【中学突入!】転生魔王は寺に生まれる

うどん五段

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第一章 魔王様、少年期をお過ごしになる

23 魔王様、お声がエロイと言われる

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寺の朝は早い。


夜九時頃には就寝し、朝は掃除を含め四時前から起き出す。
我もそんな生活に慣れている為、苦痛は一切感じない。
この世界にきてから規則正しい生活を送っていると言って過言では無いだろう。
用意を済ませ、袈裟に着替えると母や祖母が皆を起こしに行った様だ。


喉の調子は良い。
手洗いうがいは基本中の基本。
寺に休みなど無いのだから、体調管理だけはしっかりせねばならぬな。


こうして朝六時四十五分。
静かな寺に響き渡るのは我の読経。

最初こそ慣れなかった読経だが、今では高位魔法を唱えるよりも簡単に口にする事が出来る。読経を唱える際には何時もの声色とはやはり違う、心から口にする読経とは厳かであり大事なものなのだ。


七時十五分からは坐禅が始まる。
胡坐とは違う坐り方なのを知っている人々は今の現代どれほどいるだろうか。


「では、目をほんの少しだけ開けて……姿勢を正してください、そうです……意識は丹田(たんでん)、へその下辺りに集中させて下さいませ。……お上手ですね、では静かに呼吸を繰り返しフッと無心へ……そう……良い子ですね……」
「――集中できません! 雑念煩悩が溢れ出るぅぅぅううう!!」
「オレもなんか変な気持ちになるぅぅ……」
「祐ちゃんちょっと言い方が……」
「そう! 教え方は言いんだけど声がエロイ! エロイのよ! 子供に迫られてるようなイケナイ気分になっちゃうの! 駄目よそんなっ」
「落ち着いてくださいませ」


煩悩で顔を真っ赤にさせ叫ぶミユとアキラの背中を警策(けいさく)でパ――ン!と叩く。


「ありがとうございます!」
「ご褒美ありがとう御座います!」


と叫ぶアキラ姉弟、流石血の繋がりを感じずにはいられない。


「ちゃんと教えているつもりですよ? しっかりと集中してくださいませ。坐禅の意味が見失われていますよ?」
「でもエロイんだよぅ……」
「エロイな、なんかこう、オレの開けちゃいけない扉が開拓されそうになるっていうか?」
「とりあえずもう一度やってみて下さい。黙っておきますから」


そんなこんなで二、三回同じことが起きたものの、無事坐禅を終えることが出来た。
警策が病み付きになりそうだと言うミユには若干引いてしまったが、今後宿坊に来る者達を考えミユのような考えも慣れていかねばならんだろうな……。


その後昼の二時からは写経。こちらは恙無く(つつがなく)進み、終われば寺で甘味を振舞うのだが――。


「うぼぁあああ!!」
「足が痺れた……」
「私も足がちょっと痺れたかも」
「心寿は兎も角、アキラとミユの足を突きまくって差し上げましょうか?」
「「やめて!!」」


両手で人差し指を見せつつ彼らの元へと向かうと、突いてもいないのに「足が――! 足がぁあああ!」と騒いでいる。
我も昔は足が痺れて大変だったが、慣れれば何てことは無い。
そもそも、足が痺れて痛い間、小雪によるタックル攻撃を幾度も受ければ嫌でも慣れる。
勇者として目覚める前の小雪だったが、あの時ほど妹に殺意を覚えたことは無いだろう。


「ずっと正座をしてなくてはならないと言う義務はないのですよ? 少し足を崩すくらいは問題ありません」
「そうだけどさぁ……」
「そもそも、正座する機会自体が俺達ないんだもんなぁ」


確かに現代において正座する事のほうが珍しいのかもしれない。
勉強机や食卓であっても椅子を使う……致し方ないことだろう。


「まぁ確かに現代日本人は正座で食事を囲むことも少なくなったようですね。国民的アニメのサザ○さんのような家庭も今では少ないかも知れません。ですが、あのカツ○ですら正座して食事をする程、当時は当たり前だったのでしょう」
「イク○ちゃんとタ○ちゃんも正座してるものね」
「時代は変ってしまったのですねぇ……」


我と聖女の会話にミユとアキラは「お似合いな二人だこと」と呆れた様子だったが、足の痺れが取れた辺りで我が持ってきていた甘味を皆で食べる事になった。
今日の甘味は――カステラだ。

おぉ、今日のカステラは粗目(ざらめ)か。
やはりカステラは粗目に限る、この甘さが我の精神を癒してくれるのだ……。
幸せを噛み締めていると祖父が部屋に入ってきた。どうやら宿坊体験はどうだったか聞きに来たらしい。
すると――。


「身体が楽になりました! 早く宿坊出来ないかしら……見も心も洗われる感じがして凄く好きです! 宿坊が出来たらお手伝いにも来たいです!」

と、嬉しそうに語る聖女に祖父は満足そうに頷いた。
本当に清らかな娘だ、早く十八歳になり我のモノにしたい。


「祐一郎君の読経声がエロかったのと、坐禅の教え方がエロかったです! あと警策で叩かれるのが快感でした! なので宿坊が出来たら毎週でも来たいです!」


欲望にまみれた発言をするミユに祖父は笑っていたが、我は額に手を置いて溜息を吐いた。
ここまで自分の欲求を追い求める娘もこの世界では――多いのか? どうなんだ?


「オレはやっぱり焼き芋が好きだったな~! 宿坊もスゲー良かったんだけど、習い事とかで疲れてる時に来ると癒されるかも。オレ疲れてるのかな?」


アキラらしい発言に祖父も頷きつつ我を見つめた。
最後に我の意見を聞きたいと言う事だろう。


「祐一郎はどう思う?」
「そうですね、普段していることよりもやる事は確かに増えますが、とても遣り甲斐のある事だと思われます。現代人は何かとストレスや疲れを抱えすぎですので、そう言った面で見ても充分価値はあるかと」
「ふむ」
「ですが、私一人で全てを回すのは少し荷が重くも感じられました。慣れていけば問題ないのでしょうが……体がもう一つあれば楽だろうなと思ってしまいますね」


我も欲にまみれた発言をしたなと思ったが、祖父は何かを思い出したようで「そこは何とかしよう」と我に告げた。


「さて、宿坊体験もコレにて終了じゃが、宿坊が出来た暁には是非また参加して欲しいところじゃな。とりあえずミユの煩悩はなかなか取れなさそうじゃ」
「はい! 祐一郎君がもっとエロくなると思うと取れません!」
「はっはっは!」


その言葉に我は聖女と顔を見合わせ苦笑いが出た。
まぁ、一番エロイ声は聖女がそのうち聞くことになるのだ。気にすることではない。


何はともあれ、一日宿坊体験が終わり聖女達は帰宅して行った。
その後、祖父がどこかに電話していたが……それが後に、我が家に台風をもたらす事を、我が知る由も無い。



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