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41 テリサバース教会の崩壊②

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 ――ハルバルディス国王side――


 シャルロット様の口から飛び出すのは、全て驚くべき事ばかり。
 あの様子からして、テリサバース教会が探しているというナニカと言うのも、場所を突き止めていらっしゃるのだろう。
 それが誰かまでは教えて貰えなかったが、テリサバース教会が聖女を失ってもう何百年と経つ。今でも聖女様が生まれてこないかと10歳になったら誰もがスキルボードを手にしてスキルをチェックするようになったのもその頃からだ。

 無論、たまに漏れるモノもいるにはいるが、基本的には子供なら10歳でスキルボードに手を翳す。
 その際、【聖女】と出れば、間違いなくテリサバース教会が探し求めてきたお方と言う事になるのだが、今も尚見つかっていない。
 だが、その存在は……シャルロット様が知っていた。
 では、スキルボードに出てこないタイプなのかも知れない。
 そんな事を思いつつ、今日はテリサバース教会このハルバルディス国王に来られる日だ。
 妃となったリシーもまた硬い顔をしていた。

 リシーにはシャルロット様が口にして良いと言われたことを伝えてある。
 無論彼女は腰を抜かすほど驚いていたが、そこまで腐敗したテリサバース教会等、最早テリサバース女神は信じても、教会は全く信用できなかった。
 だからこそ――あの賢王『シュライ国王』ですら亡命したのだろう。


「テリサバース教会の皆様、ようこそお越しくださいました」
「ええ、大変心地よい日ですね。この日にハルバルディス国王が真なるハルバルディス国王になる事を切にお祈り申し上げます」


 ――白々しい。
 コイツ等が欲しいのは金と食料なのは誰もが知っている事だというのに。


「では、ハルバルディス国王とテリサバース教会が認める為に、金貨1000枚。そして食料の安定供給の念書を、」
「その前に御ひとつお聞きしたい。貴方はテリサバース教会での地位はそれなりに高いと思われますが」
「ええ、大司教様の右腕として働いています。今回の事は大司教様も驚いておられて、一国の王を幽閉して王弟殿下が国王になるなど、まるで――」
「そうですか。右腕でしたか。ところで……『メデュアナシア』様はまだご健在か?」
「…………今、なんと?」


 一瞬にして声色が変わった。
 テリサバース教会の中でもトップシークレットを口にしたのだ。当たり前だが露骨すぎる。
 だが此処で止める訳にはいかない。


「『メデュアナシア』様はまだご健在か? と、お聞きしました」
「何故その名を知っているのです? いいえ、率直に聞きましょう。誰からお聞きしました」
「古代人形である、シャルロット・フィズリーからですが?」
「シャルロット……フィズリー!? やはりこの国にあの人形はまだ、」
「ええ、ご健在ですよ。色々と話す機会がありましてね? 色々とテリサバース教会の裏の顔……と言うべきでしょうか? それらを赤裸々に語ってくれましたよ」
「あ、あ……」
「あのような、あれ程までに人道的ではない事をする教会だとは思っても居ませんでした。テリサバース女神は信じられても、教会を信じられなくなるには十分すぎる内容でしたな」


 そうこちらも声色を変えて伝えると、相手は顔色を真っ青にしたまま「またまた、一体何を聞かされたのやら」と汗を拭いつつ平然を装っているが――。


「それと、シャルロット様からの伝言です。なんでも、テリサバース教会の面々は、在るモノを探しているそうですね。いいえ、ある『お方』と言えば宜しいか?」
「!?」
「シャルロット様はご存じでした。誰かまでは教えて頂けませんでしたが」
「ま、真ですか? それは真なのですか!?」
「ですがシャルトット様は『今回自分が手助けした断罪劇にケチをつけられた』とお怒りでしてね。『テリサバース教会には一切教える気はない』と……それはもうお怒りで。今回の私が真なる国王に着く為に、金の要求と食料の要求があったことも相まって、『テリサバース教会は信じられる場所ではない』と」
「あ、な、は!?」
「『女神は信じても、教会を信じるな。』とさえ言われたのですよ。本当に困りましたね」


 そこまで告げると使者たちは騒めき、右腕と呼ばれた男性はブツブツと口にすると顔を上げた。
 そして、こんな提案をしてきたのだ。


「良いでしょう。この度の金銭と永久的な食糧支援は、なしと致しましょう」


 これには従者たちは騒めき「宜しいのですか!?」と慌てふためく者達も多かったが、右腕の彼は「黙っていなさい」と本気の口調で叱り、私を見てきた。
 交渉しようという所だろう。


「無論、ハルバルディス国王として貴方をテリサバース教会は認めましょう」
「ありがとう御座います」
「その代わり、シャルロット・フィズリーとの面会は可能でしょうか?」
「難しいですね……私達も運あっての事でしたから。早々会える方ではないのは確かです」
「確かにボルゾンナ遺跡にいらっしゃるのですよね?」
「ええ、あの施設に無理やり入ろうとすると死者がでますよ。攻撃をしてきた者を殺すように出来ていますから」
「――っ!! では、どうすればシャルロット様に会えるのです!! 我々が追い求めてきた『あのお方』を知っているのはシャルロット様だけなのでしょう!?」
「ええ、私も聞いておりません」
「ああ、嘆かわしい口惜しい!! 何としてでもシャルロット様と面会せねば!!」


 教会が探しているあのお方――『聖女様』だが、私もしっかりと聞いた話ではない。
 眉唾に語られているのは【テリサバース女神は世界樹に降り立ち、民を導く】と言う事だけ。
 嫌でも教えられる言葉だ。
 その聖女様が何故、テリサバース教会から良くなったのか等は知らないが、教会が今なお探し回っている事だけは知っている。
 人が変わった様に「シャルロット様に」と叫び続ける彼の異常さに、周囲の従者の神官たちは震えあがってしまっているではないか。
 ――明らかに異常。
 それだけは誰の目から見ても一目瞭然だった。


「では、我がハルバルディス国王の国王は私モシュダールで宜しいという事ですね」
「勝手にいしろ!!」
「ではそれを示す念書と調印を」
「くそ! どうやったらシャルトット様に出会えますか! 貴方は会ったのでしょう!?」
「滅多にこちらに出向くことが無い方ですからね。たまたま運が良かったのです」
「くっ!!」
「ですが、【私は運よくシャルロット様と縁を結ぶことが出来た】ように思います。今後ももしかしたら……話をする事があるかも知れません」
「!!!」
「その時は、ご連絡出来たらしましょう」


 此処まで伝えば後は帰るだろう。
 テリサバース教会の念書と調印を貰い、それを保管庫に預けるように宰相に手渡すと、「絶対にご連絡を」と念押しして帰って行った。
 あそこまで人が変わる程求めてやまない聖女を、何故テリサバース教会は手放したのか。
 謎が深まるばかりだ。


「良かったのですか? 勝手に約束して」
「念書も交わしてない口約束だ。必ず伝えるとは言っていない」
「あらあら」
「最初に言っただろう? テリサバース女神は信じても、教会は信じていないと」
「まぁ、悪いお方」


 そう言って笑う妃となったリシーに微笑むと政務に移る。
 後はどう出て来るのかは不明だが、様子を見させて貰おう。
 下手な方法で出てきた場合は、相手はシャルロット・フィズリーである。テリサバース教会に未来はないだろう。
 ましてや、アンク・ヘブライトも内容を知っていた。
 流石脳だけの人形の大元だ、色々詳しいのだろう。
 ――下手に動けば間違いなく報復されるだけの内容をあの古代人形達は持っている。
 手を出してはならない。
 付き従うくらいでなければ、彼らは既に神に等しい。
 ……それがテリサバース教会の者たちに伝わればいいのだが。

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