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30 新しい護衛人形へロス

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 流石にもう緊急案件等は来ないだろうと言う事で家の玄関に鍵をかけ、魔道具を手に箱庭へと帰る。
 服も買ったし問題はないだろうと言う事で箱庭の中にある家に入ると、ミルキィとマリシアが卵を取りに行っていたらしく戻ってきた。


「あら、お帰りなさい」
「ただいま帰りました。護衛人形の服を買ってきたので、夜着せて起動させましょうか」
「まぁ! だったらお昼食べてから起動させましょう!」
「ミルキィ待ちわびてたからね。どんなランダムが出るのか楽しみだーって」
「すみませんね、性格ランダムで」
「そこが楽しいんじゃない、ふふふ!」


 そう言われるとマイナスな部分もプラスに思えてくるから不思議だ。
 俺の妻はやはり出来た女性かもしれないし、俺が単純なのかもしれない。多分後者だ。
 その後早速お昼を食べてからミルキィの護衛人形の寝る部屋に向かい、服を着せてからハッチに手を当てる。
 中身は無論宝石ではなく、世界樹の実だ。
 グッと力を入れて魔法陣を起動させ、木の実に魔素を注ぎ込んでいく。
 箱庭での魔素入れはこれで二度目だが、魔素を入れる時は幾分楽に感じられる。やはり箱庭は魔素が多いからでしょう。

 さて、問題は性格。
 見目麗しい男性に見合う性格等検討もつかない。
 出来れば護衛人形でも料理や洗濯が出来る男性がいい。
 性格はマリシアとは真逆辺りで丁度いいかも知れない。
 ――そんな漠然とした事を考えていると『キュイーン!』と魔法陣が動きランダム性格が決まってしまったようで、『パチン!』と言う音と共に魔法陣が消えた。
 暫く目が覚めるまで時間が掛かるだろうと紅茶を用意しながら飲んでいると、パチンッという音と共に「う……」と少し甲高い感じの男性の声が聞こえる。
 そしてゆっくりと人形の目が開き、綺麗なグリーンの瞳が開かれ俺達を見つめる。


「おはようヘロス。気分はどう?」


 そうミルキィが声を掛けると――。


「あらやだ、アタシったら今起きたのね」
「お?」
「あら?」
「初めましてマスター。ミルキィちゃん、アタシの名前はヘロス……で、いいのかしら?」


 そう言って立ち上がりフワリと微笑んだ美女――いや、美男なんだが。
 喋り方が、喋り方がその、アレだ。
 うん、オネェさんができちゃったんですかね?


「初めましてヘロス! 私はミルキィよ」
「俺がマスターのトーマだ。ヘロスには一応ミルキィの護衛人形として登録したが、大丈夫そうか?」
「ええ、そこは問題なく。後アタシ、料理もお洗濯も得意みたいなの」
「「おおお」」
「狩りとか解体とかは出来ないけれど、美味しい料理と家事はアタシに任せて♪」


 お茶目なオネェさんが出来ました!!
 今回は当たりのランダムなのではないだろうか!


「でも服装がイマイチね。でも護衛人形なら仕方ないのかしら?」
「すまんな、男性の身体だったから男性の服を選んで来たんですよ」
「でもこれはこれでアリよ? ふふ、しっかり護衛させて貰うわね?」
「よろしくね、ヘロス」
「よろしくね、ミルキィちゃん」


 こうして新たにヘロスと言う護衛人形が出来た。
 料理洗濯が出来ると言う事で俺の負担も随分と減りそうだと安心しました。
 仕草もお姉さんらしい。いや、オネェさんだけれども。
 ミルキィと並ぶと確かに美男美女で迫力は増しますね……。
 作って置いて何ですが、中身が女性で良かったと思いました。
 いや、男性かもしれないけれども……。


「あー…ヘロスは好きなのは男性? 女性? どっちです」
「アタシ? 女性が好みよ? でも安心してマスター、ミルキィちゃんとはお友達だから」
「そうですよね」
「ええ、既婚者には手を出さないって決めてるの♡」
「そ、そうですか」


 それはそれで複雑と言うかなんというか。
 まぁ本人がそういうのならいいのでしょう。
 すると部屋にマリシアとメテオが入ってきました。


「おお、新しい人形が出来たか」
「ミルキィの護衛だっけ? よろしく、私はマリシア」
「ワシはメテオじゃ」
「初めまして、アタシはヘロスよ」
「うん、性格ランダム失敗かの?」
「いや、結構当たりだ。料理と洗濯が出来る」
「そいつはいいのう! マリシアは出来んからのう!!」
「私はその分狩りが出来るから良いんだよ」
「まぁ、マリシアは狩りが出来るの! とっても凄いわ!!」
「おう! 今度うまそうなの獲ってきてやるよ!」
「きゃ――! 腕によりをかけてご飯作っちゃうわ!」
「「「男女逆転」」」


 思わず三人で口にしてしまったけれど、マリシアは男性っぽく、ヘロスは女性らしすぎた。
 ま、まぁ、俺のランダム性格生成だし仕方ない。
 こういうのもアリと言えばアリでしょう。


「メテオ、君も番が欲しいか?」
「遠慮するわい……ワシは一人の方が気楽じゃのう」
「ははは……」
「じゃが、ヘロスの事はアンク達には伝えたほうがええじゃろうて」
「そうですね」


 こうして報告する事も増えた事で、先にヘロスを連れて人形保護施設へとやってきた。
 皆さんは何処だろうとドアを開けるとブザーがなり、山茶花さんがやってきた。


「先ほど振りじゃな」
「皆さんに紹介したい人形が出来まして」
「ほう、その後ろにおられる方かのう?」
「はい、ヘロスと申します」


 とヘロスを見ると目がハートになってる……。
 いや、確かに美青年の人形ではあるけれど、和服美人というか和服美丈夫ではあるけれど。


「素敵……」
「ヘロスは女の人が好きなんじゃないんですか?」
「いえ、この美しさなら男性でもありよ」
「ははは、中々強烈な性格になったようじゃな。すまぬが私には既に妻がいる。諦めて頂けたら幸いじゃが」
「あ、そうなの。なら好みから外れるわ」


 スン……と元に戻ったヘロスに「この施設は基本相手がいますよ」と伝えると「そうなのね、マリシアちゃんが一番かしら」と言いつつ着いてきた。
 そして皆さんにヘロスの紹介をして行くと――。


「相変わらず性格だけはランダム要素が強いんですね」
「人形師としては致命的だが」
「まぁ、確かに致命的っちゃー致命傷だな」
「分かってますよ。人形は作れても性格がまず問題ありなのは」
「えー? アタシってそんなに問題ありかしら?」
「見た目が儚げ美人故に有り無しで言えばアリだが」
「あら、わたくしは大いにアリだと思いましてよ? 寧ろ王都に行く際について来て欲しいくらいですわ」
「あら、でもそれだとミルキィの護衛人形がいなくなっちゃうわ」
「良いですよ、マリシアを付けますから。城に行く際に着いて行って惑わせて来ると良いですよ」
「そう? 製作者は伏せたほうがいいのよね?」
「是非に」
「分かったわ、護衛は任せて頂戴」


 こうして王城へ行く際にヘロスを貸し出すことが決まった。
 礼儀作法なんかを覚える為に午後から連れて来てヘロスにシャルロットさんとダーリンさんが礼儀作法を教えるそうだ。
 これなら大丈夫だろう。


「服装はわたくしたちで何とか致しますわ」
「ありがとう御座います」
「護衛らしい服装で宜しいわよね?」
「そうですね。縫うのが楽しみです」


 あ……ダーリンさん縫うんですね。
 そう思いましたが口には出しませんでした。
 ダーリンさん見た目に寄らずオカン力強いんですね。


「縫うのならアタシも出来るわ。お手伝い出せてくださいな?」
「それなら早く終わりそうですね」


 ヘロスも女子力が高いだけでなく縫物迄できたのか……予想外です。
 そんな事を思いつつ、取り敢えずヘロスに関しては午後から必ず来るようにとの事なので連れてきますが――。


「ハルバルディス城へ何時行かれるんです?」
「まだ連絡はありませんけれど、早くとも明日連絡が来るんじゃなくて?」
「明日ですか」
「まぁ、早くても明日、遅くても明後日かしら?」
「それまでにヘロスに礼儀作法を教えて縫い物ですね」
「そうですわね」
「布地は沢山あるんですよ。沢山作りましょう」
「悪女が磨かれた服装がいいですわね」
「今の服装をアレンジしましょうか」
「ええ、スリットがあると素敵ですわ」


 と、ダーリンさん達が盛り上がっている中、アンクさんがやってくると――。


「トーマは『もぐりの人形師』だろう? ヘロスはうちで預かっている人形の一体と言う事にしておくから気にするな」
「すみません」
「仮にトーマが人形師だとバレた場合、国が捕まえて離さなくなるだろう。トコトン人形を作らせて、性格は別の奴が入れたりな」
「それはイヤですね」
「ヘロスの見た目は芸術の域にまである。その手の輩は喉から手が出る程欲しい筈だ。無論マリシアもだが」
「ああ、動かなくなった人形をって奴ですね」
「その通りだ。こちらが保護している人形ともなれば下手に手は出せまい。出した所で王弟殿下の方が許さんだろう」
「ありがとう御座います」


 ヘロスの身の安全の確保の為にはそれが一番かと思いながらも、女性陣と女子トークで盛り上がるヘロスを見て苦笑いしつつ、ヘロス欲しさに馬鹿が動いてくれたらその内芋ずる式にまだ見つかっていない人形達が見つかりそうな気がするなぁと思ったのでした。
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