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第二章 新天地、ムギーラ王国にて!!

第33話 ナシュランの陰謀

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 ――ナシュランside――


 今まで何もかもが思い通りにいっていた。
 絶対俺がムギーラ王国の王位に就くのだと、誰もが疑っていなかった。
 それが、それが突然壊れたのはあの日だった。


「今後、ワシの跡を継ぎ国を治めるべきはダリュシアーンと思っている。故に、王太子と認め今後のムギーラ王国の次期国王とする」


 集められた王位継承者の者たちは、王継承の一番低いダリュシアーンがその地位に就いた事に驚きを隠せず、また俺もショックを受けていた。
 俺こそが、俺こそが!!!
 そう思っていたのに、頭に血がのぼって陛下の言葉が入ってこない……。
 ダリュシアーンに何が出来る!!
 俺こそがカズマをうまく使いこなして奴隷のように働かせてこの国を良くすることが出来る!!

 ましてや、レディー・マッスルを我が物のように扱う事が出来れば我が国は盤石だ!
 それなのに、なのに陛下は何故遠回りをする!!
 カズマとレディー・マッスルを使えればどれだけの利益が出せると思ってるんだ!?

 そう思ったが、陛下はまるでそれすらも見透かしているかのように口にした。


「王位継承者の中には、愚かにもカズマとレディー・マッスルの面々を自分のもののように扱おうとする馬鹿げた者がいる。この国は確かに豊かになり平和になった。だがそれは偏に、カズマの膨大なる知識と、周辺をのさばる魔物を倒してくれる、レディー・マッスルのお陰でもある。その者たちへの感謝を忘れ、自分の功績にしたがる馬鹿たちは早々に王位継承者から外して居るわ」


 此れには俺達は騒めいた。
 そんな事、一言だって言われたことは無い。
 だが、そう考えていた者やそういう思想の持ち主は早々に国王陛下は王位継承者から外していたのだと聞いた時、俺に未来は無かったのだと悟った。


「お前たちには再度通達するが、カズマがワシの相談役になったのは、ワシが頼み込んでの事。国王が頼み込んでまで、国を良くする術をカズマは膨大なる知識と同時に持ち合わせていた。その結果が今のムギーラ王国じゃ。次代の国王はまたカズマに相談役を乞わねばならない。知識を貸して欲しいと助けを乞うのじゃ。お前たちのようなプライドばかり高い元王位継承者では無理であろう」


 正にその通りだ。
 命令さえすればいう事を聞くとばかり思っていた。
 まさか陛下が助けを乞う為に頭を下げていた等……思いもよらないではないか!!


「では! ダリュシアーンはその助けを乞うたのですか!?」


 そうだ、王太子と言うのであれば助けをまだ乞うてはいないかもしれない!!
 それならば我々にも望みは少しは――。


「ダリュシアーンを私に薦めたのは……他でもないカズマだ」
「な!?」
「国民あっての国だと言ってな」
「国民など……」
「貴族も我々王族も、そしてムギーラ王国と言う王国も! 国民あってこそだ。それを分からぬ者は王に就く素質もない」
「!!」


 そこまでバッサリと切り捨てられ、俺の今までしてきたことが無に帰る事を感じた。
 国民等税金を納める為の働きアリで、その上に立つ貴族、王族は強いのだと、素晴らしいのだと思ってきた。
 だが、その考えが根本から崩れ落ちた時――俺には何も残らなかった。


「今後、お前たちは実家の領地を繁栄させていく義務がある。今までの経験と知識を生かし、是非領地を盛り上げていって欲しい」
「わ、かりました」
「仰せのままに……」


 他の連中と同じように俺達は頭を垂れて、歯を食いしばりながら屈辱に耐えた。
 おのれカズマ……平民の冒険者の癖に!!
 たかだか知識を膨大に持っているだけの人間の癖に!!
 その知識を俺が使ってやろうというのに、有難くも思わないというのか!!
 歯をギリッと言わせ怒りに震えていると、陛下が俺の前に立っている事に気が付かなかった。
 そして――。


「時にナシュランよ、何をそんなに怒っている」
「!」
「ダリュシアーンが次の王位に選ばれたからか、はたまたカズマがお主を選ばなかったからか。恐らく両方じゃな?」
「恐れながら申し上げます! 俺は王位継承者一位でした! その俺はあらゆる努力を積み重ねてきたつもりです!!」
「ふむ、例えば――貴族たちとの交流会じゃな?」
「その通りです!!」
「では、一般市民へは?」
「一般市民など!」
「どうやら、ワシの言葉を聞いておらなかったようだな」


 ゾッとするほど冷たい言葉に冷や汗が流れる。
 た、確かに市民を大事にしろとは言われたが、庶民は所詮――。


「民あっての国。民ありて国。カズマはそう教えてくれた。民にこそ目を向けよと」
「……っ!!」
「お主は最初から、間違えておったのだよ」


 そう言われて膝から崩れ落ちた。
 最初から……間違えていた? この俺が?
 だが国民等、庶民等、所詮は貴族の言いなりで……冒険者は金さえ詰めば……。
 そう思った時点で、俺はハッと我に返った。
 思ったことが口に出ていたからだ。
 顔を上げると何よりも冷たい目線で俺を見つめるムギーラ王がいて、俺はドッと冷や汗が流れる。


「お前は、貴族にしておく事すら躊躇われるのう」
「も、申し訳ありません!! これからは、これからは民に尽くします!!」
「その場限りの言葉だった場合、分かっておろうな?」
「は、はい!!」
「ダリュシアーンよ、この男の最後まで見届けよ。まともに、真面目に民を大事にするのか否かをな」
「分かりました」


 そう告げられるとダリュシアーンのこれまで見た事も無い冷たい視線が突き刺さり、歯を食いしばり睨みつけたくなったが、それをすれば負けだと感じ取った。
 悔しいが今は耐えるしかないだろう。
 だが、王位継承権が無くなり、ただの地方の貴族に成り果てるのも嫌だった。
 俺は華やかな場所にいてこその男だ。
 ナシュランとはそう言う男なのだ!!
 田舎に引き籠っていい男ではない!!


「せ、せめて元王位継承者に役職を頂けませんか!!」
「王城勤めになりたいと?」
「はい!! これまで培った知識を国の為に使いたいのです!!」


 そうすれば地方に戻らず王都で生活ができる!!
 華やかな場所から離れるなど真っ平ごめんだ!!


「……では、ダリュシアーンの補佐に回るといい。そこで自分の知識が如何に通用しないか打ちのめされよ」
「は?」
「ワシとて未だにカズマのいう言葉の半分も理解出来ぬ程の知識量を持つカズマを前に、お主程度の知識がどれほど役に立つか見ものだな」
「……」


 そこまで、そこまでムギーラ王はカズマを大事にするのだな……。
 良いだろう。カズマをいっそ殺しさえすれば、無礼罪で殺しさえすれば万事上手くいく。
 奴を殺してしまえばこっちのものだ!!


「分かりました。拝命致します」
「それから、カズマの護衛には妻マリリンが付きそう。無礼罪だなんだと難癖をつけるものも多くてな。その場で叩ききろうとする者も多かった故に、妻マリリンが護衛を務めておるが……下手に手を出せば死しか待っておらぬことは頭に入れておけ」
「……は、い」


 英雄の称号を持つ冒険者であり、レディー・マッスルのリーダーがカズマの護衛だと!?
 ドラゴンの爪も通さない体にドラゴブレスすら消し去り、オリハルコンすら粉砕する妻が護衛だと!?
 だとしたら……男しか入る事の出来ない場所で!!
 そう俺は心に決め、短剣を忍ばせる事にしたのだった。
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