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第一章 魔王様、少年期をお過ごしになる
27 魔王様、忙しい年末年始をお過ごしになる
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魔法使いが寺にきてからは、我の寺での仕事は随分と楽になったと思う。
とは言っても、やはり師走の忙しさはめまぐるしいものがあり、師走だけは本当に我でも慣れる事が難しい……。
年末年始ゆっくり出来る日は本当に貴重なのだが、僧侶にとって働くと言う事が一番の修行なので愚痴っていられぬのだ。
【一日不作一日不食】(いちにちなさざればいちにちくわざる)と言う言葉がある。
働かざる者食うべからず……という意味ではない。
――自分が努めるべき努めを果たす、と言う事だ。
「魔王、大晦日は寺ではどう過ごすんだ?」
「大晦日ですか?」
境内の掃除を二人でしていると、魔法使いが我に問い掛けてきた。
今年もあと僅かだが、魔法使いは寺に来たのが十一月……まだまだ一年の流れを知るまでには至っていない。
「お寺では甘酒を振舞いながら除夜の鐘を打つ事になっています」
「あぁ……除夜の鐘で身と心を清浄って奴か。ボクの煩悩は百八回じゃ消せないかな」
「貴方は欲の塊ですからね、ちなみに煩悩を払うと言うのが一般的に知られていますが、一年をあらわすと言う説もありますし、四苦八苦を取り除く為に鐘を打つと言う説もあるのです」
「へぇ……魔王様の御口から禅の言葉が聞けるなんて、転生してみるもんだね」
クスクスと笑う魔法使いに我はフッと笑みを零す。
「確かに、私も僧侶になるとは思っていませんでしたよ。前世の部下が今の私を見たら頭が混乱して大変なことになるでしょうね」
「ははは!」
「暴飲暴食は当たり前、気に入らなければ直ぐに殺生する……今思えば酷く荒んでいたものですね」
「魔王の言葉とは思えないね」
呆れたように口にする魔法使いに、我は「そうそう」と話を変える。
「ですが、大晦日はちょっとした贅沢をするんですよ」
「贅沢?」
我の言葉に魔法使いは興味津々で問い掛けてきた。
我が家だけだろうが、毎年大晦日は年越しうどんではなく――すき焼きを食べると言うイベントがある。
年末最後の贅沢と言う奴だ。
今年は我がすき焼きを作ることになっているが、今から腕を振るえることが楽しみでならない。
「魔王の手料理は美味しいからね、ボクとしては楽しみだよ」
「ありがとう御座います」
「でも、ストレスが溜まってる時に台所に篭もるのはやめて欲しいかな。後で美味しい物が食べれると解っててもボクに仕事が多く来ちゃうじゃないか」
「申し訳ありません」
そう……最近ではストレスが溜まると料理に走っているのだ。
お菓子の型も買い揃えてしまった程、日々の鬱憤は料理に昇華されている。
この前もちょっと気分転換にと思ってチーズケーキを作ってしまった。
母からは「これ以上お母さんを太らせないで!」と叱られてしまったが、家族で美味しく食べたのは良い思い出だ。
無論、聖女にもお裾分けした。
聖女の舌はここ数ヶ月ですっかり肥えてしまった程だ。
「まぁ、お菓子の腕前も上がってきましたし今年からはクリスマスケーキは私が作る事になりそうですね」
「あ、一応寺でもクリスマスはするんだ」
「厳しい寺では為さらないでしょうが、祖父と父が結構イベント好きなんですよ。クリスマスといってもケーキを食べて子供達はプレゼントを貰う、ただそれだけですけどね」
サンタのコスプレこそ我が家ではやらぬが、クリスマスプレゼントとは中々興味がそそられるものだ。
既にサンタさんへのお手紙と称して両親に手渡してある。
最初こそはサンタが実在するものだと思っていたが、四歳になった頃にはサンタは存在しないのだと解った。
――だが勇者はサンタが存在すると今も思っている。
夢は壊さず見守ってやろう、いつ気がつくか楽しみだ。
「ところで、魔法使いもサンタに何をご要望なさったんです?」
「現金一万円」
「現実的ですね」
「安心して、勇者にはサンタのコスプレして貰うようにお爺さんに掛け合ってみるから」
「それ、私は得しませんよね?」
「ボクが得するんだ」
清々しい笑顔……我は大きく溜息を吐いたが二人で母屋へと帰って行った。
しかしサンタのコスプレか……。
「と、言う話を恵さんとしていたのですが、心寿もサンタのコスプレとかしたことあるんですか?」
自分の気持ちに素直は我は夜、鐘打ち堂にきた聖女に問い掛けてみた。
聖女は顔を真っ赤にそめながら「あるよ?」と答えている、萌える。
「小さい頃だけどね?」
「そうなのですね、きっと愛らしかったことでしょう……見てみたかったです、当時の写真とかは無いのですか?」
「あるけど、明日持ってこようか?」
「出来れば欲しいです」
更に我の言葉に耳まで真っ赤に染める聖女、うむ、実に良い……。
しかし聖女のサンタのコスプレか……やはりここはサンタガールを期待してしまうな。
――その翌日、聖女が持ってきたサンタのコスプレ写真は我の宝物になった。
うむ、ミニスカサンタは破壊力がやはり違うな。
僧侶が色欲に溺れるな?
馬鹿を言え。
色欲がなければ子作りが出来ぬだろう?
この写真のおかげで我は忙しい大晦日を乗り越えることが出来たし、年始の檀家さんへのあいさつ回りも出来たほどだ。
――年末年始は寺に休みなど無い。
ホッと息がつけたのは一月も終わりに差し掛かった頃……その頃には我も魔法使いも疲労困憊で一日だけ休みを貰うことが出来たほどだった。
さて、勇者のサンタコスプレだがどうなったかと言うと、サイズが無かったと言う理由で勇者はコスプレをすることは無かった。
後に魔法使いは語る。
「脳内ではミニスカサンタの勇者が存在するのにな」と……。
脳内だけで済ませて欲しいと思う我の複雑な兄心は、口に出すことは無かった。
とは言っても、やはり師走の忙しさはめまぐるしいものがあり、師走だけは本当に我でも慣れる事が難しい……。
年末年始ゆっくり出来る日は本当に貴重なのだが、僧侶にとって働くと言う事が一番の修行なので愚痴っていられぬのだ。
【一日不作一日不食】(いちにちなさざればいちにちくわざる)と言う言葉がある。
働かざる者食うべからず……という意味ではない。
――自分が努めるべき努めを果たす、と言う事だ。
「魔王、大晦日は寺ではどう過ごすんだ?」
「大晦日ですか?」
境内の掃除を二人でしていると、魔法使いが我に問い掛けてきた。
今年もあと僅かだが、魔法使いは寺に来たのが十一月……まだまだ一年の流れを知るまでには至っていない。
「お寺では甘酒を振舞いながら除夜の鐘を打つ事になっています」
「あぁ……除夜の鐘で身と心を清浄って奴か。ボクの煩悩は百八回じゃ消せないかな」
「貴方は欲の塊ですからね、ちなみに煩悩を払うと言うのが一般的に知られていますが、一年をあらわすと言う説もありますし、四苦八苦を取り除く為に鐘を打つと言う説もあるのです」
「へぇ……魔王様の御口から禅の言葉が聞けるなんて、転生してみるもんだね」
クスクスと笑う魔法使いに我はフッと笑みを零す。
「確かに、私も僧侶になるとは思っていませんでしたよ。前世の部下が今の私を見たら頭が混乱して大変なことになるでしょうね」
「ははは!」
「暴飲暴食は当たり前、気に入らなければ直ぐに殺生する……今思えば酷く荒んでいたものですね」
「魔王の言葉とは思えないね」
呆れたように口にする魔法使いに、我は「そうそう」と話を変える。
「ですが、大晦日はちょっとした贅沢をするんですよ」
「贅沢?」
我の言葉に魔法使いは興味津々で問い掛けてきた。
我が家だけだろうが、毎年大晦日は年越しうどんではなく――すき焼きを食べると言うイベントがある。
年末最後の贅沢と言う奴だ。
今年は我がすき焼きを作ることになっているが、今から腕を振るえることが楽しみでならない。
「魔王の手料理は美味しいからね、ボクとしては楽しみだよ」
「ありがとう御座います」
「でも、ストレスが溜まってる時に台所に篭もるのはやめて欲しいかな。後で美味しい物が食べれると解っててもボクに仕事が多く来ちゃうじゃないか」
「申し訳ありません」
そう……最近ではストレスが溜まると料理に走っているのだ。
お菓子の型も買い揃えてしまった程、日々の鬱憤は料理に昇華されている。
この前もちょっと気分転換にと思ってチーズケーキを作ってしまった。
母からは「これ以上お母さんを太らせないで!」と叱られてしまったが、家族で美味しく食べたのは良い思い出だ。
無論、聖女にもお裾分けした。
聖女の舌はここ数ヶ月ですっかり肥えてしまった程だ。
「まぁ、お菓子の腕前も上がってきましたし今年からはクリスマスケーキは私が作る事になりそうですね」
「あ、一応寺でもクリスマスはするんだ」
「厳しい寺では為さらないでしょうが、祖父と父が結構イベント好きなんですよ。クリスマスといってもケーキを食べて子供達はプレゼントを貰う、ただそれだけですけどね」
サンタのコスプレこそ我が家ではやらぬが、クリスマスプレゼントとは中々興味がそそられるものだ。
既にサンタさんへのお手紙と称して両親に手渡してある。
最初こそはサンタが実在するものだと思っていたが、四歳になった頃にはサンタは存在しないのだと解った。
――だが勇者はサンタが存在すると今も思っている。
夢は壊さず見守ってやろう、いつ気がつくか楽しみだ。
「ところで、魔法使いもサンタに何をご要望なさったんです?」
「現金一万円」
「現実的ですね」
「安心して、勇者にはサンタのコスプレして貰うようにお爺さんに掛け合ってみるから」
「それ、私は得しませんよね?」
「ボクが得するんだ」
清々しい笑顔……我は大きく溜息を吐いたが二人で母屋へと帰って行った。
しかしサンタのコスプレか……。
「と、言う話を恵さんとしていたのですが、心寿もサンタのコスプレとかしたことあるんですか?」
自分の気持ちに素直は我は夜、鐘打ち堂にきた聖女に問い掛けてみた。
聖女は顔を真っ赤にそめながら「あるよ?」と答えている、萌える。
「小さい頃だけどね?」
「そうなのですね、きっと愛らしかったことでしょう……見てみたかったです、当時の写真とかは無いのですか?」
「あるけど、明日持ってこようか?」
「出来れば欲しいです」
更に我の言葉に耳まで真っ赤に染める聖女、うむ、実に良い……。
しかし聖女のサンタのコスプレか……やはりここはサンタガールを期待してしまうな。
――その翌日、聖女が持ってきたサンタのコスプレ写真は我の宝物になった。
うむ、ミニスカサンタは破壊力がやはり違うな。
僧侶が色欲に溺れるな?
馬鹿を言え。
色欲がなければ子作りが出来ぬだろう?
この写真のおかげで我は忙しい大晦日を乗り越えることが出来たし、年始の檀家さんへのあいさつ回りも出来たほどだ。
――年末年始は寺に休みなど無い。
ホッと息がつけたのは一月も終わりに差し掛かった頃……その頃には我も魔法使いも疲労困憊で一日だけ休みを貰うことが出来たほどだった。
さて、勇者のサンタコスプレだがどうなったかと言うと、サイズが無かったと言う理由で勇者はコスプレをすることは無かった。
後に魔法使いは語る。
「脳内ではミニスカサンタの勇者が存在するのにな」と……。
脳内だけで済ませて欲しいと思う我の複雑な兄心は、口に出すことは無かった。
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