【中学突入!】転生魔王は寺に生まれる

うどん五段

文字の大きさ
上 下
32 / 107
第一章 魔王様、少年期をお過ごしになる

30 魔王様、御自分の視野を広げる事を決められる

しおりを挟む
今日は小学校の卒業式だった。

聖女もミユもこれで中学生に上がるのだと思うと寂しくなるが、既に二人は宿坊予約を取っており卒業旅行ならぬ卒業宿坊をするようだ。
聖女と過ごせる時間が多いに越したことは無いし、我としても異世界での生活は聖女ありきの生活で過ごしている為、今後も平和に過ごしたいと思っている。

そして卒業式が終わり、鐘打ち堂で早めの待ち合わせをしていると聖女が中学校の制服姿で訪れた。
ブレザーの可愛らしい制服に身を包んだ聖女に胸が締め付けられたが、こうやって大人になっていくのだと思うと置いていかれるような寂しさを感じる反面、喜ばしいとさえ思ってしまう。

――早く大人になりたい。

素直に聖女を見ていると思うのだ。
大人になれば聖女を独占できる、誰にも触れさせず、ずっとずっと……。
その夢が叶う為にもまだ時間が必要である事も解っているが、聖女は我の心を見透かしたように苦笑いし、我の頭を撫でた。


「祐ちゃん早く大人になりたいって何時も言ってるけど、子供時代にしか得られない経験は沢山したほうが良いよ?」
「慌てても直ぐに大人になれるものではないと言う事は理解しております。ですが……貴女が小学校を卒業すると、学校に行くと言う意義を失ってしまいますね」


事実、聖女が学校を卒業してしまえば学校に通うと言う意味を失ってしまうのだ。
この世界の学問とは人生では使えるものもあれば、その専門に行かない限り使うことも無い内容も多い。
それでも学校に行く意義は、聖女がいるからと言う理由で成り立っていたのに肝心の聖女が卒業してしまうと目的を見失ってしまう。


「祐ちゃんは精神的に大人だけど、だからこそ沢山経験を積んでほしいの」
「経験ですか?」


前世では沢山の経験をした。
魔王になり幾つもの人間の村を潰したし、勇者達とも戦う事もした。
仲間と言う仲間はいなかったが、それなりに充実していた魔王時代だと思っている。


「学生時代の経験は大人になっても大事なんだって。それに出来るだけ友達も多くいると自分の視野が広がるっていうか……もっと祐ちゃんは広い世界を見たほうが良い気がするの」
「広い世界ですか?」
「無論、アキラ君や恵君って言う友達がいる事もいいことだと思うけど、もっと沢山の人と関わるのも大事だと思うよ?」


思いも寄らない言葉に我が目を見開くと、聖女は優しく微笑んだ。


「ですが、沢山の知り合いや友人がいても何かと争いが起きるだけです。その様な面倒ごと私は喜んで経験しようとは思いません」
「確かに友達や知り合いが多いとそうなりやすいけど、その中で自分に合う人をもっと増やしたらどうかなって話なの。それに人の好き好きなんて……法則で話した方が解りやすいかな?」
「お願いします」
「二:六:二の法則って言うのがあってね? 自分の事が嫌いな人が二割、自分の事をどうでもいい人が六割、自分の事が好きな人が二割って言われてるの」
「ふむ」
「でも、人との関係が少ないとちゃんと自分の事を理解してくれてる大事な二割と出会うことも出来ないでしょう? もし祐ちゃんが人と関わることに対して自分の事が嫌いな二割を意識しすぎてるのだとしたら、それは祐ちゃんが自分らしさを殺してるんじゃないかなって思ったの」


その言葉に聖女を見つめると「私の勝手な考えだけどね」と苦笑いした。
我としてはそんなつもりは無かったが、確かに魔王時代の癖が抜け切れずにいるのではないだろうかと理解した。

魔王時代は我が頂点であったが故に、言いたい事はなんでも言えた。
しかし異世界にきてからは反対に自分の意見を余り言わなくなったような気もする。
無難に振舞う事で、八方美人でいることで平和に暮らそうと思っていたのを聖女には見抜かれてしまっていたようだ。

――だが、それが我らしさを壊しているのだと。

それが弊害になっているのではないかと指摘された時、我はもっと自由に生きて良いのだと心のどこかで重荷が取れた気がした。


「祐ちゃんの可能性を閉じ込める必要は無いと思うの、もっと自由でもいいと思うの」
「自由……ですか?」
「無論、僧侶としての立場もあるだろうから下手な事はできないのは解ってるけど、七夕祭りの時みたいに、もっと自分らしくしても罰は当たらないんじゃないかな?」


その言葉に我は大きく深呼吸をし、自分が外に対して臆病になっていた事を始めて気がつかされた。
きっと――勇者が危険な目にあってから自分を都合の良い人間として動き始めたのかもしれない。
大事な者に危害が加えられないように、大事なものを傷つけられないように……我は恐かったのだ。


「……今からでも、間に合うでしょうか」
「自分らしくってこと?」
「ええ」
「間に合うよ、それに七夕の時の祐ちゃんとっても素敵だったもの」


その言葉に我は両頬を強く叩くと、真っ直ぐ前を見据える。
――そうだ、恐いのなら次は守れば良い。
――そして、我がそれなりに地位のある存在になればよい。
そうする事によって、守ることがもっと可能になるのだから。


「心寿、苦言をありがとうございます」
「どう致しまして。やっぱり心のどこかで遠慮してるところがあったのね?」
「ええ、夏祭り以降……私はどこかで恐怖していたのです。ですが……単純な事でしたね、守れば良いのです。またあの時のように振る舞い、大事な存在が危うい目に遭わぬよう対策を考えながら自分らしくあればよいのです」
「うん、うん!」
「ありがとう心寿……私はもっと自由になる」


聖女を見つめ微笑むと、彼女は嬉しそうに微笑んだ。


もっと沢山の人間と関わりを持とう。
関わりを持たねば、守れるだけの地位を得る事も難しいだろう。
何の為の前世の記憶か。
我は魔王、臆病者では無いのだ。


「心寿のおかげで私は前に進めそうです」
「良かった!」
「私も臆病だった自分と卒業ですね」
「ふふっ じゃあ祐ちゃんも卒業おめでとう御座います!」
「ありがとうございます」


久々に清々しい気分だ。
聖女はやはり我にとって本当に必要な女性だと改めて実感できた。


――さぁ、スタートしよう。
僧侶らしく、魔王らしく、もっともっと視野を広げる為に。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

猫のお菓子屋さん

水玉猫
絵本
クマのパン屋さんのおとなりに、猫のお菓子屋さんができました。 毎日、いろんな猫さんが、代わる代わるに、お店番。 お店番の猫さんが、それぞれ自慢のお菓子を用意します。 だから、毎日お菓子が変わります。 今日は、どんなお菓子があるのかな? 猫さんたちの美味しい掌編集。 ちょっぴり、シュールなお菓子が並ぶことも、ありますよ。 顔見知りの猫さんがお当番の日は、是非是非、のぞいてみてください!

桃の木と王子様

色部耀
児童書・童話
一口食べれば一日健康に生きられる桃。そんな桃の木に関する昔話

お姫様の願い事

月詠世理
児童書・童話
赤子が生まれた時に母親は亡くなってしまった。赤子は実の父親から嫌われてしまう。そのため、赤子は血の繋がらない女に育てられた。 決められた期限は十年。十歳になった女の子は母親代わりに連れられて城に行くことになった。女の子の実の父親のもとへ——。女の子はさいごに何を願うのだろうか。

忠犬ハジッコ

SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。 「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。 ※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、  今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。  お楽しみいただければうれしいです。

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

昨日の敵は今日のパパ!

波湖 真
児童書・童話
アンジュは、途方に暮れていた。 画家のママは行方不明で、慣れない街に一人になってしまったのだ。 迷子になって助けてくれたのは騎士団のおじさんだった。 親切なおじさんに面倒を見てもらっているうちに、何故かこの国の公爵様の娘にされてしまった。 私、そんなの困ります!! アンジュの気持ちを取り残したまま、公爵家に引き取られ、そこで会ったのは超不機嫌で冷たく、意地悪な人だったのだ。 家にも帰れず、公爵様には嫌われて、泣きたいのをグッと我慢する。 そう、画家のママが戻って来るまでは、ここで頑張るしかない! アンジュは、なんとか公爵家で生きていけるのか? どうせなら楽しく過ごしたい! そんな元気でちゃっかりした女の子の物語が始まります。

見習い錬金術士ミミリの冒険の記録〜討伐も採集もお任せください!ご依頼達成の報酬は、情報でお願いできますか?〜

うさみち
児童書・童話
【見習い錬金術士とうさぎのぬいぐるみたちが描く、スパイス混じりのゆるふわ冒険!情報収集のために、お仕事のご依頼も承ります!】 「……襲われてる! 助けなきゃ!」  錬成アイテムの採集作業中に訪れた、モンスターに襲われている少年との突然の出会い。  人里離れた山陵の中で、慎ましやかに暮らしていた見習い錬金術士ミミリと彼女の家族、機械人形(オートマタ)とうさぎのぬいぐるみ。彼女たちの運命は、少年との出会いで大きく動き出す。 「俺は、ある人たちから頼まれて預かり物を渡すためにここに来たんだ」  少年から渡された物は、いくつかの錬成アイテムと一枚の手紙。 「……この手紙、私宛てなの?」  少年との出会いをキッカケに、ミミリはある人、あるアイテムを探すために冒険を始めることに。  ――冒険の舞台は、まだ見ぬ世界へ。  新たな地で、右も左もわからないミミリたちの人探し。その方法は……。 「討伐、採集何でもします!ご依頼達成の報酬は、情報でお願いできますか?」  見習い錬金術士ミミリの冒険の記録は、今、ここから綴られ始める。 《この小説の見どころ》 ①可愛いらしい登場人物 見習い錬金術士のゆるふわ少女×しっかり者だけど寂しがり屋の凄腕美少女剣士の機械人形(オートマタ)×ツンデレ魔法使いのうさぎのぬいぐるみ×コシヌカシの少年⁉︎ ②ほのぼのほんわか世界観 可愛いらしいに囲まれ、ゆったり流れる物語。読了後、「ほわっとした気持ち」になってもらいたいをコンセプトに。 ③時々スパイスきいてます! ゆるふわの中に時折現れるスパイシーな展開。そして時々ミステリー。 ④魅力ある錬成アイテム 錬金術士の醍醐味!それは錬成アイテムにあり。魅力あるアイテムを活用して冒険していきます。 ◾️第3章完結!現在第4章執筆中です。 ◾️この小説は小説家になろう、カクヨムでも連載しています。 ◾️作者以外による小説の無断転載を禁止しています。 ◾️挿絵はなんでも書いちゃうヨギリ酔客様からご寄贈いただいたものです。

四尾がつむぐえにし、そこかしこ

月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。 憧れのキラキラ王子さまが転校する。 女子たちの嘆きはひとしお。 彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。 だからとてどうこうする勇気もない。 うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。 家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。 まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。 ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、 三つのお仕事を手伝うことになったユイ。 達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。 もしかしたら、もしかしちゃうかも? そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。 結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。 いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、 はたしてユイは何を求め願うのか。 少女のちょっと不思議な冒険譚。 ここに開幕。

処理中です...