48 / 49
48 届かない祈りと、報われる事も無い事と
しおりを挟む
――元大司教side――
断頭台を前にして、今、私の心は静かな水面のような状態だ。
アレだけ執着していたメデュアナシアは、つい先日私の前で骨になった。
最早生きる気力を失ったのだ。
メデュアナシアが居ないのならこの世界にいても仕方ない……。
テリサバース女神よりも愛した、私の大事なメデュアナシア。
死体愛好等おかしな話だろうが、メデュアナシアが居たからこそ私は大司教になれた。
最も近い場所で彼女を見ていたかったから。
それが……この有様だ。
次々に飛ぶ貴族の頸が頭陀袋に入れられていく。
嗚呼、私も早くそうなりたい。
もう、この世界に未練など一切ない。
聖女を探そうとした罰が下ったのだろう。
だが、聖女を諦め切れなったのだ。
メデュアナシアを生き返らせられるかもしれないという願いと願望があったからこそ、探させたのだ。
なのに――結果はこの様だ。
隠れて過ごしたい?
聖女が?
そんな事、関係ないと思っていた。
聖女ならば我々を導く義務があるとさえ思っていた。
だが違う。
彼女は――聖女は潜んで隠れて生きていきたいと願っていたのに、それを無視したからこその今回の悲劇。
自分の蒔いた種……。
そうだとも。
テリサバース教会の腐敗は――もう随分前から進んでいた。
酒を飲み、食い散らかし、女に溺れ、神父たるや、何と言う生きざまだ。
元々貴族の次男坊、三男坊などが入りやすいというのもあった。
腐敗は進み、賭博までする馬鹿も居たのだ。
この断頭台で死ねることは、良い事だと思おう。
もし、【オリタリウス監獄】になんて入れられたら堪ったものじゃない。
断頭台で死ねるのは温情だ。
ははは、まさか自分の代でテリサバース教会の地位が真っ逆さまに落ちようとは。
私も運が無かったな……。
そう思い静かに目を閉じ、次々に頭陀袋に入って行く貴族たちを横目に、歓声の上がる声に、何もかもがどうでもいいと思っていたその時だった。
一台の真っ黒な馬車が止まり、降りて来て陛下と話をしている。
真っ黒な馬車――真っ黒な。
すると、陛下は一度処刑を止めるように言い、手を上げて国民の声を止めて私を見た。
「これより、元テリサバース教会大司教は、【オリタリウス監獄】へ囚人護送馬車で移動する。二度とこの地を歩むことは無いと心せよ!」
「なっ!!!」
「連れていけ」
「ま、待ってください! 何故私だけが!? 何故! 何故!?」
「聖職者として責任を果たせ。それが私がお前に言える最後の言葉だ」
「い、嫌だ!!! オリタリウス監獄だけは、オリタリウス監獄だけは絶対に嫌だ!!」
そう叫んでも誰も聞いてくれず、私はオリタリウス監獄からやってきた男達に連れられ囚人護送馬車に投げ入れられ、必死に「いやだああああああああああ!!」と叫んだ。
だが、それを嘲笑う民の声――私は、私はテリサバース女神に仕える大司教だというのに!
だからか?
だからなのか?
テリサバース女神に歯向かったとして……まさか……。
「おおテリサバース女神よ。これが貴方の……」
涙を流し呆然とした私は……もう神を、テリサバース女神に祈らない。
見捨てられたのだ、私はたった今。テリサバース女神に。
ならば呪おう。
ならば恨もう。
ならば悪魔となろう。
元より悪魔の様な心だ、凍てつくオリタリウス監獄で悪魔となり、何時か、何時か――。
何日も何日もそんな事を思いながら馬車は揺れ続き、ガチガチと震えるほど寒い場所にたどり着くとそこは溶けることのない氷に覆われた【オリタリウス監獄】だった。
最早生きて帰る事もない。
私が何をした。
私とて人間だ、欲があって何が悪い。
人間等よくまみれであろうに―――。
それからの日々は地獄の中にいるような日々で。
女神からの罰を受けているのだと知った時、自分の浅はかさに呆れもし、絶望もし、もう何も感じることが出来ない。
今日もまた1人死んだ。
明日はまた数名死ぬだろう。
もしかしたらそれは――私かもしれない。
息も絶え絶えに、意識が呆然とし……耳鳴りが鳴り響く。
最早立つ事も出来ず引き摺られて拷問部屋に入り拷問される日々。
治療なんてものはない。
痛みと寒さと苦しさの中、拷問が終われば一日毛布も服もないまま部屋に放り込まれて後は過ごすだけ。
それが何日続いただろうか。
流れる血は直ぐに寒さで固まり、血に染まった体を冷たいく痛みさえ感じる水をぶっかけられ、そのまま部屋に放置される。
嗚呼、行きが出来ない。
最後にメデュアナシアを思い浮かべながら死のう。
もう先は長くない……。
「めぢ……あな……しぁ」
ちゃんと名を呼ぶことも出来ない。
声は痛みで焼き切れた。
フッと目の前が暗くなり、意識を飛ばした瞬間――目の前にメデュアナシアの姿があった。
駆け寄り彼女の元へと向かおうとするが手が届かない、触れることが出来ない!
何度も名を呼び、何度も手を伸ばした。すると――。
『ずっとお父様とお母さまの所にいたかったのに』
「メデュアナシア?」
『お父様とお母様を殺すと脅して私を親から引き離したテリサバース教会なんて、無くなればいいのよ……』
「メデュアナシア何を言っているんだ?」
『お前ら全員死ねばいい……長い年月見世物小屋の猿みたいな気分だったわ。最悪な気分。でもやっとお父様とお母様の元へ行ける。ありがとう、馬鹿な事ばかりしてくれて。アンタは地獄に堕ちなさい』
「メ、」
『バイバイ』
途端地面が無くなり私は下へ下へと落ちていく……。
嗚呼、私はあんなにも愛していたメデュアナシアにそう思われていたのか。
はは、ははは。
もう出ないと思っていた涙が溢れ出て、雄叫びを上げながら私は――地獄へと堕ちた。
断頭台を前にして、今、私の心は静かな水面のような状態だ。
アレだけ執着していたメデュアナシアは、つい先日私の前で骨になった。
最早生きる気力を失ったのだ。
メデュアナシアが居ないのならこの世界にいても仕方ない……。
テリサバース女神よりも愛した、私の大事なメデュアナシア。
死体愛好等おかしな話だろうが、メデュアナシアが居たからこそ私は大司教になれた。
最も近い場所で彼女を見ていたかったから。
それが……この有様だ。
次々に飛ぶ貴族の頸が頭陀袋に入れられていく。
嗚呼、私も早くそうなりたい。
もう、この世界に未練など一切ない。
聖女を探そうとした罰が下ったのだろう。
だが、聖女を諦め切れなったのだ。
メデュアナシアを生き返らせられるかもしれないという願いと願望があったからこそ、探させたのだ。
なのに――結果はこの様だ。
隠れて過ごしたい?
聖女が?
そんな事、関係ないと思っていた。
聖女ならば我々を導く義務があるとさえ思っていた。
だが違う。
彼女は――聖女は潜んで隠れて生きていきたいと願っていたのに、それを無視したからこその今回の悲劇。
自分の蒔いた種……。
そうだとも。
テリサバース教会の腐敗は――もう随分前から進んでいた。
酒を飲み、食い散らかし、女に溺れ、神父たるや、何と言う生きざまだ。
元々貴族の次男坊、三男坊などが入りやすいというのもあった。
腐敗は進み、賭博までする馬鹿も居たのだ。
この断頭台で死ねることは、良い事だと思おう。
もし、【オリタリウス監獄】になんて入れられたら堪ったものじゃない。
断頭台で死ねるのは温情だ。
ははは、まさか自分の代でテリサバース教会の地位が真っ逆さまに落ちようとは。
私も運が無かったな……。
そう思い静かに目を閉じ、次々に頭陀袋に入って行く貴族たちを横目に、歓声の上がる声に、何もかもがどうでもいいと思っていたその時だった。
一台の真っ黒な馬車が止まり、降りて来て陛下と話をしている。
真っ黒な馬車――真っ黒な。
すると、陛下は一度処刑を止めるように言い、手を上げて国民の声を止めて私を見た。
「これより、元テリサバース教会大司教は、【オリタリウス監獄】へ囚人護送馬車で移動する。二度とこの地を歩むことは無いと心せよ!」
「なっ!!!」
「連れていけ」
「ま、待ってください! 何故私だけが!? 何故! 何故!?」
「聖職者として責任を果たせ。それが私がお前に言える最後の言葉だ」
「い、嫌だ!!! オリタリウス監獄だけは、オリタリウス監獄だけは絶対に嫌だ!!」
そう叫んでも誰も聞いてくれず、私はオリタリウス監獄からやってきた男達に連れられ囚人護送馬車に投げ入れられ、必死に「いやだああああああああああ!!」と叫んだ。
だが、それを嘲笑う民の声――私は、私はテリサバース女神に仕える大司教だというのに!
だからか?
だからなのか?
テリサバース女神に歯向かったとして……まさか……。
「おおテリサバース女神よ。これが貴方の……」
涙を流し呆然とした私は……もう神を、テリサバース女神に祈らない。
見捨てられたのだ、私はたった今。テリサバース女神に。
ならば呪おう。
ならば恨もう。
ならば悪魔となろう。
元より悪魔の様な心だ、凍てつくオリタリウス監獄で悪魔となり、何時か、何時か――。
何日も何日もそんな事を思いながら馬車は揺れ続き、ガチガチと震えるほど寒い場所にたどり着くとそこは溶けることのない氷に覆われた【オリタリウス監獄】だった。
最早生きて帰る事もない。
私が何をした。
私とて人間だ、欲があって何が悪い。
人間等よくまみれであろうに―――。
それからの日々は地獄の中にいるような日々で。
女神からの罰を受けているのだと知った時、自分の浅はかさに呆れもし、絶望もし、もう何も感じることが出来ない。
今日もまた1人死んだ。
明日はまた数名死ぬだろう。
もしかしたらそれは――私かもしれない。
息も絶え絶えに、意識が呆然とし……耳鳴りが鳴り響く。
最早立つ事も出来ず引き摺られて拷問部屋に入り拷問される日々。
治療なんてものはない。
痛みと寒さと苦しさの中、拷問が終われば一日毛布も服もないまま部屋に放り込まれて後は過ごすだけ。
それが何日続いただろうか。
流れる血は直ぐに寒さで固まり、血に染まった体を冷たいく痛みさえ感じる水をぶっかけられ、そのまま部屋に放置される。
嗚呼、行きが出来ない。
最後にメデュアナシアを思い浮かべながら死のう。
もう先は長くない……。
「めぢ……あな……しぁ」
ちゃんと名を呼ぶことも出来ない。
声は痛みで焼き切れた。
フッと目の前が暗くなり、意識を飛ばした瞬間――目の前にメデュアナシアの姿があった。
駆け寄り彼女の元へと向かおうとするが手が届かない、触れることが出来ない!
何度も名を呼び、何度も手を伸ばした。すると――。
『ずっとお父様とお母さまの所にいたかったのに』
「メデュアナシア?」
『お父様とお母様を殺すと脅して私を親から引き離したテリサバース教会なんて、無くなればいいのよ……』
「メデュアナシア何を言っているんだ?」
『お前ら全員死ねばいい……長い年月見世物小屋の猿みたいな気分だったわ。最悪な気分。でもやっとお父様とお母様の元へ行ける。ありがとう、馬鹿な事ばかりしてくれて。アンタは地獄に堕ちなさい』
「メ、」
『バイバイ』
途端地面が無くなり私は下へ下へと落ちていく……。
嗚呼、私はあんなにも愛していたメデュアナシアにそう思われていたのか。
はは、ははは。
もう出ないと思っていた涙が溢れ出て、雄叫びを上げながら私は――地獄へと堕ちた。
12
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
【完結】おじいちゃんは元勇者
三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話…
親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。
エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…
超時空スキルを貰って、幼馴染の女の子と一緒に冒険者します。
烏帽子 博
ファンタジー
クリスは、孤児院で同い年のララと、院長のシスター メリジェーンと祝福の儀に臨んだ。
その瞬間クリスは、真っ白な空間に召喚されていた。
「クリス、あなたに超時空スキルを授けます。
あなたの思うように過ごしていいのよ」
真っ白なベールを纏って後光に包まれたその人は、それだけ言って消えていった。
その日クリスに司祭から告げられたスキルは「マジックポーチ」だった。
【完結】うさぎの精霊さんに選ばれたのは、姉の私でした。
紫宛
ファンタジー
短編から、長編に切り替えました。
完結しました、長らくお付き合い頂きありがとうございました。
※素人作品、ゆるふわ設定、ご都合主義、リハビリ作品※
10月1日 誤字修正 18話
無くなった→亡くなった。です
私には妹がいます。
私達は不思議な髪色をしています。
ある日、私達は貴族?の方に売られました。
妹が、新しいお父さんに媚を売ります。私は、静かに目立たないように生きる事になりそうです。
そんな時です。
私達は、精霊妃候補に選ばれました。
私達の運命は、ここで別れる事になりそうです。
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います
騙道みりあ
ファンタジー
魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。
その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。
仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。
なので、全員殺すことにした。
1話完結ですが、続編も考えています。
クラス転移したからクラスの奴に復讐します
wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。
ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。
だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。
クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。
まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。
閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。
追伸、
雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。
気になった方は是非読んでみてください。
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
【完結】拾ったおじさんが何やら普通ではありませんでした…
三園 七詩
ファンタジー
カノンは祖母と食堂を切り盛りする普通の女の子…そんなカノンがいつものように店を閉めようとすると…物音が…そこには倒れている人が…拾った人はおじさんだった…それもかなりのイケおじだった!
次の話(グレイ視点)にて完結になります。
お読みいただきありがとうございました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる