上 下
15 / 66
第一章 異世界人現る!!

第15話 ザマァは確実に、そして息の根を止めるように(上)

しおりを挟む
 今現在、誰よりも最先端のドレスを身にまとい。
 今現在、誰よりも優れて希少価値の高い宝石を身に着け。
 今現在、誰よりも美しさに気を使っているであろうこの国のピエロ。
 そして、そのピエロの隣で張り付いた笑顔で立っている王配。

 ――さて、どう料理をしてくれようか。


「皆の者、よくぞ参られました。本来ならばもう少し早めに行う予定だったのですが、やはり何かと忙しい【レディー・マッスル】のギルドマスター様の予定が合わず、やっと開くことが出来ましたわ」


 なるほど、世界各国から依頼を受けて忙しいマリリンを軽視した発言……。


「しかも驚いたことに、レディー・マッスルのギルドマスター、マリリンさんはご結婚されたのだとか!! 奇特な男性に出会えた事は大変喜ばしい事ですわね!!」


 声高々に口にする女王だったが、貴族の誰もがその言葉に賛同が出来ないでいる。
 可笑しいとやっと悟った二人は周囲を見渡し、その視線を避けるように貴族が道を開け、この世界では絶対に手に入れる事など不可能な、それでいて、女王が着飾っているドレスも宝石もかすんでしまう程の物を身に着け、幸せそうに僕の隣で微笑んでいるマリリンを見た二人は驚愕したのち、歯を食いしばった。


「マ……マリリン貴女……っ」
「お久しぶりで御座います女王陛下。暫く愛しの夫と旅行に出ていた為、帰宅するのが遅れたことを謝罪致しますわ」


 見事に女王陛下の方が宝石もドレスも質が悪いとしか言いようがない。
 まぁ、カズマのいる世界のもので、出来うる限り一級品を用意したのだから当たり前なのだが。


「そちらの青年は?」


 まるで見下すように口にしたマリリンの元婚約者である王配にカズマが軽く会釈すると、スキル交渉術で対応する。


「お初に御目にかかります。マリリンの夫、カズマと申します。どうも幼く見えるようですが、これでも27歳ですよ」
「ははっ マリリンは彼を脅しでもして結婚でもしたのかい?」
「何を仰います。私の方からマリリンを口説き落としたのですよ。ええ、とても苦労致しました」
「「は?」」


 周囲はカズマの言葉を聞き逃すまいと、声も出さずにやり取りを見つめている。


「この様な場で惚気るのも失礼やもしれませんが、今日は結婚の報告もありますから構いませんよね? ええ、彼女のように強く、彼女のように優しく清らかな女性は他にいらっしゃいませんから、他の方に心を持っていかれない様に必死でした。
 強いマリリンも素晴らしく魅力的ですが、やはり夫としては妻を美しく着飾りたいと言う欲も御座います。ですので、マリリンが身に着けている服もアクセサリーも、私の方から一式全てをプレゼントし、身に着けて頂きました。
 独占欲丸出しなのはお許しください。何せ、まだ結婚して間もないもので、加減がきかないのですよ。これほどまでに魅力的な女性なのですから致し方ない事ですよね?」
「もう……カズマったら」


 頬を染めて照れるマリリンを見た女王と王配は、カズマとマリリンを交互に見つめ、周りの貴族たちはカズマの口にした言葉を信じられずにいた。

 ――本来であれば、マリリンはこの場で笑いものにされるべき存在であった。

 それがだ。
 若く、何より財力もあり、あのマリリンに一途の夫と言う存在は、周囲にとっては驚き以外の何物でもないのだ。
 しかも、世界的有名な冒険者であるマリリンの結婚と言う報告の場である。
 この事に関しては、例え女王であっても場を咎めることは世界の法に反する為、顔を真っ赤に染めて歯を食いしばっていても、文句をいう事は出来ない。
 すると――次はジャックとマイケルが話し始めた。


「カズマ様はマリリンを口説き落とすために、見たこともない上質な砂糖や塩、そして胡椒等の調味料だけに留まらず、美しさを保つためのアイテムまで無償でギルドに大量にプレゼントしてくださいましたよ」
「さらに言えば、今まで飲んだこともないような素晴らしい茶葉等もですね」


 この言葉に女王は目を見開き、貴族たちは息を呑んだ。


「ええ、あれには驚かされました。そう言えば以前、マリリンが一時帰宅した際のカズマ様からのプレゼントは実に素晴らしい物でしたね。見たこともない美しい、それこそ、夜空に輝く星を美しい色に染めたかのような砂糖菓子、それと……」
「ああ、見たこともない程に美しいバラを細工した角砂糖……それに添えられた、マリリンを想う熱烈な手紙付き。何ともこちらが照れてしまう程の、粋な計らいでした」
「いえいえ、あの程度のプレゼントしか出来なかった自分を今も恥じております。もっとマリリンに相応しい物があったのではないかと、あの後色々と調べ回ったものですよ」
「ははは、ご謙遜を」
「あの程度の事しか出来なかったのですから情けない事です。ですが、その時の苦い経験から今回はあらゆる手を使い、愛しい妻の為に頭の先からつま先まで、私の愛で染めてしまいました」
「良かったじゃないかマリリン!」
「そ、そうですわね……なんだかとても恥ずかしいですわ」


 広場全体が甘い空気……というか、この異世界では僕の余りにも信じられない程の財力に、貴族たちのプライドは複雑骨折並みにへし折られた。
 それは無論、この国の女王と王配も同じだ。
 きめ細かい美しくなった肌に、化粧だって信じられない程に良い物を使っているのが遠めでも分かるほど。
 まるでゴリラのようなマリリンが、美しい女性にさえ見えてくる程の洗練された品。

 何より――それだけの財力を持っているのに、他の美しい花々には目もくれず、マリリンだけに熱い視線を向けていると言う現実。
 幾ら結婚の報告と言え、女王陛下と王配のプライドは許すことが出来なかった。


「ま、まぁ確かに美しい装飾品だとは思いますわ。けれど、そう言ったものは女王にこそ献上すべきことでは御座いませんの?」
「そうだね、異国の物ならば尚更だよ!!」
「それに、ギルドで使っていると言う美容品も献上すべきではありませんの? 全く、世界屈指のギルドと言えど、粗悪な冒険者の集まりですものねぇ? 当たり前の事がお解りにならないのかしら? 嫌だわ、野蛮な輩ばかりで」
「全くだね!!」


 一般的に、名高い人物へ対する結婚報告に対し、女王や王配が口にしたことは、国際法に違反し、尚且つ世界からどれだけの非難がくるかわかったものではないのだが――。


「申し訳ございません。確かにこの国の【住民】や【市民】そして【貴族】ならば、その必要があったでしょう。ですが……私はレディー・マッスルのギルドマスターの夫であり、私自身も冒険者です。
 確か、冒険者は国に対する忠誠心、及び、献上品と言う規約は無かった筈ですし、献上品を持ってくる等と言った暗黙の了解と言うものもない筈です。
 え? いや、まさか……この国の女王陛下ともあろう方が! その王配ともあろう方が! 中等科で習う当たり前の知識をご存じないなんて信じられません! 此処に御集りの貴族の方ですら知っている当たり前の内容ですよ!?」
「「――!!」」


 僕の少々演技も入っていつつも、スキル交渉術により、周囲の視線と疑惑を上手く使うことが出来た。
 さぁ、次は第二ラウンドだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

男女比1:10000の貞操逆転世界に転生したんだが、俺だけ前の世界のインターネットにアクセスできるようなので美少女配信者グループを作る

電脳ピエロ
恋愛
男女比1:10000の世界で生きる主人公、新田 純。 女性に襲われる恐怖から引きこもっていた彼はあるとき思い出す。自分が転生者であり、ここが貞操の逆転した世界だということを。 「そうだ……俺は女神様からもらったチートで前にいた世界のネットにアクセスできるはず」 純は彼が元いた世界のインターネットにアクセスできる能力を授かったことを思い出す。そのとき純はあることを閃いた。 「もしも、この世界の美少女たちで配信者グループを作って、俺が元いた世界のネットで配信をしたら……」

異世界転移の……説明なし!

サイカ
ファンタジー
 神木冬華(かみきとうか)28才OL。動物大好き、ネコ大好き。 仕事帰りいつもの道を歩いているといつの間にか周りが真っ暗闇。 しばらくすると突然視界が開け辺りを見渡すとそこはお城の屋根の上!? 無慈悲にも頭からまっ逆さまに落ちていく。 落ちていく途中で王子っぽいイケメンと目が合ったけれど落ちていく。そして………… 聞いたことのない国の名前に見たこともない草花。そして魔獣化してしまう動物達。 ここは異世界かな? 異世界だと思うけれど……どうやってここにきたのかわからない。 召喚されたわけでもないみたいだし、神様にも会っていない。元の世界で私がどうなっているのかもわからない。 私も異世界モノは好きでいろいろ読んできたから多少の知識はあると思い目立たないように慎重に行動していたつもりなのに……王族やら騎士団長やら関わらない方がよさそうな人達とばかりそうとは知らずに知り合ってしまう。 ピンチになったら大剣の勇者が現れ…………ない! 教会に行って祈ると神様と話せたり…………しない! 森で一緒になった相棒の三毛猫さんと共に、何の説明もなく異世界での生活を始めることになったお話。 ※小説家になろうでも投稿しています。

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞 ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。 そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。

処理中です...