上 下
29 / 107
第一章 魔王様、少年期をお過ごしになる

27 魔王様、忙しい年末年始をお過ごしになる

しおりを挟む
魔法使いが寺にきてからは、我の寺での仕事は随分と楽になったと思う。

とは言っても、やはり師走の忙しさはめまぐるしいものがあり、師走だけは本当に我でも慣れる事が難しい……。
年末年始ゆっくり出来る日は本当に貴重なのだが、僧侶にとって働くと言う事が一番の修行なので愚痴っていられぬのだ。

【一日不作一日不食】(いちにちなさざればいちにちくわざる)と言う言葉がある。
働かざる者食うべからず……という意味ではない。
――自分が努めるべき努めを果たす、と言う事だ。


「魔王、大晦日は寺ではどう過ごすんだ?」
「大晦日ですか?」


境内の掃除を二人でしていると、魔法使いが我に問い掛けてきた。
今年もあと僅かだが、魔法使いは寺に来たのが十一月……まだまだ一年の流れを知るまでには至っていない。


「お寺では甘酒を振舞いながら除夜の鐘を打つ事になっています」
「あぁ……除夜の鐘で身と心を清浄って奴か。ボクの煩悩は百八回じゃ消せないかな」
「貴方は欲の塊ですからね、ちなみに煩悩を払うと言うのが一般的に知られていますが、一年をあらわすと言う説もありますし、四苦八苦を取り除く為に鐘を打つと言う説もあるのです」
「へぇ……魔王様の御口から禅の言葉が聞けるなんて、転生してみるもんだね」


クスクスと笑う魔法使いに我はフッと笑みを零す。


「確かに、私も僧侶になるとは思っていませんでしたよ。前世の部下が今の私を見たら頭が混乱して大変なことになるでしょうね」
「ははは!」
「暴飲暴食は当たり前、気に入らなければ直ぐに殺生する……今思えば酷く荒んでいたものですね」
「魔王の言葉とは思えないね」

呆れたように口にする魔法使いに、我は「そうそう」と話を変える。


「ですが、大晦日はちょっとした贅沢をするんですよ」
「贅沢?」


我の言葉に魔法使いは興味津々で問い掛けてきた。
我が家だけだろうが、毎年大晦日は年越しうどんではなく――すき焼きを食べると言うイベントがある。
年末最後の贅沢と言う奴だ。
今年は我がすき焼きを作ることになっているが、今から腕を振るえることが楽しみでならない。


「魔王の手料理は美味しいからね、ボクとしては楽しみだよ」
「ありがとう御座います」
「でも、ストレスが溜まってる時に台所に篭もるのはやめて欲しいかな。後で美味しい物が食べれると解っててもボクに仕事が多く来ちゃうじゃないか」
「申し訳ありません」


そう……最近ではストレスが溜まると料理に走っているのだ。
お菓子の型も買い揃えてしまった程、日々の鬱憤は料理に昇華されている。
この前もちょっと気分転換にと思ってチーズケーキを作ってしまった。
母からは「これ以上お母さんを太らせないで!」と叱られてしまったが、家族で美味しく食べたのは良い思い出だ。
無論、聖女にもお裾分けした。
聖女の舌はここ数ヶ月ですっかり肥えてしまった程だ。


「まぁ、お菓子の腕前も上がってきましたし今年からはクリスマスケーキは私が作る事になりそうですね」
「あ、一応寺でもクリスマスはするんだ」
「厳しい寺では為さらないでしょうが、祖父と父が結構イベント好きなんですよ。クリスマスといってもケーキを食べて子供達はプレゼントを貰う、ただそれだけですけどね」


サンタのコスプレこそ我が家ではやらぬが、クリスマスプレゼントとは中々興味がそそられるものだ。
既にサンタさんへのお手紙と称して両親に手渡してある。
最初こそはサンタが実在するものだと思っていたが、四歳になった頃にはサンタは存在しないのだと解った。
――だが勇者はサンタが存在すると今も思っている。
夢は壊さず見守ってやろう、いつ気がつくか楽しみだ。


「ところで、魔法使いもサンタに何をご要望なさったんです?」
「現金一万円」
「現実的ですね」
「安心して、勇者にはサンタのコスプレして貰うようにお爺さんに掛け合ってみるから」
「それ、私は得しませんよね?」
「ボクが得するんだ」


清々しい笑顔……我は大きく溜息を吐いたが二人で母屋へと帰って行った。
しかしサンタのコスプレか……。




「と、言う話を恵さんとしていたのですが、心寿もサンタのコスプレとかしたことあるんですか?」


自分の気持ちに素直は我は夜、鐘打ち堂にきた聖女に問い掛けてみた。
聖女は顔を真っ赤にそめながら「あるよ?」と答えている、萌える。


「小さい頃だけどね?」
「そうなのですね、きっと愛らしかったことでしょう……見てみたかったです、当時の写真とかは無いのですか?」
「あるけど、明日持ってこようか?」
「出来れば欲しいです」


更に我の言葉に耳まで真っ赤に染める聖女、うむ、実に良い……。
しかし聖女のサンタのコスプレか……やはりここはサンタガールを期待してしまうな。


――その翌日、聖女が持ってきたサンタのコスプレ写真は我の宝物になった。
うむ、ミニスカサンタは破壊力がやはり違うな。

僧侶が色欲に溺れるな?
馬鹿を言え。
色欲がなければ子作りが出来ぬだろう?




この写真のおかげで我は忙しい大晦日を乗り越えることが出来たし、年始の檀家さんへのあいさつ回りも出来たほどだ。
――年末年始は寺に休みなど無い。
ホッと息がつけたのは一月も終わりに差し掛かった頃……その頃には我も魔法使いも疲労困憊で一日だけ休みを貰うことが出来たほどだった。

さて、勇者のサンタコスプレだがどうなったかと言うと、サイズが無かったと言う理由で勇者はコスプレをすることは無かった。
後に魔法使いは語る。

「脳内ではミニスカサンタの勇者が存在するのにな」と……。

脳内だけで済ませて欲しいと思う我の複雑な兄心は、口に出すことは無かった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします

暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。 いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。 子を身ごもってからでは遅いのです。 あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」 伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。 女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。 妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。 だから恥じた。 「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。 本当に恥ずかしい… 私は潔く身を引くことにしますわ………」 そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。 「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。 私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。 手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。 そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」 こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

“元“悪役令嬢は二度目の人生で無双します(“元“悪役令嬢は自由な生活を夢見てます)

翡翠由
ファンタジー
ある公爵令嬢は処刑台にかけられていた。 悪役令嬢と、周囲から呼ばれていた彼女の死を悲しむものは誰もいなく、ついには愛していた殿下にも裏切られる。 そして目が覚めると、なぜか前世の私(赤ん坊)に戻ってしまっていた……。 「また、処刑台送りは嫌だ!」 自由な生活を手に入れたい私は、処刑されかけても逃げ延びれるように三歳から自主トレを始めるのだが……。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。 飲めないお酒を飲んでぶったおれた。 気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。 その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

【完結】内緒で死ぬことにした  〜いつかは思い出してくださいわたしがここにいた事を〜

たろ
恋愛
手術をしなければ助からないと言われました。 でもわたしは利用価値のない人間。 手術代など出してもらえるわけもなく……死ぬまで努力し続ければ、いつかわたしのことを、わたしの存在を思い出してくれるでしょうか? 少しでいいから誰かに愛されてみたい、死ぬまでに一度でいいから必要とされてみたい。 生きることを諦めた女の子の話です ★異世界のゆるい設定です

「お前のような奴はパーティーに必要ない」と追放された錬金術師は自由に生きる~ポーション作ってたらいつの間にか最強になってました~

平山和人
ファンタジー
錬金術師のカイトは役立たずを理由にパーティーから追放されてしまう。自由を手に入れたカイトは世界中を気ままに旅することにした。 しかし、カイトは気づいていなかった。彼の作るポーションはどんな病気をも治す万能薬であることを。 カイトは旅をしていくうちに、薬神として崇められることになるのだが、彼は今日も無自覚に人々を救うのであった。 一方、カイトを追放したパーティーはカイトを失ったことで没落の道を歩むことになるのであった。

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

現代転生 _その日世界は変わった_

胚芽米
ファンタジー
異世界。そこは魔法が発展し、数々の王国、ファンタジーな魔物達が存在していた。 ギルドに務め、魔王軍の配下や魔物達と戦ったり、薬草や資源の回収をする仕事【冒険者】であるガイムは、この世界、 そしてこのただ魔物達と戦う仕事に飽き飽き していた。 いつも通り冒険者の仕事で薬草を取っていたとき、突然自身の体に彗星が衝突してしまい 化学や文明が発展している地球へと転生する。 何もかもが違う世界で困惑する中、やがてこの世界に転生したのは自分だけじゃないこと。 魔王もこの世界に転生していることを知る。 そして地球に転生した彼らは何をするのだろうか…

処理中です...