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第一章 魔王様、少年期をお過ごしになる

5 魔王様、チャンバラごっこをご堪能される

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昼食を食べた後、我と聖女、それとアキラとその姉と共にチャンバラ会場へとやってきた。
既に賑わっているようだな。
オル・ディールで言うところの闘技場みたいなものだろう。
弱き者達が戦う様が無様で滑稽で、我も魔王城を抜け出し何度か観に行ったことがある。
エントリーする者たちはステージ横に集まらねばならぬのか。


「私もエントリーして参ります」
「祐ちゃん応援してるね!」
「祐一郎君頑張って!」
「オレの分も頑張れよ!」
「アキラもエントリーしましょう、男なら一度は戦いを経験するものです」


こうして、アキラを引き摺りエントリーしに行くと、同じ地区の上級生達も訪れた。
無論、敵意をむき出しで見られているのは解る。
鈍感であろうアキラが怯えてしまっているではないか、なんと情けない。


「オイ、祐一郎」
「何でしょう?」


おやおや、どうやら我に用事があるらしい。
説明を聞き終わってから複数の上級生が我たちに群がった。


「お前ムカツクんだよ」
「上級生に対して舐めてんのか?」
「何時も心寿と一緒にいやがって、心寿が嫌がってるだろうが」


なるほど、我が女に人気があること、そして、どうやらこの中ではリーダー格の男が聖女に気がある様子。
ふむ、子供と言うのは何とも解りやすいものよ。


「幼き頃より心寿とは常に一緒にいる為、余り気にしておりませんでした」
「このっ」
「私にご注意すると言うことは、心寿にも相応に注意されたのでしょうか?」


そう我が問い掛けると、リーダー格の男は両手を組んで我を睨み付ける。
すると――。


「コイツ、心寿ちゃんいじめてこの前泣かせたばかりだからな」
「馬鹿! アレは心寿が悪いだろ!」
「嫌がってるってわかってるのにお前が心寿のおっぱい触るから~」


その言葉に我の眉がピクリと動いた。
――聖女の胸を触っただと?
――我の許可もなく、しかも泣かせたと言うのか。


「理由は兎も角、セクハラですね。まだお子様で良かったですね、大人でセクハラをすれば訴えられますよ」
「このっ!」
「ですが、そうですか……私も少々本気で戦わねばならないようです。手加減はしますが、私が勝った暁には心寿には二度と近寄らないでいただきたい」
「じゃあ俺達が勝ったら心寿から離れろ!」
「ええ、貴方が私に勝てればですが。男に二言はありませんね?」


オロオロするアキラを他所に、我は男を見つめた。
表情一つ変えず上級生と渡り合う姿を、周りの同じ小学校の者たちも見ている。
上級生が去った後、心配して声を掛けてくる者たちも居たが「ご心配なく」と対応してチャンバラの道具を受け取った。


まずは大人が手本を見せてくれたが、どうやら剣劇をするようだな。
受け取ったビニールの棒を振り回し、前世の動きを思い出す。
無論、前世のように動く事は難しいが、基本となる動作は今も覚えているようで軽く動いて身体を慣らしていると、子達が集まり我を見ていた。


「ユウ……お前上手いな」
「ええ、祖父と一緒に時代劇を見ていたので見様見真似です」


時代劇――これほど便利な言葉は無い。
殺陣(タテ)を確認しながら、どうやって聖女を苦しめた男を処分するか考えていた。
本来ならジワジワと追い込んで絶望を味あわせたいが、後々を思えばある程度引き付けてから一撃で倒したほうが周囲の目も誤魔化しやすいであろう。


軽く身体をほぐした我は、順番が来るまで聖女を見つめていた。
チャンバラに興奮する聖女も愛らしいものだ。
だが、聖女の膝の上にいる勇者は後で徹底的に言葉による蹂躙をしておくことにする。
妹と思えば可愛らしいのだろうが、その中身は勇者であり雄だ。


「次の戦いは、東 祐一郎くんVS長谷川 竜馬くん!」


どれ程の時間が過ぎたかは知らないが、どうやら順番が来たらしい。しかも相手は我の聖女を泣かせた挙句、胸を触ったと言う愚か者だった。
パンパン……と武器を手で鳴らし舞台へとあがると、聖女の黄色い声援が届いた。


「祐ちゃん頑張って~~!! 叩きのめしてやって~~!!」
「心寿! 後で覚えてろよ!」
「おやおや、余裕ですねぇ」


我の聖女に暴言を吐くなど、処刑に値する行為。


「どこまで粋がっていられるか見物です」


我の挑発に軽く乗ってくる辺り、やはりまだまだ子供と言うこと……コレでは直ぐに決着がついてしまって楽しくは無い。

「両者始め!」

その声と同時に武器を振り回して迫ってくる下等生物の攻撃をスレスレで避けながら動き回り、男も息を上げながら無様に武器を振り回す事しかしない。


「おやおや、無様に振り回すだけしか能がありませんか?」
「うるさい!」
「その様なお粗末な動きでは虫が止まってしまいますよ?」
「この!!」
「心寿に無様な姿を見られてしまいますねぇ」


クスクスと笑いながら残り時間を見る余裕さえある。
寧ろ鼻歌を歌いながらでも倒せる相手だ。


「ちょこまかと避けやがって!」
「ご安心下さい、ちゃんと見切って動いておりますよ。貴方の動きがお粗末過ぎて退屈するくらいです」
「だったら本気でオレに一発当ててみろよ!」


そう叫んだ男の一瞬の隙をつき我は懐に入ると――加減はしたもののそこそこの力で胴体を殴り更に顔面を叩き付けた。
吹き飛ばされる男はそんまま鼻血を出して床に転がり、大人たちも慌てて男に駆け寄った。


「ふむ……手加減をしていても、こうなってしまうか」
「しょ……勝者! 東 祐一郎~!!」


響く歓声と心配の声。
後に救急車が到着し、男は病院へと連れて行かれた。
母からは酷く叱られた気もするが「ちゃんと手加減をしたのに理不尽です」と答えると、母は呆れた様子だった。
更に言えば、我のような小学一年生が六年生を吹き飛ばす程の力が一般的にあると周りも思うはずもなく、不慮の事故として扱われた。
勇者は我の様子を見て少々怯えた様子だったが。


「貴方にもチャンバラを教え込みましょうか? 無論手加減はなしで」
「いや……わたしおんなのこだし、だいじょうぶ……」


自分に都合が悪いと直ぐに女の子。全く勇者が聞いて呆れる。
しかし、聖女は我が敵を討ってくれたと喜んでいたし、それで全てが報われると言うもの。
リーダーを倒したと言う我を遠巻きで見る男の友人らは少々怯えているようにも見えるが、我はニヤリと微笑んでから聖女の手を握りその場を去った。


後日、六年生を倒したとして更にクラスで有名になる我だったが、それと同時に聖女と付き合っていると言う噂も立ち、我はそれに関して否定もしなかった。
そして聖女も噂に関して否定をしなかった。

――つまりそう言うことなのだと我は一人誇らしく、境内の掃除に励んだ。
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