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第一章 魔王様、少年期をお過ごしになる
14 魔王様、毅然とした態度を御見せになる
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聖女の後姿を見送り、近付いてくる足音に振り返ると一気に化粧臭くなる。
「ねぇ祐一郎くん」
「おはよう御座います、そろそろ朝食の時間ですよ」
現れたのは、昨日苦手な親戚が「嫁にどうだ」と突き出してきた女だった。
「さっきの子、あんまり可愛くないね」
「そうですか? 私にはとても魅力的な女性に見えます。あの方ほど美しい女性を知りません」
遠まわしではあるが、お前にその気は無いと言う気持ちを込めて口にしたが、女は我の言葉にムッとした表情で見つめてきた。
「そんな事無いんじゃないかな~? 絶対私のほうが将来性あるし!」
「どの様な将来性でしょう? 失礼ですが私は貴女に将来性があるようには見えません」
「だってさ、さっきの子……こう言ったらアレだけど、顔も平凡だしなんて言うか、普通より下って感じ? 私はクラスでも人気あるし~可愛いし~? 男の子にも人気あるのよ!」
「それで?」
「だから、私と付き合わない? 初めて会った時から凄く好みのタイプなの……」
――気持ち悪い。
サキュバスに言い寄られるほうがまだマシだ。
生理的嫌悪感と言うのは、こういうのを言うのだろうな。
「その様なお話でしたら、私からは何も言いませんし話すことはありません。失礼致します」
「待って!」
一礼してその場を離れようとしたその時、女我が我の腕を強く掴んだ。
「祐一郎くん、私を振ったら絶対後悔するよ!?」
「では、喜んでその後悔を受け入れますよ」
「なっ」
まさか即答で言われるとは思わなかったのだろう、女は目を見開いた。
「私は先程花を持ってきたあの方が好きなのです。貴女とはまるで正反対のあの女性が」
「悪趣味だね」
「素顔を見せられないほど化粧を塗りたくった貴女よりは、とても美しいと思います。それに将来の嫁を決めるのは私ですし、貴女は他人に優劣をつけて判断できる程の立場のお方なのですか? 私にはそうは見えませんが?」
我の言葉に女は怒りを露にしたが、掴まれている腕を軽く振り払い作務衣の襟を正した。
「そんな……でもやっぱり私のほうが可愛いし」
「確かに個人の好みの問題でしょう。ええ、個人の好みの問題です、私は貴女を好ましく思った事は一度もありません。挨拶も碌に出来ない、自己紹介もできない、まるで相手が先に言うのが当たり前と言う態度も気に入りません。そう言う方は寺の嫁には相応しく無い、お引取り下さいませ」
ハッキリとした口調で告げると、女は我の頬を叩いた。
口で勝てないと解れば暴力に出る。
こんな女が寺の嫁など、我の妻になりたいなど、笑わせてくれるわ。
「さっきから好き勝手言いやがって! 私のどこが不満だって言うのよ!」
「先程ご説明しましたが、貴女がご理解出来ないような難しい言葉を使いましたでしょうか?」
「このっ」
もう一度我を叩こうとする手を掴んだのは――祖父だった。
「幾ら口で勝てないからと言って、暴力に出るのは躾が行き届いておらんな」
「おはよう御座いますお爺様」
「離してよ!」
大声で喚き続ける女に、母屋から何事かと母と祖母を含め、数名の親戚が集まってきた。
「祐一郎の言葉はキツイが、事実を言われて暴力に出るのは浅はかな行動だ」
「――でも!」
「寺の嫁になりたいのであれば、自分の心を律する者が相応しい。お前にそれが出来るとはワシは思わぬ」
祖父の言葉に女も諦めたのか、大きな溜息を吐くと我を見つめた。
「寺の嫁になれば遊んで暮らせるって聞いて来たのに……あの女だってソレを解っててアンタに近寄ってきたんでしょ!」
「貴女はどうやら誤解しているようですね」
「だってそう聞いたもの! お母さんが寺の嫁になれば遊んで暮らせるって! 優雅な生活が出来て、綺麗な服もブランド品も買い放題だって言ってたもん! 私は悪くないもん!」
女の言葉にその事を継げた母親が慌てふためく。
母親は「そんな事は言ってない」だの、娘は「お母さんの嘘つき」だの、朝からなんとまぁ賑やかなことか。
呆れて小さく溜息を零すと、それは祖父も同じだった様で我の頭を撫でると言い合いを続ける二人に祖父が継げたのは――。
「どうやら、寺への出入りを禁じなくてはならんようだな」
「そんな! お爺様待って下さい! 娘にはちゃんと謝罪させますから!」
「ワシ達が欲しいのは謝罪ではない」
厳しい口調で言い放った祖父に、親子は顔を青くして立ち尽くした。
「荷物は着払いで送ってやる、さっさと出て行け。欲深き者は我が家には必要ない」
一喝された親子は他の親戚からも好奇な目で見られているのを恥じたのか、必要最低限の荷物を持って寺から出て行った。
朝から本当に賑やかだった、まぁ我としても少々大人気なく女に厳しく言ってしまったのは後で叱られるであろうが、聖女の事を悪く言われると我慢が出来ないのだ。
しかし――。
「お爺様、宜しかったのですか?」
「おおよそ魂胆は見えておったからな。折角の祝いの席が台無しになってしまったな」
大きく溜息を吐く祖父に、我はクスッと笑って見せた。
「では、小規模ながら祝いの席を今度用意して頂きたく思います」
「ほう?」
「心寿を呼びたいのです……彼女を将来妻に迎えたい。生まれた時からずっとずっと心からお慕いしているのです。駄目でしょうか?」
我の気持ちを伝えると、祖父は嬉しそうに笑って我の頭を撫でた。
「そうかそうか、ふむふむ……祐一郎」
「はい」
「お前さんが十八歳になるまで心寿を思い続けていた場合、お前達を婚約させてやろう」
思いも寄らない言葉に目を見開くと、祖父は我を見つめてニヤリと笑った。
あと十二年……たったの十二年聖女を想い続ければ、本当に婚約させてくれるのだろうか。
「嘘偽り無く?」
「嘘偽りは無い、この日本では十八歳になれば男児は結婚することが出来る。しかし一つ条件がある」
「何でしょう」
「学生結婚をしたくば、もっと精進することだ。今でも充分辛いだろうが、耐えれるか?」
「お爺様、それは条件ではなく当たり前の条件かと思われます」
苦笑いしながら祖父に告げると、祖父は嬉しそうに微笑んだ。
我とてこの世界で生活するには金が掛かることくらい充分知っている。
一人を養うだけでも大変だと言う日本の現状をちゃんと理解しているつもりだ。
ゆえに――我は宿坊に人が集まるように、そして寺を守れるように覚える事を覚え、立ち振る舞いをしっかりせねばならぬと思っている。
「僧侶としては恥じるべきことでしょうが、私は欲が深いのです」
「はっはっは! 妻を思う心ならば致し方なかろう? 若い証拠だ、お前には期待しておる」
「ありがとう御座います」
こうして、少々波乱に満ちたお披露目会は終了し、親戚たちは家路へと帰って行った。
我と年の近い娘を持つ親たちは恨めしそうに我を見つめていたが知った事ではない。
寧ろ、曾婆様が聖女であることに我も勇者も今まで気がつかなかった。
勇者は曾婆様が聖女である事を知ると、一日呆然として両親を心配させた程であった。
そして、曾婆様は我と勇者によく絡むようになった。
我と勇者が争うようなら勇者を養女に出すつもりだったと聞いた時は、勇者は顔面蒼白で首を何度も横に振っていたが、曾婆様からのある種の圧力であろう。
「兄妹仲良くせぇ?」
「「はい!」」
――とは言っても、何時もと変らぬやり取りをする我と勇者がいるのだが、そんな我たちを見て曾婆様は嬉しそうに茶を飲む日々を送っておる。
それから後日、聖女の家族が我が家に呼ばれ、我が十八歳になった暁には婚約させて欲しいと祖父と父が頼むと、聖女の両親からは快く了承して貰えた。
聖女も泣いて喜び「祐ちゃんが十八歳になるの楽しみに待ってる!」と言ってくれたのだ。
我はもっと成長せねばならぬ。
愛しい聖女の為にも、そして――この寺の息子として転生してきた兄の為にも。
それからと言うもの、朝のお勤めが終われば東家の墓の前に立ち御経を唱える。
兄を想い、兄への感謝を込めて――。
「ねぇ祐一郎くん」
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生理的嫌悪感と言うのは、こういうのを言うのだろうな。
「その様なお話でしたら、私からは何も言いませんし話すことはありません。失礼致します」
「待って!」
一礼してその場を離れようとしたその時、女我が我の腕を強く掴んだ。
「祐一郎くん、私を振ったら絶対後悔するよ!?」
「では、喜んでその後悔を受け入れますよ」
「なっ」
まさか即答で言われるとは思わなかったのだろう、女は目を見開いた。
「私は先程花を持ってきたあの方が好きなのです。貴女とはまるで正反対のあの女性が」
「悪趣味だね」
「素顔を見せられないほど化粧を塗りたくった貴女よりは、とても美しいと思います。それに将来の嫁を決めるのは私ですし、貴女は他人に優劣をつけて判断できる程の立場のお方なのですか? 私にはそうは見えませんが?」
我の言葉に女は怒りを露にしたが、掴まれている腕を軽く振り払い作務衣の襟を正した。
「そんな……でもやっぱり私のほうが可愛いし」
「確かに個人の好みの問題でしょう。ええ、個人の好みの問題です、私は貴女を好ましく思った事は一度もありません。挨拶も碌に出来ない、自己紹介もできない、まるで相手が先に言うのが当たり前と言う態度も気に入りません。そう言う方は寺の嫁には相応しく無い、お引取り下さいませ」
ハッキリとした口調で告げると、女は我の頬を叩いた。
口で勝てないと解れば暴力に出る。
こんな女が寺の嫁など、我の妻になりたいなど、笑わせてくれるわ。
「さっきから好き勝手言いやがって! 私のどこが不満だって言うのよ!」
「先程ご説明しましたが、貴女がご理解出来ないような難しい言葉を使いましたでしょうか?」
「このっ」
もう一度我を叩こうとする手を掴んだのは――祖父だった。
「幾ら口で勝てないからと言って、暴力に出るのは躾が行き届いておらんな」
「おはよう御座いますお爺様」
「離してよ!」
大声で喚き続ける女に、母屋から何事かと母と祖母を含め、数名の親戚が集まってきた。
「祐一郎の言葉はキツイが、事実を言われて暴力に出るのは浅はかな行動だ」
「――でも!」
「寺の嫁になりたいのであれば、自分の心を律する者が相応しい。お前にそれが出来るとはワシは思わぬ」
祖父の言葉に女も諦めたのか、大きな溜息を吐くと我を見つめた。
「寺の嫁になれば遊んで暮らせるって聞いて来たのに……あの女だってソレを解っててアンタに近寄ってきたんでしょ!」
「貴女はどうやら誤解しているようですね」
「だってそう聞いたもの! お母さんが寺の嫁になれば遊んで暮らせるって! 優雅な生活が出来て、綺麗な服もブランド品も買い放題だって言ってたもん! 私は悪くないもん!」
女の言葉にその事を継げた母親が慌てふためく。
母親は「そんな事は言ってない」だの、娘は「お母さんの嘘つき」だの、朝からなんとまぁ賑やかなことか。
呆れて小さく溜息を零すと、それは祖父も同じだった様で我の頭を撫でると言い合いを続ける二人に祖父が継げたのは――。
「どうやら、寺への出入りを禁じなくてはならんようだな」
「そんな! お爺様待って下さい! 娘にはちゃんと謝罪させますから!」
「ワシ達が欲しいのは謝罪ではない」
厳しい口調で言い放った祖父に、親子は顔を青くして立ち尽くした。
「荷物は着払いで送ってやる、さっさと出て行け。欲深き者は我が家には必要ない」
一喝された親子は他の親戚からも好奇な目で見られているのを恥じたのか、必要最低限の荷物を持って寺から出て行った。
朝から本当に賑やかだった、まぁ我としても少々大人気なく女に厳しく言ってしまったのは後で叱られるであろうが、聖女の事を悪く言われると我慢が出来ないのだ。
しかし――。
「お爺様、宜しかったのですか?」
「おおよそ魂胆は見えておったからな。折角の祝いの席が台無しになってしまったな」
大きく溜息を吐く祖父に、我はクスッと笑って見せた。
「では、小規模ながら祝いの席を今度用意して頂きたく思います」
「ほう?」
「心寿を呼びたいのです……彼女を将来妻に迎えたい。生まれた時からずっとずっと心からお慕いしているのです。駄目でしょうか?」
我の気持ちを伝えると、祖父は嬉しそうに笑って我の頭を撫でた。
「そうかそうか、ふむふむ……祐一郎」
「はい」
「お前さんが十八歳になるまで心寿を思い続けていた場合、お前達を婚約させてやろう」
思いも寄らない言葉に目を見開くと、祖父は我を見つめてニヤリと笑った。
あと十二年……たったの十二年聖女を想い続ければ、本当に婚約させてくれるのだろうか。
「嘘偽り無く?」
「嘘偽りは無い、この日本では十八歳になれば男児は結婚することが出来る。しかし一つ条件がある」
「何でしょう」
「学生結婚をしたくば、もっと精進することだ。今でも充分辛いだろうが、耐えれるか?」
「お爺様、それは条件ではなく当たり前の条件かと思われます」
苦笑いしながら祖父に告げると、祖父は嬉しそうに微笑んだ。
我とてこの世界で生活するには金が掛かることくらい充分知っている。
一人を養うだけでも大変だと言う日本の現状をちゃんと理解しているつもりだ。
ゆえに――我は宿坊に人が集まるように、そして寺を守れるように覚える事を覚え、立ち振る舞いをしっかりせねばならぬと思っている。
「僧侶としては恥じるべきことでしょうが、私は欲が深いのです」
「はっはっは! 妻を思う心ならば致し方なかろう? 若い証拠だ、お前には期待しておる」
「ありがとう御座います」
こうして、少々波乱に満ちたお披露目会は終了し、親戚たちは家路へと帰って行った。
我と年の近い娘を持つ親たちは恨めしそうに我を見つめていたが知った事ではない。
寧ろ、曾婆様が聖女であることに我も勇者も今まで気がつかなかった。
勇者は曾婆様が聖女である事を知ると、一日呆然として両親を心配させた程であった。
そして、曾婆様は我と勇者によく絡むようになった。
我と勇者が争うようなら勇者を養女に出すつもりだったと聞いた時は、勇者は顔面蒼白で首を何度も横に振っていたが、曾婆様からのある種の圧力であろう。
「兄妹仲良くせぇ?」
「「はい!」」
――とは言っても、何時もと変らぬやり取りをする我と勇者がいるのだが、そんな我たちを見て曾婆様は嬉しそうに茶を飲む日々を送っておる。
それから後日、聖女の家族が我が家に呼ばれ、我が十八歳になった暁には婚約させて欲しいと祖父と父が頼むと、聖女の両親からは快く了承して貰えた。
聖女も泣いて喜び「祐ちゃんが十八歳になるの楽しみに待ってる!」と言ってくれたのだ。
我はもっと成長せねばならぬ。
愛しい聖女の為にも、そして――この寺の息子として転生してきた兄の為にも。
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