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第二章 新天地、ムギーラ王国にて!!

第29話 ムギーラ王国の夜会にて②

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「まぁ。此処は動物園かしら? ゴリラが檻から逃げてきているわ」


 随分と懐かしくて聞きたくもない甲高い声が周囲から聞こえ、本人に似合っているつもりのドレスに身を包み、顔を引き攣らせた王配を連れてあの時の女王がやってきた。
 相変わらず香水臭い。鼻が曲がりそうだ。


「はぁ……。折角の夜会が台無しではなくって? ゴリラはゴリラ同士でくっつけばいいものを、まだそんな美青年を連れまわしてますの? なんて厭らしいゴリラなのかしら」
「全くだねイザベラ。ゴリラはゴリラと仲良くしていればいいのに……。ああ、なるほど。同じゴリラからも逃げられるほど恐れられているとか? ならば尚更傑作だ!」


 他国の要人たちも眉を顰めて今の様子を伺っている。
 これを使わない手は無いだろう。


「マリリン、どうやら品位のないナニカがいるようですね」
「品性の欠片もないと言えば確かにそう言う声が聞こえるな」
「耳障りですし、どうでしょう? 一緒に飲み物でも飲みに行きませんか」
「うむ、先程カズマは少々喋り過ぎて喉が渇いただろう。お勧めの飲み物があるんだ、一緒に行こうか」
「まぁ! 尻尾を巻いて逃げますの? カズマ様はおいていきなさい。彼には大事な話があるのですから」


 カズマとマリリンが仲良く会話していると、イザベラと呼ばれたあの王女がズカズカと品もなく歩み寄ってきた。
 一国の王女が挨拶もなしに誹謗中傷した上に、その夫を置いて行けと言う暴挙。
 流石に周囲の要人たちもヒソヒソと喋りだした。


「もう半年以上結婚生活を満喫したでしょう? いい加減カズマ様を解放しなさい」
「これはイザベラ様、お久しぶりですね。今回もまた……そのドレスは最新のドレスですか?」
「まぁカズマ、お久しぶりですわね。ええそうよ、国一番の仕立て屋で作らせたものですわ!」
「そうなんですね。僕もマリリンの服を故郷で仕立て上げて参りました。どうです? とても美しいでしょう?」


 あくまで最高の夫婦仲、引き裂こうと言う気満々のイザベラには癪に障る事だろう。
 周囲の要人たちも、僕たち夫婦仲の良さは既に周知している。だからこそイザベラの言動に眉を寄せているのだ。
 マルシェリティのように、第二夫人を宛がうと言うよりも酷い対応であることを知らしめてやろう。


「ゴリラにこそ、そう言うドレスは相応しくありませんわ。このわたくしにこそ、そのドレスを作るべきです」
「何を仰います。妻を美しく着飾らせるのは夫の役目。愛する妻が輝く姿を見たいと思うのが夫心、男心です」
「カズマ……貴方はゴリラしか知らないからそう言うのです。ゴリラと今すぐ離縁為さい。そしてわたくしの許にきて王配となるのです!」


 聞き耳を立てていた貴族達もザワリと声を上げた。
 既に王配がいると言うのに、二人も王配を作るつもりかと騒めいているのだ。


「……お聞きしますが、そちらの国では王配と言うのは二人も必要なのでしょうか」
「法律くらい、女王ですもの。簡単に変えることが出来ますわ」
「それは、女王の意にそぐわなければ、どんな内容であろうとも王族と言う権力で全てを潰すと言う事と同義では?」
「その通りですわよ?」
「それは余りにも……そちらの王配はどうなさるんです?」
「あぁ、カズマはわたくしを独り占めしたいんですのね! でしたら古い王配は奴隷にでも堕として消えて貰いますわ」


 此処までくると最早騒めきは収まらない。
 暴君と呼んでも可笑しくない発言をイザベラはどんどん進めていく。


「奴隷に堕とすのですか? 一度は愛した男性を?」
「ええ、だって結婚して長いですけれど、メイドと不倫はするし子供は出来ないし、わたくしは女王です。次代を産む義務がありますわ! そして、その相手に貴方が選ばれたのです! 涙を流して喜んでもよろしくってよ!」


 マリリンの拳がフルフルと怒りで震えている。
 流石にこれ以上我慢させると城が吹き飛ぶかもしれないと冷や汗が少し流れた。


「僕はムギーラ国王の相談役です。そちらの国に行くことはありません」
「ですから! それもあの爺に言えばなんとかなるでしょう? カズマはアレコレ考え過ぎなのです! 全てわたくしの言う通りにしていれば良いのです!」
「横暴と言う言葉をご存じでしょうか?」
「は?」


 此処までくると、マルシェリティより性質も悪く、尚且つイザベラが治める国がどんな国であるのか、各国の要人や貴族達も分かり始めるころだろう。僕は反撃を開始した。


「一国の国王を、夜会の主催国の王を【あの爺】と呼び、更にマリリンと僕に対し無理やり離縁を迫る貴方の国に魅力を感じません。ましてや、貴女に魅力を感じることもありません」
「わたくしの方が美しいですわ!!」
「いいえ!」


 声を大にして反論すると、イザベラは歯を食いしばってカズマを見た。


「自分の都合のいい様に国の法律を歪め、いらなくなったら王配であろうとも奴隷に堕とす。そんな貴女の許に行くなど考えたくもない。お断りします」
「な……なんですって!!」
「国の法とはとても大切なものです。国と国との信頼関係にも関係してきます。それをご自分の都合のいい様に変えていれば、国自体が危うくなるのは必然でしょう。その考えに及ばない国王がいる国に行くことは考えられません。
 また、僕はマリリンを心の底から愛しています。
 愛している女性を蔑ろにされ、さも離婚するのが当たり前だと仰るような方など、失礼ですが常識が余りにも無いと言わせて頂きます」


 周囲の貴族、そして各国の要人たちは聞き耳を立て、途中からムギーラ国王も近くに立っているのを見て僕は更に言葉を続けた。


「貴女は何故そこまでして僕を欲しがるのです。僕はマリリンと二人、幸せに生きていきたいだけなのに、何故横から欲しがるのです」
「横から欲しがってなんていませんわ! 本来ならば貴方はわたくしのモノになって然るべきなのです」
「その理由が分かりません。貴女とお会いしたのは、貴女の国から出ていくと決めたあの夜会の一度だけでした。何故そこまで僕に固執するのです」
「良いからカズマはさっさと離婚してわたくしのモノに、」
「答えになっていませんよ」


 ハッキリと告げるとイザベラはフルフルと怒りで震え始め、手に持っていた扇でカズマの頬を叩いた。
 途端、マリリンから怒りの波動が出たが、此処は我慢して欲しいとマリリンの手を強く握り、マリリンを見つめて頷く。


「自分の意にそぐわなければ暴力ですか」
「これは躾ですわ! 王族ならば当たり前の行動です!」
「当たり前ではありませんよ、イザベラ女王」


 ここに来て、近くまで来ていたムギーラ国王が前に出た。
 流石に見過ごせない内容だと判断したのだろう。その顔は普段温厚な国王とは思えぬほど険しい。
 それもそうだろう。
 僕はムギーラ国王の相談役。その相談役が他国の横暴な女王に暴力を振るわれれば、本来なら戦争に発展しても可笑しくはない。


「イザベラ女王の言動は目に余る。即刻、会場から出て行ってくれ」
「何を仰いますの!?」
「これ以上は、国同士の問題……ひいては、戦争に発展しても可笑しくはないと言っているのですよ」


 戦争――と言う言葉を聞いてイザベラは初めて自分の仕出かしたことの意味を悟った様だ。
 助けを求めようと王配を見ても、奴隷に堕とすと言われた王配はフルフルと首を横に振って寄り添う事もせず、周囲を見ても貴族や要人たちは厳しい表情でイザベラを見ている。


「カズマ殿はワシの相談役。つまり、国の相談役だ。そのような御人にご自分が為さったことの意味がお解りかな?」
「それは……」
「これ以上は他の貴族や各国の要人を巻き込むことになりましょう。即刻会場からお引き取りを。後日改めてそちらの国とお話しさせて頂く」


 ムギーラ国王がそう言うと、護衛騎士がイザベラに駆け寄り、まるで罪人が連行されるようにイザベラと王配を会場から追い出した。
 一時は騒然としたが、ムギーラ国王の毅然とした態度は評価に値する。
 そして、僕自身がこれ以上騒げばムギーラ国王が出てくると理解した上で叩かれた事は黙っていようと思った。


「素晴らしい夜会の最中に申し訳ございません陛下」
「よい、あちらが執拗にそなたたちに絡んだのは見えていた。そもそもあの国との国交断絶も視野に入れていたので問題はない」
「そうでしたか」
「叩かれた頬は大丈夫か? 痛むなら救護室へ向かうと良い」
「ええ、マリリンに付き添ってもらいます。少々御前を失礼することをお許しください」


 ――こうして、僕は未だに怒りで震えるマリリンの手を優しく包み、そっと太く硬い腕を引くとハッとしたような表情で、しかも心底心配している表情を見せるマリリンに「救護室へいこう」とだけ告げ二人は会場を出た。
 ジャックとマイケルも一緒についてきたが、途中の廊下でイザベラが騒いでいるのが聞こえたものの放置だ。
 救護室へ入り、叩かれた頬の為にポーションを飲むと痛みも赤みも消え、休憩室へと入るとマリリンは世紀末覇者の顔に似つかわしくなく、ポロポロと涙を零し始めた。


「マリリン!?」
「カズマ……我は悔しい!!」


 ――マリリンの悲痛な叫び声だった。
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