうではない。
 精々アキラに「大事なものは教室に置かないように」と助言するくらいが精々だ。
<PBR>
 しかし担任とクラスの男子は女子が反省して授業に参加するようになったのだと思ったらしく、今日の六時間目は男女の言い分を語り合い、仲直りの場を作る事になった。

 ――平和的解決。
 ――平和的和解。

 言葉だけ聞けば綺麗なものだが、そう簡単に事が進むはずが無い。
 そもそも男子側にいた女子に被害は既に出ているのだ、これで何処が平和的だと言うのか。
 今回の女子の暴走行為は、全校生徒も知る大きな問題。
 そして、その暴走行為を見てみぬ振りする他の教師を見ていると、この世界の大人と言うのは「関われば面倒くさいから」と言う理由で、着目すべき問題から目を逸らしている。
 模範となるべき大人、教師がコレではこれから成長する人間達の今後が心配になるような出来事だ。
 それに、女子の態度が改まったという感覚は一切受けないのも問題だろう。
 敵意ある視線を感じることが多々あるのもその為だろうが、穏便に済むはずがない。


「やーな視線」
「ほんとな」


 休み時間、アキラと魔法使いとで集まっている中、そんな会話が出てくる。
 女子は集まってコソコソ何かを話し合っているし、時折感じる視線は悪意そのもの。
 男子側にいた女子の靴をボロボロにしたその日の内に、各家庭に連絡はいっているものの、首謀者は自分が悪いとは一切思っていない態度だ。
 何故かそれが余計に腹立たしい。


「悪巧みしてる時の人間の顔って、なんであんなに醜いんだろうね」


 魔法使いの言葉が教室に響き渡り、シーンと静まり返った。
 だが女子は言葉無く魔法使いを睨み付けるだけで言葉は無い。


「恵さん、失礼ですよ」
「今のは恵が悪いぞ」
「ごめんごめん」
「女子も反省しているのです、アレコレ私達が言うのは間違いでしょう」
「だと良いけどね」


 軽くフォローは入れたが、女子の敵意に満ちた目は止まることは無い。
 また波乱が起きそうだと溜息を吐き、五時間目、移動教室で理科室へと向かうことになった。
 しかし――またしても此処に姿
 理科を担当している教師は溜息を吐いたものの、咎める事もしなかったし、女子を呼んで来いとも言わなかった。

そして、授業が終わり理科室から教室に戻った時、最初に教室に入った男子が声を上げた。


「何だよ……」
「どうかしたのか?」
「うわ! 何だコレ!」


 驚愕に満ちた声に我たちも教室に入ると、女子はクスクスと笑いながら窓際に集まって笑っている。
 そして男子の反応の原因は教室のにあった。

 大量のノリでベタベタにされた机。
 慌てた男子が引き出しを開けると、教科書も筆箱もノリでベタベタにされていた。


「マジ驚いてんだけど」
「ウケル――!!」


 笑う犯行に及んだ女子。
 怒りで震える男子。
 一部の男子は涙を流し、男子側にいた女子に至っては、ランドセルにもノリを着けられていた。
 これは――そう声を上げようとしたその時、魔法使いはツカツカと女子の近くに歩み、女子に向かって机を蹴り飛ばした。
 一部の女子に机が当たったが気にする様子も無く、幾つもの机が女子に投げつけられる。


「痛い!」
「きゃああ!!」
「ちょっと止めてよ!!」
「そんな事して後で解ってんでしょうね!!」


 叫ぶ女子などお構いなしに魔法使いは女子だけの机を散々ぶつけた後、大きく溜息を吐いて女子に近付いた。


「あんた達さ、コレ、責任とれんの?」
「はぁ?」
「何のこと?」
使、他人の教科書含めてコレだけ使い物に出来なくしといて、弁償できんのかってきいてんの。あんた達そんな金あんの?」
「意味わかんないし!」
「私達悪くないし!」
「誰がどうみても悪いだろうが腐ってボケてんじゃねーよ!!」


 ドンッと更に近くにあった女子の机を投げつけると、すっかり怯えきった女子は泣き始めてしまった。


「泣けば何でも許して貰えると思ったら大間違いだからね? 今回の弁償は高くつくよ?」
「だって……」
「でも……」
「ちょっとボケッと突っ立ってる男子、先生呼んできて。直ぐこの状況見てもらおう」


 怒り心頭ながらも魔法使いは冷静だった。
 しかも女子の一部は机が当たったりして怪我をしていたが、保健室に行かせる事はしない。


「全ては話し合ってからね? 早退とかさせないから覚悟して」
「ヒッ」


 考えが読まれていたのだろう、女子は自分の机と飛び出した引き出しを綺麗に直しながら椅子に座り、魔法使いに怯えるように座っている。
 そして担任の先生がくると、状況を見て頭を抱え、直ぐに話し合いが行われた。

 結果から言えば、前面女子が悪いと言う話ではあったのだが、男子、特に魔法使いの行動はやりすぎだと注意も受けた。
 しかし魔法使いは「正当防衛して文句言われるとか終わってるんじゃないですか~?」と何処吹く風だ。


「そもそも、学校の備品だってクラスの親から貰ったお金で用意しているものでしょ? それを惜しみなく嫌がらせに使う女子の神経が可笑しいと思いまーす」
「それについては私も同意します」
「オレも」
「本当に反省しているのかも定かじゃないしね」


 我たちの言葉に女子は俯き、一部は涙を流しているが心は一切痛まない。
 それだけの事をしているのだから当然の報いだろう。


「教科書代、今回は犯行に及んだ女子の親に弁償してもらうべきだと思いますが、先生はどう思われますか? 嫌がらせを受けた本人が新しく買うのは些かどうかと思われますが」
「それもそうだな……今回の女子の親御さんに学校にきて貰って、説明の場を設けようと思う。それで弁償の話も出そう」
「それが宜しいかと思います。変なプライドが高いばかりにこんな親をも巻き込むことになってしまって、親御さんはさぞかしお怒りになるでしょうね」


 我の言葉に縮こまる女子、我も机だけノリでベタベタにされたが、それでも不愉快だ。
 引き出しの中や教科書までベタ付けされた男子や、男子側にいた女子はもっと不快だろう。
 女子からの謝罪はあったが、男子がそれを受け取るかどうかは別だ。
 一部の男子は、最早諦めの境地なのか「はいはい乙乙」と言う感じで流している者もいたが、男子の怒りが収まるのはもっと先の事だろう。
 しかし――。


「本当に女子が反省して、今後こんな事をしないっていう約束は出来るんですか?」


 そう教師に問い掛けたのは、アキラだった。


「口先だけの反省はもういりません、本当にこんな愚かな真似をしないと約束できるんですか?」
「女子、どうなんだ?」


 教師が問い掛けると、女子からは小さな声で「もうしません」と返ってきた。
 すすり泣く女子もいる中、アキラは悲しそうに顔を歪め、小さく溜息を吐く。


「泣くくらいなら最初からしないで欲しかった。自分がした事が後にくらい、六年生なんだから考えて欲しかった」
「アキラ……」
「してしまった事はもう戻れないから、だから、今回の事を教訓に大人になって欲しいと思う」


 アキラの言葉に男子も頷き、魔法使いはアキラを見つめ「このお人よし」と小さく口にした。
 確かにしてきた事はかえってこない。
 寧ろ、やってしまったと言う結果だけが残ってしまう。
 その事を教訓に、女子に大人になって欲しいと言う言葉は、的を得ていると思った。


「後は反省して、ちゃんと男子にも謝罪して下さい。それに男子も、女子が謝ったら許してあげよう。オレ達も大人にならないとな」


 アキラの言葉に男子は「それもそうだな」「大人の対応するか」と呟き、両者の考えを聞いた上でのお互い許しあうと言う事に話が纏まった。
 ――そして、女子の言い分はこうだ。
 単純に、男子も含めて一緒に遊びたかったが、自分達の言い方が悪かった。結果として学校を巻き込んだことの重大さは大きい、許して欲しい。

 たったそれだけの事で――とは思ったが、女子にしてみれば大きなことだったのだろう。
 男子はその言葉に耳を傾け、許すことになった。

 だが、男子にも言い分がある。
 男女必ず一緒でなくてはならないと言う決まりは無い、各自好きなことが出来る場合は好きな事をさせて欲しい。出来るだけ女子の言い分は聞きたいが、やはり好きな授業の時は男子だけで力いっぱい遊びたい気持ちもある。
 更に言えば、男子の力いっぱいのボールを女子が受ければ、怪我をさせてしまいそうで怖いという意見もあり、女子はそれを受け入れた形になった。


 ――こうして、男女戦争は一先ずの終焉を向かえ、犯行に及んだ女子達の親は呼び出され今回の状況を説明され激怒していたらしい。
 そして、被害を受けた男子及び女子の家に謝罪とダメになった教科書類の弁償が行われた。


 結局は、アキラの大人の対応で言い方向に進んだと我は思う。
 何時もは子供っぽいアキラも、冷静に動く時は大人な対応なのだと感心した。
 魔法使いはアキラに対して「お人よしの馬鹿」と言っていたが、アキラはその言葉に「馬鹿はないだろー!」と反発していたが、我はそんな二人を見て苦笑いが出てしまう。


「ですが、アキラの言葉が切っ掛けで男女戦争が終わりましたから、良いのでは無いですか?」
「まぁそうだけど」
「恵だって女子に怪我させたことちゃんと謝ったのか?」
「謝ったよ? 直ぐ許して貰えたしいいじゃない」


 実際、あのあと魔法使いは怪我をさせた女子に謝罪し、ちゃんと保健室まで連れて行っている。
 その後の女子は魔法使いを見る目が変ったようだが、いい方向に変ったのだから良しとしよう。


「しかし長い戦争だった。相手が女子ってだけでスッゴイ疲弊ひへいした」
「それはありますね、女性とは何を考えているか解らないと改めて思いました」
「いやいや、今回が特殊だっただけだとオレは思うぜ?」
「そうですか?」
「そうかなぁ?」


 何はともあれ、やっと学校に平和が戻った。
 放課後の生徒会室の窓からは、勇者が今日も元気に陣取りゲームをしている。
 やはり、普通の日常は大事だ、尊いものだと改めて痛感した男女戦争だった――。
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