【中学突入!】転生魔王は寺に生まれる

うどん五段

文字の大きさ
上 下
12 / 107
第一章 魔王様、少年期をお過ごしになる

11 魔王様、親戚付き合いを億劫に感じられる

しおりを挟む
お盆が過ぎれば多少ゆっくり出来る。

怒涛の忙しさから解放され、丸一日熟睡してしまったことに関しては「まだ幼いから致し方なかろう」と言う事でお咎めなしとなった。
だが、その丸一日寝ている時でも聖女は寺に来て境内の掃除を手伝ってくれていたのだと聞いた時、我はもう少し体力をつけなくてはと自分を叱咤した。


花屋は十三日になれば忙しさのピークを過ぎる。
その為、聖女は十三日を過ぎてからは寺の手伝いをしに毎日訪れるのだ。
今のうちから寺での仕事を軽く覚えたいのかも知れないと思うと嬉しさも込み上げてくるというもの……何より聖女と共に過ごせる時間が増えるのは喜ばしいことだ。


お盆前、聖女が寺に来てくれない時期は本当に地獄だった。
追々対策を考えなくてはならないな。


「祐一郎、そろそろ準備なさ~い」
「あぁ、そろそろでしたね」


今日は年二回ある東家の親戚が集まる日だ。
東家は代々女系家族らしく、男児が生まれると祭り状態になる。
我が生まれた時はまだご健在だった曾爺様が余りの喜びに、真冬の寒い日に毛布で我をグルグル巻きした挙句、あろうことかコタツの中に入れられた時は死ぬかと思った。
発見が遅れたら蒸し焼きになっていたことだろう。


何はともあれ、今日は遠方からも親戚が集まる日。
正直、余り良いものではない。
中には露骨なまでに下心を見せた者も来るからだ。


「客間は既に掃除してあるし、布団類も昨日の内に天日干しは済ませてある……」

抜かりは無いはずだ。
あの日から我と聖女は夜になると鐘打ち堂で一時間ほど一緒に過ごしているが、親戚が泊まる今日は会えない、ストレスで禿げてしまいそうだ。


袈裟に着替え気を引き締めなおした頃、続々と遠方から親族が集まり始めた。
今日ばかりは勇者も夏用の着物で御もてなしをする。何事も御もてなしが肝心なのだ。


「うぅ……あつい……」
「帯がずれていますよ、もっと胸を張って背筋を伸ばせばそんなに歩き難くは無いでしょう」
「なぜ動きにくい着物で御もてなしをしなくてはならないのか謎だ、しかも着物の中が暑い」
「心頭を滅却すれば火もまた涼し、と言うことわざがあります」
「しんとうを……めっきゃく?」
「心の持ち方ひとつで、いかなる苦痛も苦痛とは感じられなくなること……と言う事です。さぁ、帯が直りましたよ。これで多少は楽になったでしょう」
「すまないな魔王」
「しかし、本当に今日は暑いですね……お客様の為に打ち水をしましょう」


こうして、我と勇者は玄関や縁側に打ち水をしながら訪れる親族に挨拶をしていた。
打ち水をすれば多少は涼しく感じられるものだ。
桶を置き、勇者と共に家に入ろうとしたその時――。


「祐一郎君? 大きくなったわねぇ!」
「お久しぶりです」


声をかけて来たのは、どこまで血が繋がってるかも分らない遠方の親戚だった。
苦手な親戚の一人でもある。


「今日はうちの娘も連れてきたのよ~!」
「初めまして」
「初めまして、祐一郎と申します」
「あの! 小雪です!」
「あらそう、ところで祐一郎君……」


勇者が挨拶したというのに、この女は勇者に興味を示さず自分の娘だという化粧臭い女を突き出してきた。


「どう? うちの娘、可愛いでしょう?」
「そうですね」
「祐一郎君の将来のお嫁さんにどうかなって思って!」
「申し訳ありませんが、既に相手は決めております」
「まぁ! そうは言ってもうちの娘のほうが……」
「母屋での手伝いがあるので失礼します」


そう言うと勇者の手を引き母屋へと入った。
寺の嫁として家に箔がつくのを狙っていたのだろう、浅はかな女だ。


「私が挨拶したと言うのになんと言う態度だ」
「あの方は貴女が生まれたときも喜ぶ顔一つしなかった方ですよ。相手するだけ時間の無駄ですし、イライラするだけ心の脂肪、心の駄肉です」
「むぅ……」
「寧ろ、こう言う時は女性である貴女が少々羨ましく感じますよ。家に箔がつくと言う名目で自分の娘を私の嫁にと考える浅ましい輩が大勢いるのですから」


祖父はお見合い結婚だったが両親は恋愛結婚らしい。
親戚中から猛反対が上がったらしいが、祖父と当時まだご健在だった曾爺様が「東家に相応しき嫁である」と反対意見を押し切り、母を迎えたのだと聞いたことがある。
だが親戚は自分たちの顔に泥を塗られたと思ったのだろう。
我が生まれるまで母は「まだ妊娠もしないのか」や「跡継ぎを産まないのなら離婚しろ」等と散々言われ続けたらしい。
我が生まれてからは母への攻撃は無くなった様だが、反対に「うちの娘を嫁に」と言って来る親戚も多いのだと愚痴を零していた。


そんな我が聖女を見初めたことにより、母は聖女の事を可愛がっている。
自分と同じ様に辛い目に遭うかも知れないと心配はしているようだが、寺の手伝いをしにやってくる聖女を、両親も祖父母も可愛がっているのが現状だ。


娘である勇者には、そんな苦労をせず幸せな将来を送って欲しいとさえ願っている母の想いを無碍にする訳にもゆくまい。


「小雪、今から言う事を覚えて置きなさい」
「はい」
「貴女は東家の長女、私の妹です。何も恥じることは無い」
「はい」
「困った時は兄に助けを求めなさい、出来るだけ貴女を守りましょう」


――勇者も感じ取った人の気配。
二人で見つめた先には……先程の親戚の娘が笑顔で立っていた。
年は聖女と変らないくらいだろう。だが化粧を塗りたくったその顔は本当の顔ではないと直ぐにわかるし、何より男遊びが激しそうなサキュバスを思い出させる女だった。


「何か御用でも?」
「祐一郎君と会話がしたくって」
「申し訳ありませんが、後にして頂けませんかね?」
「え~? 祐一郎君ってば冷た~い!」


甘ったるい声、なんと言う耳障りだ。
だが勇者も同じ様に感じたらしく、何を思ったのか我に抱きつき少女を睨み付けている。


「ちゃんとしたあいさつもできないあいてに、おにいちゃんはもったいないのでおひきとりください」
「は?」
「じぶんのなまえもいえない、あいさつもできないあいてに、おにいちゃんはふさわしくありません」


ほう、世に言うブラコンを演じるという訳か……勇者も考えよる。


「そう言えば、私も小雪も挨拶の際に名前をお伝えしたのに、貴女は何も言いませんでしたね」
「それはホラ、照れてたっていうか?」
「しつけのなってないおかた」
「!」
「おにいちゃん、まだじかんあるし、えほんよんで」
「ええ、構いませんよ。部屋に戻りましょうか」


そう言うと我は勇者を抱き上げ少女の横をすり抜け部屋に戻る。
――しかし、背後から感じる視線は勇者に対し敵意をむき出しにしたものだった。


「やれやれ」
「どうした魔王」
「女性を挑発すると、後々面倒ですよ?」


とは言っても手遅れでしょうが。
溜息を吐きつつ勇者の部屋に入り、暫し二人でゆっくりとした時間を過ごした。

しおりを挟む
ツギクルバナー
感想 0

あなたにおすすめの小説

猫のお菓子屋さん

水玉猫
絵本
クマのパン屋さんのおとなりに、猫のお菓子屋さんができました。 毎日、いろんな猫さんが、代わる代わるに、お店番。 お店番の猫さんが、それぞれ自慢のお菓子を用意します。 だから、毎日お菓子が変わります。 今日は、どんなお菓子があるのかな? 猫さんたちの美味しい掌編集。 ちょっぴり、シュールなお菓子が並ぶことも、ありますよ。 顔見知りの猫さんがお当番の日は、是非是非、のぞいてみてください!

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

小さな王子さまのお話

佐宗
児童書・童話
『これだけは覚えていて。あなたの命にはわたしたちの祈りがこめられているの』…… **あらすじ** 昔むかし、あるところに小さな王子さまがいました。 珠のようにかわいらしい黒髪の王子さまです。 王子さまの住む国は、生きた人間には決してたどりつけません。 なぜなら、その国は……、人間たちが恐れている、三途の河の向こう側にあるからです。 「あの世の国」の小さな王子さまにはお母さまはいませんが、お父さまや家臣たちとたのしく暮らしていました。 ある日、狩りの最中に、一行からはぐれてやんちゃな友達と冒険することに…? 『そなたはこの世で唯一の、何物にも代えがたい宝』―― 亡き母の想い、父神の愛。くらがりの世界に生きる小さな王子さまの家族愛と成長。 全年齢の童話風ファンタジーになります。

剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です!

月芝
児童書・童話
国の端っこのきわきわにある辺境の里にて。 不自由なりにも快適にすみっこ暮らしをしていたチヨコ。 いずれは都会に出て……なんてことはまるで考えておらず、 実家の畑と趣味の園芸の二刀流で、第一次産業の星を目指す所存。 父母妹、クセの強い里の仲間たち、その他いろいろ。 ちょっぴり変わった環境に囲まれて、すくすく育ち迎えた十一歳。 森で行き倒れの老人を助けたら、なぜだか剣の母に任命されちゃった!! って、剣の母って何? 世に邪悪があふれ災いがはびこるとき、地上へと神がつかわす天剣(アマノツルギ)。 それを産み出す母体に選ばれてしまった少女。 役に立ちそうで微妙なチカラを授かるも、使命を果たさないと恐ろしい呪いが……。 うかうかしていたら、あっという間に灰色の青春が過ぎて、 孤高の人生の果てに、寂しい老後が待っている。 なんてこったい! チヨコの明日はどっちだ!

お姫様の願い事

月詠世理
児童書・童話
赤子が生まれた時に母親は亡くなってしまった。赤子は実の父親から嫌われてしまう。そのため、赤子は血の繋がらない女に育てられた。 決められた期限は十年。十歳になった女の子は母親代わりに連れられて城に行くことになった。女の子の実の父親のもとへ——。女の子はさいごに何を願うのだろうか。

中学生ユーチューバーの心霊スポットMAP

じゅん
児童書・童話
【第1回「きずな児童書大賞」大賞 受賞👑】  悪霊のいる場所では、居合わせた人に「霊障」を可視化させる体質を持つ「霊感少女」のアカリ(中学1年生)。  「ユーチューバーになりたい」幼なじみと、「心霊スポットMAPを作りたい」友達に巻き込まれて、心霊現象を検証することになる。  いくつか心霊スポットを回るうちに、最近増えている心霊現象の原因は、霊を悪霊化させている「ボス」のせいだとわかり――  クスっと笑えながらも、ゾッとする連作短編。

忠犬ハジッコ

SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。 「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。 ※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、  今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。  お楽しみいただければうれしいです。

ローズお姉さまのドレス

有沢真尋
児童書・童話
最近のルイーゼは少しおかしい。 いつも丈の合わない、ローズお姉さまのドレスを着ている。 話し方もお姉さまそっくり。 わたしと同じ年なのに、ずいぶん年上のように振舞う。 表紙はかんたん表紙メーカーさまで作成

処理中です...