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第二章 魔王様、小学校六年生をお過ごしになる

31 魔王様、生徒会長の魔王様と呼ばれるようになられる

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 聖女が小学校を卒業してから時は経ち、我は小学校六年生に、そして勇者は小学校三年生に上がった。

 我は今では生徒会長を務め、アキラは副会長に、そして魔法使いは書記として学校で過ごしつつ、朝と昼、お爺様が教えてくれた遊びである【陣取りゲーム】と言うモノを学校全体のクラスを巻き込んでやっている。


 ローカルルールはあるようだが、大まかな流れはこうだ。


 ①両チーム全員で「開戦」と声をあげる。これが、開始の合図になる。
 ②相手チームの人を捕まえ相手のチームの守りを少なくしたり、相手の裏をかく作戦を使ったりしてチャンスを作り出す。
 ③相手に捕まらずに、相手の陣地にタッチできたら「陣破じんぱ」と勝利の声をあげ終了となる。無論相手を全員捕まえても勝ちとなるが、中々難しいのが現状だ。


 我がクラスの男子達と始めたこの陣取りゲームは、今では一年生から六年生を巻き込んだ大掛かりなゲームとして小学校に定着した。
 それこそ、朝は陣取りゲームがしたいがゆえに早く学校に来るものもいるほどだ。

 偵察部隊には足の速い者を。
 陣の守りには低学年が多いが、前衛に出て戦いたいと言う猛者には率先して戦うように伝えてある。
 そして相手の戦力を奪う為に捕虜を捕まえたりする戦闘部隊もいるが、始めた当初はどっちが味方で敵かわからなかった為、魔王軍は腕にハンカチを巻く事を義務付けている。

 ハンカチがあれば魔王軍、ハンカチが無ければ勇者軍と明確にしたのだ。

 無論、女子も参加可能であり、全ては自己責任で参加するように告げてある。
 参加したのは良いが怪我をしただの男子が酷いだのと言う言いがかりは認めないと最初に伝えてある為、参加者は純粋に陣取りゲームを楽しむ女子のみとなっている。

 そして勇者が陣取りゲームに参加するようになってからは【魔王軍】【勇者軍】と名が付けられ、我がいるチームは魔王軍で、勇者がいるチームは勇者軍と明確にされた。

 それこそ、安易に許可を出したのは不味かったかと今では思っている。
 「生徒会長」と呼ばれる事よりも「」と呼ばれることが多くなったからだ。
 <PBR>
 発端はアキラが我をそう呼んでおり、それが広く知られてしまったからだが、我はアキラの事を「」と呼び、魔法使いは悪乗りして「使」と呼んでいる。


 しかし、魔法使いに関して一応苦言は伝えた。
 そう、一般的にこの異世界で言われる魔法使いとはつまり――なのだ。

 賢者じゃないだけまだマシだろうか?


 とは言え、余り魔法使いを使わないほうが良いとは告げたが、本人が魔法使いと呼ばれる事を気に入っている為、止める事はやめた。
 朝、我たちは参加することは無いが昼は陣取りゲームに参加するため、生徒会の仕事が放課後に持ち越されることが多々ある。
 今日も放課後、生徒会は大忙しだ。


「取り合えず資料はこんな感じでまとまったけど良いのかな」
「良いでしょう、先生方からは文句は出ませんでしたし」


 生徒会としての資料をまとめ机に置いていると、外からは陣取りゲームをしている声が響いてくる。
 生徒会室からは校庭が見渡せるため、我とアキラ、そして魔法使いは窓からその様子を時折見つめながらまとめた資料をファイリングしていく。


「しかし、面白い二つ名がついたもんだね、生徒会長の魔王様」
「生徒会の魔法使いよりはよっぽどマシですがね」
「オレも最近低学年から生徒会の参謀様って呼ばれるようになったぞ」
「それはそれで威厳があって良いでしょう。裏ボス的な意味があって良いではないですか」


 資料を引き出しに入れ、片づけを進めながら外の合戦をみると勇者が魔王軍を押しているようだ。
 我がいなければ勝つ事はそんなに難しくは無いのだろう。


 陣取りゲームに勇者が参加するようになってから、勇者はカリスマ性を発揮して今では不動の人気を手にしている。
 ポニーテールは今も健在だが、高学年低学年含め、勇者は男女問わず人気が高かった。
 何より裏表の無い性格と言うのもポイントが高いのだろう。
 高学年からは可愛がられ、同学年と低学年からは慕われる、そんな地位を勇者はゲットした。


 そして小学校六年生にもなると、我ら三人は見た目も含めて有名になっていた。
 アキラは六年生にしては長身で筋肉質な体、所謂いわゆるスポーツ少年といった風貌ふうぼうになった。
 魔法使いは背丈こそあまり高くは無いが、中性的な顔立ちと甘い喋り方、そして一人称が未だに「ボク」と言うのもポイントが高いらしい。
 我はと言うと、背丈こそアキラには負けるが、クラスで身長順に並べばアキラの前に立つくらいに背丈は伸びている。
 袈裟を着る以上、歩き方は少し他とは違うがソコがポイントだという女子も多いらしい。
 無論、筋肉は裏切らないと言う言葉を実践しているので、脱いだら結構凄いのだ。


「さて、そろそろ帰らねば寺の仕事が溜まってしまいますね」
「ボクも帰るよ、祐一郎だけじゃ辛いだろうからね」
「助かります。アキラはどうしますか?」
「オレは陣取りゲームに参加しようかな、そろそろ一区切り付きそうだし」


 その言葉どおり、外からは窓が振動するほどの「陣破じんぱ」と言う声と雄たけび、そして負けた側の叫び声が聞こえてくる。


「何時もは魔王軍にいるから、放課後くらいは勇者軍に入ろうかな」
「気分を変えるのも良いでしょう」
「ボクの小雪が怪我しないように見張っててよね」
「はいはい」


 アキラは呆れた様子で返事を返すと、鞄を持って先に帰ってしまった。
 こういう時じゃないと勇者の陣営に入れないのを知っているのだろうし、魔法使いがいなければアキラは勇者軍に入って遊べるのだから丁度良いのだろう。


「さぁ、私達も早く帰りましょう。暫く宿坊も予約で埋まっていますし忙しいですよ」
「そうだね」


 そう告げると我と魔法使いは自宅である寺に戻った。
 宿坊が出来て数年、我が成長するにつれて宿坊に泊まる人数も増えて行った。
 今ではリピーターも付き、我と魔法使いに会いに来る客も少なくない。
 特に魔法使いはそう言うお姉さま方には気に入られているようで、手土産にお菓子を貰う事も多いのだ。


 帰宅すればやる事は沢山ある。
 境内の掃除だけではなく宿坊の掃除もあるし、料理の手伝いもやらねばならない。
 去年までは聖女が手伝いに来てくれいてたが、受験勉強をせねばならないらしく今年一杯は手伝いに来てくれないのだ。
 宿坊を手伝う人数も別に雇い入れるほど今では忙しい。


 勇者に関しては、寺に関わる仕事は余りさせないでおこうと我が家族と相談して決めた。
 兄として出来るだけ妹の自由を確保してやりたかったのだ。
 勇者には勇者らしさを殺して欲しくなかったという思いも強い。
 ゆえに、放課後残って陣取りゲームしていても問題は無い。


 ――その後、夕食の準備前まで忙しく働き、晩御飯を作っていると勇者が帰宅してきた。
 どうやら途中までアキラが付き添ってくれたらしい。
 寺の門まで送り届けてから帰ったと言っていたが、アキラの今の一番の楽しみは一緒に帰宅するという事では無いだろうかと思っている。


「勇者、夕飯の準備くらいはお手伝いなさい」
「わかっている! 今日の晩御飯はなんだ?」
「たけのこご飯に冷しゃぶサラダ、アサリの汁物に菜の花とホウレンソウの和え物ですよ」
「明日はもっとガッツリしたのが食べたい!」
「……そう言うのは、貴女も料理が出来るようになってから言いなさい。たまには料理の手伝いをしなくては良い妻にはなれませんよ」
割烹着かっぽうぎ姿の魔王に言われたくない」


 あー言えばこういう。
 勇者も反抗期になったのだろうか?
 そもそもこの割烹着かっぽうぎは我の自信作、手縫いであると言うのに文句を言うとは……。
<PBR>

「貴女にも縫って差し上げましょうか? 魔法使いラブとでも刺繍しますよ」
「出来れば普通のエプロンを頼む。それと、そんな刺繍入れたら焚き火で燃やすから」
「わがままに育ってしまって、兄として悲しいですねぇ」


 溜息を吐きながらお漬物の用意を済ませ、勇者と共に料理を運ぶそんな日常は中々楽しいものだ。
 明日の晩御飯は勇者のわがままを聞くべく、煮込みハンバーグにでもしてやろうか。
 簡単に済ませるならグラタンも捨てがたいな。
 そんな考えを巡らせつつ、家族で夕飯を食べ静かな夜を過ごした。
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